第23話

 リリスたち三人は東の都に戻ると、盛大な歓声を受けた。アルカによる魔法で氷山ができ、三龍の攻撃で爆発が起き、竜王のドラゴンブレスで激しい光が放出された。ドラゴンに街を襲撃された東の都の住人達がリリスたちの戦闘に気付かないわけがない。リリス、アルカ、シェルドの三人の闘いぶりは、東の都に駐在する連合国軍兵士の望遠鏡で覗かれていたのだ。龍王を撃退した三人の話はあっという間に街の住人に行き渡ったのである。


 大勢の住人がリリスたちを一目見ようと押し寄せる……。連合国軍の兵士たちは混乱を押さえようとリリスたち三人を守りながら、シェルドの実家であるガード家まで送りとどけた。


「師匠! 牛魔王のときは断ることになってしまいましたが……、今度こそ勇者として表彰されてもいいですよね?」


 ガード家の邸宅内に入ったアルカは早々にリリスに確認を取る。以前牛魔王を倒した時もアルカとリリスは連合国に勇者として表彰させてほしいと言われていたのだが、魔王であることが万が一にもばれたくないリリスとアルカを目立たせたくないアルカの父親、サイエンの希望により、表彰を辞退したのだ。しかし、アルカはそれを不満に思っていたらしい。この少女、おとなしそうな見た目の割に活発である上に名誉欲もあるようだ……。


「ダメよ! サイエンさんに言われたでしょう? アルカちゃんには目立って欲しくないって……! 目立ったら危険な目に遭うかもしれないからって!」

「ええ……。でも、師匠、私が今回闘いに行くの止めなかったじゃないですか! それは私に十分力があるって判断してくれてるからじゃないんですか?」


「うっ」とリリスは息を吐き、苦い表情で硬直する。確かに危険な目に遭わせている自分が、危険であることを理由にアルカの表彰を辞退させるのは無理がある……。しかし、表彰を受けることになれば、どうしたってリリスにも注目は集まり、連合国中にリリスのことが知れ渡るだろう。そうなれば元魔王であることがバレ、セカンドライフどころではなくなってしまうかもしれない……。それだけは避けたいリリスはアルカの表彰を受けたい気持ちを抑えるため、頭脳をフル回転させ、苦し紛れの言い訳を思いつく……。


「アルカちゃん……。アルカちゃんの故郷からアルカちゃんを連れていくとき、約束したわよね? サイエンさんを心配させないって……」

「え、ええ。それは……」

「なら、やっぱり表彰を受けてはいけないわ……。アルカちゃんが表彰されて、目立ってしまったことがサイエンさんに知れたら、サイエンさんきっと心配してしまうわ……」

「……た、たしかにそうですが……、そしたら私はいつになったら表彰させてもらえるんですか?」

「ア、アルカちゃん……。そ、そんなに表彰されたいの?」


「はい!」と目を輝かせるアルカを見て、自分の都合で表彰を受けさせないことに罪悪感を感じたリリスは条件を出してしまう……。


「アルカちゃんが危険な目に遭うことがなくなったら、表彰を受けても良いわ……」

「危険な目に遭わないって……。そんなの、全ての魔王がいなくなるくらいしか……、方法がないじゃないですか!」

「そのとおりよ! アルカちゃん! あなたが危険な目に遭わないようになるためには全ての魔王が倒されないといけないの……。だから……」


『だから、諦めなさい』とリリスがアルカに言おうとした時、横からシェルドが口を出してきた。


「す、すごい……。すごいです。先生……!」

「え、どうしたのシェルドくん……」


 シェルドは異様な目の輝きを見せていた……。リリスを尊敬する目だ……。シェルドの目を見たリリスはシェルドがなぜそんな目をするのか気になり、質問する。


「アルカさんが表彰されるには全ての魔王が倒されないといけない……。つまり、先生は全ての魔王を倒すおつもりなんですね!」

「えっ……?」


 シェルドの声が屋敷に響き渡る……。ガード家の人間はもちろん、リリスたちの警護と事情聴取のため、ガード家におもむいていた連合国軍兵士の耳にも入ってしまった……。


「す、すばらしい……。牛魔王に続いて、龍王を倒したリリーさんたちなら、確かに可能かもしれない……。全ての魔王を倒し、この世界に真の平和をもたらすことが……!」


 一番早く反応したのはシェルドの兄、イケメンのイルドであった……。リリスはこのままではまずいと思い、否定の言葉を言おうとする……。


「あ、あのイルドさん……、私そんなつもりじゃ……」

「謙遜する必要はありません……! リリーさんなら必ずやり遂げることができますよ……!」


 イルドに両手を握られ、リリスは思わず赤面してしまう……。イルドのイケメンな両眼の視線がリリスに突き刺さる……。リリスは否定の言葉を押さえこまれてしまう……。


「我がガード家も全力でリリーさんを支援しましょう……! それで次はどこに行くのですか?」

「え、ど、どこというのは?」

「次はどこの魔王を倒すのですか!?」

「み、みな……」

「大きな声で言って下さい! そして、我々に勇気を与えて下さい!」

「み、南の魔王です!! アルカちゃん、シェルドくん! 南の魔王を倒しに行くわよ! 付いて来なさい!」


 イルドに手を握られたことにより、テンションが上がったリリスは、感情の昂るままに、南の魔王討伐宣言をしてしまった。ガード家にいた一同は「おおおおおお!」と歓声を上げる…。シェルドはリリスに尊敬の目を向け、他の一同はリリスに希望を託し、笑顔をむけていた……。皆、リリスに好意的な目を向けていた……。ただ一人、苦笑いをしていたアルカを除いて……。

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