第7話 突然の訪問
「彼女の名前は米倉響子って言うんだ。」
「住所はわかっているな?連絡先は?」
タイムマシンの売買契約書には住所だけが書いてある。今となってはそれが頼りだ引っ越ししてなければいいが。米倉響子の住所は割と都心にあるマンションの一室だった。しかし、電話番号は聞いてない。
「全く、1億円の取引だろ?気になる女性なんだろ?そこは携帯電話番号ぐらい聞いておけよ?普通聞いていいんだぜ?まぁ、気になっていたから意識しすぎで聞けなかったってことだな。青春だねぇ。」
立山は仕方ない最後の手段だな、小声でいい。
「直接ピンポンしてこい。」
とそれがなんでもないことのように言った。
「ある意味それはストーカーチックじゃないのか?」
「バカだなぁ、一週間後まで時間もないんだぜ?それしかないだろ」
結局のところデートの計画は、全部計画倒れだ。連絡手段がない以上、彼女の近所の喫茶店で話す以外なさそうだ。それにいきなり訪問してラブラブのデートを彼女がしてくれるとはあまり思えなかった。
「正直なところ、情報収集も兼ねているよ。お前の恋の応援だが……。」
時間もない。その日の夕方に彼女のマンションの一室の前で俺はピンポンを押そうとしている。
とその時だった。後ろから米倉さんが現れたのだ。彼女は丁度帰宅したところだったようだ。
「櫻井さん?櫻井さんですね。……よかった。生きていてくれたんだ。あの時は本当にお世話になりました。あの時の1億円がなかったら、私……借金を返せてなかったと思います。」
今は頼れるお兄さんの立山は隣にいないから、なんとか僕一人でしないと行けなかったけど、話してもらえそうでひとまず安心する。
「米倉さん、その連絡先をいただくのを忘れて、こんな形で直接きてしまったことをお詫びします。今日来たのは純粋に米倉さんに会いたかったからです。こんな場所ではなんですから、駅の喫茶店でお話ししませんか?ともあれお元気そうで嬉しいです。」
僕はおずおずしながら非礼を詫び、会えた喜びを伝える。
「櫻井さん。私、ずっとずっと、あなたを私が殺したも同然だと思って、良心のかしゃくに悩んでました。あのタイムマシンは今も持っているのですか?それとも誰かに売ってしまいましたか?本当は壊してしまえたら良かったんですけど。私にはその勇気はなかった。」
おそらく、すまないと言う気持ちがそうさせるのだろう。うつむきがちな米倉の目は潤んでいた。
「大丈夫です。僕が死ぬわけないじゃないですか。安心してください。米倉さん。……タイムマシンは絶対に壊さないでほしいと米倉さんがおっしゃるので、タイムマシンはそのままですよ?それとも、僕の手で処分した方がやはり良かったのでしょうか?私にできることならなんでもおっしゃってください。」
そう言って僕が手を米倉さんに差し伸べると、彼女はそっと手を重ねるのであった。
こうして僕たちは手を取り合い、駅の喫茶店の方に向かって二人で歩いた。
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