第59話
◇◆◇
「こ、ここは……?」
アルカ・ミストは暗闇の中にいた。何もない空間。そこにひとりぼっちで佇んでいた。
「そ、そうか。私は師匠に胸を貫かれて……。うう。師匠ごめんなさい。元に戻せなくて……。お父さんごめんなさい。先に死んじゃって……。こんなことになるなら、もっと手紙を書いてあげればよかった……」
アルカは顔を手で覆い、後悔の涙を流す。
「泣き顔なんてあなたには似合わないですよ?」
どこからか聞いたことのある声がする。少女の声だ。アルカは聞き覚えのある声がした方向に振り向く。
「え!? あ、あなたは……!?」
アルカはそこにいた者の顔を見て驚く。その少女の顔はアルカの良く知る人間の顔だったのだ。
「あ、あなたは……私!?」
暗闇に浮かびあがる少女はアルカが普段見慣れた顔、アルカと同じ顔だった。鏡に写したように同じ顔。鏡と違うところがあるとすれば左右が反転していないこと。つまり、正真正銘同じ顔だった。
「こ、これはドッペルゲンガーってやつですか!?」
「うーん。ちょっと違います。他人の空似の強化版といった感じですかね」
「それってどういう……」
「一度『みんな』を見てもらった方が良いと思います。みんな出てきてください!」
アルカと全く同じ顔の少女が声をかけると、暗闇にさらに3人の者たちが浮かびあがる。
「え!? シェルドくんにアロワさん! と誰?」
シェルドとアロワが突然出てきたことに驚くアルカ。そしてもう一人、とんでもなく顔の整ったイケメンが現れる。頭からリリスと同じ角を生やした青年だ。
「そっか。まだあなたはアモンくんに会っていないんですね。どうです? すごく男前でしょう?」
「変なことを言うんじゃねえよ!?」
男前とアルカ似の少女に紹介されて恥ずかしがるアモンという少年。アルカはなんだかその少年がかわいく思えた。しかし、そんな思考は捨てる。すぐにでも聞かなければならないことがアルカにはあった。
「シェ、シェルドくん、アロワさん! あの後戦いはどうなったんですか!? 師匠はどうなったんですか!?」
アルカの質問に答えたのはシェルドだった。
「すいません。アルカさん。まだ決着はついてないんです。僕はあなたの知るシェルドじゃないんです。僕だけじゃない。ここにいるアロワもあなたの知るアロワじゃない」
「い、一体何なんですか。意味がわかりません」
「……あまり、時間がないので簡単に説明しますが、ここにいる4人は東西南北それぞれの『先代の勇者』なんです」
「先代? それにしたってあまりにも顔が似ています……」
「アルカさん。『顔だけではない』んです。僕たち先代とあなたたちは全てが一緒なんです。だからこそ奇跡なんです。この機を逃せば永遠に僕らは閉じ込められることになります」
「閉じ込められるって、どこにですか?」
「それは直にわかります。今は生き残ることだけを考えて下さい。生き残ったら、西の魔王城に行ってください」
「生き残ったらって……私は死んじゃったんじゃないんですか?」
「はい、死んでます」
「シェルドくん、なに軽い感じで言ってるんですか!? もう死んでるなら生き残るなんて無理じゃないですか!?」
「だから、今から反則技を使うんだ」とアロワが会話に入り込む。
「は、反則技?」
「ああ、アタイたちが長い年月をかけて編み出した反則技。この世界の欠陥を突く不意討ちの一発だ。それを魔王リリスにお見舞いしてやれ」
「魔王リリス? アロワさんなら姉御って呼ぶはずですが……」
「シェルドが言っただろ。アタイはお前の知るアタイじゃないんだよ。アタイは魔王リリスに特別な情は持ってないんでな」と言いながらアロワは後頭部を掻く。
「さ、早く生き返らせてやろう。あんまりここに長居させたら精神が壊れてしまうかもしれないしな」
喋るアモンをアルカはぼーっと見つめる。
「な、なんだよ?」
「いえ、たしかに男前だなと思っただけです」
「こっちのアルカもオレをいじるのかよ!?」とアモンは憤慨する。
「……いいか。反則技は一度だけだ。つまり、生き返ることができるのは一度だけだ。あいつはバカじゃねえ。何度も使わせてくれるわけがねえからな。頼んだぞ」とアロワが語りかける。
「わわ!?」
アルカの体が急に軽くなった。どこからか集まった光がアルカの体を囲む。不思議な万能感がアルカを包みこんでいた。
「ちょ、ちょっと、あいつって誰ですか!? 結局なにがなんだか……ってうわぁあああああ!?」
アルカの体は暗闇の中、天高く舞い上がって行った。
「頼むぞ。この世界を救えるのはお前らだけだ」
アロワは小さくなるアルカの姿を見ながら呟くのだった。
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