第8話

 中年の男が魔道具店の中にいたリリスたちに勧告する。男は言い終わるとすぐに魔道具店から走り去って行った……。


「ついに、この街にも来おったか……」


 店主の老魔女が小さく呟く……。


「おばあちゃん! なにか知ってるの?」とアルカが聞く。

「なんじゃ。お主ら知らぬのか? ここ最近、北の魔王国の魔族が村や街を襲うようになったのじゃ……。つい先日も北の村が襲われた……。わずかな生き残りを残して壊滅じゃ……。死んだ者たちはみな、頭部だけがなくなっておったらしい……」


 リリスはその話を聞き、ぴくぴくっと眉を動かす……。


「その話は確かなの? 店主さん……」

「ん? ああ。どうしたんじゃ、美人さん? 偉く怖い顔をして……」

「いえ、突然襲って来た魔族に怒りを覚えただけよ……。ところで店主さん、杖なんか持ってどこに行くのかしら?」

「決まっておろう。わしはこの街に一人しかいない魔法使いじゃからな……。連合国の兵士に守ってもらおうと思ってもあてが外れる。わしが戦わなくてはな……」

「その一戦、私も参加させてもらっていいかしら?」

「……無論、かまわんよ」

「師匠! 私も……」

「アルカちゃん……! あなたはここでサイエンさんを守りなさい!」


 アルカは一緒に戦いたい思いを抑え込み、「わかりました」と答える。リリスと店主の老魔女は魔道具店を飛び出していく。アルカはその後姿を見送った……。


「店主さん、名前を教えてもらってもよろしいかしら?」


 リリスと店主は悲鳴のする方へ走る……。


「わしの名前はルギ……。お主は?」

「私はリリーよ!」

「リリーか。お主、同胞と戦ってもよいのか?」

「あら、なんのことかしら?」

「……客のことは詮索せんのがわしの決めごとじゃが……、破ることにしよう。お主、魔族じゃろ? 感じる魔力の質が人間と異なるからのう……」

「あらら、ばれてたのね……。まあ、安心してちょうだい。私に人間を嬲る趣味はないから!」

「ひひひ、そうかい。とりあえずは味方は多い方が良いからのう。信じてやるわい」

「あと、同胞という言葉も撤回していただけるかしら? 約束を守れない蛮族なんかと一緒にされたら堪らないから!」


 そんな掛け合いをしながら悲鳴のする方へ移動していると、アンデッド系の魔物が少年を襲っているのを二人は見つける。


「ホーリー・ライト!」


 ルギはアンデットに対して聖なる光を放射する。光を受けたアンデッドはボロボロと崩壊し、塵芥となって消滅した。しかし、襲われているのは少年だけではない。そこかしこでアンデッドが発生し、住人たちを襲っている……。ルギとリリスは片っぱしから倒していく……。


「なんて数じゃ! キリがない!」

「おそらく、このアンデッドを使役している魔族がいるわ! そいつを倒さないといけないわね!」

「うむ! リリーよ。お主、探知の魔法を持っておるか?」

「残念ながら持ってないわ! 私は攻撃専門なの!」

「ならば、アンデッドの相手を頼む……。わしが探知する……!」


 ルギは探知魔法を発動させる……。ルギの足元に円の魔法陣が展開される……。魔法陣は次第に巨大になり、街全体を包含する……。


「こんな巨大な魔法陣を作れるなんて……。やるわね……!」


 リリスはアンデッドの相手をしながらルギの探知範囲に舌を巻く……。


「見つけたわい……! リリー! そこの肉屋の中じゃ!」

「店の中には敵以外いないのかしら?」

「ああ!」

「なら、手っ取り早いわね……!」


 リリスは肉屋に向かって手をかざす……。


「クラッシュ!」


 リリスが魔法名を叫ぶと、肉屋が押しつぶれる……。リリスは重力を増加させる魔法を放ったのだ……。建物は跡形もなく崩壊する。崩壊と同時にアンデットたちは動きを止め、粉微塵になって消滅していく。術者が絶命した証拠であった。


「どうやら片付いたみたいね」


 リリスは得意そうな笑みを浮かべる……。


「……魔力が大量に必要な重力魔法……。お主、やはり只の魔族ではないな?」

「まあね!」とルギの質問にリリスは答えた……。

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