第20話

◆◇◆


 リリスは竜王アトルの息子たち『三龍』と闘いを繰り広げていた……。さすがに龍王の息子とあり、身体能力に優れているようだ。さすがのリリスも体術だけでは倒せそうにない……。


「このままじゃ、厳しそうね……。そろそろ、魔法を使わせてもらおうかしら……」とリリスが心中で考えていると、急に冷気がリリスと三龍を襲う……。三龍とリリスは、一旦戦闘を中断し、冷気の発生源の方に振り向いて確認する……。そこには氷漬けになったドラゴン数百体と力尽きて倒れたアルカの姿があった……。


「……信じられん……。あれほどの氷山を人間が造り出したというのか……。さすがは北の勇者といったところか……。だが、想定の範囲内……いや、想定以上だ……。下級兵たちだけで北の勇者を戦闘不能に陥らせることができたのだからな……。よくやってくれたぞ。我が同胞よ!」


 三龍の長兄ケツァルは、下級ドラゴンたちに称賛の言葉をかける。一方リリスはというとアルカの闘いぶりに文句を垂れていた。


「あの、お馬鹿! 感情に任せて魔力を注ぎ込んじゃったんだわ……。アルカちゃんの実力なら、気絶するまで魔力を込めなくても十分にあの程度の奴ら倒し切れたはずなのに……! ……この闘いが終わったら、お説教タイムね!」


 アルカたちの闘いの状況を確認し終えたケツァルとリリスは再び対峙する。


「……それでは闘いを再開しようか、元西の魔王よ……」

「……そうね……。覚悟しなさい。ここからは私も魔法を使わせてもらう……」

「貴様お得意の魔法か……。ならば我々も本気を出させてもらう……!」

「本気? 今までは本気じゃなかったの?」

「ああ……。覚悟するがいい! 我々の本気は貴様の実力さえも凌駕するだろう……!」

「……堅物のあなたたち、ドラゴンが冗談を言うなんてね……。私を超えるなんて無理に決まってるでしょ!」

「……精々、今の内に余裕を見せておくが良い……」

「ギイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアア!」


 三龍たちはそれぞれに雄叫びを上げる……と同時に、各々の体に変化が生じていく……。茶色だった三龍たちの体色が別の色に変化していく……。長兄は燃えるような赤色に、そのほかの二人はそれぞれ、黄色と青色に体色が変化した……。


「ただ、体の色が変化した……わけではなさそうね……」

「いかにも……。覚悟しろ。今までとはわけが違うぞ!」


 長兄ケツァルは大きく息を吸い込むと、火炎を吐きだす……。アルカのリリース・ファイアをも上回りかねない火力だ……。リリスは咄嗟に水の盾「プロテクション・ウォーター」を張る……。


「ううううううううううああああああああああああ!」


 リリスは珍しく気合を入れる……。それだけ、ケツァルの炎が強力だったのだ……。


「……この程度なら問題ないわ……」

「……そうか、ならばこれならどうだ……!」


 続いて青色に体色が変化した龍が大量の水を棒状の超高圧で口から放出する……。


「くっ!? 面倒臭いわねえ……」


 リリスは水をかわすと、青色の龍の腹の下に潜り込み、蹴りあげる……。青龍は「ぐう……」と呻き声をあげて膝をつく……。


「技を出すのに集中しすぎね……」


 リリスが青龍に忠告する。しかし、三龍の攻撃は中断されない……。


「戦闘中に敵にアドバイスとは随分、余裕があるのだな……。次は私だ……」


 黄色の龍がバチバチと体から稲妻を走らせている……。


「赤が炎、青が水、黄色は雷ってとこかしら? わかりやすいわね……」

「いかにも……。我がイカズチを喰らうが良い!」


 黄龍は、口から雷を吐きだす。強力な電撃がリリスに直撃する……。


「やったぞ……! 直撃だ……! さすがのリリスも無事では……。……ば、馬鹿な……!」


 黄龍の攻撃が当たったことに喜んでいた三体の龍だが、ぬか喜びに終わってしまう……。


「無傷……だと? 我の雷をもろに受けたはずなのに……」

「あなたもしかして末っ子さん? 他のふたりよりも明らかに威力が弱かったわよ……。その程度じゃ、私には効かないわ!」

「……さすがは元魔王……。我らの個の力では及ばぬか……」

「さ、負けを認めるなら今の内よ。痛い目には会いたくないでしょう?」

「フフフ、安っぽい悪役のような台詞を吐くのだな……」

「悪役で結構! 私は元魔王だもの……」


 リリスは余裕の笑みを浮かべて微笑む……。だが、三龍は、まだ負けを認めるつもりはないようだ。


「……リリスよ……。三矢の教えという言葉を知っているか?」


 長兄ケツァルがリリスに問いかける……。リリスは少し考えたが、聞いたことがなかったため、聞きかえす。


「三矢の教え? なによそれ……」

「東の果ての島国に伝わっていると聞く教えだ……。一本の矢ならば折ることは容易い……。しかし、それが三本になれば、折ることは難しくなる……。協力することの大切さをうたっているわけだ……。……個では貴様に勝てぬが……我ら兄弟がひとつとなれば、貴様程度どうということはない……。我らの本領を見せてやる……!」


 三龍はフォーメーションを組む……。赤龍の長兄ケツァルを先頭に縦に一列に並ぶ……。ケツァル以外の二体はケツァルの体が作りだした死角の中に入り、姿が見えなくなる……。


「行くぞ! リリス!」


 リリスに向かって三龍は同時に突進してくる……。先頭のケツァルが腕の爪でひっかきにくるが、リリスはこれを受け止めるが、赤龍の死角から青色の腕が一本飛び出してきた……。


「くっ!?」


 リリスは青龍のパンチを受け、宙に浮く……。空中で体勢を取り直し、視線を地面に向ける……そこにいるのは赤龍と青龍の二体だけだ……。黄龍が見当たらない……。


「こっちだ……!」


 リリスは声とともに、背中の死角から黄龍の羽根による強力な打撃を浴びてしまい、地面に激突する……。リリスは思いがけず、大きなダメージを受けることになってしまった……。ふらつきながら立ちあがる……。


「完全に不意を付いた連撃を浴びせたというのに、立ちあがるか……。さすがは元魔王だな……」

「どうも」とリリスは挨拶をする……。

「だが、ダメージを受けなかったわけではないようだな……。この好機、逃さぬ手はない……。悪いが止めを刺させてもらうぞ?」


 話し終わると、赤龍は、青龍と黄龍に合図を出し、三匹はリリスを中心に置くように三方に散る……。


「……何をするつもり……?」

「言っただろう? 貴様に我らの本領を見せてやると。三体が力を合わせることにより、貴様をも超える力を得ることに成功したのだ……。その身に味わうが良い! 我ら兄弟の究極の攻撃を……!」


 青龍が口から水を吐く……。しかし、高圧ではない……。攻撃をすることが目的ではないようだ……。リリスは取りあえず避けるが……、行動の意図がわからず困惑してしまう……。リリスの周辺には水によって大きな水たまりができていた……。リリスはハッと気付き、黄龍の方に視線を向けた。黄龍は水たまりに向かって電撃を流そうとしている……。


「それが狙いか……。しょうもないわね……」


 リリスは黄龍が電撃を放つタイミングに合わせて高く飛び上がる……。水たまりから流れる電流による感電を回避したのだ……。


「たく、何が究極の攻撃よ。水に電気を流しただけじゃない……!」

「フフフフ……」


 リリスの言葉を聞き、赤龍ケツァルが笑いだす……。馬鹿にしたような笑いにリリスは腹を立て、軽く癇癪を起こす……。


「何笑ってんのよ!」

「……勘違いされていると思ってな……。我らの究極の攻撃はまだ始まっていない……」

「何ですって?」


 リリスはケツァルの言葉を聞き、周囲を見渡す……。良く見ると、電撃が流れた水たまりのあちこちから気泡が立っている……。


「……なによこれ……」

「元魔王よ、知っていたか? 水に電気を流すと……燃える空気が発生するということを……!」

「……何ですって?」

「どうやらご存知ではなかったようだな……。少し学問に通じていれば、知識として得るものだが……、幼少の頃から肉体戦を生業としていたそなたが知らぬのも無理はない……。喰らえ! これが我ら兄弟の最大攻撃……、誰ひとりが欠けても繰り出すことのできない奥義だ……」


 ケツァルは火種というには余りに大きい火球をリリスに向かって放つ……。発生した燃える空気……水素は着火され、大爆発を起こした……。余りの高熱にキノコ雲が発生する……。リリスはまともに爆炎を喰らってしまう……。


 次第に煙が晴れていく……。そこにリリスの姿はない……。その光景を見た三龍は勝利の雄叫びを上げる……。


「我らの勝利だ……! リリスは……元西の魔王は完全に焼失した……!」


 三体が円陣を組み、喜びを分かち合っていると、体に異変が生じる……。


「な、なんだ? 急に体が重く……。……っく!?」


 三体は重くなった自分の体に耐えきれず、地面に磔の状態にされる……。


「こ、これは重力増加の魔法か!? ま、まさか……」


 ケツァルは押しつぶされながらも、上空を見上げる……。そこには、真っ白のワンピースが煤で真っ黒になってしまった女魔王……リリスが君臨していた……。


「ば、馬鹿な……あの爆発を受けてなお、無傷だと……!? そ、それに空を飛んで……!?」

「まったく、久しぶりよ、私の衣服に汚れを付けた奴らは……。このワンピースお気に入りなの……。クリーニング代は高く付くわよ? 後、私は魔法使いなのよ? 空ぐらい飛べるに決まってるでしょ!」

「そ、そんな……。がああああああ!?」


 三龍は皆、体が動かせずに苦しんでいる……。煤で汚れた黒いワンピースの女は彼らにとって、悪魔以外の何者でもなかった……。


「はあああああああああああああああ!」


 リリスが気合を入れると、重力魔法がさらに強力になる……。重力魔法の効果範囲の地面はどんどん沈み込んでいき穴となる……。ついには穴の底が見えなくなってしまった……。魔法を解除したリリスは穴の底に向かって呟く。


「……殺しはしないわ……。協定は守らなきゃいけないから……。でもしばらく気絶はしてもらうわよ……。……三矢がなんちゃらと言ってたわね……。確かに良い教訓だわ。でもそれは一流対一流の時の話よ。三龍が集まったところで……、所詮は三流だったということよ……!」


 若く見られたいといつも言っている者とは思えない親父ギャグを一発かましたリリスはアルカとシェルドの様子を確認する。アルカは相変わらず気絶したままのようだ……。そして、シェルドと竜王の一騎打ちは、今まさに決着がつこうとしていた……。

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