第112話正義マン再び

 国から貰ったお屋敷に戻り一週間ほどまったりした時間を過ごしていた間に、勇者情報を皆に調べて貰って色々わかった。


 今この国に居るだろう勇者でわかっているのは三人。


 城で見たタカと言う男と、ユキトという名の男。もう一人はフミノという女だ。

 各々全員が登録した時からSランクだという事だから間違いないだろう。

 男二人はこれと言って問題を起すでもなく普通にギルドの依頼をこなしている。

 女は登録後一度も依頼をこなしていない。


 一番気になる俺の嫁にちょっかい出さないかどうかだが、態々接触する必要も無いので放置する事にした。


 この次は結婚式について考えていこう。と思っていた矢先の事だった。


「ケンヤ、お客来たよ?」


 エミリーに呼ばれて玄関へと行ってみれば、そこに居たのはライエル君だった。

 彼は少し所在なさげに頭を下げた。これは何か悪い知らせがあるのだろう。


「ど、どしたの? なんか問題発生?」


 彼の顔を見れば、一目瞭然だったが一応問い掛ける。


「その……ですね……」

「あー、うん……なんか良くない事なのは分かった。

 まあ取りあえず上がって。座ってゆっくり話そう」


 言いよどむ彼を取りあえず居間に通して座らせた。

「それで、何があったの」と再び問い掛ける。


「単刀直入に言いますと、獣人国から宣戦布告を受けました」

「はぁ!?」


 いやいや、何でまた……

「俺の所為じゃないよね?」と慌てて問い掛けた。


「はい、正確には妖精国から回ってきた話でして、全ての国に対して宣戦布告をしたそうです。おそらくは勇者様が関わっているかと思いまして一応報告に上がりました。

 正直に言えば、助けて欲しい所ではありますが……」


 全ての国にってそんなアホな……

 目下の相手は妖精の国か。ジェシカやヘルランが心配だな。

 けど、どうしよ。心配だけど、俺が対応するってのもしんどい。

 どうしようかとアキホにチラリと視線を送る――――


「来ましたね。攻城戦」


 ――――スルーしてラーサやエリーゼに視線を送る。


「まあ、こっちもターゲットになってるんなら、纏まって対抗する方がお徳ではあるけどね。それでも冒険者のあたしらが出るものおかしな話だよ」

「私は、打って出るべきだと思います。

 みんなに強要は出来ませんが、私はこの国の貴族として協力するつもりですわ」


 うーむ。どうにかならないかなぁ。

 ダイチ君に相談するか? って、そういえば……


「てか、シュウは何やってんだ。まさかやられたりしてないだろうな……」

「ケンケン、やろうよ! 血が騒いできた!」

「お前、マジで言ってる?」

「チート持ってない奴らぶっ殺せば良いだけでしょ?」


 いや、確かに俺たちはかなり有利な立ち位置だけどね?

 けど関わるなら先ずは水面下で動いて戦争阻止からだろ?

 てか正直煩わしいったらないわ。心配だから捨て置けないし。

 戦争起すとか、ホント止めて欲しい。


「やるしか無いみたいだな。わかったよ。やるよ」

「っ!? 宜しいのですか? これを断っても誰も文句言えませんよ?」

「いや、文句とかの話じゃなくてさ。

 この時点でわかってるのに友達殺されてから立ち上がるとか馬鹿過ぎでしょ?

 やりたくないけど、やるしかなさそうって話し」


 恐縮する彼にこれからの話をした。

 どうやらタカという男も協力してくれるらしく、情報収集に出ているようだ。

 他にも、ユキトって奴も一応もしもの時は手を貸すと約束してくれたと言う。

 もう一人の男はまだ連絡が取れていないようだが。


「国家間の協力体制はどうするつもりでいるの? 連合組む話とか出てる?」

「それが、妖精の国からはランスロットさんに伝えてくれれば良いと言っていまして……淫らに足を踏み入れられても困るからと……」


 はぁぁ……まだそんな事言ってるのかあの爺さん。

 いや、全体の事だからエルフの長老だけの話じゃないのか。

 ドワーフとか他の妖精もいるしな。


「帝国や魔人国にも話し回ってる?」

「ええ。妖精国は隣国である帝国と王国にしか伝えていませんが、帝国が魔人国にも話をまわすとの文を貰いました」


 だとすると、あの正義マンの覆面委員長も動きそうだな。めんどくさっ!

 いや、帝国が魔人国へと人をやる時間があるから今すぐ行けば鉢合わせにはならないか?

 うん。なら仕方が無い。今のうちに乗り込むか。


「んじゃ、防備を固めておいて。俺ちょっと獣人国行ってくるから」

「ええっ!? いや、敵国ですよ!?」 

「いやいや、俺、あっちの王とも面識あるし。

 まあ生きているかどうかもわからんけど、水面下で動く分には大丈夫でしょ」


 口をぱっかりと空けて、参りましたと頭を下げたライエル君。

 深く頭を下げてどうぞ宜しくといわれたが、こっちはこっちの都合で好き勝手動くのだから気にするなと言って彼の頭を上げさせた。

 それから、ライエル君を帰して一息ついた俺たちだがその先の展望はまだ無い。


「ああ、どうしよう」と自然と声が漏れる。

 とうとう絶対に関わりたくないと思っていた国家間の戦争にまで首を突っ込む事になってしまった。


 でも正直、何したら良いかなんてわかんねぇんだけど……


 突撃してぶん殴ってで終わる話なら良いんだけど、きっと色々あるんだろ?

 落とし所を付けやすくするとか……

 そんなん一般人の俺にわかる訳ねぇし……

 しまった。せめてそこら辺を考えて貰ってから帰すべきだった。

 ライエル君そういう所有能そうだもんな。


 下を向いて頭を抱えていたら、声が聴こえてきた。


「潜入調査なら、人族がぞろぞろ行くのは良くないよね」


 ユーカがうーんと唸りながらも考えて発言してくれた事が呼び水となって他の者達からも声が上がる。


「それでも戦力は無いとダメ。最低でもアキホは連れて行くべき」

「頭脳となる人も必要よね。この場合、エリーゼかしら」

「地理に詳しいものも必要であろう? わらわも付いて行ってやろう」


 あれよあれよと行く人選が進んでいき、アキホ、エリーゼ、リアが選出された。

 当然獣人であるルル、ミィ、ララ、ラキ、モンテ、ペチは同行する。

 こっちの時とは逆に彼女たちが大手を振って歩き、俺たちが多少変装することになるだろう。

 使用人の子達は、事の重さを聞いて同行を辞退した。


「ランス、三日で何とかしてきて。無理だったら全部ポイして帰ってきて」

「うん。良い事言う。ケンヤ、返事!」

「三日は少ないだろ! もうちょっとくれよ」

「ランス様なら大丈夫なのだ! エルフの里なんてダメなら見捨てれば良いのだ!

 これで自由なのだぁ!」


 うーん、戦争三日で止めろとか無理ゲーだろ……もうちょっと労わってよ。

 そんな風に交渉を続けて最長でも一週間、それまでに片を付けて帰ってくると約束した。

 それにしても、アンジェはエルフの里をガチで嫌っているのだろうか……

 てか、お前は元から自由だろうが……


 そうして、装備や物資の準備をして獣人の国へと出かける事に話が決まった。

 そうと決まれば準備をと使用人の子達がバタバタと動き出した。

 そんなに焦らなくていいよと軽く声を掛けたが誰も相手にしてくれない。

 解せぬ。

 ぐぬぬぬと唸って居たらふとルルと目が合った。

 彼女は俺の腕に手を這わせると優しく微笑む。


「ご主人様と一緒に国に帰れるんですね。嬉しいです」

「ミィもぉ!」


 ルルとミィが両側から抱きついて来てララたちも擦り寄ってきて居る中、他の嫁たちはアキホとこそこそと内緒話をしていた。

 少し気になって聞き耳を立ててみる。 


「アキホさん、無慈悲にやっちゃってくださいね?」

「ランスさんは対人じゃきっと躊躇するだろうからね。あんただけが頼りだよ」

「絶対に無事に戻って来てよね」


「ふっふっふ、良いでしょう! この全てを打ち落とすあっきー砲に任せなさい!

 ケンケンは俺の嫁。絶対に生きて返す!」


 ……おーい。それ死亡フラグっぽいけど、大丈夫か?

 まあ、戦闘をアキホがやってくれるなら助かるけど。

 こいつは絶対死なない気がするし。


 いや、待てよ……このフラグの立て方だと俺が死ぬのか?


 そんな事を考えている最中、ユキに「荷物の準備が整いました」と声を掛けられて思考を戻す。


「じゃあ、行って来るよ。皆、留守を頼むな」


 皆に声を掛けてからリアの背に乗って飛び上がる。

 こっちの国はドラゴンに慣れただろうから、屋敷の庭からそのままだ。






 精強で力強く黒光りしたドラゴンが王都の空に舞い上がる。


 一先ずの行き先は、妖精国。話を聞きに行きたい。


 そんな話を皆でしながらエルフの里へとたどり着いた。

 エルフの森の少し手前、ドワーフの山の丁度麓の当たる場所で妖精たちの集団を見つけた。

 そこに降りて貰えば早速兵士達に囲まれる。兵は主にエルフとドワーフの混成だ。

 伝説のドラゴンであるリアで降り立ったからか、扇状に包囲したものの一向に距離を詰めては来ないし、声も掛けてこない。

 ドワーフに知り合いは居ないしどうしたものかと思っていたら『待って待って』と前衛を掻き分けてくる存在がいた。

 それはエルフの次期長であるジェシカだ。後ろにヘルランも続いている。


「良かったわ! 来てくれたのね!?」


 間に前衛のドワーフを挟み、後衛を務めるジェシカから声が上がる。


「よっ! 取りあえず話を聞きに来たよ」


 寄ってきたジェシカとヘルランに手を上げて応えて、俺の嫁達を紹介する。

 戦う事になるであろう獣人を連れていた事をドワーフに『敵がなんでおるんじゃい!』と不快感を示されたが潜入調査する為に必要だからとしっかり説明した。

 そのままジェシカが俺との出会いの話しなんかをちらほらとして一応見方側の人間だという事を理解してもらえた。

 だが、話し足りないのか俺の紹介を続けるジェシカ。

 いい感じに説明をしてくれているのだが、そうしきりに『こいつおかしいのよ』を連呼しないで欲しい。


「ほう。お前さんがあのウィンドコンドルを一人で殲滅した人族最強の戦士か」


 と、最近の話しまで話し終わるとジェシカが『こいつとの関係はそんな感じね。うちから嫁も出しているし、信用していいわ』と胸を張って言ってくれた。


 近くで話を聞いて居たドワーフの男がこちらを見上げ、口を震わせながら声を上げた。


「なぁ、お前さん……その黒い鎧の素材は……なんだ?」

「これの素材ですか? オリハルコンですよ」

「「「なんだとぉっ!?」」」

「ふむ、先ずはその話から聞かねばならんな?」

「うむ。これは捨て置けん」


 あれ? そっち? 今は戦争になるかならないかの時なんだけど……

 と唖然としていれば、いつの間にか小さいおっさんに囲まれて鎧をぺたぺたと触られた。

 俺が心底あたふたしている様をみてアキホが爆笑していた。後でお仕置きだな。


「と、その前に何があったのかを聞きたいんだけど……」


 助けを求める様にヘルランに視線を向ければ、彼が前に出て説明を始めた。

 いやいや、その前にこいつら止めて?


「先日、獣人国から使者がきたんだ。

 それで宣戦布告をしていった。それだけの事さ。

 特に諍いがあった訳じゃないけど、こっちの話をまともに聞く気すらなかったよ。

 要するに一方的に侵略戦争を仕掛けられたって事だね」


 ヘルランの言葉に「マジかー」と天を仰ぐように言葉を返しつつも、他に何か言われたりしてないかと問い掛けたが、本当にこれといってない様だ。

 不可侵条約を話しに出したが、そんなものは時効だと突っぱねられたらしい。

 他の国も黙っていないぞと話を振ってみても『元より全て落とすつもりだし。妖精の国なんて足がかりに過ぎないよ?』と鼻で笑っていたほどらしい。


「そいつって獣人だったの?」

「いや、黒髪の少年兵だったけど耳と尻尾は見当たらなかったね。

 と言っても王印は本物らしいし、国の意向なのはほぼ間違いないと思うよ」


 あー、なるほど。


「んじゃ、このまま獣人国いってあっちの王と話ししてくるわ。

 止められそうなら止めてくるよ」


 うん。召還された奴らに乗っ取られたなら話しは簡単だ。落とし所もクソもない。

 止めろって言って聞かなければぶっ殺すしかないんだから。


 結局は放置しても誰も倒せないだろうから俺が戦うハメになりそうだし。


 ……いや、他にも勇者がいるからその限りじゃないか。

 まあでも、ジェシカたちを守るなら今動くのが一番だからな。


「え? 獣人国に乗り込むって本気で言っているのかい?」

「いくらあんたでも無理でしょ!? 攻め込むつもり?」


 焦るヘルランとジェシカ。

 ドワーフのおっさん達も『一体どうなっているんだ』とお互い目を見合わせている。


「いや、元々あっちの王とも知り合いだし、潜り込めば話くらい聞けるだろ。

 国を乗っ取られていても最悪逃げるくらいは何とかなるからな」


 うん。神と勘違いされているし多分大丈夫。

 ……本当に大丈夫か? その嘘がばれる時が来た気がする。

 まあいいや。取りあえず行こう。

 どんな事になっているのかを知らなきゃ話しにならないからな。


「んじゃ、帰りにまた寄るよ」

「え? あ、うん」


 呆気に取られたジェシカが間の抜けた返事を返した。それを聞いてまたリアに乗って移動を開始する。

 最後までドワーフの視線が鎧に向いていたが、帰りに寄っても大丈夫だろうか。

 そんな心配を傍に獣人国を目指した。


 もう少しで町が見えてくる頃だと暢気に思っていた時、遠くの森でキラリと光ったのが見えた。


 その光は、無慈悲にリアの体を貫いた。


『ぐぁぁぁぁああ』と、衝撃と共にリアの叫び声が響く。

 苦痛に体を反り返らせた為に、俺たちは空へと投げ出された。


「っ!? 『エクスヒーリング』『シールド』『マジックシールド』『フォートレス』『マジックバリア』『リフレクトシールド』リアぁぁっ! 大丈夫か!?」 


 共に落ちていく彼女に防御バフを掛けつつも声を掛ける。

 リアは、着地ギリギリの所でホバリングをしつつもその身を差し出す様に俺たちを受け止めてくれた。

 落下中に全員に『シールド』を掛けてあるので誰一人怪我をしていない。


「痛ったいのぉ。お陰で今は問題ないが……あるじ、どうする?」


 当たり前だ。ぶっ殺す。


『ソナー』


 居た。丁度森に隠れて見えずらい位置だったが、数キロ先に二人居る。

 てか、数キロ離れた所から狙撃って……この世界の攻撃射程長すぎんだろ。

 いや、今まで俺もその恩恵を受けまくって居たけどさ。

 まあ、今はそれはいいや……とりあえずぶっころ。


「アキホ、リアの守りを頼む」

「お、ケンケンが珍しくガチ。後ろは任せろ!」

「何を仰って居るんですかアキホさん。いけませんよランス様。

 報復は当然ですが、二次被害を極力減らすよう勤めなくてはなりません。

 ここに居るの面子は全員戦えるのですから、後方支援だけでも頼むべきです」


 ……そう言われてみればそうだ。


「わかった。俺が先行して声だけ掛けてくる。

 魔物だから外敵と判断したのか無差別なのか知りたい」

「……わかりました。

 ですがランス様、敵が何時また攻撃してこないとも限りません。

 慎重にお願いしますよ?」


 わかってる。だから対人は嫌いなんだよ。

 

 リアに人型になってもらい、全員で走って移動する。

 見えてきた。あれは女か。一人が弓、もう一人は剣か。

 ってあの剣持ってるの、ユウキ・アカリじゃねぇか!

 何で正義マン委員長が居るんだよ! 


 うわぁぁぁぁ……すっげぇ面倒な展開。

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