第43話

◇◆◇


「……だから、アタイには姉御に借りがある。北の魔王国と戦争にならずに済ませてくれた恩が……、王とは何たるかを教えてくれた恩がな。アタイはルークを倒しに行く。姉御を助けるためにな。もちろん、純王国ホワイトの好きにさせねえっていう理由もあるが……」


 南の魔王アロワは昔話を終え、アルカとシェルドの元を去ろうとする。


「ま、待って下さい!」とアルカがアロワを呼び止めた。

「今度はなんだよ? まだ聞きたいことがあるのか?」

「……私もあなたと一緒に行きます……!」


 アルカは振り絞るように言葉を口にする。アロワはアルカの口から放たれる思いがけない言葉にぽかんと口を開けるが、すぐに閉めてアルカを睨みつける。


「どういう風の吹きまわしだ? 人間は魔族なんてどうなっても構わないんだろ?」

「たしかに……、そう思っていました。今でもほとんどの魔族は人間の敵だと思っています」

「……なら、姉御を助けに行く必要はねえだろ……?」

「確かめたいんです……」

「あ?」

「師匠は言っていました……。人間と魔族は分りあえるはずだ、と。少し前の私はそんなことはありえないと思っていました。魔族なんて非情で冷血で……悪の権化だと。憎しみの対象ではあっても、慈悲や愛情の対象にはなりえない……。そう思っていました。でも……、師匠と私は分り合えていた……気がするんです。だから、確かめたい。魔族と人間が本当に分り合えるのか……、私自身が命を懸けて師匠を救うことができるのか、を……」

「……ったく。素直に姉御のことが好きだから助けたいって言えばいいのに……。人間が魔族を助けに行くにはそんなに理由付けがいんのかよ。めんどくせぇ」

「んなっ!? あ、当たり前でしょう。私は人間……ましてや伝説の杖に認められた勇者なのですよ!? ほいほいと魔族を助けるわけにはいかないんです!」

「わかった、わかった」とでも言いたげにアロワはため息を吐く。

「……お前はどうするんだ?」とアロワはシェルドの方に視線を移し問いかける。シェルドは握り拳に力を込め、少し俯きながら答えた。

「……僕も……先生を助けに行く! 純王国ホワイトの思い通りにさせるわけにはいかない。奴らが連合国に戦争を仕掛ければ多くの人間が死ぬ。そんなことを許すわけにはいかない。それに……」


 シェルドは顔を上げ、アロワと目を合わせて話し続ける。


「アロワ……君の言うとおりだよ。僕は先生が好きだ。特訓をしていた時も、竜王と闘った時もあの人は僕の成長を心から喜んでくれていた……気がする。そんな良い人をあんな下卑たホワイトエルフに操らせるわけにはいかない……! ……それに君の話を聞いて、そしてこの集落で魔族のこども達と遊んで僕は可能性を見た気がするんだ。先生の言うとおり、魔族と人間は分り合える……そんな未来の可能性を……。その未来の可能性を守るためにもホワイトエルフを倒して先生を助けないといけない!」

「ふん、赤髪の魔女よりはわかりやすい答えだな」

「赤髪の魔女とは私のことですか!?」とアルカが叫ぶ。

「それ以外に誰がいるんだよ?」

「魔女という言い方だとおばあちゃんっぽいです! 魔法使いという言い方に直してください!」

「ぷっ……。あっはは!」

「シェルドくん、どうしたんですか!? 急に笑いだして……」

「すいません……。アルカさんが先生みたいなこと言うから……。先生はいつもジジクサイから言い方変えなさいって言ってたでしょ? 今のアルカさんの魔女を魔法使いって言い直してくださいって下りが先生の言い方に似てたから……つい笑っちゃいました」


 アルカにはシェルドの言葉が、こどもが親の真似をしているようだと指摘を受けたように感じられた。アルカは少し赤面しながらもさらにアロワに意見する。


「そもそも、私の名前はアルカです。今後はアロワも私のことはアルカを呼ぶようにしてください!」

「わかったよ。それじゃあ行こうぜ。姉御を助けにな」


 アロワの言葉にアルカとシェルドは頷いた。


「あ、ちょっと待って下さい!」


 シェルドがアルカとアロワを呼び止める。


「なんですか? シェルドくん」

「こういう時は円陣を組んで、気合を入れるものなんですよ!」


 シェルドは手の甲を上に向けて体の前に出す。


「たしかに、景気づけは必要かもな」


 アロワが掌をシェルドの手の甲の上に置く。


「シェルドくんもたまに脳筋っぽいことを言うんですね……。……でも、これは良い脳筋です!」


 アルカもまた、アロワの手の甲の上に掌を置いた。全員の手が一つになると、シェルドが号令を出す。


「絶対にルークを倒しましょう! 南の魔王国と連合国の平和のために……。そして……先生を助けるために! 行くぞ!」

「おぉ!」


 掛け声とともに、三人は拳を天に掲げる。ここに、一人の魔王を救うために人間の勇者と魔族の王が手を取り合ったのだった。

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