第2話 櫻井の寿命

早朝から僕は不機嫌だった。

立山とは明日飲む予定だったが、その立山が家に朝から殴り込みをかけてきたのだ。

「おい、櫻井起きろ、起きてくれ。頼む。おおーい。居るか?居るなら返事しろ?」

全く朝っぱらからうるさいやつだ。

「立山、近所迷惑だろ。いい加減に……。」

と僕が家の玄関から顔を出すと。

「櫻井、櫻井だ。生きてるじゃねーか。良かったぜ!」

「おい、勝手に人を殺すな。で、何か用か?」

立山はしばらく考えて、僕に突拍子もないことを言った。

「おい、お前明日俺にタイムマシンがあることを話すつもりだっただろう。」

「!!」

誰が聞いても気が狂ったとしか思えない発言。だが、それで僕は全ての事情を悟る。

「立山、なにバカなことを言っているんだ。ま、ここじゃなんだから喫茶店にでも行くか。」

程なく喫茶店に着くと僕は立山に”なぜ本当にタイムマシンが存在することを知っているのか”を小声で尋ねる。

「お前が明日話すからさ。」

「で、なんだ死んだか。」

「死んだなぁお前。」

なるほど、それで全てを把握した。つまりこう言うことだ、僕は明日立山にタイムマシンのことを話す。そして殺された。しかし、立山がタイムマシンを使って未来から僕を助けに来たということだ。

「立山ありがとう。いくら使った?」

「10億円ぐらいかな」

十日後から来たということだ。

「お前あと一週間だ。」

7日間後に殺されたということだな。

誰がどこで、俺たちの様子を見聞きしているかわからないから慎重にコミュニケーションを手短に取る。

「1年前に戻りたいなぁ」

「戻れるのか?」

「足りないなぁ。でも、借金してでも戻るさ。」

実のところ、そんな短期間で借金は無理だろうが……。

365億円を何としても7日前までに集めなくてはならない。過去に持ち帰られるのは記憶だけ。だがそれだけでも十分だ。


「俺の金は全部使ったぞ。あいにく、この記録だけは戻らないときたものだ。当たり前だがな。」と立山は言う。

「で、まずはどうする?」

「これだけの金を借金するのは一週間では無理だ。そんな短期間に審査はおりない。だから、一か八か投機して倍にするさ。」

「半年じゃ危険か?」

「危険だなぁ。」

「投機も危なくないか?」

「このぐらいの危ない橋はなんとかなるさ。」

僕は自信があった。何回もやれることではないが、あとは野となれ山となれでインサイダー取引上等なら、今なら可能だと思った。


「俺はお前の護衛をするよ。腕には自信があるんだ。」

と立山は言う。

「二人まとめて始末されるだけじゃないのか?ありがたいけど。」

立山はしばらく黙っていたが、重い口を開く。


「……。お前俺の仕事なんだと思っているんだ?」

「詐欺師」


立山は詐欺をして稼いでいるとずっと俺は思っていた。それは本業を隠すための副業だったらしく

「実は俺、殺し屋なんだ。腕は立つから安心してもらっていいよ。」

と冗談ぽく立山は言う。


その話し方で付き合いの長い僕は立山が本当のことを言っていることが十分わかった。当たり前だが、僕を殺したのが立山でないことも伝わった。

口は軽かったが、目が真剣で僕への信頼が伝わってくる。

「うまく金を増やせよ?俺の仕事はそこまでは稼げないからな。頼むぜ」

と立山は俺の肩に手を置く。

「任してくれ」

「じゃ、行くか?俺の家に」

と立山は言う。おそらく僕の家よりはるかに安全なのだろう。僕は立山について行くことにした。








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