第65話

「西の勇者に会いに行くってんなら、アレも持って行った方がいいかもな……」と呟くアロワ。

「アレってなんです?」と聞き返すアルカ。

「お前らには見せただろ? アタイたちダークエルフに代々受け継がれてきたガラス板だよ」

「ああ、アレですか!」と納得したように眼を見開くアルカ。

「……あのいけすかない妖精が出てくるやつか。僕としては二度と顔を合わせたくないんだが……」とシェルドは浮かない顔をする。

「なんなの? そのガラス板ってのは?」とリリスが尋ねる。

「良い機会だ。姉御にも見てもらっとくか。つってもベルの姿は見えねえだろうけどさ」

「ベル? 人の名前かしら?」

「小さい妖精さんの名前ですね。ガラス板から出て来るんですよ、師匠」

「ふーん、妖精ねえ。で私が見ることができないってのはどういうことよ?」

「なんでも、勇者にしか見えない妖精さんらしいのです」

「何よそれ。そんな妖精聞いたことないわよ?」

「ま、とりあえずガラス板を持ってくるからよ」


 そういうと、アロワは厳重に警備されたテントの中から宝箱を持ってくる。ダークエルフの集落の洞窟に置いてあった宝箱である。集落の移動に合わせて運んでいたのだ。アロワは宝箱を開き、ガラス板を取りだす。


「これがダークエルフの一族に伝わるお宝さ」とアロワが説明していると、ガラス板が光り出す。ガラス板から現れたのは緑の瞳と髪を持つ小さな妖精ベルだ。手のひら大しかない彼女は小さく口角を上げる。

「これは珍しい。前回会ってからまだ1ヶ月経っていないというのに……。なんの御用ですか? 勇者御一行様」

「……御用ってほどじゃあないんだけどよ。ま、伝えることがあるとすりゃ、アタイがアルテミスを使えるようになったことかな。あとは姉御にお前を紹介してやろうと思ってよ」

「なるほど。西の魔王リリスですか。本来の役割を忘れた哀れな魔王」

「……先生のことをバカにするなよ……!」と憤るシェルド。

「これは失礼しました。シェルド様」

「……そこに何かいるの? 何も見えないし聞こえないけど……」

「……やっぱり、姉御には見えないのか……」

「ええ、でも何かがそこにいるのは気配でわかるわ。気味が悪い」

「へぇ。私の存在をかすかにではありますが、感知することができるんですか。驚きですね。人間に恐怖を与えることを忘れた上に強力な力を持っている。興味深い存在です」

「……魔王が人間の味方になってくれる。これ以上ないことじゃないですか」

「そうですね。失礼しました。北の勇者アルカ様。それで……他にご用件はないのですか?」

「……西の勇者、アタイたちは今からそいつに会いに行こうと思ってる。お前言ってただろ? 勇者が4人そろった時、この世界は救われるってな」

「ええ、そのとおりです」

「それで聞きたいんだが……、西の勇者ってのは姉御の息子『アモン』なのか?」

「それは皆様の眼で確かめてください、と我が主は申しています」

「全知全能のアンタの主か、本当に実在するのか?」

「金髪、やめとけ。また、攻撃されるぜ?」


 アロワの助言を受け、シェルドは眉間にシワを寄せながらベルから視線を外す。


「楽しくなってきましたね。それでは4人の勇者が揃った時、またお会いしましょう? それでは」


 そう言い残して、ベルはガラス板の中に消えていった。

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