第50話

「そんじゃあ頼んだぞ」


『南の魔王国』と連合国の『南の都』との境界。アロワはアルカとシェルドを見送りに来ていた。


「ああ。必ず完全魅了パーフェクト・チャームを解く方法を見つけてくる」

「アロワさんも気を付けて下さいね。ホワイトエルフが襲って来ないとも限らないですから」


 アルカとシェルドはそれぞれアロワに別れの言葉を告げると身体能力強化の魔法を自身にかけて走り去った。


「……さて、アタイも準備するかな」


 アロワはポツリと呟くとアルカ達に背を向け、南の魔王国へと戻って行った。

 三日後、アルカとシェルドの二人は連合国の首都、『キャピタル』の入り口に到着していた。


「すごい。街全体が壁で覆われているなんて……。噂通り、警備が厳重なんですね……」


 十メートルはある石垣の外壁にアルカは圧倒される。石垣の壁は街を囲むように立っており、どこまでも続いているのではないかと思えるほどだ。入口では兵士が検問を行っており、手荷物検査を受ける人々が順番待ちをしている。


「手荷物検査も時間をかけてやってるんですね。これはだいぶ待たないといけませんね」

「僕も何度かキャピタルに来たことがありますが、荷物検査に長い時は半日かかりましたよ」

「半日!? そんなに長いんですか!?」

「ええ。ただ入るだけでそれくらい足止めされます。モノにもよりますが、商人など、物品を多数持ちこむ人の場合は数日かかることもあると聞きますね」

「そんなに長く待ってられませんよ……。ホワイトエルフとの決闘までもう6日ほどしかないのに……」


 アルカが不安そうに呟くのを見てからシェルドが口を開いた。


「……本来は順番待ちをするのが正しい行いでしょうが……、事情が事情です。検問は免除してもらうことにしましょう」

「免除? 一体なにをするつもりですか、シェルドくん」

「僕の身分を利用するんです。あまりしてはいけないんですけどね。特権をむやみに使うというのは国民からの不信感、不満感を招きますから……」


 シェルドはそう言いながら、手荷物検査の列を無視してキャピタルの門まで歩いて行く。


「そこのお前。手荷物検査を受けていないだろう? 列に並べ」


 門番の兵士にシェルドは声をかけられるが、すかさずシェルドはこう返す。


「たしかに、あなたの言うとおりです。手荷物検査は受けるべきだ。たとえ貴族であってもいち国民と同じようにね。だが、今回は許してもらいたい。これを検問係の責任者に見せて欲しい」


 シェルドは貴族であることを証明する金属製のプレートを兵士に渡す。


「こ、これは……。……少々お待ち頂いてもよろしいか?」

「ええ。もちろん」


 数分後、検問係の責任者と思われる貴族風の男がシェルドとアルカの前に現れた。


「シェルドくん、久しぶりだね。ガード家でのパーティ以来だから1年ぶりくらいかな?」

「お久しぶりです、タックアさん。お元気でしたか?」

「ああ。元気にやってるよ。君や君のお兄さんに会えなくなったのはさびしいけどね」


 タックアは両手を広げて肩をすくめる。


「こちらに異動されてもう半年ですよね? 早いものです……」

「ああ。本当に早い。……ところで、そちらの赤髪のかわいいお穣さんはもしかして、例の北の勇者様かい?」

「ええ。その通りです。北の魔王を倒した北の勇者で、僕の姉弟子のアルカさんです。ご存知でしたか」

「ご存知も何も今、連合国では噂になってるよ。北の魔王を倒し、東の魔王も倒した勇者一行が今度は南の魔王を倒しに向かった……てね。……勇者御一行は3人だと聞いていたが……もう一人はどこに?」


 タックアがきょろきょろと辺りを見回す。そのしぐさを止めるようにしてシェルドが声を発する。


「……戦闘で特殊な魔法を受けてしまって、今は療養中なんです。治療法がわからなくてそれを調べにキャピタルに来たんです」


 シェルドはリリスの正体がばれないように気を使いながらタックアに事情を説明する。


「なるほど。南の魔王討伐に苦労しているんだね。気を付けるんだよ。君が死んだりしたら僕も君のお兄さんのイルドも悲しいからね。調べにきたということは魔導図書館に行くのかい?」

「はい、その予定です」

「……もし、魔導図書館で方法が見つからなかったら、国立魔導研究所に行くといい。あそこは連合国の優秀な魔法専門家が集まる場所だからね。私から話を通しておくよ」

「ありがとうございます!」

「勇者たちには連合国首長に謁見してもらいたいところだが、急な用事のようだからね。シェルドくんたちが来たことは黙っておくよ。その方がいいだろう?」


 タックアはウインクをして手をキャピタル内部に向ける。


「時間を取らせてすまなかったね。ようこそ、我が連合国首都『キャピタル』へ。ゆっくり……はできないだろうが、歓迎するよ」

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