第19話
龍王との会話を終え、リリスはシェルドとアルカの方に顔を向ける……。
「し、師匠! このドラゴンさん、えらくテンションが高そうですが……何を話してたんですか!? 私達にはさっぱり理解できなかったんですが……」
「……このドラゴンは……東の魔王アトルは、私とシェルドくんとアルカちゃんを殺しに来たそうよ……。構えなさい! 戦闘が始まるわよ!」
龍王は大きく息を吸い込んだかと思うと、巨大な火の玉を吐き出してきた。三人は散り散りにジャンプして避ける……。
「貴様の相手はオレたちだ……!」
リリスの前に、龍王の息子たち三体が立ちはだかる……。
「……あなた達に私の相手が務まるかしら……」
「舐めるな! 今日、この日のため、オレたち三体は五百年もの間、鍛錬を積んだのだ……。貴様程度に引けはとらん!」
「貴様程度……ね。大きくでたわね……。それじゃあ、見せてあげるわ。鍛錬なんか何の意味もないと感じてしまうほどの圧倒的な力の差って奴を……。西の魔王の力って奴を……ね」
三龍はリリスの迫力に気圧される……。その頃、シェルドは龍王と一対一で対峙していた……。
「初めましてだな……。東の勇者シェルドよ……。……東の勇者である貴様を生かしておくわけにはいかん……。悪いが死んでもらうぞ?」
「……僕も、街を襲う貴様を許すわけにはいかない……」
シェルドは剣を構え、転移魔法で召喚したドラゴンの盾を左手に持つ……。
「一万年前……、前任の東の勇者が我を追い払う時に使った伝説の『ドラゴンの盾』、か……。フフフ、やはり、見覚えがない……」
「見覚えがない……? 年を取り耄碌したか……。だが、僕は容赦しない……。覚悟しろ……!」
「威勢だけは一人前だな……。……精々、我を楽しませよ!」
龍王アルトは天を仰ぎみて咆哮を放つ……。ここに、リリスたち三人と東の魔王軍との闘いの火ぶたが切って落とされたのだ……。
◆◇◆
リリスとシェルドがそれぞれ対峙している中、アルカは下級兵と思われるドラゴン数百体を相手に戦っていた……。
「ちょ、ちょっと! なんで私だけこんなに多勢に無勢なんですか!?」
アルカは数百体のドラゴンたちに向かって叫ぶが返事は帰って来ない……。どうやら、下級兵のほとんどは共通語を喋れないらしい……。ギャアギャアと鳴き声を上げながらアルカに襲いかかる……。
「ず、ずるいですよ! 大きさに差があるとはいえ……、師匠は三匹、シェルドくんは一匹としか戦ってないじゃないですか! あなたたちも、一匹ずつ戦うべきです! せめて5匹ずつくらいにしてください!」
アルカはドラゴン達に手を抜くように交渉するが……、当然無視された……。アルカはドラゴン達の鋭い爪と牙から繰り出されるひっかきやかみつきの攻撃を避け続ける……。
「リリース・ファイア!」
アルカは火球を放つが、空を自由に飛び回るドラゴン達にはなかなか当たらない……。
「ギイアアアアアアアア!」
一匹のドラゴンがアルカに噛みついてきた……! アルカは杖をドラゴンに噛ませて防御する……。さすがはヨルムンガンドの杖。ドラゴンに噛まれても傷一つ付いていない……。
「魔法使いとしては不本意ですが……、これでぶっ飛ばします……!」
アルカは握り拳を造り、ドラゴンの腹に向けて繰り出す……。身体強化をしたアルカの拳の衝撃に耐えられなかったのだろう。噛みついていたドラゴンは、吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられ、動きを止める……。気絶したようだ……。
「……どうですか! 私の力は!」
アルカは小さな決め台詞を吐くが、そんなことは関係ないと言わんばかりに、次々と、ドラゴンが襲いかかってくる……。アルカは身体能力強化魔法を駆使して、一体ずつ殴り倒していく……が、余りの数の多さに疲労が溜まっていった……。少しずつだが、下級ドラゴン達の攻撃があるかに当たり始める……。一匹のドラゴンのひっかきがアルカに当たった……。
「いたっ! ……」
続いて……別のドラゴンから腕を噛みつかれる……。
「いたっ! …………」
身体強化魔法を使っているので、重傷に到ることはない……。かすり傷程度のダメージしかアルカは受けなかった……。しかし、チクチクとした痛みを何度も与えられるため、アルカには徐々に苛々が溜まっていく……。
そんな中、一匹のドラゴンがアルカに向けて小さな火球を吐く……。見事、アルカの頭部に直撃した……。
「あっつ!? ………………ああああああああ! ファイア・ウォール!」
アルカのストレスが限界に達する……。アルカは火柱の壁を造り出し、周辺にいたドラゴン数十体にやけどを負わせた……。アルカは残った数百匹のドラゴンに向かって笑顔を向ける……。しかし、その瞳はまったく笑っていなかった……。アルカの怒りの感情に触れ、ドラゴン達は一瞬たじろぐ……。
「……あなた達が悪いんですよ? 私は平和主義者なのに……、話を聞いてくれないから……。チクチクチクチク、痛い攻撃してきて……。大体師匠も私の頭をはたき過ぎです……。シェルドくんには全く頭はたいたりしないのに……、不公平です……。差別です……。切れちゃいました」
後半はドラゴン達にすれば、全くいわれのないことなのだが……、アルカはヨルムンガンドの杖に、苛々を……全魔力を注ぎ込む……。膨大な魔力を受け、杖は思わず見とれてしまいそうな水色の淡い光を放出し始めた。
「……確か、ドラゴンさんは寒さに強いそうですね……。氷漬けになっても死なないんですよね? まとめて凍らせて差し上げますよ! あはははは!」
苛々が頂点に達したアルカは変なテンションになっていた。ちなみにドラゴンは寒さに強いが、氷漬けにされて痛くないわけではない……。下級ドラゴン達は異常な魔力を感じ、アルカから距離を取ろうとしたが……、もう遅かった……。
「はあああああああああああ! 『プロダクト・アイス・ベルグ』!」
アルカを中心に巨大な氷塊が出来あがる……。下級ドラゴン達は氷塊に飲み込まれ、氷漬けにされていく……。最後の一匹が氷漬けにされたのを確認して、アルカは息切れをしながら笑う……。
「ふふふふふふ……。スッキリしました……」
アルカは言い終わると魔力を使いきってしまったのだろう、前のめりに倒れ、気絶してしまった……。
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