第47話

「それでアロワ様? 私を三十年ぶりに呼び出したのは何か聞きたいことがあったからでしょう?」

「……そうだな。お前に確かめたいことが何個もあったんだ。ひとつは……アタイはいまいちお前のこと信用してなかったからさ。ここにいる二人の勇者にもお前が見えるかどうか確かめたかったんだ。ま、それはもう今確認できたからいいんだけどよ。もうひとつは……、お前が昔言っていた言葉を再確認するためさ」

「私が昔アロワ様に語った言葉……。真世界への扉のことですか?」

「ああそうだ。そのわけのわからない言葉のことさ。お前言ってたよな? 四人の勇者が揃ったとき、真世界の扉が開かれてこの世界は救われるってな!」

「はい。四人の勇者が揃ったとき、この世界は救われます」

「それはこの世界に平和が訪れるってことで良いのか?」

「平和かはわかりませんが……、少なくとも全ての人、魔族から闘争心は失われ、争いはなくなるでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、アロワ! そして、ベルちゃん……だったか……!?」


 シェルドはアロワとベルの会話を一旦とめさせた。あまりにも突拍子のないアロワとベルの話を前に理解ができなかったからだ。


「一体なんなんですか? 世界に平和が訪れるとか救われるとか……さっぱり意味がわかりません」


 アルカもたまらず、会話の輪に入り込む。次に口を開いたのはアロワだった。


「正直、アタイもなんのこっちゃかわからねえってのが本音さ。四人の勇者が揃えば世界が救われるなんて信じられねえからよ。でもまるっきりウソだとも思えねえのさ……。おいベル、こいつらの姉御がだれか、お前もうわかってるんだろ?」

「ええ、先ほど天啓を受けましたから」

「僕らの先生が誰なのかわかる、だって? さっき僕らが先生の話をしていた時は首を傾げていたじゃないか。それなのに、僕らの先生が誰かわかるっていうのか!?」


 シェルドがベルに詰め寄る。ベルは吸い込まれそうな笑顔を崩さずに淡々と答える。


「ええ。私は全知全能の存在から知識を与えられていますから」

「全知全能の存在だって? 君は自分が神様の使いだとでも言ってるのか?」


 シェルドは怪訝な表情を浮かべてベルに問いかけた。ベルはやはり笑顔を崩さずに答える。


「ええ。神と言っていいかはわかりませんが……、それに近しいものから私は知識を受け取っています」


 あっさりとこともなげにぶっ飛んだことを話すベルに対してアルカとシェルドは驚きの顔を隠せない。普通に考えればこの妖精がほらを吹いているに違いないのだが、どうもこのベルという妖精の言葉には真実味があって仕方がなかった。


「そこまで言うなら、僕らの先生が誰なのか教えてもらおうじゃないか!」

「わかりました。北の勇者アルカ様と東の勇者シェルド様に稽古を付けた方は、西の魔王リリス。驚きましたよ。まさか、魔王が勇者に戦いの修行をさせるなんて。数千年前なら考えられないことでした。この世界の小さな誤差が長い年月をかけたことで人間と共存を望む魔王という異質な存在を生んだのでしょう」

「……関係なさそうな情報まで教えてくれましたが、本当に師匠のことをわかっているみたいですね。でも、まだ全知全能だなんて信じられません。あなたが全知だというのなら、わたしのお父さんが誰なのか言ってみてください!」


 アルカはベルが本当に全てを知っているとは思えず、さらなる質問をする。


「南の勇者アルカ様のお父様はサイエン・ミスト。アルカ様と同じく赤色の髪と目を持つダンディです。ただかなりの熟女好きらしく、現在は二十才年上のマダム・マリアンヌという方と暮らしています。そして娘のあなたのことを溺愛しているようですね? アルカから手紙が来ないと嘆いていらっしゃいます。アルカさん、お父様を悲しませたらいけませんよ? 手紙を書いてあげましょう!」

「ホ、ホントに私のお父さんのことを知ってる……? それに私も知らなかったお父さんの恋人のフルネームも……?」

「アルカさん、手紙は書いてあげましょうよ……」


 シェルドはボソっとアルカに忠告するのだった。

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