第54話
アルカ、シェルド、アロワの三人は旧南の魔王城に到着する。旧南の魔王城と言ってももはや城は残っていない。わずかに石垣が残るのみである。魔王城があったと聞かされなければただの空き地である。しかし、そんな何もない場所が今日ばかりは熱気に満ち溢れていた……。
「おいおい、なんてギャラリーの数だよ……。魔王城があった時だってこんなに人は集まらなかったぜ?」とアロワは驚く。
純王国ホワイトの王ルークは宣言通り、南の魔王国に住む各部族の代表をこの決闘に呼び出していた。かつて南の魔王として力を持っていた時に顔を合わせたことのある者たちがアロワの視界に入る。しかし、この狂っているとも思える熱気を起こしているのは彼らではない。
「やれぇ! 南の魔王をぶち殺せぇえ!!」
アロワを口撃する声が鳴り止まない。その発声源はホワイトエルフだった。観衆の九割九分をホワイトエルフが占めていた。その全てがアロワたちに対してブーイングを浴びせる。
「ったく、熱心なこった。純王国ホワイトの国民全部呼んでんじゃねえか? ……お前ら飲みこまれんじゃねえぞ?」
「この程度で飲みこまれるわけがない。伊達に騎士をやってるわけではないからね」
シェルドはフッと笑う。
「当然です。今から師匠を助けないといけないんですからね!」
アルカはフンと鼻息を荒くしながら胸を張る。
「……へっ。どうやら一番上がってるのはアタイみたいだな。……頼もしいやつらだな、お前らは」
「ククッ。待ちくたびれたぞ? 南の魔王アロワと勇者ども」
見下した笑いをしながら声をかけてきたのは純王国ホワイトの王ルークだった。王の登場に魔王城跡は狂った盛り上がりを見せる。
「ルーク王ばんざーい!」
「ばんざーい!」
掛け声とともに、ホワイトエルフ達が一斉に声を合わせる。
「うむ。良い声を出してくれる。しかし、ルーク王万歳では今から始まる華やかな殺戮劇には似合わんな……。……聞け国民どもよ。今宵だけは我が名に敬称を付さないことを許そう。盛大に我が名を叫ぶが良い!!」
「うぉおおおおおおおおおお!! ルーク! ルーク! ルーク! ルーク! ルーク!」
ルークはホワイトエルフを焚きつけ、闘技場と化した旧南の魔王城をさらに盛り上げさせる。
「……これじゃ、どっちが悪ものかわからなくなっちまうな……」
完全アウェーとなってしまった旧南の魔王城。かつての自分の城がホワイトエルフの熱気で包まれてしまっていることにアロワはぼやく。
「さて、それではサポーターの熱気が冷めやらぬ内に始めようか」
「ふん。フーリガンの間違いじゃねえのか?」
アロワとルークは互いを見やり不敵な笑みで笑い合う。
「……南の魔王国魔王アロワと純王国ホワイト国王ルーク両名は前へ」
審判役と思われるトカゲ頭の獣人が集合の合図を送る。
「……アンタが審判か。なら安心だ」とアロワはトカゲ頭の魔族『リザードマン』の族長に声をかけた。リザードマンはかつて南の魔王国にまだ力があった時、ダークエルフ、ホワイトエルフに続いて3番目に力を持っていた種族である。審判には適役であった。
「審判などあってないようなものだ。これは殺し合いの決闘だからな。……一応ルールを確認しておく。3対3のバトルロワイヤル。死ぬか、降参した場合、その者は脱落。3名全員が先に脱落した方が負けだ。なお3名の内、アロワ殿とルーク殿は必ず入るものとする。良いな?」
「確認するまでもねえな」
「同じく」
アロワとルークはリザードマンに答える。両者から確認が取れたところでリザードマンは続けた。
「それでは、両者はアルテミスの弓と矢筒を卓上に置かれよ」
アロワは矢筒を、ルークは弓をそれぞれ卓上に置いた。卓は屈強なリザードマンの兵四人が抱え、闘技場の端へと持っていくとそのまま厳重に警護する。
「さて、では各々3名準備してもらおう。南の魔王国の方は随行者が多いな。3名以外はご退場願おう」
「わかった。……ドグ、こいつらを連れて観客席に行ってくれ」
「は、かしこまりました……。アロワ様どうかご無事で……」
言い残すと狼型の獣人でアロワの側近、ドグは随行者を連れて去った。残ったのはもちろん東の勇者シェルドと北の勇者アルカである。
「アタイたちはこの3名だ」とアロワが報告するとリザードマンは頷いた。
「では純王国ホワイトの方だが……、まだルーク殿しか姿を現していないな。他の2名は……?」
「ククッ。案ずるな。リザードマンの族長殿。すぐに用意するさ」
ルークが指を鳴らすと、巨大な魔法陣が二つ現れた。魔法陣の中心にそれぞれ一人ずつが召喚される。一人はいかにも魔術が得意そうな杖を持ったホワイトエルフ、そしてもう一人は……。
「あなたたちがルーク様の邪魔をする小娘たち? 覚悟はできているんでしょうね?」
「師匠……」、「先生……」、「姉御……」
アルカたち三人はそれぞれの呼び方でリリスと対面する。召喚魔法を使用した派手な演出に闘技場のホワイトエルフたちは更なる熱気を帯びるのだった。
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