第46話
「これはこれは……、北の勇者様もご一緒だったのですね!」
ガラスの石板から出てきた妖精『ベル』は背中から生えた四枚の羽根を器用に動かして宙を飛び、アルカの鼻先まで体を寄せる。アルカの眼に映ったベルは整った顔立ちだった。端正な美女というよりは可憐な美少女といったところだろう。羽根が生えていることや体が小さいことを除けば人間と同じような姿形をしている。
緑色に染まっているベルの瞳は続いてシェルドをその視界に捉えた。
「まさか……、東の勇者様まで……!? 何百年、いえ、何千年ぶりでしょうか……。選ばれし勇者が一同に会するなんて……! これはすばらしいことです! ……西の勇者はいらっしゃらないようですが……」と、瞳の色と同じ緑色の髪をなびかせながらベルは周囲を見渡す。
「ちょ、ちょっとアロワさん、彼女は……この妖精は何者なんです!? 私とシェルドくんのことを勇者だと知っているようですが……」
「何者かと言われたらアタイもよくわからねえな。石板の精霊っていったところじゃねえのか? というか、やっぱりお前らには見えるんだな!!」
アロワは少し眼を輝かせて喋る。どうやら興奮しているらしい。アロワの姿に違和感を覚えたシェルドが質問する。
「『お前らには見えるんだな』ってことは……、他のダークエルフには見えないのか……?」
「ああ、ダークエルフだけじゃねえ。ホワイトエルフにも見えなかったからな。多分、見ることができるのは『勇者』だけだ」
「『勇者だけだ』って……、ここにいる勇者はアルカさんと僕だけ……ってまさか……」
「ああ……。どうやらアタイも『勇者』らしいぜ? その『ベル』が言うにはな」
「ア、アロワさんが『勇者』!?」
「ええ。アロワ様は『南の勇者』ですよ」
アルカの驚嘆の声にベルは受付嬢のように冷静な声で答える。
「アロワが南の勇者だって? アロワはアルテミスの弓と矢筒を持とうとしたら熱くて持てなかったと言ってたじゃないか!?」
「……アロワ様、まだ身体が一致しないのですね?」
シェルドの言葉に答えるようにベルが口を開いた。またもベルは業務連絡を告げるように冷静な声でアロワに確認を取る。
「その身体が一致しないってなんだよ? 百年前、まだアタイがこどもだった頃、お前に会った時もそんなこと言ってたよな。未だにさっぱり意味がわからねえよ」
「……時が経ち、力を得れば伝説の武具を使えるようになる、ということですよ。それよりも驚きました。北の勇者と東の勇者がその若さで伝説の武具を使いこなせているなんて……。通常なら考えられません。一体どうやって……?」
「……私たちは師匠に鍛えられましたからね!! 伝説の武具を使いこなすくらいわけありませんよ!!」
「師匠……?」
ベルが首を傾げている正面でアルカは無い胸を突き出して鼻息を荒くする。そんなアルカの背後でシェルドは不審そうな顔をしてベルに問いかける。
「勇者の存在と伝説の武具にかなり詳しいみたいだけど……、君は一体何者なんだ?」
「……勇者様たちの守護霊といったところでしょうか?」
「守護霊……だと?」
「はい。よろしくお願いします」
妖精ベルはその可憐なフェイスの口角を上げ、吸い込まれそうな笑顔を造り出した。
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