第61話

「はぁ。はぁ。はぁ」と息切れを起こすアルカ。

「だ、大丈夫ですかアルカさん!?」

「はい、大丈夫ですよシェルドくん。私よりも師匠の方が心配です」

「た、たしかに……」


 シェルドはボロボロになっているリリスを見やる。リリスの体がピクリと動いた。どうやら立ち上がろうとしているようだ。


「あいたたたたた。酷い目にあったわね……」

「し、師匠!? 師匠なんですね!?」

「アルカちゃん……。迷惑をかけたわね……」

「先生、元に戻ったんですね!?」

「どうやら催眠術か何かにかけられていたみたいね。アルカちゃんもシェルドくんもボロボロじゃない。ここどこ?」

「よかった……。よかった……!」


 シェルドとアルカは双眼から涙をこぼす。


「ふふ……。まだ状況は理解できてないけど、感動の再会ってやつね。さ、アルカちゃん、シェルドくん私の胸に飛び込んできなさい……!」


 リリスが腕を広げた時だった。一つの叫び声が聞こえる。


「お前らだまされんじゃねえ!」


 アロワの声だった。アロワの必死の叫びにリリス、アルカ、シェルドの3人は「え?」と息を吐き出し硬直した。


「まだ、頭部にダメージを与えてないんだぞ!? その姉御は演技をしているだけだ! まだ元に戻ってなんかいねえはずだ!」

「え、なに?」と戸惑うリリス。

「た、たしかにそうだ。危うく騙されるところだった」とシェルドは頷く。

「え、ちょ、ちょっと……」

「うぉおおおおおお! アイス・ハンマー!」と間髪入れずに魔法を発動させてアルカはリリスの側頭部を撃ち抜いた!


「あぁああああああ!?」と悲鳴を上げながら倒れ込むリリス。

「ど、どうだ?」と3人が見守る中、スッと立ち上がったリリスは超高速早歩きでアロワの元に近づくと、思い切りげんこつをした。

「ぐあ!? いってー!? 何すんだ!?」

「『何すんだ』じゃないわよ。もう催眠術は解けてたのに……。アンタがけしかけるからアルカちゃんに殴られちゃったじゃない!?」

「じゃ、じゃあ本当に元に戻ったのか?」

「そう言ってるでしょうが!」と話すリリスを後ろから抱き締める少女がひとり。

「よかったです、師匠。ホントに良かった。うわぁあああん!」


 リリスの服で涙を拭うアルカ。その姿を見て涙を流すシェルド。そして眼を充血させるアロワ。それぞれに安堵と喜びの表情を見せる中、ハッと現実に戻ったのは南の魔王国魔王アロワだった。その視線は純王国ホワイトの国王ルークに向いていた。


「どうだ、ルーク。勝負ありだな! 降参するなら今の内だぞ!」

「くっ!? なんということだ。完全魅了パーフェクト・チャームが解けるとは……!」

「ひぃ! 私は降参しますぅ!」


 ルークに防御魔法を張っていたホワイトエルフの魔術師は勝ち目がないと判断したのか、早々に敗北を認める。


「き、貴様ぁ。王をさし置いて降参するとは……後で極刑に処してくれるぞ……!」

「無理だな」と語りかけるアロワ。

「なんだと!?」

「今日で純王国ホワイトは終わりだ。お前に命を奪う権利はない。また、南の魔王国がこの地を治めるんだ。もうお前に勝手はさせない」

「決闘で勝ったくらいで良い気になりやがって」

「そうかもな。……まだ決着はついてないけどな。さぁ、殺されたくなかったらさっさと降参しろ」

「くっ!?」


 ルークは頭を抱えて思考する。ここで降参を認めればホワイト国は求心力を失う。世界征服の計画など泡に帰す。しかし、死を覚悟して闘ったとて、西の魔王率いるアロワたちに勝てるわけがない。下唇を噛み、血を流しながらもルークは屈辱を受け入れようとした。


「く、くそが! こ、降さ……」

『降参なんて言わないでよね?』


 突然ルークの脳内に声が響く。


「だ、誰だ!?」

『やだなぁ。私のことを忘れたんですかぁ? あなたたちホワイトエルフに攻撃的な人格を与えてあげたのに……』

「なんだと!?」

『私が力を貸してあげます。向こうも『反則技』を使ったんだからおあいこ様ですよ。あなたには役割がありますからね』

「一体なんのこと……だ!? うぐ!? うがぁあああああああ!?」

「お、おい。どうしたんだルーク!? いきなり独り言話し始めて……なに!?」


 アロワが話しかけているときだった。ルークの体が大きく変化する。体が大きく膨れ上がり人間型だった表情が崩れ、面妖な姿に造り変わる。……巨大な猿だった。ルークは白い毛に覆われた大猿へと変貌したのである。


「ど、どういうことだ? ホワイトエルフにこんな力があるなんて聞いたことないぞ!?」


 アロワの驚愕を他所に、大猿と化したルークは巨大な咆哮を放つのだった。

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