第60話

◇◆◇


「アルカさん、アルカさん……!」


 涙を流しながらアルカの亡骸に呼びかけ続ける。その隣では西の魔王リリスが高笑いをしていた。


「先生……。先生は哀しくないんですか!? アルカさんが……アルカさんが死んでしまったんですよ!?」とシェルドはリリスを睨みつけた。

「敵を殺したのよ? 哀しいはずがないじゃない」

「シェルド……。今の姉御に何を言っても無駄だ。それよりも逃げろ。お前まで殺されちまうぞ」

「ははははは! 無様だなアロワ!」


 高笑いしているのはホワイトの国王ルークだ。


「もう降参したらどうだ? 降参すれば命だけは助けてやるぞ? 貴様は……そうだな。オレの慰み者にぐらいにならしてやってもいい」


 アロワは思考する。ここで降参すれば、少なくともシェルドの命は助かる。これ以上、南の魔王国のことで部外者を傷つけさせるわけにはいかない。アロワが降参の2文字を告げようとしたそのときだった。アルカの体が突然虹色の光に包まれる。


「な、なに?」


 リリスは眼を大きく見開く。


「な、なんだこの光は……!?」


 アロワとシェルドはあまりの光の強さに眼が眩む。光が収まった時、そこには全ての傷が癒え、生き返ったアルカの姿があった。


「アルカさん!? よ、良かった……。でも、どうやって……!? それにその溢れ出ている力はなんですか!?」

「私にもよく分かりません。でも言われました。この力で師匠に一発お見舞いしてやれと。そして生き残れと」

「だ、誰に?」

「先代の勇者たちにです!」


 状況が良く飲みこめないシェルドを守るようにアルカはシェルドとリリスの間に割って入った。


「蘇生魔法なんて私にも使えないのに……。お穣ちゃんどうやって生き返ったの?」

「私にもわかりません。でも、なんとなくわかります。今の私なら師匠にだって勝てます!」

「調子に乗るんじゃないわよ!」


 リリスは超高速でアルカに殴りかかった。しかし、アルカは片手でなんなく受け止める。


「なんですって!?」

「勝負です師匠!」


 アルカもまた超高速で移動し、リリスの側頭部目掛けて蹴りかかる。リリスは咄嗟に腕でガードした。


「く!? 下品な魔法使いね。肉弾戦を仕掛けて来るなんて……!」

「師匠も似たようなものじゃないですか」


 二人は互いに相手を視界に入れて笑い合う。一旦距離を取り、互いに相手の動きを伺うアルカとリリス。強い風が吹いた。その風が二人の戦闘開始の合図となる。共に超高速移動を開始した。


「くっ!? 先生もアルカさんもなんてスピードだ……!? 眼で追うのが精一杯だ!」


 二人は超高速で移動しているだけではない。時に殴り合い、時にマシンガンのように放出系の魔法を撃ち合っていた。明らかに人智を超えた戦いが繰り広げられる。


「ま、まじでどうなってんだ!? 姉御はともかく、赤髪はなんで急にあんな力を……?」

「どちらが優勢なんだ!?」


 シェルドとアロワにはどちらに分があるかも分からない戦闘が続く。僅かに押し始めたのは……アルカだった。次第にリリスはアルカの攻撃に防戦一方になっていく。


「ここです! 『アイス・ハンマー』!」


 アルカはリリスの一瞬の隙を突き、杖に氷を纏わせて金槌状にしてぶん殴った。両腕をクロスさせて防御したリリスであったが、衝撃には耐えられず、地面にたたきつけられる。


「く!? うふふ。あはははは」


 リリスは笑いながら立ち上がった。


「どうしました? 師匠」

「……楽しくて」

「楽しい?」

「ええ。こんなに力の匹敵した相手と闘うのは随分と久しぶりだもの。楽しいわ。でも決着を付けなくちゃあね!」


 リリスは右掌をアルカに向ける。


「私の全魔力を込めて放ってあげる。耐えられるかしら!?」


 アルカもまたヨルムンガンドの杖をリリスに向ける。


「受けて立ちます!」


 二人は全魔力を込めて撃ち放つ……!


『リリース・ファイア』!!


 共に同じ魔法を選択したアルカとリリス。巨大な炎がぶつかり合う。あまりの高熱に地面が溶け、マグマと化した。激しい熱の中、リリスがポツリと呟く。


「凄いわね。お穣ちゃん……。私の負けよ」


 壮絶な魔法の撃ち合いを制したのは……アルカだった。炎が敗北を認めたリリスを飲み込んでいく。炎が晴れるとそこには横たわったリリスの姿があった。


「や、やった……」


 力を出し切ったアルカはその場で倒れ込む。アルカに宿った不思議な光も役割を果たし終えたのを理解したかのように消えていったのだった。

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