第72話

 ベルはうつ伏せに倒れ込んだリリスのもとに歩み寄ると、側頭部を踏みつけ悪口あっこうを浴びせる。


「無様だなぁ、リリス。……いや、ノーティス! ボクに対抗し、このゲームを守るためにどうにかこうにか生き残ったみたいだが、無駄に終わったようだね。……これから面白いショーを見せてやるよ。会場は盛り上がった方がいいからな。回復してやるよ」


 ベルはリリスを蹴り飛ばすと、リリスたち5人に回復魔法をかけた。リリスたちは傷一つない状態にまで体が癒える。


「くっ!? 一体どういうつもりだ!? お前は僕たちを殺すんじゃなかったのか!?」

「もちろん殺すさ」とベルは立ち上がったシェルドに宣言する。そして大きく手を広げ、上空を仰ぎ見ながらこう続けた。

「この世界ごとね」

「……なんだと!?」と叫ぶアモン。

「ボクは予備電源しかなく、寿命がすぐそこまで迫っているこの世界で神になって好き勝手やるのさ。僕はこのゲームの世界観があまり好きじゃないんでね。世界事再構築してやるんだよ!」

「……てめえ、世界を滅ぼそうってのか!?」

「そうだねアロワ。君たちから見ればそうなるのかもしれないな」

「ふっざけんじゃねえ!!」


 アロワはベルに殴りかかろうとするが、金縛りにあったように動けなくなる。アロワだけではない。リリスたちは全員動けなくなる。


「さあ。一度限りの滅多にお目にかかれないスペクタクルショーの始まりだ! そこで指を咥えて見てるがいい。この世界の崩壊を……。この世界はボクの理想とする世界に生まれ変わるんだ……!」


 ベルの言葉とともに、リリスたちの視界に入るすべての物質が粒子となり霧散し始める。


「そ、そんな……。山が、川が、草木が消えていきます……」とアルカは恐怖の感情を押し殺すように言葉を口にする。


 すでに花畑に変えられていた西の魔王城周辺の岩山に咲く花たちも先端から粒子に変わっていき、消滅していく。地面は緑色を基調とする無機質な床だけになり、雲のなくなった青空と永遠に続く地平線を構成する。


「……みんなは……。俺の臣下たちはどうなった!?」

「すべて消滅したに決まっているだろ?」

「す、すべてだと!? 兄さんも……東の都もか……!?」とシェルドが叫ぶ。

「当たり前だろ? すべてだと言ったじゃないか。お前らの愛するNPCもステージもメモリーも全部消失したんだよ」

「……お、お父さんも……?」と声を震わせながらアルカが尋ねる。

「ああ。君のお父さんなら、世界消滅を待たずして絶望の感情に踊らされて狂死してたよ。弱っちい存在だよねぇ。とても北の勇者の父親とは思えないよ」


 けたけたと笑い転げるベル。そんなベルをアルカは涙を流しながら呆然と見つめていた。


「いいねぇ。ボクが見たかったのはその表情だよ。怒りを通り越した悲しみに染まった絶望の表情だ。……満足だよ。もうこの世界に用はない」


 ベルは青空に浮かぶ太陽に手をかざす。


「生命のいなくなったこの世界にもう太陽は必要ない。すべてを無に戻し、新世界を創造しよう。……消えろ!」


 ベルが握りこぶしを作るとともに、太陽が消滅する。リリスたちの世界は暗闇に包まれるのだった。

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