第21話

◆◇◆


 シェルドはアルカとリリスのことは考えないことにした……。どういうわけか知らないが……、龍王は自分との一騎打ちを所望している……。二人に助けてもらえるとはかぎらない。ましてやシェルドが二人を助けるなど不可能だ……。そのため、シェルドは自分のことだけに集中することにした……。


「……どうやら、ドラゴンの盾は貴様を真の所有者と認めていないようだな……。全く力が感じられん……」


 龍王はがっかりした様子で、物を言う……。


「ドラゴンの盾が真の力を発揮せずとも……僕の実力でお前を倒して見せる……!」

「そうか、ならばやってみよ……!」


 龍王は大きな咆哮を放つ……。余りのプレッシャーにシェルドは足が震えて立ちつくしてしまう……。


「この程度の咆哮に恐れをなすか……。やはり、貴様は勇者ではない……。……動けないようだな……。こちらから行かせてもらうぞ!」


 大の男十人はくだらないであろう体長の龍王は、その巨体に似合わない超スピードでシェルドとの間合いを詰め、腕を振り回し、シェルドに打撃を与える……。


「う、わあああああああああああああ!?」


 龍王の打撃を直に受けたシェルドは吹っ飛ばされ、岩に激突させられる……。


「まったく、手応えがないぞ! それでも東の勇者かぁあああああああああ!?」


 龍王は間髪入れずに、シェルドに攻撃を加え続ける……。身体強化魔法をかけ、防御が上がったシェルドとはいえ、相手は龍王だ……。大きなダメージを負ってしまう……。


「ぐ、あああああああああああああああああ!」


 シェルドは力を振り絞り、龍王に一太刀入れる……が、龍王には傷一つつけられなかった……。


「く、くそ……!」

「なんだ? その蚊が刺した程度の攻撃は……。そんな程度ではこの我を倒すことなど到底できんぞ!」


 龍王は、羽ばたきを起こし、シェルドを吹き飛ばす……。強風に煽られたシェルドは地面に激しく擦りつけられる。


「あ、が……」

「……弱い、弱過ぎる……。貴様が東の勇者だと笑わせるな……! この程度の人間に我は慎重を期していたというのか……。全くもってくだらん……。……どうやら、このまま東の都は我らの手に寄り滅亡する運命のようだな……」


 龍王はわかりやすい挑発の言葉を、シェルドに投げかける……。


「東の都には……、故郷には絶対手を出させない……! うわああああああああああああああああ!」

「ほう、まだ動けたか……! だが、まだ足りんな……。その程度では全く足りんぞ!」


 シェルドの剣戟を指で受け止めた龍王はそのまま、剣を指で挟んだまま、シェルドごと地面に叩きつける……。シェルドは余りの衝撃に口から鮮血を吐きだした……。


「……どうやら、まだドラゴンの盾は発動せぬのだな……。……最終手段だ……。東の都の住人には悪いが……犠牲となってもらおう……。世界のためだ……」


 龍王は大きく息を吸い込み、魔力を込める……。とてつもない魔力を感じ、シェルドは声を振り絞る……。


「な、何をするつもりだ……!?」

「我のドラゴンブレスで、東の都を灰塵に帰そうと思ってな……」

「な、なんだと!? ふざけるな! 僕との決着は……一騎討ちはまだ終わってないぞ……! それなのに東の都に手を出すのは卑怯だ!」

「卑怯? 我は魔王だぞ? 卑怯なこともするさ……。そもそも一騎討ちを挑んだのは貴様が強者だと見込んでいたからだ……。だが、一向にドラゴンの盾の力を発動させることができなさそうなのでな……。ククク、よく物語ではあるではないか、大切なものを失ったとき、逆上して真の力に目覚めるといった展開が……。それを起こしてやろうというのだ……。感謝するがいい……!」

「や、やめろー!!」


 シェルドの嘆願を無視し、龍王は強大なドラゴンブレスを東の都に向かって放出した……。


「ったく、面倒臭いことしてるわねえ!」


 ドラゴンブレスの正面に入り込んだのは、煤で汚れた真っ黒のワンピースに身を包んだリリスであった……。リリスは魔力で造った防御壁でドラゴンブレスを押さえる……。


「たくっ! 不味いわね……。あの三龍どもに使った魔力が多過ぎたわ……。このドラゴンブレスを防ぎきるのは無理そうね……。っていうか、普通に本気じゃない! ホントに殺されるつもりがあるのかしら? ……シェルドくん! あなたが前に出なさい!」

「ぼ、僕ですか!? でも僕には……私には皆を守る力なんて……」

「何情けないこと言ってんの! その盾は飾りなの? 心配要らないわ! ドラゴンの盾の真の能力……それはドラゴンの攻撃を格段に弱めること! 自信を持ちなさい! あなたは栄えある私のレッスン受講者第二号なのよ……! この1ヶ月で見違える程あなたは強くなった! 盾は応えてくれるはずよ!」

「そうです!」

「ア、アルカさん!?」

「シェルドくんは東の勇者で、私の妹弟子なんです! 必ずできます! 信じてますよ!」


 気絶から復活したアルカはリリスとともにドラゴンブレスの正面に入り込み、リリスに魔力を供給する……。


「アルカちゃん、魔力ほとんど残ってないでしょ! 無理しちゃダメよ……。あっ! これに片が付いたら後でお説教よ! あんな、魔力を無駄遣いするような闘いして……。反省しなさい!」

「すいません! でも、師匠それは今言うことなんですか!?」


 シェルドは絶体絶命の中、余裕の表情を見せるリリスとアルカが信じられなかった……。だが、もう迷いはない。東の勇者として、立ち向かわなくてはならない……。たとえ、ドラゴンの盾が発動することなく、その身が失われることになろうとも……。


「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 シェルドはリリスとアルカを守るように立ち、ドラゴンブレスに対して盾を構えた。すると、盾が光だし、ドラゴンブレスをかき消していく……。


「こ、これは……」


シェルドは驚嘆の声を上げる……。ドラゴンブレスをかき消しているだけではない……。盾から自身の体に力が流れ込んでいるのをシェルドは感じ取る……。シェルドの体は緑色の温かな光に包まれていた……。


「盾があなたを正式な所有者と……勇者として認めたのよ! シェルドくん、よくやったわ!」


 次第に龍王が吐くドラゴンブレスの量は少なくなり、放出が完全に停止された……。龍王は、シェルドの変化に気付き、口元を歪める……。


「ドラゴンの盾に認められ、真の勇者になったか……。かかって来い……! 勇者の力、どの程度のものか、この龍王が確かめてやろう……!」

「私は……絶対に東の都を守り抜いてみせる……! はああああああ!」


 シェルドは龍王の頭めがけて切りかかる……。今まで見せたことのないようなスピードで……。龍王は咄嗟に腕でガードする……。


「……速いな……! これがドラゴンの盾に選ばれた勇者の真の力か……。……面白い……!」


 龍王はリリスに視線を向ける……。手を出すなというアイコンタクトだ……。リリスはその願いを聞き入れることにした……。シェルドは超スピードで、龍王に切りかかり続ける……。剣に寄る斬撃など全く通っていなかったはずの龍王の体に傷が付き始める……。


「ぬうううううう! 良い、良いぞ! この我と魔法ではなく、身体ひとつで戦う人間は貴様が初めてだ……。ぬおおおおおおおおおおおおおお!」


 龍王は羽根で強風を造り出し、シェルドと距離を置く……。


「感謝するぞ……。シェルド……。貴様と……東の勇者と闘うことで、我は確信を持った……。一万年前、我が東の勇者と闘った記憶……それが偽物であるということがな……。さあ、存分にやりあおうぞ! 最初で最後の東の魔王と勇者の決闘を……!」


 龍王もまた、超スピードでシェルドに襲いかかる……。シェルドと龍王は剣と爪をぶつけ合い、闘い続ける……。あまりのスピードにアルカは目が追い付かなかった。リリスは目こそ追い付いていたが、闘いに参加できるかと問われれば、わからないと答えただろう……。少なくとも魔法なしで勝負するのは難しいとリリスは判断した……。つまり、この時点を持って、シェルドは身体能力で先生のリリスを……超えている。長いのか短いのか時間感覚がマヒしていく中、徐徐に両者のスピードは落ちていく……。決着は近い……。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 最後の一撃、決着を知らせる最後の一太刀はシェルドのものだった……。龍王の腹部に巨大な切創が刻まれる……。


「フ、フフフ。見事だったぞ? 東の勇者シェルドよ……」


 龍王の巨体は音を立てて地面に堕ちた……。

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