第116話エルフが報酬をくれるとは……

「あいつら大丈夫かな……」


 俺……よく考えてみれば、ユウキの強さなんて知らないわ。

 だって、うちの誰とも当たって無いもの。いや、アリアちゃんとは当たったけど、彼女はうちの非戦闘員の嫁達よりも弱いからな。

 アリアちゃんに圧勝した所で指標にならんし。


 皆に大丈夫かな?

 何て問い掛けつつも帰りを待っていれば一時間ほど経過した頃、ぞろぞろと人が出てきた。


 人数は七人。


 て事は説得が成功しちゃったっぽいな。

 あの腹立つユウキのドヤ顔を見るにマジで上手くいった様だ。

 彼女は早足で戻ってくるとすぐさまこちらに向けて口を開いた。


「ほらっ! ねっ!? 言ったでしょう? わかる?」


 マウント取りに来ました、と言わんばかりの顔である。


「まだ、何一つどうなったか聞いてないんだが? てかお前そろそろ殴るよ?」

「っ!! 貴方、まだわかってないのね! それがダメって言ってるの!!」


 うざい。たった一度の成功でどこまでも登って行っちゃうやつだこいつ。


「お待たせしました。

 やはり、彼らは仕方無しに従っていた様で、やり合うつもりは無い様です。

 っと、その前に紹介しますね。こちらの二人は私の協力者です」

「よろしくな。俺はユキトだ。こいつは俺の彼女だから手出し無用で頼む」

「ああ、それで人数が多かったのね。俺はカミノ・ケンヤだ。こっちではランスロットって名前を使ってるな。同じく後ろに居るのは俺の嫁達だから宜しく」


 また変な目を向けられるかと思ったが、彼はハーレム肯定派らしい。

「へぇ、ハーレムか。あんたとならいい酒が呑めそうだ」と小さく声を掛けられた。

 そんな風に和気藹々と話していれば、敵対者であった彼らが口を開く。


「な、なぁ。俺たちはどうなるんだ?」


 そう問われて、思わず一番しっかりしてそうなタカさんに視線を向けた。

 のだが「私ではなんとも……」と言われてしまった。


「んー、やってきた事に寄るんじゃない?

 従うしかない状況下で何もやってないなら各国の王様たちも変な事は言ってこないだろうし。一応は勇者って立ち位置になるんだからさ。

 でも逆にすき放題やってれば当然罪人になるだろうな」

「な、何もやってねぇよ。

 けど、カッシンが色々やらかしてる時隣に居たし、宣戦布告とかやべーじゃん?

 本当に大丈夫なん?」


 いや、しらねぇよ。俺そういうの決める人じゃねぇし。

 だからそんな目で見るなっての! 俺が自由に出来る話じゃねぇんだよ!

 そもそもそういう嘆願は俺じゃなくて事情を知ってるフーちゃんに頼んだ方がいいんじゃないの?

 と、問い掛けつつ、視線を送る。


 その視線に気がついたフーちゃんはララに怒られつつも状況の説明を受けていた。


「ああ、そうですね。彼らは何もしてませんよ。

 最初に殺し合った三人の勝者である彼の言葉に逆らえなかった様子でしたし。

 何故逃げなかったかまではわかりませんが」

「いやいや、明らかに自分より強いんだぜ? 今から全国制覇するとか言ってっし。

 逃げた所でって思うじゃんかよ。だったら従った方がマシかもってさ。

 実際、カッシンにはあれから何もされなかったし」


 何て、話をしているが、俺たちには一切関係がない。

 取り合えず、武力が必要な所は終わった訳だし、ここからは国の統治者に任せたい。


「さて、やる事は終わったし、俺たちは帰ろうか」

「このまま帰るって何を言っているんだよ!

 キミは馬鹿なの? まだ終わっていないよ!

 本当に僕が付いていないとダメダメなんだね。せめてディアは連れ歩いた方がいいんじゃない?」

「あら、お気遣いありがとうございますわ。

ですが、ランス様のサポート役はディアさんも交え私達全員で決めていますの。

 心配後無用ですわ」


 レラはエリーゼに視線を向けると「なら、如何すべきか示してくれる?」と挑戦的な視線を向けた。


「先ずは、こちらの王へ報告。これからの対応を触りでも聞いておくべきでしょうね。それから、妖精国への報告。妖精国からも今後の対応を聞いてから王国への報告へと行く。と言った所でしょうか。

 ランス様は貴族ではないのでこれで十分かと」

「そうだね、それから先は手を付ける必要はないね。

 安心したよ。ディアも多少は考えられるけど、こいつはダメダメだからさ」


 んだとこいつめ!

 うーむ何時もならほっぺをつまんでうにうにしてやる所なのだが……

 シュウ! お前彼氏なら何とかしろっての!


「いやいや、普通に心配してくれてんだろ? ありがてぇじゃん」


 ぐぬっ、自分の彼女だからって庇いやがって……

 これ以上は不毛だな。さて、ちゃっちゃとやる事やって帰ろう。


「ほら、じゃあさっさと行くぞ。

 んで、王様何処にいるの?」

「一先ず代官の邸宅へと戻りますか。そこの兵士に聞けば何か知っているでしょう」


 と話していれば、そこら辺はタカさんたちが知っている様だ。


「ああ、それならば首都の方に居ると耳にしました。

 代官の邸宅へと戻り代官を連れて首都に向うのが一番手っ取り早いでしょうね」


 え? いや、破壊しちゃったじゃん……と思ったら地下の牢屋に入れられているらしい。

 昔の犯罪歴を引っ張り出して牢屋にぶち込んだらしい。

 タカさんも代官の悪行を知っているのか「いい薬でしょう」と呟いていた。

 もうお薬は与えたんだけどな……まあ、言う必要はあるまい。




 ◇◆◇◆◇



「この度は、またもわれらを救って頂き、深く、深く感謝致します。神よ」


 俺たちは謁見の間へと通された。


 だが玉座には誰も座っておらず、王や他のお偉いさんだろうと思われる獣人たちが揃って片膝をついていた。

 てか、王さま、そんな低い所まで降りてきちゃダメでしょ!?


「あー、すまない。正確には神の使いであって俺自身は神ではない。

 だからそこまで畏まる必要は無いぞ」

「そうでありましたか。ですが、貴方様はこの国にとって恩人でございます」


 いや、前回のは取引でしょ……ユキちゃんたちを譲渡してくれたじゃん。

 と、まあそれはいいから取り合えず立って貰えますかとお願いしたら「であれば、腰を掛けられる出来る場所に参りましょう」場所を移す事となった。


 案内されるまま俺たちはぞろぞろと向う。

 全員で当たって俺たちだけが話を聞いてくるのもあれなので、皆連れて来ている。

 俺たち十人の他にフーちゃんとユウキ、タカとユキトとその彼女、犯人側の三人まで居る。

 着いた先は大会議室の様な部屋だ。優に数十人は座れるテーブルと筆跡官であろうものが腰掛ける小さな机が片隅に置いてある。


「それよりも、獣人国の今後の対応を聞きたい。

 この降伏した勇者達と、世界に向けて宣戦布告をしてしまった事。どう収める」


 カリカリと言葉を書物に記す音が聞こえる。止めて。俺の発言記録しないで!


「っ!? か、彼らが勇者……だったのですか……?」 


「あー、一応な。

 ただ、もう役目も終わっているし、ただの力ある冒険者という見方でいいよ。

 特に気を使ってやる必要はない」


 その言葉を言い終えるとタカさんたち勇者勢が一斉にこちらに視線を向けた。

 シュウ……お前には話してあるだろ?

 え? なに? 気を使ってやる必要が無いとか言うなよ?

 いやいや、流石にこんな大事やらかしたんなら許せとか言えないだろ?


「であれば、先ずは対話を持って事情の聴取をさせていただきまして、その罪状のぶんだけ魔物の討伐に使わせて頂くというのは……」

「あー、それくらいならこっちとしても嬉しい所だけど、いいの?」


 国を乗っ取ったんだから、勇者と言えど死刑でもおかしくないはずだ。

 いや、実質はバルドラドを乗っ取って王印の不正使用に国の名を語っての宣戦布告って所か。

 こっち来てから知った事だけど、国の乗っ取りを宣言されただけで首都であるブルドランドへの干渉は一切無かったみたいだし。

 世界の覇者にしてやるから見てろくらいの対応だったらしい。

 とはいえ、流石に緩くないか?

 いや、期間によってはそうでもないか。

 例えば強制的に一生、魔物と戦う兵士にするって言うなら終身刑と近いものがある。


「はい。構いません。

 私らは道理を曲げる事を散々やって参りました。

 この一件、彼らを討伐に使わせて頂ければ国への多大なる貢献となるでしょう。

 であればいつも通り、国の為になるよう道理を曲げましょう」


 なるほど。国の王としてはどうなのと思ってしまうが、群れを守る長としては正しい気がする。

 魔人国は結界があったけど、こっちは常に危険にさらされてきたんだろうしな。

 規律だ何だという前に実利を取らないと何時滅びるか分からない事が見にしみているのかもしれない。


 そこに納得を示せば、次の話しに移った。


「各国への対応ですが、ありのままに伝え謝罪をするしかないと思われます。

 そこからは妖精の国がなんと言って来るかを確認するまではどうにも……」

「了解。俺からも獣人国は悪くないって言っておくよ」

「っ!? あっ、ありがとうございます!!」


 いや、そんなに感謝せんでも……

 俺はやりすぎたのだろうか……


「ゴ、ゴホン。ならば、俺からはもう何も無い。

 お前らもそれでいいか?」


 と、まだ名前も聞いてない三人の勇者に問い掛けた。


「ああ、魔物の討伐だけでいいなら全然いいよ」


 そう一人が言うと他の二人も首を縦にふる。


「じゃあ、次は妖精の国か」

「ええ。かの国も事実を早く知りたいでしょうし先ずは書面に認めて頂き、それを持っての帰還と致しましょう」


 おお、そうだよな。伝言ゲームじゃ拙いよな。

 王国や帝国なら信用があるからまだしも、エルフ以外の種族は初対面だしな。

 エリーゼの言葉に頷き国王に視線を向けた。


「か、畏まりました。直ちに準備いたします。

 ですが、こういった書面は後から覆す事は易々とはかないません。

 ですので、今しばらくお時間を頂きたいのですが……」


 どれほどですかと率直に問えば、一日欲しいと言う。

 その返答に軽く渋って見せたら、タカさんが配達の役目を変わってくれると言ってくれた。


「これを期に妖精の国とも渡りをつけたいのでこちらとしても丁度良かった。

 付き合いのあるカミノさんが話を通してくれるなら、友好的な関係を築けるでしょうからね」

「あー、わかりました。そういう事なら伝えておきます。

 ですが、あいつら俺の言う事何て聞きませんよ。聞かん坊ばっかりで……」


 エルフの長老は見下した事ばっかり言ってるし。

 ドワーフはやめろって言っても鎧ペタペタ触ってくるし。

 そういえばまだ、他の種とは合ってないな。


「おいタカ、それよりさっきのだろ?

 役目がどうこうって話し、どういう事なのか聞かせてくれよ!」


 イメージ的に若干俺たちより若く感じるユキトくん。

 そう問い掛けてきたので『教えるのは勿論構わないけど』と言葉を止めて他に視線を這わす。

 エリーゼが小声で「ユウキさんに伝えた程度なら構わないかと」と言って頷いたのでこの場で説明した。


 その目的とはレイドボスの討伐だった事。

 アダマンタイン討伐失敗の度に勇者を拾い上げて凍結させていた事。

 失敗する度に時間を戻して再度召還してを繰り返した事。


「うっわぁぁぁ、ゴールそこなら言えよぉ!

 レイドソロやらされるってわかってればもっとガチで準備したっての!」


 ユキトくんの天に向けた叫びに俺はうんうんと共感した。

 獣人国にいた勇者たちも頭を抑えて「それでかぁ……」と色々納得していた様子。

 タカさんは指して驚いた様子も無く一言「神に会う方法はありますか」と問い掛けた。


「あるにはある。けど今すぐには無理かな……」


 神獣討伐のご褒美で出てくるん事はこの場では言わない方がいい気がするな。

 どう誤魔化そうか。と思ってあーうー言いながら後ろ頭搔いて居れば彼が意を組んでくれた。


「これは失礼しました。不躾でしたね。

 対価か信用か、私に足りない所を埋められたらまたお伺いしたいと思います」

「あー、いや……うん。次は帝国に行こうかと考えているから、暇な時にでも屋敷に遊び来なよ。と言っても、ふらふらしてるから何日滞在するかもわからんけど」

「お、俺も行っていいか? お前は色々参考になりそうだしよ。

 てか、俺の女に見せてハードルを下げたい」

 

 ふっ、ハーレム先輩と呼ぶがいい。

 あっ、やっぱり止めて。傍目が怖い。

 つーか、ハードル下げるとか何それずるい!


 そうして話が一段落して、俺たちは先にお暇する事となった。

 首都にある王宮を出て、タカさんたちと別れの挨拶を交わす。

 三人の勇者はもう既に置いてきた。みっちり獣人国に使われてくれ。


 じゃ、さて行こうかと視線を向ければ異物が混ざっていた。


「おい、お前……なんで付いてくるの?」

「っ!? 何で私だけに言うのよ!

 フーちゃんとか、そこの奴らだってあとから合流して成り行きで一緒に居るじゃない!」


 言われて見れば、シュウとレラはまだしも、フーちゃんは本気で着いてくるの?


「ええ。私は既にエリーゼさんに了解を貰いましたよ」

「なっ!? なんで教えてくれないのよ! じゃあ私も行くわ。いいわよね?」


 と、エリーゼに視線を向けるユウキ。


「何を仰っているのかしら……

 良い訳がありませんわ。丁重にお断りさせて頂きます」

「何でよ! じゃあ、私もフーちゃんに言ってたあれ、守るから!

 私そもそもあいつの事男として見てないし!」

「いえ、そもそも貴方は敵対者なので論外ですわ。

 危険度が低く、敵の敵という事で今回は仕方なく手を組みましたが……」


 ムキーとアホの叫ぶ声がする。俺としても是非遠慮して欲しい。

 アキホが殺しちゃいそうだから。

 チラリとアキホを伺う。

「ん? 何?」と言いながらも何が言いたいかわかって居たみたいだ。 


「いや、流石にここまで関係を持ったら頭来て殺すなんて事は……あり……ませんよ? あ、ありません、よね?」

「うん。だろ? そんなもんだろ? やっちゃいそうで不安だよな?

 俺も不安なんだよ」

「なるほど」


 俺とアキホはしみじみと納得してエリーゼとユウキの言い合いを見守る。

 参戦はしない。喧嘩になっちゃうから。

 ぎゃーぎゃーと言い合いは続き、最終的に「いいもん、勝手に付いてくもん」「お断りします」の応酬になってしまったので諦めて連れて行く事にした。


「人数増えたし、俺が引くか。『ストーンウォール』『クリエイトストーン』」


 作りなれた芋虫号だ。いや、違うけどね。

 最近じゃ面倒になって新幹線の上部を切り取った様な形になっている。

 見せた事が無かった勇者勢が「なにそれっ!」と声を上げた。

 クリエイトは装備やポーションしか作れないと思っていた様だ。

 いいから乗れと無理やり乗せて走り出す。

 街中だが、獣人国だし良いだろうと綺麗な道を作りながら移動した。

 ついでだからと首都の中央にある首都から真っ直ぐ外に伸びる大通りを全て綺麗に舗装してやった。

 獣人とすれ違う度に皆ビックリしてピョンピョン飛び跳ねていたが、害は無いので許して欲しい。


 そんなこんなで町を出てからはスピードを上げ全力疾走したが、やはりスキル無しの走りじゃ数時間持っていかれるようだ。


「もう、着いたのね。へぇ、この森がそうなの。

 あ、誰か出てきたわ。あれは私たちの出迎えって事でいいのかしら?

 私も挨拶してあげた方がいい?」


 と、勝手についてきながらなにやら偉そうなユウキ・アカリ氏。

 もうみんな視線に無視を決め込んでいる。

 因みに出てきたのはドワーフだ。ごっつい鎧を着込み斧を片手にこちらに歩く。


「もぅ帰ってきたんか。それで……あっちはどんな塩梅だ?」

「戦争は止められましたよ。あっちの国の王からも話しを聞いてきました。

 こっちの代表者に会えませんか?」

「おう。俺が代表のムルドだ」


 貴方が妖精国の王様なのかと問い直してみたがそうではないらしい。

 種族毎に長が居て、担当があるらしい。外との争いであればドワーフとエルフが表に出るらしい。


「そういうことでしたらムルドさん、エルフの長の所にお付き合い願えますか?」

「だな。そうしてくれっと話がはえぇ。しかし、本当に止められたんか?」

「ええ。証拠になる王の印がついた手紙が明日か明後日には届くはずです」

「随分とはえぇんだな。移動で数日は持っていかれるはずなんだが……って、おめえらは竜で空飛べるんだったな。がははは」


 彼は笑い声を上げながらも森の方角へと歩く。


 そして久々にやってきたエルフの里のジェシカの家だ。

 ムルドは我が家の様に勝手にずけずけと上がっていく。


 暫く待っていれば「き、貴様ぁ、誰に断って入って来て居るのだぁ!」と爺さんの声が響いた。

 だよね? 年頃の娘さんもいるしね。それはイカンと思うぞ?

 そんな事を思いながらも玄関から声を上がっても良いかと掛けた。

 出迎えてくれたのはジェシカだ。長老の方はまだムルドと言い合っている。


 そんなこんなの紆余曲折を越えて居間へと通された。


「そう言えば、アンジェは元気にやってるの?

 何度か来てるのに一度も里帰りしてないじゃない」


 いらっしゃい、とお茶を差し出されてのこの口上。まるで実家に帰って来た様である。 

 長老にギロリと睨みつけられた。俺が悪い訳ではないのだが……


「何度か勧めてるんだけどね?

 帰ったら閉じ込められるから嫌だって断られちゃうんだよ」

「だと思ったわ。まあ、元気にやってるならいいわよ」

「ぬぅ。良くはないわ!

 じゃが、数年の猶予は与えたのだ。その約束を守るのであればかまわん。

 それよりも、今日の用向きはそこではなかろう!」


 お? 長老がこんな事言うなんて珍しいな。

 ああ、戦争の行方が気になって仕方ないのか。

 

「んじゃ、説明するよ。

 これを話すとなると結構長くなるんだけど――――――」


 いきなり勇者は一杯居るなんて話をしても何を言っているのだと言われてしまいそうなので、最初から全部説明した。

 

「嘘を吐くでないっ!!

 と言いたい所じゃが、あの強さを見ては簡単には吐き捨てられんな。

 証拠はないのであろう?」

「あぁ、ごめん。勇者って言葉は忘れていいや。

 結局強い奴が兵士を全員ぶっちぎって国を乗っ取った。

 俺たちがそいつらぶった押して解放してきたって事だからさ」


 勇者か……と深く考えこんでしまったのでそこはどうでもいいとあえて言っておいた。

 俺が伝えたかったのは国を落とせるほど異常な強さの奴が幾人も居るという事を伝えたかっただけだから。


「そ、そりゃぁ随分と厄介な事だなぁ……んなポコポコ勇者召還されてもよぉ」


 と、ムルドが呟く。


「厄介な事じゃと……?

 ぬしらはあるじ様のおかげで今生きて居られるのじゃぞ!

 あの神を褒めたくはないが、勇者が召還されねば世界は滅びておったのだ。

 気に入らぬというのであればわらわがここを滅ぼし黙らせてくれようぞ」

「ま、待て待て、おまえさんらの事じゃねぇ!」


 ムルドをギロリと睨みつけるリア。

 リアがドラゴンだという事を知っているからか、ムルドはたじたじだ。

 

「何にせよ俺が与えられる情報はこの程度だな。戦争は止めてきたからそこからは好きにやってくれ」

「うむ。今回は本当に助かったぞ。折角の平和が脅かされる所じゃった。

 しかし褒美は何が良いのやら……希望はあるか?」

「え? どうしちゃったの? いままでそんな事言った事ないじゃん」


 何度も助けたけど、褒美なんて貰った事ないぞ。


「馬鹿もん! それは、頼んで居なかった事だ。

 事前に話し合い報酬を決めて討伐せねば褒美を出すのは出来んのじゃ。

 前回の魔物討伐に関してもそうじゃ。

 そっちから倒すが構わないかと問うてきたのじゃろう?

 じゃが此度はわしらから呼びつけ依頼したのでな、これで褒美を出さぬ訳にいかぬであろう」


 あー、言われて見ればそうだわ。

 しかし褒美か。


「あっ! じゃあ、アンジェとの結婚を認めてくれないかな?

 そうすればアンジェも里帰りしてくれると思うし」

「むぅ、アンジェリカは貴重な血筋なのじゃがな……致し方あるまい。

 ここでしぶってもあやつは帰ってこないだけじゃろうしな」


 おお、認めてもらえた! やったね。一番面倒な爺さんの説得がなくなったよ!


 後は依頼元である王国に話をすればこの一件は終了って事でいいんだよな。

 意外と早く終わりそうだな。よし、後ちょっとだぜ。


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