第22話

 決着を見届けたアルカはすぐにシェルドに抱きつく……。


「やりましたね! シェルドくん! これで東の都は守られましたよ!」

「は、はい!」


 アルカとシェルドが勝利の喜びを分かち合っている姿を尻目に、リリスは竜王の元に歩みを進める……。


「ったく、柄にもないことしてんじゃないわよ!」


 リリスは弱っている龍王にドラゴン語で声をかける……。


「……なんのことだ?」

「とぼけんじゃないわよ! 東の都に向けて撃ったドラゴンブレスよ。あれ、東の都の方向とは少しずれていた……。シェルドくんを本気にさせるためのハッタリだったんでしょ?」

「……ばれていたか……」

「私をだれだと思ってんのよ……。……少し話しをさせてもらうわよ……。あなた、死に場所を求めてるなんて言ってたわね……。一体何の狙いがあってこんなことをしたのよ……」

「リリスよ……。お前は海を知っているか?」


 龍王から突拍子もない質問が飛んでくる……。リリスは意図が分からない質問に困惑しながらも答えた。


「知ってるわよ! 海くらい! この大陸を囲むようにあるじゃない!」

「……そうか、では海を見たことがあるか?」

「うっ……」


 リリスは言葉に詰まる……。言われてみれば、リリスは海を見たことがない……。


「クク、見たことがないようだな……。実をいうと我も見たことがない……。……これは戦う前に貴様に問うたことと関係するのだ……。リリスよ何故、我らは見たこともない海があると確信しているのだろうか……。不思議だと思わんか……? さらに言えば、我らは、人間と魔族がいがみ合うものだと何故か信じている……。……これから言うのは我の妄想だ……。しかし、今回のこの騒動、信頼する部下と息子達を始めとする親族たちが我の妄想に付き合ってくれたからこそ、起こせたことなのだ……。リリスよ……。この世界は嘘ばかりだ……。悪意か善意かはわからんが……我らは何者かに操られ、嘘を真実と信じ込まされている……」

「……ホントに何を言っているのかいまいちわからないわね……」

「……そうだろうな……。これは我が十万年生きているからこそ、たどり着けたという側面もある……。主観的な意見だからな……」

「そういえば、あなた戦う前に奇妙なこと言ってたわね……。この世界を五千年見続けたとか何とか……、あなた優に十万年は生きているはずでしょ!? どういうことよ……」

「そのままの意味だ……。我には確かに十万年生きた記憶がある……。しかし、実感として覚えているのはこの五千年だけなのだ……」

「はぁ? ホントに何言ってるかわからないんだけど……」

「あくまで、主観の話だ……。理解してくれと言っても無理な話だとわかっている。だが、それでも信じて欲しいのだ。こんな我の妄想に同胞たちは信じて付き合ってくれたのだから……。その同胞に報いるには、同胞以外にも信じてもらうことなのだ……。……最たるものは東の勇者だ……。確かに我は一万年前に先代の東の勇者と闘ったという記憶がある。だが、実感はないのだ……」

「……あなた、凄く恐ろしいことを言ってるんじゃないでしょうね……。あなたが言うことを信じるならこの世界の五千年から前は全て……」

「その判断はリリス貴様に任せる……。フフフ、これも我の直感でしかないのだが……、東西南北、全ての勇者がそろった今、希望の扉は開かれたに違いない……」

「ああ、もう! めんどくさいわね! でも仕方ないからあなたの言う妄想に付き合って上げるわ……! この世界に関わることっぽいみたいだしね……。世界を牛耳る魔王を務めた者として見過ごせないわ。……私は何をすればいいのよ?」

「クク、それはありがたいな……。戦う前に言ったとおりだ……。南の魔王のところに行け……。奴は面白い物を持っていた……。アレはこの世のものではない……。きっと、アレがこの閉塞した世界を救うものに違いない……。これも我の直感だがな……」

「わかったわ……! さて、そろそろあなたに回復魔法をかけなきゃね……」

「その必要はない……」

「はあ? なんでよ! ……あなた、本当に死ぬつもりなの?」

「……妻や息子達には悪いが……、一足先に逝かせてもらおう……。なーに、この闘いの前にすでに別れの挨拶は済ませておる……。さらばだ……。一足先に海を見に行かせてもらう……」


 そう言い残すと、龍王は眠りに就いた……。リリスは最後まで龍王のことが理解できなかった。


「……十万年も生きてたら死にたくなるものなのかしら……。……私は死ぬなんてまっぴらごめんだわ……。百万年だって、一億年だって生きてやるわ……!」


 こうして、東の魔王、龍王との戦いは終わりを告げた……。表向きは新東の勇者の誕生により、東の都は救われ、街は歓喜に沸くだろう。しかし、この世界の真実が残酷で恐ろしいものである可能性を突きつけられたリリスは、多少の不安を覚えるのであった。

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