第57話

「く、くそ。手も足も出せないってのはこのことか……」


 アロワは片膝をついてうずくまる。アロワだけではない。シェルドもアルカも満身創痍といった様子である。彼女たちは再三リリスに対して攻撃を仕掛け続けていたが、どれも決定打になることはなく、全て受け流されていた。対して、リリスの攻撃は彼女たちの体力を確実に蝕んでいた。


「勇者といっても大したことはないようね。そろそろ終わらせてもらうわよ?」

「くっ!? おい、金髪、赤髪。こっちに集まれ!」

「……わかった!」


 勇者たち3人は一か所に集まる。本来なら、魔法攻撃を得意とするリリス相手に一か所に集まって戦うのは的をひとつにしてしまうようなもので好ましい戦術ではない。それ故、彼女たちも事前の打ち合わせでリリスに的を絞らせないように散り散りになって攻撃することに決めいてたし、実際そうしていた。


 だが、それではリリスに叶わないと判断した時は一か八か3人の力を結集して一点突破をすると決めていた。一点突破のタイミングは最も戦闘経験の豊富なアロワが判断することとし、今アロワが発した掛け声が集合の合図であった。


「……ちょろちょろと飛び回っていた小娘たちがひとつに集まって何をするつもり? ま、何をしてきても私には敵わないけど」


 リリスは不敵な笑みを浮かべ、アルカ達を見下す。そんなリリスの姿を見たアロワが小さな声でアルカとアロワの二人に囁いた。


「いいかお前ら。今の姉御は『完全魅了パーフェクト・チャーム』の影響かはわからねえが、かなり傲慢な態度を見せている。正直、隙だらけだ」

「そんな隙だらけの師匠にまったく敵わないなんて私たちも未熟ですね」とアルカも囁く。

「まったくです」とシェルド。

「……そう。アタイたちのことなんて歯牙にもかけてない。負けるなんてありえないと思っている今しかない。やるぞ一点突破。赤髪、アタイに身体能力強化の魔法を……!」

「わかりました」


 アルカはアロワに魔法をかける。


「作戦会議は終わったかしら?」

「まあな」

「そう。じゃあ、遠慮なくやれるわね! リリース・ファイア!!」


 リリスはより一層魔力を込め巨大な炎を生み出す。周囲の地面までも焼き尽くしてしまいそうな熱量の炎を3人の少女たちに向かって放出した……!


「いくぞ。赤髪、金髪! この攻撃で出し切るぞ!」

「ああ!」


 3人は一列になってリリスに向かって炎の中を一直線に走りだす。

 先頭のシェルドは盾を構えながら走り、リリスの炎から自身を含む3人を守る。


「くっ!? やっぱりすごい魔法だ……! ドラゴンの盾だけじゃ抑えきれない!」

「シェルドくん、ありがとうございます。ここから先は私がやります。師匠! 見て下さい! これが師匠の教えてくれた……私の全身全霊の『水魔法』です。リリース・ウォーター!」


 アルカは炎魔法と相性の良い水魔法を全力で放つ。まともに撃ち合えばアルカの魔法がリリスの魔法を上回ることはない。だが、今この時、一点突破という目的のためのアルカのリリース・ウォーターはリリスの炎魔法の壁に風穴を空けた!


「なに!? 私の炎を一直線に突破してきたですって!?」


 驚くリリスの隙を突くように風穴から飛び出したのは身体能力強化魔法をアロワだった。


「喰らえ! 姉御ぉおおおおおおおおお!」


 アロワの渾身の右拳がリリスの側頭部を撃ち抜いた。


「きゃあああああ!?」


 悲鳴を上げるリリスの体は地べたへと叩きつけられたのだった。

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