第15話

「さて、それじゃ、身体強化の魔法も覚えたことだし……。シェルドくん、特訓の続きを始めるわよ!」


 リリスはシェルドに向かって、訓練再開を促す。しかし、アルカが疑問を口にした。


「え? 師匠……。なんで特訓をするんですか? 身体強化の魔法を覚えたならもう、特訓する必要なんてないんじゃないんですか?」

「なーに言ってるのよ、アルカちゃん! シェルドくんは身体強化ができるようになっただけ……。使いこなせるようになったわけじゃないのよ?」

「でも……」

「納得できない? じゃ、試しに一戦やってみたらわかるわ……。シェルドくん、良いわよね」


 リリスはシェルドに一戦交えるよう要求する。シェルドもこれに答え、模擬刀を構える。


「さ、いつでもいいわよ。かかってきなさい……」

「わかりました! 遠慮なく行かせてもらいます……! はあああ!」


 シェルドは早速、覚えたばかりの身体強化の魔法を行使して、リリスに斬りかかる……。リリスは軽やかにシェルドの剣戟をかわす……。


「まだまだあ!」


 シェルドは空振りを恐れず、リリスに猛攻を続ける……。しかし、リリスに当たる気配はまったくない……。


「それなら、もっと速く……。っく!?」


 シェルドは突然うずくまり、動きを止めてしまう……。


「魔力切れ……ね」


 リリスはシェルドに敗因を告げた……。シェルドは息切れを起こしている。


「魔力切れ……? こんなすぐに……?」

「アルカちゃん……、ヨルムンガンドの杖に選ばれたあなたと、シェルドくんを一緒にしたらいけないわよ。……シェルドくん、あなたは魔力量がどうしても魔法使いよりも少ない……。だからこそ特訓しなきゃね……!」

「……魔力量を増やす特訓ですか……?」


 シェルドはリリスに問う……。しかし、リリスは笑いながら否定する……。


「いいえ、違うわ……。あなたがやらなきゃいけない特訓は、効率良く魔法を使うことよ!」

「効率良く?」

「そ、あなたは魔法使いじゃないから、魔力量が少ない。だから魔力を最小限に抑えながら闘う必要がある。雑魚が相手なら全く使わないとか、体の一部分だけを強化するとかね。身体強化の魔法は道具……。道具を使いこなすにはかしこい扱い方を覚えることが大切なのよ! あなたが身体強化の魔法を使いこなせるようになるまでたっぷりしごいてあげるわ! 覚悟しなさい!」

「はい! ありがとうございます!」とシェルドが答えると、特訓が再開される……。特訓は夕方にまで及んだ。


「今日のレッスンはこれで終わり! よく頑張ったわね!」

「は、はい! 先生、ありがとうございました!」


 特訓が終わってすぐ、リリスに話しかける一人の男の姿があった。


「弟がお世話になりました……。リリーさん」


 シェルドの兄、イルドである。イルドはリリスに話しかける……。


「い、いえ、お世話だなんて……。私はただ戦ってあげてるだけです……。そ、それにもうシェルドくんが女の子なのはわかってます。口外はしないので安心して下さい……」

「お気づきでしたか……。……私とシェルドの両親はシェルドが幼い時に亡くなっているのです。シェルドには私のふがいなさから苦労をかけていたのですが、まさか、ドラゴンの盾に選ばれるとは……。彼女は苦労に追いかけられる運命のようです。リリーさん、シェルドをよろしく頼みます。苦労に負けない人間に育ててあげてほしい……」

「び、微力ですが、お手伝いさせていただきますわ……」

 

 リリスはイルドのイケメン具合に緊張しながらも、シェルドの成長を手助けすることを約束したのだった。

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