第48話

「さて、そんじゃ本題に入るとするかな」


 アロワはベルに向かって視線を落とす。


「アロワ様、まだ私にご用事が……?」

「ああ、お前に教えてほしいことがあるのさ。……《完全魅了パーフェクト・チャーム》、全知のお前なら当然知っているだろう? それの解除方法を教えて欲しいのさ」

「そ、そうか。全知の存在なら、先生がホワイトエルフの王にかけられた魔法の解き方も知っているはず……! アロワ、やるじゃないか! ただの脳筋じゃなかったんだな!」

「金髪……、お前後でぶっ殺す!」

「シェルドくん、余計なことを言ったらいけません! アロワさんも落ち着いてください。……そ、それでベルちゃん、師匠を正気に戻すにはどうしたら良いのですか……?」


 アルカは不安げな様子でベルに確認する。ベルは一旦目を瞑ると、何かと交信しているのか、声を出さずに口だけを動かす。数十秒経っただろうか。ベルは口を動かすのをやめ、目を開く。アルカたち、三人はベルが話しだすのを固唾を飲んで見守る。


「……天啓を頂きました。……完全魅了パーフェクト・チャームその解除方法は……」

「その解除方法は……?」

「教えることができません」

「なっ!?」


 教えることができないと答えたベルに対してシェルドが詰め寄る。


「教えることはできないってどういうことだ!? アンタはなんでも知ってるんじゃないのか!?」

「やめとけ、金髪……。そうなったらもうそいつは何も言わねえよ」


 アロワは想定内だったのか、少し落胆しているようだが冷静な様子でいる。


「……そうか、お前はただのウソつきなんだな? 天啓だなんだってのも、神に等しい存在ってのも全部ウソか。ふざけるな!」

「や、やめろっていってるだろ、金髪! そいつの主のことを馬鹿にするような言動はやめるんだ!」


 アロワがシェルドに対して忠告をするが、もう遅かった。


「私のことはともかく……、天啓を否定することは東の勇者といえども許されませんよ? ペナルティを与えねばなりませんね」


 ベルは突き放すようにシェルドに冷たい言葉を浴びせる。


「え? が!? うわぁああああああ!?」

「ど、どうしたんですか!? シェルドくん!!」


 凄まじい激痛がシェルドの脳を襲う。シェルドは頭を抱え、地面でのたうち回った。あまりの激痛にシェルドはその場で胃の内容物を戻してしまう。


「ぐ……が……!? はぁ、はぁはぁ……!」


 激痛が止んだシェルドは大きく息をして、正常な呼吸を取り戻そうとする。


「き、貴様……、な、何をしたんだ……?」

「神罰ですよ。あなたはこの世界の神に等しい存在をけなした。生かされているだけありがたいと思ってください」

「し、神罰……。少し、存在を疑っただけでこんな……」


 アルカはやりすぎだと言いかけたが、ベルの瞳を見て言葉をひっこめた。彼女の視線が『それ以上言ったらあなたにも神罰が下りますよ』とでも言ってそうだったからだ。


「……シェルドくんがけなしたことは姉弟子である私からも謝ります。でも……教えて頂けませんか? なぜ、師匠にかけられた魔法の解除方法を教えることができないのかを……」

「……我が主はこうおっしゃっております……。それを教えては面白くない……と」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る