第111話ミレイパパは優しかった。
はい、やってきましたルーフェンのミレイちゃん宅。
お父さんが優しい人でありますように。などと願いながらもミレイちゃんに話を通しに行って貰ったら、どうやら不在だったようだ。
国王陛下から呼ばれて王都の方に行っているらしい。
挨拶まわりも予定に入っている様で暫く帰って来ないと言われてしまった。
なので、王都へと移動する事にした。
到着するといつもの様に我が城へと移動した。
ビビってる訳ではない。子供達が心配なのだ。
うん。俺は悪くない。
「もう、今やお父様よりもランス様の方が格上よ?
変な事言える訳ないじゃない。
ふふっ、けど大事にされているみたいで嬉しい」
ミレイちゃんはそう言ってくれたが、格上とかそういう問題ではないのだ。
「ちゃんと助け舟出してね」と念押しして彼女を王都の別邸へと送り出した。
一応単独行動になるのでパーティーを組んで貰ったから何かあっても大丈夫だろう。
パーティーメンバーであれば、ミレイちゃんからも俺の場所を感知出来るし。
意気揚々と走り去るミレイちゃんを見送り、城の中を確認したが誰も居ない……
どういう事?
「おーい!」と声を掛けてみれば「はーい」と声が帰って来た。
その返事に取りあえずの安堵を得た。
降りて来たのはここを任せていたカサナギだ。
「皆居ないみたいだけど、何があったの?」
そう問い掛ければ、皆リードへと向った様だ。
人手はいくらでも欲しいから衣食住を面倒見るから来てくれないかと打診を受けたと言う。
「なんだ。そういう事か。けど、なんでお前は残ってるの?
自由にしていいんだぞ?」
「ええ!? 一応ここを守る人も必要かと思ったのですが……」
「ああ、一切気にしなくていいぞ。どうせなら余った金使って町の中に住めば?
こんなとこ居ても出会いも何もないだろ?
……いや、どうせならお前も一緒に来るか?」
うん。男の使用人一人じゃイメージ的に弱いらしいし。
シュウに男は申し訳程度の少年一人なんて言われちまったしな。
「い、いいんですか?」
「おう。お前は信用出来る。ここ守ってくれてたしな」
と、カサナギを俺たちの輪に迎え入れて、どうせだからと王都の屋敷へと移動した。
腰を落ち着けると、使用人たちがバタバタと動き出す。
お掃除はされているみたいだが、物資の確認を行っている様子。
いつの間にかプロっぽくなっている。
俺の使用人なんだし、適当でいいよ?
そんな風に声を掛けると「わかりました」と言って置きながら早足で動き回っている。カサナギはブレットに付いてまわり、色々教えて貰っている様子。
彼は、先ずは風呂だと連れて行かれた。
うーむ。俺が相手にしようと思っていたのに、やる事が無くなってしまった。
「暇だしなんかする?」と嫁達に問い掛けた。
「ご主人様、落ち着いてください。
大丈夫だってミレイさんも言って居たじゃないですか」
「お兄ちゃん、ビクビクしてる。怒られちゃうの?」
「いやいや、そんな事はない。筈だ……大丈夫だよな?」
「全く、ランスは何時まで経っても臆病なんだから……」
だからそんな事無いって……
なー、アンジェ?
「そうなのだ! ランス様はすごいのだ。怖くても何とかしちゃうのだ!」
「いや、うん。もう認めるよ。
皆! 俺怖いんだけどどうしたらいい!?」
「ランス様……だから大丈夫ですとあれほど……国王陛下は平気なのになんで子爵様はダメなのですか……」
「ば、馬鹿野朗! 俺の両親にご挨拶だとなったら怖くないのか?」
「「「た、確かに……」」」
ふう、どうやら俺の威厳は保たれた様子。
……いや、保たれてないか。一応の納得をしてくれただけで。
にしても、何か暇だな。
ミレイちゃんが帰ってくるまではエロい事始める訳にもいかんし。
……まさか連れて来たりとかしないよな?
「それは有り得ませんわ。
知己であればまだしも、初対面で先触れも無しで来るはずがありません」
「そう言えばランスさん、こっちの勇者ってのは調べなくて良いのかい?
良ければギルドで情報収集でもしてくるよ」
え? あぶないよ。
いくらラーサでも単独行動なんて……
「ギルド!! 冒険者ギルドですよね? 行って見たい!」
「あー、アキホは行った事無かったか。じゃあラーサ、アキホの面倒頼める?」
「えっ……一人で良いんだけどね……」
「ちょっと、どういう事ですか! 面倒見るのは私ですよ!?」
いやいや、お前ねぇ……
ああ、そう言えばこの国でもルルたち獣人の入国許可貰わないとな。
出来れば変装も無しで表を自由に歩ける様にしてあげたい所。
ってそれもこれも他の勇者の所為で不安が付きまとう。
くっそ、女神め……
「あのう、ご主人様? 私たちは不満なんてありませんよ。
これだけ恵まれた環境でしかも世界を回れるなんて有り得ない事です」
ララが笑みを浮かべながらそういうと、それに獣人の子達が同意した。
それにどっちにしても、一人歩きなんて怖くて出来ないそうだ。
そんな話が一段落付くと、アキホがギルドに行きたい人ぉと声を掛けた。
それに応じたのはディア、ユミル、ユーカ、ミラだ。アクティブな奴らである。
アンジェはいいのかな? 最近大人しいけど……
ん? 女は家を守るのだ? うむ。素敵なお嫁さんだな。よしよし。
仕方ない。ブレットたちの様子でも見てくるかと俺は風呂場に行ってみたが、開けた扉をそっと閉じた。
何故か彼らはお手々で洗いっこしていた。うーむ……これは教育が必要だ……
だがあとにしよう。なんか入り難いし。
回れ右して廊下をうろついて居れば、押入れの様な場所で獣人の使用人であるハナが立ち往生していた。
「どうしたんだ?」
「ご主人様っ!? いえ、何処に何をしまうかを考えておりまして」
「ああ、何時まで居るかもわからないし、馬車に入れっぱなしでもいいよ?」
そう言ってみたが、価値を考えるとそれは宜しくない様で、お構いなくと言われてしまった。
だが、断る。
めっちゃ構ってやるとその場で抱き寄せて耳や尻尾をモフモフしてみた。
彼女とももう体の関係を持っている。お構い無しに触りまわっていると、彼女も身を寄せて体を預けてきた。
ふむ。これは部屋へと移動した方が……
っていかんいかん。ミレイちゃんに怒られる。デリカシーがないと。
うん。今から彼女の親に挨拶に行くってのに、これはまずい。
俺は鉄の意志を持ちハナから離れた。
こっそり「あとでな」と声を掛けて。
仕方ない。俺もちょっとぶらついてくるか?
嫁に囲まれていたら始まってしまう。何かが……
どうせなら、アキホたちと一緒に行けば良かった。
そんな風に考えていたら、ミレイちゃんがこっちに向って移動を始めた。
てか、早くね?
いや、自分の家だし手間は無いだろうけど……
それにしても、とうとうこの時が来たか。
少しそわそわしつつも、彼女が帰ってくるのを待った。
「ランス様、只今戻りましたわ。少し、お時間宜しいかしら」
彼女は実家帰りだからか、口調がお外行きのものになっている。
緊張するから普通にして欲しい。
当然、いいよと返事を返して、椅子に腰を掛けた。
「あの、もし良かったらすぐにでも会えないかって言われちゃったの。
なんか、色々問題が起きているらしくて、その情報だけでも伝えて置きたいって」
ありゃりゃ。やっぱり何か問題起こしてるのね。
その後始末を頼みたいって話かな?
「うん。私もそこら辺突っ込んでみたんだけど、出来る限りは国で対応しようって話になったらしいわ。
そういう事ならって聞いてみてあげるって言ってきたの」
ええ? いや、普通に行くから! 上から目線止めて!
まあ、彼女にとっては父親だしそのくらいの物言いはおかしくないのだろうけど。
「じゃ、じゃあ行こうか?」
「いいの? こんなに急遽来いってのは普通断るわよ?」
「いやいや、行くよ。俺たちの結婚の報告もあるんだから」
「そ、そうよね。う、うん。流石、私の王子様ね」
そんなやり取りを交わし、俺は王宮に行く時様の正装に着替えてミレイちゃんと二人で家を出た。
貴族街の綺麗な町並みを歩き雑談を交わす。
「全く、酷いのよ?
久々に帰ったってのにお父様ったらお説教ばかりで困っちゃったわ」
「ちょ!? もしかして機嫌悪いの!?」
「そうね。ちょっと悪いかしら……けど、心配は要らないわよ?」
何て脅されながら向ったミレイちゃん家の別邸。
彼女の両親は門の前で待ち構えていた。
「ランスロット殿、ご足労頂き真にありがとう。
急なお願いをしてしまって申し訳ない」
「いえいえいえいえ、頭を上げてください!
こちらこそもっと早くご挨拶に来るべきでしたのに……」
いやいや私が……と二度繰り返し、ミレイちゃんにそういうのいいからと中へ通された。
俺はビクビクしながら娘さんをくださいと言うタイミングを計って居たのだが、それを言うまでもなくミレイちゃんのご両親の方から祝福されてしまった。
「いやぁ、本当にめでたい。ですが良いのでしょうか、こんなじゃじゃ馬娘で……」
「何ですって!! これからは私も英雄の夫人よ!
お父様なんて見下してやるんだから!」
「もぅ、ミレイは何時まで経っても言葉遣いが直らないのね。
ごめんなさいねぇ。こんな出来の悪い娘で……」
なにやらミレイちゃんが暴走している様子。
「ミレイ、お父さんとお母さんにそういう事言っちゃダメだろ。
後、ミレイは出来が悪い訳じゃないですよ。
きっと貴族の水が合わないだけなんです」
「そーよ、そーよ! 堅苦しいのがダメなの!」
「また自分で言って……もぅ……仕方の無い子ね」
彼女達のやり取りを見ているとわかる。とてもいいご両親だ。
「そう言えばランスロット殿、式はどこで挙げるのかな?」
あ、そうか。結婚式かぁ。
うーむ。色々大丈夫なのか?
「まだ決めていませんが、決まり次第連絡させて頂きますね」
「頼むよ。別に数回やったって良いんだ。
王都やマクレーン程度の距離なら問題ない。是非私らにも祝わせてくれ」
あー、こう言われてしまうと他の皆の事も含めてしっかり考えないとな。
彼の言葉に「はい」と簡潔に返すと、話が違う方向へと転がった。
「今回王都に来た理由でもあるのだが、ランスロット殿にも是非聞いておいて貰いたい事がある。出来ることならば手助けをして頂けると有難い」
「ちょっと、お父様!!」
話が違うと憤るミレイちゃんを手で制して話しの続きを聞く。
やはり話しは召還勇者が好き勝手やっていると言うものだが、エリーゼとミレイの元彼……じゃないか。前回の時に彼女達と付き合っていたものが、いちゃもんを付けに来ているという話しだ。
「あれ? これ、俺たちの話しじゃん。逆に国に押し付ける方がなんか悪くね?」
「そ、そう言われてみればそうかも。
これってあれよね。強者が私を奪い合ってって奴?
昔は憧れてたけど、知らない男にそんな事言われても気持ち悪いわね……」
ミレイちゃんは相変わらず子供の様な自由さで表情をコロコロと変え、最終的にしかめっ面で落ち着いた。
そんなミレイちゃんを他所に話しは続いて行く。
取りあえず、話し合いで煙に巻く予定だとか。
この結婚は当人同士が望んでの事だと言う事も伝えるそうだ。
「逆情とか怖いし、俺が護衛で付きましょうか?」
「ほ、本気で言ってくれて居るのかい?
人との争いを嫌うと聞いて居たのだが……」
いやいや、それは戦争とかに利用されるのが困るって話しですから、と今回の護衛は受けると約束した。
何時の何時頃などと話を詰めていれば、不意に戸が開かれた。
「ミレイ、帰ってきたのか。元気でやっていた様で何よりだ」
「お、お兄様……お久しぶりです……」
彼の振る舞いから見て嫡子なのだろうが、ミレイちゃんの様子がおかしいな。
もっと噛み付くかと思いきや、よそよそしい。
「お邪魔させて頂いております。
私はランスロット、此度はミレイさんとの婚約の許しを頂きに参りました」
「こ、これは失礼した。私は兄のファイ・ルーフェンだ。今後とも宜しく頼むよ」
彼女の挙動がおかしい事を気にしながらも話を続けていれば、ミレイちゃんがおかしい理由を彼が説明してくれた。
「ははは、お前社交界で俺に恥を搔かせた事をまだ気にしているんだな。
もう何年も前の事だというのに。流石にあの時は参ったが……」
兄である彼は大した事では無いよと上品に笑う。
彼女がやらかしてしまった事は、出来もしない事を出来ると言い張ってしまった事らしい。
それが自分の事ならばまだ良かったが、兄の事を自慢する為の吹聴であった。
それを関心した回りの大人がそれは是非見せて欲しいと詰め寄った。
まわりものもまさか、実は嘘だなんて思って居ない状況だったそうで、大恥を搔いたそうだ。
「何というか、ミレイちゃんらしいね……よしよし」
「まあ、貴殿なら吹聴されようが、現実のものと出来よう。妹の事宜しく頼むよ」
「ええ、勿論です。ただ、現実のものにするのは難しいですね。この子は俺に王子様に成って欲しいらしくて……」
と頭を撫でながら冗談を言ってみれば、ルーフェン一家は揃って頬を引き攣らせた。
「そ、それはマズイんじゃないかなぁ? ミレイ、お前それはダメだろ?」
「ち、違うわよ! 私だけの王子様って事!」
「待て、何も違う事になって居ないぞ! 言っていい事と悪い事がある。
何故貴族の娘に生まれてそれが分からないのだ……」
ああ、言葉を間違えた様だ。ミレイちゃんも本気で困っている様子。
こっちには無いのかな?
幼い女の子が妄想しそうな白馬の王子様的な表現は……
何にせよ、このまま放置は可哀そうだな。
「ああ、お待ち下さい」
失敗したと思いつつフォローを入れる。
そもそも彼女のいう王子様とは素敵な人と同じ意味で使われている様に思える。
本当に王家に入って欲しいなんて一欠けらも思って居ないだろうと。
そんな事を口にすれば、ミレイちゃんが「そうなの! それなの!」と声を上げていた。
「ああ、この感じ、ミレイが帰って来たって感じだ……」
ミレイちゃんのお兄さんの疲れた声を聞き、今日はこの辺でとお暇してきた。
そして、次の日、ルーフェン子爵と共に国王や宰相と顔を合わせて護衛の打ち合わせを行った。
取りあえず、一般兵の振りをして後ろに控えていてくれればいいと言われた。
後は戦闘になる様なら割って入って助ければ良いだけだから難しい事ではない。
相手の初手によっては助けられるか分からないが。
◇◆◇◆◇
という、打ち合わせの元、後ろに控えていた俺だったが、結局入る隙が無かった。
カズヤという男が剣を抜いたので俺も剣を抜いて国王の前を陣取ったが、全部タカという男がやってくれた。
彼は話がわかる男のようで、無茶な事も言わずに協力関係だけを築くと帰っていった。
城のいつもの応接間で俺はフルプレートメイルの兜を脱いで声を出した。
「いやー『飛翔閃』には焦ったわ。思わず割って入る所だった」
「別に良いではないか。顔を知られたくないのか?
名前は知られとるしもう遅いと思うがの」
「いやいや、遅くないでしょ。
てかクロードさん命狙われるのが俺だからって適当言ってない?」
「全く、何を言うんじゃ。帝国でも王国でも有名人、そんなものがこの場で顔を隠した程度でどうにか成るものでもあるまい?
それに、軽い物言いにもなるわ。お主に勝てるものなど居りはせんからな。
逆に逆鱗に触れて世界が壊されないかの方が不安じゃわい」
ちょっとじいさん、無茶苦茶言わんでくれる?
そんな軽口の様な会話を交わしていたら、隣から深い溜息が聞こえて来た。
視線を向ければライエル君が力なく笑っていた。
「ってそういう事ですか……道理で強行路線で話が進む訳ですよ。
ランスロットさんが後ろに控えてくれていれば、それは余裕ですよね……」
彼は、言って置いてくださいよと言わんばかりに宰相と国王にジト目を送る。
「むぅ。強行というがな、本来、この対応でも温すぎるくらいなのだぞ?」
「そうですぞ。お二人ともそれを忘れてはなりませぬ。今は勇者が居る時代故に、有り得ない対応を取らざる得ない。そんな状況下に置かれております。
ですが、この事に釣られて他の者にまで同じ対応をしてはなりませんぞ」
そりゃそうだな。
民衆を扇動して国に反意を示したやつらにこういった会談を開いただけでも異例の事だろう。
普通に考えて捕縛から牢屋に行って拷問受けて情報吐かせたら死罪って言った所だろう。
まあそれはさておき、こっちもちょっと聞いておきたい事がある。
「それで……ここ最近でSランクに上がった奴って何人居るの?」
クロードが王子たちを教育している間に、陛下と雑談を続ける。
「うむ。あの三人を除けば、他に三人と聞いた。
それが全て勇者なのかは知らぬが……いまだに信じられぬな」
陛下が信じられないのは、神が時間を戻しながら何度も世界を救おうと勇者召還を行った事だ。
時間を戻すのも、人を凍結して置いておく事も、全てに目を回すほどに驚いていた。
「ああ、勇者だから支援してやらねばなんて思う必要は無いよ。
一般的な力を持った冒険者として対応する方が正しいと思う」
うん。だってもう役目終わったみたいだし。その役目をクリアしたの俺だしね。
「だが、ランスロットよ。お前の同郷というのは好戦的過ぎやしないか?」
下唇を尖らせたディケンズ候爵が迷惑そうに問い掛ける。
いや……イゴールも相当だったよ?
まあいいや。もう過去の事だしな。
「言っておくけど、ここに来る前の召還者は全員人を殺すどころか切りつけたりとかもした事ない様な奴らだからね。
こっちで酷い体験して性格歪んだり、いきなり力持って調子に乗りすぎちゃったりしてる感じだと思う」
「確かに、アイリスも力を得てからの増長具合は酷いものだった。
ランスロットのお陰で、今や見る影もないがな」
えっ、何々どうなったの?
とブレット王子の言葉が気になってあの王女が如何しているかの先を聞いた。
だがそれを答えたのはライエル君だった。
「いいですか? 驚かないように聞いてくださいね?
まず、敬語を使います!
殴らなくなりました!
自分が悪ければ謝る様になりました! どうです? 凄いでしょう?」
鼻息荒く捲くし立てるライエル君。一つも凄い事は言って居ない。
国王陛下は所在無さ下に小さく「やめよ」と呟いていた。
だが、俺は素直に認めた。
「うん。じゃあ、もう閉じ込めなくてもいいよ。全部任せる。
正直、嫁達も皆強くなっちゃったし、勇者と渡り合えそうなくらいだからね」
「ランスロット殿! まさか、リーゼもその中に入って居るのか!?」
「ええ。エリーゼは凄いですよ。司令塔をやっています」
「なんと……」
と次の言葉が出てこないのか口を動かそうと止めてを続けるアルール男爵。
「ああ、勿論勇者と戦わせる様な真似はしませんよ。
神様の加護を貰っていても、心配過ぎて任せられないし」
「神様の加護とはどういったものなのだ?」
そう問い掛ける陛下。その二つ隣の席でルーフェン子爵がおでこを押さえて『ああ、参った』と言う顔をしている。
きっと経緯を聞いているのだろう。だけど、大丈夫だよ? 言わないよ?
「魔力が二倍になるんですよ。だから魔法の威力が段違いに上がりますね」
「なるほど。だが、何故そなたの妻が加護を貰えたのだ?」
「それは色々ありましてね。
何度も出来ることではありませんし、プライバシーと言う事にさせて貰おうかな」
「そう、か。後世の為にも、聞いておきたい事ではあったが……致し方あるまいな」
と話が上手く纏まったというのに、ルーフェン子爵が自ら話し始めてしまった。
隠したのが自分の為ならば、構わないと。隠す方が問題だと。
まるで謝罪するかのように独白が続く。
彼の言葉は概ね間違っては居なかった。
アダマンタイン討伐報酬の権利貰って、俺からランクと加護を奪ったと言うものだ。
その裏切りに行為によって捨てられたのだと。
ミレイちゃんの言葉なのだから間違っては居ないのだが、これじゃ聞こえが悪すぎる。
アルール男爵が立ち上がり「まさか、リーゼも」と問い掛けてきた。
頷いて返せば相当ショックを受けていた様子だったので弁解の言葉を入れる。
「まず、これは女神からの提案です。俺が自分を犠牲にしてでも嫁を助けたいと思う気持ちを酌んでくれたそうで……」
いらん事しやがって……
「彼女らも命を賭けででも助けたいと思って居てくれていた様でして……」
細部まで話していけば、男爵と子爵を除けば強い納得の意を示した。
そして、ブレット王子とライエル君が口を開いた。
「確かに……あの神話級の戦いは、心を狂わせるほどに凄惨なものであったからな」
「ええ。私には美談に聞こえてなりませんね。これを歌にしても良いでしょうか?」
「やだよ! トラウマになりかけたんだからね? 絶対止めてよ?
てかお前らはクロードさんに説教でもされてろよ!」
目で宰相を追いかければ、彼は茶を啜りまったりしていた。
一度きりの報酬ならば、彼にとってはどうでも良いのだろうな。
ならば俺がしっかり言わねば。あんな身内の恥を歌になんてされたら堪らん。と勇んでいれば今度は義理父さんズに囲まれた。
「も、申し訳ない。こんな言葉では足りぬだろうが……」
「済まなかった。まさか、リーゼがそんな事をするだなんて……」
いやいや、もう気にしてませんから!
「この前もいいましたが、今は結婚に向けての一番幸せな時なので。
皆で仲良くやっているので、心配要らないので!」
「うむ。それは素晴らしき事よな。
して、ランスロットよ。先代皇帝の後始末はどの様になった。
帝国の言っている事はどうにもしっくり来なくてな」
あー、逃げられちゃったもんね。
その失態をもろもろ隠そうとでもしたんだろうな。
HAHAHA! 恥を全てぶちまけてやる!
心の中で暗い笑みを浮かべつつも、何があったのかを事細かに説明していく。
「な、なんだと!? あのアダマンタインの様なボスをまた倒したというのか!?」
「いや、人の自我が入った事で物凄い劣化品になったからそれほど強くは無かったから、そこまで大変でもなかったけどね」
「それにしても、アダマンタインも皇帝が召還した魔物であったのか……」
「あんなのが他にも数体居るなど、それは勇者が幾人も召還される訳だ」
帝国の失態を笑ってやりたかったのだが、話は当然の様に脅威の方へと流れていった。
神獣の縄張りから言って王国はもうアダマンタインが終わったから心配ない筈だと告げた。
そして話し合いを終えて帰路に着いたのだが、再び騒動を告げる知らせが届く事となる。
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