第64話

 ――純王国ホワイトとの決闘の翌日から、アロワたちの集落は慌ただしく引越し作業を始めた。旧南の魔王城跡へと移動するためである。アロワは再建の拠点を旧南の魔王城にすることに決めたのだ。もちろんリリス、アルカ、シェルドの3人も援助に入る。全てのテント等の物資移動と国としての機能を回復させるまでに2週間ほどかかったが、その頃には魔王城再建の基礎工事も始まり、一応の落ち着きを見せていた。


「……姉御たちには世話になりっぱなしだな」

「私は良いのよ。術にかけられて迷惑をかけたみたいだし……。償いってやつよ。お礼はアルカちゃんとシェルドくんにしてちょうだい。ダークエルフの集落の引越しはこの二人がいなかったら大変だったでしょうから」

「そうだな。何か礼をしねえとな……」

「僕は礼なんていらないよ。南の魔王国のならず者たちを懲らしめてくれればそれでいいさ」とシェルドは答える。

「わたしはそうですねぇ……」とアルカは下あごに指を当てて考える。

「本当にお礼を貰う気なんですか、アルカさん……」とシェルドが呆れ気味に問いかける。

「えぇ!? ダメなんですか!?」

「構わねえよ。さっさと言ってみろよ。なんでもは無理だが、できるだけの礼はさせてもらうさ」

「そ、それじゃ、遠慮なく」


 アルカはごほんと咳をして喉を整える。


「西の魔王城に皆で……師匠と私たち勇者3人で行ってみたいのですが……」

「西の魔王城? そう言えば決闘後の宴の席でも行きたいと言ってたな。赤髪、西の魔王城になんかあるのか?」

「わかりません。しかし、夢の中で言われたんです。『生き残ったら西の魔王城に行って下さい』と先代の勇者を名乗る人に。それがどうにも気になって……」

「その夢って……、アルカさんが決闘中に死んだときに見た不思議な夢のことですか? 僕たちのそっくりさんが出てきたっていう……」

「そうです!」

「私たちのそっくりさんだけではありません。名前は忘れてしまいましたが、もう一人男の子もいました。多分、アレが西の勇者だと思うんです」

「はぁ」とため息とつくリリス。

「どうしました、師匠?」

「……ホントは帰りたくないんだけどね……。アルカちゃんが気になるなら帰らなきゃいけないわね。私の家、西の魔王城に……。せっかく自由の身になれたのに……自分から戻ることになるなんてね」

「それじゃあ皆一緒に行ってくれるんですね!?」と喜ぶアルカ。

「ところで師匠、西の魔王城に勇者の心当たりがあったりはしませんか? 多分私の夢に出てきた男の子がいると思うんです!」

「……いるわよ。私の息子、西の魔王『アモン』が……多分あの子が勇者なんだわ……」

「え? せ、先生もう一度言ってください」

「西の魔王アモンが勇者なんだわ」

「その前です!」

「私の息子」

「せ、先生、お子さんがいらっしゃるんですか!?」と目を丸くするアルカとシェルド。

「なんだよ、お前ら知らなかったのか?」と話すアロワ。「たしか、アタイと同い歳くらいだったはずだぜ?」と続ける。

「そ、そんな大きなお子さんがいるのに、イケメンを探し続けていたんですか、師匠!?」

「ダ、ダメなの!? いいじゃない! 一児の母の未亡人が恋を探したって! 女は生涯恋をし続ける生き物なのよ!」とリリスは自身の恋愛感をアルカたちに披露するのだった。

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