第56話

「さあ行くわよ? まずはそうね。何も武器を持っていないあなたからね」


 リリスはアロワに視線を向けながら宣言する。


「最初にご指名とは光栄だな。でも武器を持ってないからって舐めてると怪我するぜ、姉御」

「あなたに姉御と呼ばれる筋合いはないはずだけど……。まあいいわ。武器を持ってないってことは近接戦闘がお得意なのかしら?」

「まあな」

「じゃあ、最初の一撃目は私も魔法を使わないでおいてあげる」

「そいつはありがたいな」

「じゃ、始めるわよ?」

「なっ!?」


 リリスが3人の視界から一瞬で消えさる。そして次の瞬間。


「うわあああああああああ!?」


 気付いた時にはアロワは蹴り飛ばされ、客席と決闘場とを隔てていた壁に激突した。


「うっぐ……。ウソだろ。全然見えなかった」

「アロワ、大丈夫か!?」


 アロワを案ずるシェルドの背後から声が忍びよる。


「人の心配をしている場合かしら」

「くっ!?」


 声に素早く反応したシェルドは盾を構えながら振り向く。盾に響き渡る衝撃音をリリスの拳が造り出す。


「なかなか素早い反応ね。人間のわりに大したものだわ。はああああああ!!」


 リリスは盾に接触させた拳にさらに力を込め振り抜いた。シェルドは受け切れずに宙を舞う。


「シェルドくん!?」

「くっ。だ、大丈夫です。アルカさん」


 地面に擦りつけられたシェルドは片膝を立てて起き上がる。


「身体能力強化の魔法も使ってないのに……こんな力を生身の体で出せるなんて!?」

「驚いた? でも後悔してももう遅いわよ。ルーク様に楯突いたのが運の尽きね……!」

「アルカさん、身体能力強化の魔法は使っていますか?」

「ええ、もちろんです。この勝負、解除することはできなさそうですね。……アロワさんはどこにいったんですか!?」


 アルカがアロワの姿が壁から消えていることに気付く。


「おらあ!」


 勇ましい声と共にアロワが出現し、リリスに殴りかかる。しかし、リリスは慌てた様子もなく、ひらりと華麗にかわした。


「結構痛めつけたつもりだったんだけど……。あなた頑丈なのね、ダークエルフのお穣ちゃん。戦闘のセンスも良さそうね」

「さっきは不意を喰らっただけだ。こっからが本番だぜ」

「あらそう。じゃあ、言い訳できないようにしてあげる。今からあなたを攻撃するわ」


 リリスの足元の土が槍状に隆起しアロワに襲いかかる。


「なっ!? あぶねえな!?」


 アロワは瞬時にリリスから距離を取る。


「懐に入らせなければこっちのものだわ。……『リリース・ファイア』」


 巨大な炎がアロワに向かって放たれる。


「先生、戦ってるのはアロワだけじゃないんですよ……!」


 アロワを守るようにシェルドがドラゴンの盾で炎を受け止める。


「さすが、ドラゴンの盾……。この程度の炎を受け止めるのは造作もないようね」

「油断しすぎだぜ、姉御!」


 リリスの背後から再び殴りかかるアロワ。しかし、リリスに動揺は見られない。


「油断なんてしてないわよ? ……『リリース・エアー』」

「ぐう!?」


 アロワに向かって放たれる暴風。風圧に耐えきれずアロワは吹き飛ばされる。


「まだだ!」


 シェルドもリリスに斬りかかるが、これもかわされてリリスに蹴りあげられる。なんとか盾で防御したシェルドだったが、そのまま脚を振り抜かれ壁に激突させられてしまった……。


「がはっ……!」と息を吐き出しながらシェルドは口から血を噴き出す。

「うう……。アロワさんとシェルドくん二人がかりでもまともに攻撃をさせてもらえないなんて……」


 額から冷や汗を流すアルカに対して余裕の笑みを浮かべてリリスが語りかける。


「さあ、次は魔法使いのお穣さんの番ね。あなたも勇者なんでしょう? すこしは楽しませてちょうだい!」


 リリスは右掌を天に掲げると魔力を込め、巨大な火球を造り出す。


「さあ、受け止められるかしら? 『メテオライト』!」


 巨大な火球がアルカに襲いかかる。


「ただ大きいだけじゃない……。なんて高密度な魔力……。でも、負けるわけにはいきません! 『ウォーター・キャノン』!」


 アルカはヨルムンガンドの杖から棒状の高水圧を発射した。放たれた水と火球がぶつかり合う。


「そ、そんな。押される!? 属性はこちらの方が有利なはずなのに……!?」


 アルカの放った水魔法はどんどんリリスの放った火球に打ち消されていく。


「うわあああああ!?」

「アルカさん!」


 火球はアルカを直撃した。アルカの身を案じるシェルドの声が旧魔王城にこだまする。


「うぅうううう……」とうなだれるアルカ。

「赤髪、大丈夫か!?」と駆け寄るアロワ。

「は、はい。なんとか……」

「すごいじゃない。さすがは勇者ね。ここまで私の魔法の威力を弱らせることができるなんて」

「ははは! 良いぞリリス。悪くない働きだ。そのままヤツらを亡き者にしてしまえ!」


 最後方で防御魔法の内側から高みの見物を決める純王国ホワイトの国王ルークがリリスを讃える。


「お褒めに預かり光栄です。このリリス、ルーク様のため必ずやこの者たちを滅してみせます!」


 顔を紅潮させながらリリスはだらしない笑顔を浮かべ、ルークの言葉に答えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る