第114話まさかケモナーだったとは……

 正義マン事、ユウキ・アカリが新たに加わった事で、密にお話し合いをするべきだと一度宿を取る事にした。

 こっちでも一応屋敷っぽいものを建てたからそっちでもいいのだが、まともに暮らしてないので、宿を取ったほうが快適だという結論が出たのだ。


 そしてこの町で宿といえばあそこだと、あのおばちゃんが居る宿へとやってきた。


「かぁぁぁぁぁっ! また増えたよ。ちゃんと面倒見切れるんかねぇ……」


 宿に入ると開口一番にそんな事を言われた。

 ミィが駆け出して女将さんに抱きつき、ルルは頭を一つ下げた。

 この変わらない感じに安心感を覚えて軽口を返す。


「余裕だっての!」

「あーそうかい。それで? 何部屋だい?」

「開いてる所、全部。飯も人数分で」

「はいよ」

「ああ、皆で食べるには部屋じゃ狭いし、ここで食っていい?」

「あんたらの貸切だ。好きにおしよ」


 女将さんはそういうと奥から椅子を数個持ってきて全員が座れる様にして、料金を受け取ると料理を作る為に奥へと引っ込んだ。

 その間俺たちは部屋割りをして荷物を置いたりして、食事が出来るまでと自由時間を過ごした。


 カンカンと鍋をおたまで叩く音が響く。


「ほらぁぁ! あんたたち、ご飯出来たから、さっさとくっちまいな!」


 その音を掻き消すような大声が宿に木霊した。

 カンカンはいらなかった。そんな呟きを伝言ゲームの様に回しながらロビーへ集まった。

 そのまま女将さんが作ってくれた料理を食べて、ある程度食事を取り終わったタイミングで皆に向けて言葉を掛けた。


「はーい。じゃあ、委員長改め、有り余るユウキさんとフーちゃんが今回限りの特別ゲストとして新たに加わった事で、バルドラド奪還作戦の前に、お話し合いをしようと思います」


 ミィ、ララ、ペチの三人が仲良く『はーいっ!』と手をあげた。


「ちょっと、人の名前で遊ぶなんて失礼よ! てか、何で私の名前だけなのよ!」

「こういった感じに、どんな事にも文句を言ってくるのが彼女の特性です。

 ではまず、彼女の弱点を探す所から始めようと思う。誰か、知ってる?」

「はぁ? ちょっと真面目に話す気ないなら、私は部屋に戻るけど?」


 ユウキに『うん。お前がそれでいいならいいよ』と一つ頷き返して皆に『何かあるか?』と再び視線をむける。

 おずおずとフーちゃんが手を上げた。


「はい、フーちゃん。どうぞ」

「アカリちゃんは正論に弱いです。良くも悪くも、正論と付ければ大体効きます」

「ちょちょちょちょちょ! ふーちゃん!? ちょっと来て!」


 と、ユウキはフーちゃんを無理やり連行した。

 去った方から声が聴こえる。

『さっきからどうしちゃったの? 私なんか悪い事した?』

『ううん。違うの。私はアカリちゃんが心配なの。

 だからね、皆にアカリちゃんが苦手な事を知っておいて欲しかったの。

 知って居ればフォロー出来るでしょ?』


 フーちゃん……絶対楽しんでるだけだろ。

 常識人そうに見えて案外鬼畜である。


「……あいつらとの連携のために取った時間なんだが」

「ランス様……そう思うなら真面目にやってください」

「う、うん。けど、真面目にやったら一瞬で終わっちゃうからさ。

 それに、付き纏われるの嫌だから嫌われて置きたいんだよ」


 だって正面から行って戦争止めてって言って聞かなかったら攻撃開始の予定だから。

 態々時間を取ったのは『本当にその程度の手順で殺し合い開始を許容できますか』って問うくらいだ。

 俺としてももう少し話し合う方が良い気もするが、世界征服を謳うアホだと分かっているのだから、時間を取って隙を伺わせるよりさっさと主義主張を本人の口から聞いて攻撃を開始した方がいいと思われる。


 その旨を戻ってきた二人にしっかりと説明した。


「私としてはその問い掛けに、はっきり最終勧告と付けてもらう事を要求するわ」

「ああ、わかった。フーちゃんはどうする?

 正直、参加しなくていいんだけど……」

「……私たちを戦力として期待してないって事は相当自信があるんですよね?

 分かりました。私もお手伝いさせて頂きます」 


 いや、来なくていいって言ったんだけど……


「ねぇ、あいつはどうすんの? 誘わないの?」

「あいつって……ああ、シュウの事か。何処にいるかわからねぇしなぁ……

 まあ、居場所さえ分かるなら折角こっち着たんだし『調子はどうだ?』くらいに挨拶はして置きたい所だな」


 うん。実際会えても、戦争止めたいから命賭けてなんていい辛いしなぁ。

 とはいえ、元より関わってれば連携取りたいし情報もあるなら欲しいからな。


「……何カッコ付けてんのよ。戦力として必要でしょって言ってるの!

 命がけになるんでしょ!?」

「いや、確かに戦力として欲しいか欲しくないかで言えば欲しいけどよ。 

 シュウには関係ないのに命賭けろなんて言えないだろ。お前じゃあるまいし」

「じゃあ、私が言って上げる!」

「止めろ!!」


 ぷくーっと膨れてそっぽを向くユウキ。

 外見はめちゃくちゃ可愛いんだけど、どうしてこうも残念なのか。


「その前にその人、居場所がわからないんですよね?」

「うーん……あっ!? ララわかったかも! あの地下の森に居るんじゃない!?」


 うん。手掛かりはそこくらいしかないな。


「よし、じゃあララの言う『十王の森』行ってみるか。

 まず間違いなく一度は足を運んでるだろうし」

「わーい! 一杯撃ちまくっていい?」


 ララはアホ毛をピョコピョコさせながら、わはぁと笑顔を作りこちらを見上げる。

 彼女にとってはあそこがデビュー戦みたいなもんだからな。って、しょっぱながあそこって今考えると凄いな。

 余りの愛らしさに、微笑ましいという言葉を顔に貼り付けた様な笑みがララの元へと殺到する。


「おう。だけど、シュウが狩った後だったら残ってないかもしれないぞ」

「ちょっと、そんな事してる場合?」


 さて、皆食事は終わっているよなと確認していたら、またユウキが騒ぎ出した。


「何言ってんの? 俺の可愛いララがやりたいって言ったんだぞ?

 優先するに決まってるじゃねぇか」

「え? 俺のって……もしかして、この小さい子にも手を出してるの……?

 あなた……ロリコンだったの?」


 ぐぬっ……違うと突っぱねられない。最年少のミィも居るし。

 だからこいつ連れて行くの嫌だったんだ……早く終わらせてポイしないと。


「って何その反応……

 まさか本気で手を出してるの? 犯罪よ? 人として間違っているわよ!?

 というか今すぐこの子達から離れなさい! こんな事許されないわ!」

「ぐぬっ……人んちの恋愛に口出ししないでくれる?」

「恋愛って、こんな年端も行かない子供を騙して恥かしいとは思わないの?」


 あーあ、折角ララが幸せそうにしてたのに、水を差しやがって……

 と言うか、フーちゃんはなんでユウキをそんな引き攣った顔で見てるの?

 確かにこいつの空気読めなさは異常だけど、さっきからずっとじゃん。


「だから、お前関係ないじゃん」

「そぉですそぉです。私たちの事をとやかく言われる筋合いはありません。

 これでご主人様が可愛がってくれなくなったらぶっ殺しますよ?

 次言ったら本気で攻撃します。

 もう、攻撃出来ない駄目な子じゃないんですからね!」


 ララが本気で怒ってる。でも何処から見ても可愛らしい。


「ララ、良く言った。私も参戦する」

「当然私もやるじゃん! 私たちはもう立派なレディだっての!

 ご主人様にロリコンとか失礼にも程があるし」


 モンテとペチの言葉に続く様にラキが槍の柄で床を叩き威嚇するように睨む。

 けど可愛い。

 可愛いんだけど……宿は破壊しちゃダメだからな?


「お兄ちゃん! ミィ、可愛がって貰っちゃダメなの……?」

「そんな訳ないだろ。この女が勝手に言ってるだけだから。

 大丈夫、戦争の件が片付いたらもう会うことはないからさ」

「な、何で私が悪いみたくなってるの? 常識でしょ? 正論言ってるだけよね?」


 出た……

 何で気が付かないかね?

 めっちゃ雰囲気悪くなってるってのに……

 そろそろアキホに殺されんぞ? ガチで……

 珍しくリアまで気分悪そうにしてるし。

 エリーゼだって、澄まし顔ではいるけどこれは結構腹に据えかねているからこの表情なんだと思うし。


 あ、あれ……ルルさん、なんで気まずそうに下向いてるんですかね?

 もしかしてロリコン反対派ですか?

 ……うん、言葉にすると俺が悪い気がして来た。


「アカリちゃん? そういうどうでもいい所でマウント取るのは良くないよ?」


 アキホが俺に殺していいかと問い掛けている頃、フーちゃんがユウキに向って言葉を投げかけていた。


「え? どうでもいいって……だって、法律で……」 

「それは日本の話ね。ここじゃない。

 日本の法律をここでも適用しようって言うなら皆銃刀法違反で捕まってるよね」

「で、でもそれとこれとは……」

「まあね。言いたい事はわかるわ。

 でも、アカリちゃんが言っている事もどうかと思うよ。

 気持ちは分かるけどここでは悪い事ではないの。その言葉は人を不幸にするだけ。

 本気で禁止なんてしようものなら貧民街で餓死者が大勢出るわ。

 だからもうそれを言ってはダメよ。分かった?」

「う、うん。わかった。でも私が個人的に気持ち悪いって思うのは勝手よね?」

「ええ。そうね。

 私も個人的には気持ち悪いと思っているわ。口に出さなければいいの」


 くっ……好き勝手言いやがって……

 けど正直助かったな。何が彼女の琴線に触れたのかはわからないけど、これ以上何か言ってくるようなら、アキホが手を出してただろうからな。

 

「おい、お前らいい加減にしろよ?

 勝手に付いて来て人の旦那様に向って気持ち悪いとか、そろそろ本気で殺すぞ?」


 全くだが、殺しちゃダメだぞ?


「あら、気持ち悪いって思ってるくらいが貴方達にとっては丁度いいんじゃないの? 色目使われる方が迷惑でしょ?」


 それは一理あるな。

 付き纏われて色目使われるくらいなら今回限りで我慢する方がましだな。


「……お前頭おかしいだろ。

 切るんじゃなくて殴ってあげる。ダメージ少ない方で良かったねって言ってる様なもんだぞ?」


 あっ、確かに。うん。どっちにしたって俺たちは迷惑しか被ってない。


「ううん、そこまでおかしくはないはずよ。

 彼、ロリコンな所に目を瞑れば、かなり魅力的でしょう?

 バッドステータスに目を向けて居なければ惚れてしまう可能性の方が高いわ。

 そして惚れるという行為は制御できないのだから事故の様なものでしょ?」

「だーかーらー、人の旦那だぞ?

 どっちだろうが喧嘩売ってることこの上ないだろが! もういい。お前ら死ねよ」


 そう行った瞬間アキホの手が動いたので後ろからアキホを抱きしめて制止した。

 魔法攻撃もしにくい様にこっちを向かせてギュっと抱きしめた。

 よーしよし。よく我慢したなぁ。


「えーと、フミノさんでいいのかな?

 そこのバカ女もだけど、ちょっと真面目に聞いてくれる?」


 と、一言前置きを置いて忠告を入れる。


「こいつに日本の常識を当てはめようとしても無駄だから。

 今も止めなければ殺しに掛かっているくらい自制心ないからね。

 それと当たり前だけど仮にアキホが悪くて争いになっても俺は嫁の側に付くから。

 だから、俺たちと殺し合いしたくなければ別行動するか煽る真似はやめてくれ。

 次は止めない」


 本気だからなという思いを乗せて二人に告げた。


「ふーん、私の事も知ってたんだ?

 ……キミは凄いね。

 まだ生き返ってそこまで経ってないのに、魔人国を立て直して、王国にコネがあって、妖精国にも知り合いが居て、こっちの王様とまで面識があるのよね?

 その上私が助けられなかったララちゃんのお友達まで救っちゃってね?

 私の時とは比べ物にならないくらい幸せそう……でもね?

 私……わたしだって……頑張った。頑張ったのよ!

 必死に戦って戦って……足を引っ張る奴らも死なせないように立ち回って……

 なんで? なんで全部もってっちゃうの?

 なんで誰も覚えてすらいないのよぉ……」


 フミノことフーちゃんは言葉を続けるほどに情緒不安定になっていった。

 おっとりしたお姉さんに見えるフーちゃんが壊れていく様を見せられると精神をかなり削られるな。

 後、アキホが拘束から逃れようとしている事にも精神的な疲れを感じさせられる。


 ララがキレた辺りから、フーちゃんの情緒が不安定になっているのは感じて居たが、正直いい加減にして欲しい。いや、この疲労感の大部分は主にユウキの方が原因だが。


 前回フーちゃんはララと行動してたんか。道理で熱い視線を向けていた訳だ。

 てか、助かって幸せそうにしてるってんならいいじゃん!

 覚えてないのは俺に言われても知らんわ!


「エリーゼ、どうにか出来ないか? もう万策尽きて非常に面倒になってきているんだが……」

「では……僭越ながら言わせてもらいます。

 ええ、フーちゃんさんの言うとおりですわ。ランス様は凄いのです。

 今貴方が言った事など偉業の一角でしかありません。

 私たちがいくら頑張ってもどうにも出来ない問題を、すべて解決してくれる神の如く存在なのです。

 ララさんをモフるくらい好きなだけして構いません。

 ですから不毛な感情は捨て、ランス様の下に付いてくださいませんか?

 そちらの勘違いした貴方はさすがの私も許容できませんが……」


 ん? ララをモフるってなんぞ?

 いや別に女の子同士だし、俺は構わんけども……


「無理よ。こんな私に、そんな事する資格はないわ。

 だって私は守れなくて、忘れらちゃったんだし……」


 力なく床に座り込み、逆切れモードからイジケモードに変わった様子。

 このままだと長時間こんな無駄な事で足踏みをさせられそうだな。

 なので早期復活の為、ララに頼んでフーちゃんの顔を尻尾でビンタさせた。


「ご主人様を愚弄した罰です! 喰らうがいいです!」

「ファッ!? ~~~~っ!! ララちゃんっ!!」


 数発尻尾でのビンタが続き、それが終わった瞬間、フーちゃんはララのお尻の割れ目に顔を突っ込んだ。


「うひゃぁぁっ! ちょ、何してんですか!! ば、やめっ! た、たすけてぇぇ!」


 ララは瞬時につま先立ちになり、驚愕に目を見開き、涙を滲ませ、首を横に振りながらこちらに救助を要請した。


 何かめっちゃエロいっ!!


 もうちょっと見て居たいが可哀そうなのでひょいっとララを取り上げた。


「新たにどんな関係を作るかはお前の自由だけど、それは流石に嫌われると思うよ?」

「あっ、ごめんなさいっ! 気が動転してて……」


 いやいや、気が動転したとかそういう問題ではないと思うけど……

 てかお前、良くそんなんで俺に気持ち悪いとか言いやがったな!!


 ほら、残念なお前の連れも時が止まった様になってんぞ?


「え? なんで? 意味わかんない」


 と、硬直しているユウキを置いて俺たちは『十王の森』へと脚を向けた。





「仲間を置いて行くとか、本当に信じられない」


 ダンジョン入り口である洞窟が見えた頃、後ろからユウキ・アカリが走ってきて、悪態をつく。


「一緒に食事をして、普通に出てきたのに付いてこれないとか、普通に信じられない。幼稚園児?」


 そう、実際声を掛けなかっただけで全て事実なのだ。特別に置いていこうと策を練ったりはしていない。


「……だ、だってフーちゃんが……」

「出た、お得意の必殺『人の所為』」

「~~っ! 得意じゃないっ!」


 ああ、そのまま迷子にでもなってくれれば良かったのに。そう思いつつ先に進む。

 数分で着く洞窟の最奥、岩で隠していた入り口が開きっぱなしになっている。

 誰かが来たのは間違いない。

 先に進もうと人一人が身を屈めて入れる入り口を潜れば、すぐ天井が三メートルほどある通路へと切り替わる。


「こちらが『十王の森』名物、空中通路でございまー」

「はぁ? そんなの聞いたことないんだけど?」

「ちょっと、アカリちゃん黙ってて?」

「え……」


 ……おお、フーちゃんがこっち側に付いた。流石エリーゼだ。

 歩きながらエリーゼを後ろから抱きしめ「ありがとなぁ」とお礼をつげイチャつきながら歩けばすぐに通路が途切れた。

 その先には、広大な森と、強く光る天井が見えた。

 お、おかしいな……塔が邪魔で下は見えないつくりになっていた筈なんだが……


「あらら……塔が壊れてる。いや、別に良いんだけどなんで?」


 まあ、元々壊すつもりだったしいいか。


「ちょ、これ、これなによ!? なんで地下にこんな場所があるの!?

 うっわぁ、絶景じゃない! すごいすごーーい!」


 ユウキの目がキラキラしていた。彼女はかなりな美少女だ。そんな顔をされては当然可愛いと思う。

 思うのだが、こいつの事を可愛いと感じてしまう度に自分にイラつく。

 俺はこいつの事、本気で嫌いなんだな。と実感した瞬間だった。

 そんな事を考えながらリアにお願いして下へと送って貰う。


 下に着いてみれば、破壊された塔の破片が散らばっていた。

 俺の創作物なのに、大きすぎた所為か逆に神秘的な遺跡跡の様になっている。

 うむ。中々いい壊し方じゃないか。ありだよ、あり!


 さて、あいつらは居るのかな。と『ソナー』で魔物の状態を調べる。

 あー、魔物が殆ど居ないな……てことは来てるのかな?

 あっ、魔物の赤点が一つ消えた。

 うん。誰かしらは居るみたいだし、多分当たりだな。


 そう思ってはいるものの、一応『隠密』『音消し』を使い当人かどうかを確認しに行く。

 これで国を乗っ取った奴らだったりしたら面倒が増えるからな。

 いや、『ソナー』が反応してないんだからそれだけはないか。

 まあ、念のためだ念のため。

 因みに、音が外に漏れない様にしているだけで普通に話せる。完全に遮断しているのはユウキだけだ。


「あ、レラさんが居ましたね。……あら? 何か様子がおかしくないですか?」


 エリーゼが言った通り、なにやら様子がおかしい。

 レラは泣きそうな表情をしていて、シュウの顔色も良くない。喧嘩でもしているのだろうか?

 このまま声を掛けていいものかとちょっと様子を伺うことにした。


「と、飛べる魔物をテイムすればいいと思うんだよ!」

「そ、そうかっ!! ……レラ、テイムできるのか?」

「当然、魔法は使えるよ! でも、触媒が……ここアンデットの骨でない?」


 なにやら物凄い必死な様子。

 そう言えば、カーチェ用に触媒を荷物袋に入れて居た気がする。

 ああ、あったあった。


 隠れたまま、二人が座っている場所のすぐ隣にアンデットの骨を置いて再び距離を取る。


「……ご主人様、普通に声を掛ければいいじゃありませんか」


 いや、あれだよ。話が進めばなんであんな顔しているかがわかるだろ?


「いやいやケンケン、どう考えてもこれ戻れなくなったバカ二人の図でしょ」

「あっ、そういう事?」


 なんて会話している間に俺のおいたアンデットの骨に二人は気が付いた。


「こ、これシュウが持ってきてたの? お手柄だよっ!」

「はっ? いや、俺じゃねぇけど戻れるんだな!?」 

「シュウ! ここの飛べる魔物は!?」

「えーと、ダークフェアリーは飛ぶぞ」

「……そんなちっちゃいのでどうやって運んでもらうんだよ! 馬鹿なの!?」


 二人とも、顔が必死である。

 チラリとユウキの方へと視線を向ければ見下した顔で口をパクパクさせている。

『音消し』されている事に漸く気がついたのか、パクパクさせる口の動きが早くなった。

 俺は再び視線を前に戻し、二人の様子を伺う。


「わ、わりぃ、それ以外だと居ないかも……」

「あ、謝らないでよ……僕が誤射しちゃったのが悪いんだから……

 シュウ、ごめんね……」


 ショボンと目を伏せて苦しそうな顔で謝罪するレラ。

 その顔を見たシュウはギリっと歯を食いしばった後、レラを強く抱きしめた。


「大丈夫だ。俺が絶対なんとかする。だから……だからそんな顔すんな!」

「シュ、シュウ……」


 おずおずと抱きしめ返すレラ。


「どうすんですかケンケン。さすがの私でもこうなったら出て行けませんよ?」

「ぐぬ……」

「ご主人様、ララ狩りに行ってきてもいい?」

「あー! そうだな。狩するか、狩り!」


 うん。最初からそれが目的だったし。

 と気持ちを切り替えようとしたらルルとエリーゼから肩を掴まれた。


「こっちはアキホさんも居ますから大丈夫ですわ。ランス様はご友人の事に専念してくださいませ」

「ご主人様、今行けば茶目っ気で済むんですから頑張ってください」


 う、うん。けどラブシーンに割り込むのは無粋じゃない?

 ほら、まだずっとハグしてるよ……?


「なんかうらやましい。抱きしめて……?」


 モンテが目のまえで両手を広げた。

 彼女の要望に応えてギュッと抱きしめた。その時、ララの声が響いた。


「居たっ! 『トリプルアロー』」


 魔物を発見したララが嬉々として弓スキルを発動した。それによって『隠密』から『音消し』まで全てが解除された。


「「えっ!?」」


 抱き合ったままこちらを向く二人、俺もモンテと抱き合ったまま視線を合わせた。

 レラの顔が急激に真っ赤に染まっていく。

 シュウは思考が追いつかないのかポカンとした顔で固まっている。


「よ、よぉ? 遊びにきたぜ?」


 その言葉に気を取り直したシュウが一言告げた。


「俺たちでか?」


 特にこれと言って二人に何かした訳でも無いのだが、俺は後ろ頭を搔きながら「何かすまん」と謝った。

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