第44話
アルカ、シェルド、アロワの三人は険しい山道を突き進んでいた。少し気を抜けば真っ逆さまに落ちていく。身体強化魔法を使っているアロワたちでさえ腰が引けるような崖の渕沿いの道を延々と歩く。目指すはダークエルフの集落……。アロワの一族が居住する地区だ。
「こんな道なき道のさきに住んでいる人間、もとい魔族がいるんですか? とても住めるような場所があるとは思えないんですが……」とアルカが率直な気持ちを口にすると、アロワが反応する。
「そのとおりさ。普通なら住もうとは思わない場所さ……。だが、アタイたちダークエルフは辺境の地で今は暮らしてるんだ」
「『今は』?」
「……アタイが神器を……『アルテミスの弓』を奪われちまったからな……。南の魔王国を衰退させてしまった出来損ないの魔王……。そんなもんを輩出しちまったダークエルフの一族は当然、非難にあった。そして、元住んでいた場所を追われて逃げるように住む場所を変えたのさ。ま、矢筒を奪われないように隠すためにも都合が良かったわけだが……」
九日後に迫ったリリスと伝説の弓を賭けた純王国ホワイトとの決闘、そこで用意しなければならない伝説の弓「アルテミス」の「矢筒」を取りに行くため、三人はダークエルフの集落に向かっていた。
「……魔族も大変なんだな。そんな権力争いばかりだなんて……。僕はてっきり腕っ節の力だけで優劣が決まっている世界だと勘違いしていた」
シェルドが正直な気持ちを口にする。
「んなわきゃねえだろ。アタイたち魔族にだって社会があるんだ。腕っ節だけで治められるわけねえ。頭もいる。……ま、そのせいで狡猾なルークみたいなヤツがでてくることにもなるんだが……」
「あ、あの……」
「なんだよ赤髪?」
「お腹が空きました……。あとどれくらいかかるんですか?」
「……お前、出発前にたらふく食ってただろ。食い意地の張ったやつだな」
「し、仕方ないじゃないですか!? もう、半日歩きっぱなしなのですよ!?」
「もう少し我慢しろ。もうすぐだ。ほら見えるだろ?」
アロワの指さした先には周囲を高い山に囲まれた盆地の様な土地があった。盆地には木々が生え、建物が立っているのも見える。
「……なるほど、あの土地なら滅多なことがなければ見つからないな。僕も連合国の諜報部一族が隠れ住む里に行ったことがありますが……、似たようなところでした」
「シェルドくん、今言うべき感想はそこではありません! ちょっとアロワさん、何がもうすぐですか!? まだ、山三つは超えないといけないじゃないですか!?」
「うるせえなあ。もう九割は来てるんだ。もうすぐであってるだろ!」
アルカの文句を受け流しつつ、一向は歩みを進める。そして……。
「……久しぶりだな。ここに来るのも……」
集落に到着したアロワが感慨深げに呟く。
「アロワ、帰って来たか……」
ダークエルフの老人が声をかけてきた。アロワは笑顔で返答する。
「じいちゃん! 久しぶりだな! 元気してたか!?」
「相変わらず、女の子っぽくない口調じゃのう。そんなことでは嫁の貰い手がおらんぞ? わしに早くひ孫を見せてほしいというのに……」
「し、仕方ねえだろ!? 魔王なんだから……」
「それにしても久しぶりじゃ。南の魔王国が衰退して以来じゃから……三十年ぶりくらいかのう? すっかり大きくなったもんじゃ……。……お前には苦労をかけるな。我が息子が早死にしたがために……」
「アタイこそ、じいちゃんには苦労かけさせちまってるよ。族長としての仕事を全部任せちまってるからさ……」
アロワは少し顔を俯き加減に傾ける。
「気にするな。それよりもこれを取りに来たんじゃろう?」
老人は装飾の施された木箱を取り出すと蓋を開ける。そこには瑠璃色に輝く矢筒が収められていた。
「これが『アルテミスの矢筒』ですか……。すごく綺麗……」
「綺麗ですが……、矢が一本も入ってないですよ?」
「『アルテミスの矢』は選ばれし勇者が弓と矢筒の両方を手にした時に現れると言われておる。輝く光の矢が現れ、全ての邪気を払うと伝わっておるんじゃ」
シェルドの疑問にアロワの祖父、ダークエルフの族長代理が答える。
「私の杖やシェルドくんの盾と違って、選ばれた者でなくても持つことができるんですね」
「アルテミスは弓と矢筒で一つだからな。アタイが魔王に就任して間もない小さなころ、両方をいっぺんに持とうと試してみたら、凄い熱が出て持っていられなかった。……それよりも……、じいちゃん、なんでアタイが矢筒を取りに来るとわかってたんだ?」
「……昨日、純王国ホワイトの連中が来たのじゃよ。近く、南の魔王が純王国国王ルークと決闘するために矢筒を取りに来るから用意しておけ、と伝えにな……」
「……あいつら、この集落の場所も把握してやがったのか……! ……みんな、何もされてないか!?」
「大丈夫じゃよ。ヤツらは表向きだけじゃが、正式に南の魔王になろうとしておる。その現状において、各部族に手を出すほどバカではない。……逆に言えば、九日後の勝負に敗れればアロワ、お前は本当に南の魔王ではなくなり、ルークが魔王となる。……そうなれば、この国は戦火に巻き込まれることになるじゃろう。アロワ、お前に課せられた使命は重いぞ?」
「わかってるさ……。絶対に負けねえよ。ところでじいちゃん。『ガラスの石板』は今どこに置いてあるんだ?」
「ガラスの石板か。あれは集落の奥にある洞窟に保管しておる。しかし、あんなものを見てどうすると言うんじゃ? ご先祖様たちを悪くいうのもなんじゃが……、あんなよくわからないものを一族の宝として代々受け継いでいること自体、わしは疑問じゃ」
「はは、ちょっと確かめたいことがあってさ……。……おい、赤髪、金髪。……ちょっとついてきてくれるか?」
アロワはアルカとシェルドに声をかけると歩きだした。
「アルカさん、一体なんなんでしょうか。ガラスの石板というのは……」
「さぁ。でも、何か重要なものっぽいですね。行きましょう、シェルドくん!」
アルカとシェルドは小走りでアロワの後を追いかけた。
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