第51話
アルカとシェルドは国立図書館へと足を急がせる。その道中、アルカはシェルドに問いかけた。
「シェルドくん、あの検問係の責任者と親しそうでしたが……お知り合いだったんですか?」
「え、ええ。タックアさんという方で兄共々お世話になっている方なんです。去年までは東の都の役所に勤めていた名門貴族の方なのですが……異動でキャピタルの検問係に栄転されたんです」
「へえ。ガード家でのパーティにも参加されたと言ってましたが、すごく仲がいいんですね」
「……仲が良いってどころじゃないんです。兄が薔薇なのはアルカさんもご存知でしょう? そのお相手がタックアさんなんです」
「あ、ああ。な、なるほど……」
「あまり口外しないでくださいね。お二人とも秘密にしてるようなので……」
『それなら、私にも話さなかったら良いのに』とアルカは思ったが、シェルドも複雑な心境なのだろうと慮り、口にはしなかった。アルカ自身も父親が熟女趣味だったことに悩んでいたこともあり、シェルドの誰かに話しを聞いてもらいたかった気持ちをなんとなく理解したのだろう。
二人は真っ直ぐに図書館へと足を向かわせた。
巨大な都市キャピタルとはいえ、身体能力強化した二人にとっては大した広さではない。すぐに国立図書館に到着した二人は早速手分けして
「……なにか手掛かりは見つかりましたか、シェルドくん……」
アルカは資料探しの作業に疲れ、シェルドに話しかける。
「いえ、まったくです……。アルカさんは……?」
アルカは無言で首を横に振る。首都キャピタルに辿り着いてから早二日、夜を徹しての国立図書館での検索作業に成果は出ていなかった。南の魔王国での決闘まであと四日……。明後日の朝には首都キャピタルを発たなければ間に合わない。
「……明日は、タックアさんが紹介してくれた国立魔導研究所に行ってみましょう。せめて何かヒントだけでも持って帰らないと……」
「そうですね。師匠をあのままにしておくわけにはいきません!」
翌日、アルカとシェルドは国立魔導研究所を訪れる。
「あなた方がタックア様のおっしゃっていた勇者様御一行ですね? お待ちしておりました」
ご丁寧に研究所の所長と思われる眼鏡をかけた白衣の男が二人を玄関で出迎えてくれた。
「……お話はお伺いしております。お仲間の一人が厄介な魔法にかけられているとか……。我々の知識が役に立つかはわかりませんが、お話をお伺いしましょう。さ、どうぞ中に」
二人は研究所の応接間に招かれる。ソファに座った二人に所長はコーヒーを出しながら問いかけた。
「それで……お仲間はどのような魔法にかけられているのですか?」
「……
「
「ご存知なんですね!?」
「ええ。サキュバスの最高魔術ということは存じています。しかし、私は何分精神魔法には疎いもので……。精神魔法研究者の権威に話しを聞いてきましょう。一時間程時間を頂きたい。それまでの間、どうぞ研究所をご見学ください」
アルカとシェルドは所長の勧めに従い、待っている間、研究所を見学することにした。案内は所長の美人秘書がしてくれるらしい。彼女も白衣と眼鏡だ。
「やっぱり国一番の大規模な研究所だけあって色々な研究をされているんですね」
「ええ。連合国の要ですから。巨大な魔王国に囲まれた連合国が生き残るためには魔法が必要不可欠。あらゆる魔法を研究しております。一見、意味の無さそうな基礎研究にも当然力を入れています。対魔族にどのような魔法が有効なのか未知数ですからね」
アルカの質問に秘書は丁寧に答える。研究所の様々な研究室を二人が秘書とともに見学する中、ひときわ慌ただしいひとつの研究室があった。
「どの研究室も忙しそうでしたが……、この研究室はさらに輪をかけて忙しそうですね」
「ええ。最近大発見をした研究室ですから。なんせこれまでの世界観を壊してしまうほどの発見でしたから」
「世界観を壊す? 何やらとんでもなさそうですね。一体何を発見したんです?」
「……世界五分前仮説をご存知ですか?」
秘書が眼鏡の鼻あてを調整しながらシェルドに話しかける。
「ええ、知ってますよ。『世界は五分前に始まったかもしれない』という思考実験のことですね?」
秘書がコクリと頷く中、アルカが叫ぶ。
「ええ!? そんなことありえません! だって、私は18年生きてるんですよ!? 世界が5分前にできたはずがありません!」
「大丈夫ですよ、アルカさん。皆そう思ってます。この説は5分前に18年分の記憶を持ったアルカさんが造られたというトンデモ理論です。アルカさんだけではありません。僕もこの秘書さんも……世界中の全てが5分前に造られたという仮説です。といっても、もちろん本当に世界が5分前に造られたわけではありません。そういうことを考える哲学的学問があるんですよ」
「哲学的学問? それならなぜ魔導研究所で研究されていいるんです?」
「た、たしかに言われてみれば……」
「簡単なことです。先ほども言ったでしょう? この魔導研究所はどんな小さな研究でも突きつめるのです。たとえ、それがどんなトンデモな理論でも……。そして、それがトンデモではなかったということです」
アルカとシェルドの会話に割り込むように秘書が説明する。
「トンデモではなかったって……。まさか、本当に5分前に世界が出来たとでも言うんですか!?」
「さすがにそこまでではありません。がしかし、それに近しい結果が出たのは間違いありません。……この世界は五〇〇〇年前に突如現れた可能性が高まったのです」
「五〇〇〇年前?」
アルカとシェルドは声を合わせて疑問符を打つのだった。
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