第49話

「おもしろくない……? 面白くない、だと!?」


 シェルドはまだベルから受けた頭痛が収まっていないのか、片膝を付いたまま彼女を睨みつける。


「はい、我が主はそうおっしゃっています」

「……神様だか何だか知らないが……、随分と性格が悪そうな奴だ。人間と魔族のかけ橋になろうとし、平和を作ろうとしている先生を救う手段を教えてくれないなんてな」

「お、おい、金髪やめとけ!」

「どうやら現東の勇者様は信仰心が足りないようですね。さらなる神罰を……!」

「ぐっ!? う、がぁあああああああ!?」


 シェルドの脳に再び激痛が襲いかかる。あまりの激痛にシェルドは眼を見開き、頭部を挟み込むように両手で押さえうずくまる。


「これ以上やると本当に死んでしまいますからね。勘弁してあげましょう」


 ベルがそう言うと、シェルドの頭痛が止む。


「はぁ。はぁ。はぁ」

「だ、大丈夫ですか!? シェルドくん!」


 息切れを起こすシェルドのもとにアルカが駆け寄る。シェルドは2度のベルからの攻撃で眼が充血を起こしていた。


(ひどい、いくらシェルドくんが感情的になったからって、ここまでしなくても……)


 アルカがベルを睨みつけると……、ベルはアルカの心情を逆なでするように見下した笑いを見せる。


「北の勇者様も我が主に楯突くおつもりですか?」


 アルカはベルの言葉に背筋を凍らせると、そのまま俯き、地面に視線を落とす。


「おい、そこまでにしようぜ。……時間取らせたな、ベル。また用事が出来たら呼ばせてもらうさ。ありがとうよ」

「あら、もう良いのですか? ……それではお三方様またお会いしましょう」


 ベルはそう言い残すと、ガラスの石板の中に吸い込まれるようにして消えて行った。


「く、くそ。酷い目にあった……。なんて妖精だ」


 シェルドはベルが消えたのを確認し、ベルを非難する。


「たく、馬鹿にするのをやめろって言ったのに、お前が聞かないから」

「だ、大体そういうのは最初に言ってほしかったぞ! アロワ!」

「す、すまん……。だが……、有用な情報は得られたようだぜ」


 シェルドはアロワに肩を貸してもらい立ち上がる。


「有用な情報? あの妖精は何も教えてくれなかったじゃないですか!」


 洞窟の出口に向かって歩きながらアルカがアロワに問う。


「アタイが完全魅了パーフェクト・チャームの解き方を聞いた時、あいつはこう言ってただろ? 『我が主はこうおっしゃっております。それを教えては面白くない、と』ってな」

「たしかにそう言ってましたね。でもそれが何だっていうんです?」

「鈍いなあ。あいつは『教えては面白くない』って言ったんだぜ? つまり、解く方法がないと言われる『完全魅了パーフェクト・チャーム』だが、実際には解く方法があるってことだ。あの妖精ははぐらかすことはあっても、ウソを言ったことはねえ」

「そ、そうか。ホワイトエルフの王との決闘まであと9日だが、解除方法を見つけることができれば……、先生さえ洗脳から解き放てばあんな王など……ルークなど簡単に倒せるはずだ」

「そういうことだ、金髪。ところで相談なんだが、知っての通り南の魔王国はこんな崩壊寸前の状態だ。完全魅了パーフェクト・チャームを調べる方法がない。かつてあった魔法関連の書物もすべて失ってしまったからな。だからよ、人間の国……連合国に魔法を調べられるような場所はないか……?」


 シェルドは顎に手を付け、しばし思索に耽る。そして思い出したように口を開いた。


「やっぱり、連合国首都『キャピタル』にある魔導図書館だろうな。ここしか思い付かない」

「キャピタル……連合国の中央に位置する巨大都市ですね。首都だから巨大なのは当たり前なのですが……」

「僕の故郷である東の都よりも繁栄はしてないけど……、警備力はケタ違いです。なんせ、連合国の軍事、行政を司っていますからね」

「……んなとこに魔族であるアタイが忍び込むのはどう考えても無理そうだな……。……赤髪、金髪……頼みがある」

「言われなくても人間である僕らが調べて来るさ。ここからキャピタルまで今の僕らなら一週間程度で往復できるはず。そうと決まれば早速向かいましょう。アルカさん!」

「ええ!」

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