第8話 契約上の禁止

喫茶店に入り、僕と米倉さんは広めの四人がけの席にゆったりと向かい合って座る。

「実は1年前は言えなかったのですけれども、あのタイムマシンを壊せない理由があったのです。あの時はあまりにも恐ろしくて言えなかったのですけれども。それはこんな内容の手紙が届いたことが理由です。」


彼女は手帳を取り出すとメモを書く。

おそらく、あまりに恐ろしい内容のため、口に出して聞かれたくないのだろう。


(タイムマシンの使用権を彼は買いました。私は連帯保証人として契約書にサインしました。そのため多額の借金を抱えることになったのですが、契約書を見てなかった私は見落としていたのですが、そこにはタイムマシンを損壊した時は理由のいかんを問わず、無制限の損害賠償責任を契約者が負うとありました。)


彼とは彼女のタイムマシンに乗って亡くなった彼氏のことだろう。


(あのタイムマシンを作っている会社があります。その会社から不気味な手紙が届くのです。弊社の製品をご利用いただき有難うございます。製品は問題なく使えておりますか? 万が一にも製品を損壊することのないように強くお願いいたします。)


「櫻井さんは、どう思います。壊してしまって大丈夫でしょうか?甘えるようで申し訳ないのですが、櫻井さんなら多少の損害賠償なら払えるのかもしれないですね。……すいません。なんて厚かましいことを。」


僕は考え込むと

「おそらくこんなファンタジックな契約書、裁判になっても誰も相手にしないんじゃないかな?不当契約だと思うから気にしなくて良かったと思うよ。」


しかし、気になるのは実際に人が死んでいることだ。


「でも、壊すのはやめておいた方がいいかもしれない。これだけ壊されるのを相手が嫌がっているんだ、何かあると考えることもできるし……。もう少し情報を集めて、考えてみるよ。僕のことは心配しないで。腕の立つ信頼できるボディーガードが僕にはついているから。」


立山は親友で正確には殺し屋だから、彼女が多分考える雇うタイプのボディーガードとはちょっと違うかもしれないけど。彼女を安心させるには今はこう言った方がいいだろう。僕は立山がたとえどんな悪人でも信頼できるが、彼女にとってはそうではないだろうし。もちろん立山は悪人ではないと僕は信じている。きっと殺し屋といっても悪人を殺す方のだ、と僕は勝手に決めつけていた。



別れるとき、今度は僕は米倉響子の連絡先をもらうのを忘れなかった。

僕と彼女はまた近いうちに会うことを約束して、その場を別れた。







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