第58話
「あ、あが、うぅうう……!?」
リリスは頭を抱えながら、ふらふらと立ち上がる。
「よ、よくもやってくれたわね? あなたたち……」
「く、くそ。アタイの渾身の一撃でも気絶させることすらできねえのかよ……」
鬼のような形相でにらむリリス、そして力をひとつに結集したにも関わらず思ったような結果を出すことができず、絶望するアロワたち……。
「万事休すか……!」とシェルドがこぼす。
「覚悟しなさい。アルカちゃん、シェルドくん、それに南の魔王のくそがき。今すぐ楽にしてあげるわ!」
「え? し、師匠……今何て?」
アルカたち三人はリリスの発した言葉を聞き逃さない。リリスはアルカたち三人の名前を呼んだ。それもそれぞれに特徴のある呼び方で……
「先生、思い出してください! 僕です。シェルドです!」
「師匠! 私のことも思い出してください!」
「姉御! 根性見せろよ。魅了魔法なんかに負けるアンタじゃねえだろ!」
「先生、師匠……? アルカちゃん、シェルドくん、魔王のくそがき……。何か大事なことを忘れているような……。うっ。頭痛い」
リリスはぼそぼそと呟きながら頭痛に苦しむ。その姿を見たアルカたち三人は完全魅了が解けかけているのだと感じ、リリスに語りかけ続ける。
「思い出してください、師匠! アルバの村で私にレッスンという名の修行をつけてくれたじゃないですか!? あと、私のお父さんにフられたじゃないですか!?」
「そうです! 東の都では僕にも修行をつけてくれたじゃないですか! あと、僕の兄が薔薇だと知って恋をあきらめましたよね!?」
「お、お前らあんまりつらいこと思い出させようとするなよ……。アタイには百年前四大魔王会議のときにぶん殴って叱ってくれたよな! アタイはまだ感謝の礼をあんたに言えてない……。頼む! 戻ってきてくれ……!」
「うぐ……ぐぐぐ……」
頭を抱えて苦しむリリス。もう少しで洗脳から解放されると3人の少女たちが期待している中、若い男の声が飛ぶ。
「リリス!」
純王国ホワイトの王、ルークである。ルークは防御魔法の内部からリリスに向かって大声を出した。
「その程度のことで何を迷っている。お前はオレのものだ! オレの指示だけに従っていればいいのだ! そうだろう? 今すぐそいつらを殺せ!」
ルークの声を聞いた途端、リリスの表情が元に戻ってしまう。
「そ、そんな。あとちょっとだったのに……」
「ふん。くだらん心配をかけおって……」と防御魔法内部で椅子に座したルークが呟く。
「く、くそ。もう一度だ。もう一度3人で力を合わせて姉御をぶん殴るんだ!」
「二度目なんてあるわけないでしょ?」
リリスは右の掌を天に掲げた。
「メテオライト!」
巨大な火球が3人に向かって放出される。少女たちはシェルドの構える盾に隠れる。アルカも全魔力をもって防御魔法をかけようとした。しかし、前の一点突破で全力を使い果たした少女たちにリリスの強力な魔法を受け止める力はもう残っていなかった。
「うわああああああ!?」
火球が直撃してしまった少女たちは爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。なんとか生き残ることはできたが……その身に受けたダメージは重い。
「うっ……ぐ……。赤髪、アタイに身体強化の魔法を……」
勝負を諦めないアロワの力のない声がアルカに届けられる。
「くっ……。わ、わかりました……」
アルカもまた、勝負を諦めない。杖の先端を地に付けてよろよろと立ち上がる。シェルドも剣を杖代わりに立ち上がろうとしていた。
「あらあら、まだやるつもりなの? 根性だけは大したものね。でも、もう終わりよ。まずは……そうね。補助を行う魔法使いを殺すのがセオリーよね?」
そう言うと、リリスは超高速で移動を開始するとアルカの眼前に立ち塞がった。
「さよならお穣ちゃん。楽しかったわよ?」
「え……?」
リリスの手刀がアルカの胸部を貫通する。
「う、うそ……?」
口から鮮血を吐きだしながら言葉を紡ぐアルカ。すでに心臓は潰され、全身の力が抜けていく。リリスが腕を抜き去るとその場でアルカの体が倒れ込んだ。
「まずは一人目ね」
「そ、そんなウソだ……。アルカさぁあああああん!」
「赤髪ぃいいいいい!」
シェルドとアロワの悲鳴が決闘場に響きわたる。ホワイトエルフの観衆の歓声が大きくなっていく中、ルークはにやりと口角を上げた。
「アルカさん、アルカさん……!」
シェルドは杖代わりにした剣で体を支えながら、アルカのもとに歩み寄る。
「そ、そんな……」
シェルドの眼に映ったのは、瞳孔が開いてしまったアルカの瞳だった。
アルカ・ミストの精神は身体と別の場所へ行ってしまったのだった。
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