第4話 仕事はじめ
僕が急ぎたかったこと。それは株式相場がそろそろ始まるから、その様子の確認である。株式相場が大きく動くのは多くは朝の初動である。資産を倍にするという大きな目標を立てている以上、一日のロスは大きい。今日もしっかり仕事をしなくてはならない。と言ってもずっとノートPCの前に張り付いている必要は僕の場合はない。僕の取引のスタイルはスイングトレードと言いデイトレードより投資の期間を長くとるスタイルだ。多くは数日で決着をつける。長くて数週間というところか。なので常にPCの前に座り、忙しく一日に何回も取引し、一円を抜くというようなことはしない。したがって、朝、いくつか指値で入札した後は相場をそんなに細かくチェックすることはない。
カチカチといくつかPCを操作して今日の仕事はほぼ終了である。まぁ、ほとんどは情報を集めることが投資家の本来の仕事ではあるのだが。
「立山待たせたな。と言っても10分ぐらいか、ではきちんと説明させてもらおう」
僕はノートPCをしまうと立山の方に向く。
「ずいぶん楽そうな仕事だな。そんなんで資産が倍になるとは信じられない。なるんだろうが……。」
立山は軽口を叩く。
「そんなに楽でないよってお前はいうかもしれんが、どう見ても楽に見えるな」
「楽だよ。慣れるまでは大変だったが。この仕事は何より精神をやられるんだ。そして精神をやられたら試合終了。そういう仕事なんだ。何しろ億単位の金が一日に失われたり、入ったりするものでな。まともな神経だと狂ってしまう。」
僕は自分の頭を指して、くるくると手を回す。ある意味、僕はキチガイと言えよう。
「お互いクレイジーと言うことだな。リアルで戦うか、マネーゲームで戦うか、そのぐらいの違いか。大きな違いだが。お前の方は負けても命までは取られまい。……こっちも仕事をしておいたぞ、と威張りたいとこだが、俺は英気を養っただけだ。」
イイやつだ確かに僕の命を守っているのは立山なのに、特にそれを恩着せがましく言うこともない。
「さて、お前にタイムマシンを押し付けたのは誰なんだ?押し売りとはどう言うことか説明してもらえるか?」と立山は聞く。
「この機械を預かっていろ!死にたくなければ1億円も寄越せ!と言われたのさ。ま払ったさ、金持ち喧嘩せずだからな。お前が殺し屋だって知ってたらもっと早く頼っていたよ。僕もお前も、こう言う荒事は苦手なタイプだと信じていたんだがな。」
肩をすくめて言う。
「脅されただけだって?違うさ、一応売買契約書もあるぜ。ガラクタに1億円払うなんて馬鹿げているだろ?それじゃ詐欺扱いされる。だから名目上タイムマシンと言うことになっているんだ。実際のところ、それはある映画に出てくるタイムマシンとそっくりだがね。まぁ、ビンテージものの中古車ってことだよ。コレクターなら、1億払ってもおかしくはない。僕にその趣味はないから断りたかったけど。命を取られるより良いかと思って、買ったんだ。」
僕は驚いている。タイムマシンの話をしようと思っていたが、本当にそれが機能するタイムマシンだとは信じていなかったのだ。立山がからかっているんじゃないかとちょっと今でも思いたい。だって、自分が7日間後死ぬなんて悪いジョークにもほどがある。そう言うタチの悪い嘘は立山はつかないから、やっぱり、僕の命は危険にさらされているのだろうが。
「で櫻井、重要なことなんだが、脅してきた相手は誰なんだ?一番の容疑者だから、わかっているなら教えて欲しい」
それは自分でも記憶違いと思いたくなるようなことであった。
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