第109話魔戦武闘会⑩


 どうやら帰ってくれない様子な覆面女ユウキ・アカリ。

 それに焦れたアキホが嫌悪感丸出しで口を開いた。


「そうだ。ケンケン、次こいつと当たるんだし殺しちゃってくれません?

 自分が言い出したのだからこいつは殺そうとはしないはずですし。

 そういう状況がどういうものかもそれでわかるでしょう。

 まあ、それで人生終わりですけど……」


 わざと聞こえる様にと大声で発せられた言葉。

 当然その言葉に彼女も黙っては居ない。


「だ、だからそういう風に考えるのを止めろって言ってるの!

 そんなの許される訳ないじゃない! 貴方達本当に日本から来たの!?」

「ハッ! 馬鹿はお前だろ。そういう風に考えるやつは一定数居るんだよ。

 そもそも話し合う気すらない奴らだって居るんだっての見てわかんねぇのか?

 その時の対応を見せて貰おうって言ってるだけ。

 ケンケンに他にやり様があるとか言ったんだろ? 見せてみろよ」


 口調が変わり、ガチギレになったアキホ。

 アキホが可愛くなってくれていて良かった。

 大仏のままでこんな風にキレられたら、止める自信が無い。

 うーむ。こういう雰囲気嫌いだから早く終わって欲しいな。


 そう思って言葉を発した。

「んじゃ、お前もう敵だからバイバイ」と。


「って、ケンヤお前マジかよ……」


 いや、だってさ。このままじゃ埒があかないじゃんか。


「いや、そうなんですけどね。もっと穏便に済ませましょうよ。

 知り合ったばかりですし、きっと話し合えばわかりますって」

「そうよ! 話し合いをするべきだわ!」


 ……お前が言うな。


「いや先ずは見せてくれよ。殺しに掛かる相手を無効化する方法を。

 人にやれって言ったんだし、別に構わないだろ?」

「か、構わない訳ないじゃない! なんでそんな事されないとならないのよ」


 その言葉に対してダイチ君とシュウに言葉を返した。


「とまあ、こんな感じの奴なんだよ。人には言って投げっぱなし。

 相手にするのも馬鹿らしいだろ?」

「言わんとすることはわかる。けど、実際にやっちまったらダメだろ?」

「ええ。回避できるなら回避するべきです。

 きっとこのままいけば彼女も致死性の攻撃してくるでしょうから」


 それに対して「そんな事しないわよ!」と囀る正義マン。


「お前も止めて置けってマジで死ぬぞ? こいつめっちゃ強いからな?」

「関係ないわ。もういい。身を持って教えてあげる。覚悟しなさいよ!」

「はいはい。帰れ帰れ!」


 憤りを露にする彼女にしっしと手を振り、追い返した。


 皆は即座にどうするの!? と詰め寄ってくる。

 そんな彼女達を見渡し口を開く。


「よし、皆、このまま王国行くぞ。帰る準備しろぉ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 いや、相手にするだけ損じゃん。

 あれとの殺し合い見たいの? どっちが死ぬかなんてわからないよ?

 そう問い掛ければ嫁たちは誰も反論しなかった。

 アキホは最初から「それがいいですね」と愉しそうに笑っていた。


「いや、けどお前さ……なんかあの子の事、教育するっぽい感じだったじゃん?」


 ああ、そんな風に取ったのか。そりゃ、友達や嫁ならそうするよ?

 もしくはそうなった原因が俺にあったりこっちに命の危険があったりさ。

 けどあの女はただ突っかかって来ただけの他人じゃん。

 てか、こいつら本当にわかってるのかな?

 あの女と関わるとどういう事になるか……

 ああ、ハーレム持ってるの俺だけだから、二人にとってはそこまで脅威じゃないのか?

 いや、そんな事は無いだろ。それが無くともあれは危険だ。

 なんか俺の危険センサーがダメだと言っている。


「一刻も早くどっか行って欲しかっただけだって。

 あんな話の通じないの傍に置いたら身の破滅だよ?

 お前らも今の状況わかってるでしょ? あれは絶対諍いの種になるよ」


 その言葉に二人はハッとした様に何かに気が付いた。

 そう。この召還勇者が大量に居る時にあんなのを近くに置けば、殺し合いにまた巻き込まれるという事である。

 絶対にヒーローの真似事して敵を作るに決まってる。

 そして、使命だ義務だなんて言って周りを巻き込んでくるのが目に見えてる。


 俺はその状態で二人に問い掛けた。


「大切な人の安全とあの正義マンの教育、秤にかければ当然の結論じゃない?」

「「た、確かに……」」

「ダイチ君もこの国に身を置くなら付き合い方は考えた方が良いと思うよ。

 正直、召還者の人数考えれば、この国だけでもこれで全員って事はないし。

 あー、いや、そうとも言い切れないか……?」

「ああ、神様の余ってる力の分だけって言ってたって話だったな。

 何人かもわからないか」

「いえ、どちらにしても居るつもりで動くべきでしょう。

 僕も良く考えて付き合う事にします」


 そして、俺たちは全員で試合会場を後にした。

 そう言えばと、敵対しない事を条件にシュウにもアクセをプレゼントした。

 よく考えたら、錬金術師持ってれば誰でも作れるものだ。王国だとハルたちやアーミラさんとかサシャちゃんにもあげたし、帝国でも数人にあげてる。

 仮に気が付いて居なかったとしても、それを鑑定でもすれば、すぐに真似できるものだ。

 なので、仲間だと思った奴には恩を売るためにも配っていく方向で行こうと思う。


「うっは、道理で強すぎる訳だぜ。ありがとな」

「おう。魔法もそれで使える様になるが……レラが怒りそうだな……」

「怒るよ! 十分強いのに何であげちゃうんだよ! 使っちゃダメだからね!」


 怒ってピョンピョン跳ねるレラをシュウが微笑ましく見つめた。

 うーむ。これ、微笑ましいか? 『シールド』張るなって言ってんだぞ?

 愛ってすげぇな。

 俺にはうざいとしか思えん。


「それで、本当にこのまま国を出るんですか?」

「いや、一つやり残した事があるんだ。

 大佐の件を片付けてからにしようと思う」

「あー、僕も付き合いましょうか?」

「そうだなぁ……お偉いさんにも引継ぎを説明したいし、一緒に行こうか」

「人手が要るんなら俺も手伝うぜ? これの礼もあるしよ」


 んじゃ、必要はないけど折角だから頼もうかな……

 皆は荷造りして待ってて。


 そう継げて嫁達と別れた。

 そして、俺たち五人で魔導国議会へと向う。

 此処に軍部も隣接されてるから居るはずだ。


 取り合えずでなれた様に受付でバードンさん呼んでと頼み彼と会った。


「おや……もう大会は終わったのですか?」

「ああ、うん。色々あってね。多分そろそろ終わってる頃かな?」


 時計では丁度開始時間過ぎた頃だ。

 ダイチ君が失格になってしまったから、休憩を長めに取った様で丁度この時間だった。

 司会の彼には悪い事をしたかもしれん。

 そんな説明を簡潔に入れてから、ある程度の育成が終了して、仕上げは彼に引き継ぎたいと願い出た。


「と言っても、別に彼を大将にさせろなんて話じゃないからさ。

 俺も降りるし後は彼と話し合いつつ自由にやってよ」

「いや、しかし……それを私が決める訳にも……」


 と言われてしまったので、三賢人の内の二人と話しをした。一人は大会へと赴いているので不在だ。


「――という訳なんだ。彼も神に召還された一人でこの国の防衛を助けてくれるみたいだから」


 大会で大佐に差し向けられた殺し屋のヒャッハー君を殺した事を話し、俺は俺で用事で此処を離れるので代わりになる人材を連れて来たと告げた。


「何と!? 聞いては居たが、一度に複数の勇者を見る日がこようとは……」

「北の魔物程度なら彼一人で殲滅出来るくらいの強さは持っているから、心配はいらないよ。人間性も俺よりもいいから。話しの通じる人だと思うし」


 イケメンちからがあるしね。うん。俺なんかよりよっぽど凄いよ。


「ケンヤさん、それは持ち上げすぎですよ。

 ただ、僕にとっても大切な国です。魔物から守る事に関してはお約束しましょう」

「では、任を変わる報告に来ただけかの?」


 あれ? 好きにやっていいって言ったんだけど……

 その旨をもう一度告げてみたが、三賢人の彼らとしても今の軍のあり方を正したい様子。


「そういう事なら、ダイチ君が大将になって君臨すれば?」

「いやいや、柄じゃないですよ。けど、そうですね。仰る意味は良く分かります。

 まず一人に権力を持たせすぎるのは良くありません。

 軍部を分けては如何でしょうか。

 例えば、左大将、右大将、統括が国議会で国議会でも軍事力を持つ様にすれば……」


 おお。あれか? 天下三分の計みたいな?


「それでは、内乱が起きんかの?」

「それは長い目で見ればどちらにしても起きますよ。その時に権力に目がくらんだ奴が乗っ取る様な事になってしまうのは、出来るだけ避けたい所です。

 その抑止力になればと思ったのですが……」

「確かに。過去にそんな事が起こった時もあった。

 その時は魔導協会の等級の高い者達が助けてくれて難を逃れたが……

 今回もバークレイはもう既に反乱を起こしたと言える状況であるからのぅ。

 あれが乗っ取ったとなれば、仮に魔物の脅威を退けられたしても、国はゆっくりと衰退を辿るじゃろうな」


 国の行く末を話し込んだ。

 と言っても主にダイチ君がだが。俺はそういうの良く分からんし。

 って、そう言えばアリアちゃん何処行った?

 あっ、壁際で敬礼したまま固まってる。

 おいおい、少佐なんだからそこまで恐縮するなよ……


「まあさ、俺たちの言う事を聞けなんて事は言わないから、参考程度に聞いて上手く使ってよ。やっぱり元々統治してた人がやる方がいいだろうし」

「そうですね。他の国を知っているというメリットはありますが、それを真似すれば上手く行くとも限りませんしね」

「そうか。ならば、今しばらくは頑張らんといかんの。その手助け、宜しく頼む」


 あれ? シュウが口を開かない。どうしたんだ?


「俺、こういうの苦手なんだよ。言い過ぎない限りは全部レラに任せてたし」


 言い過ぎない。そんな事が彼女に有り得るのだろうか?

 そんな思いを込めて暇そうに足をぶらぶらさせているレラを横目で見た。


「いや、こういう場ではレラは頼りになるぞ? こいつ頭良いからな。

 それより、大佐の件で来たんじゃねぇの?

 ちんたらしてっと多分あの女追ってくるぞ?」

「そうだよ! シュウの方が僕の事わかってるね。このままじゃ取られちゃうよ?」


 あっ、そうだった。

 その事を説明しに来たのが本題だったわ。

 てかレラ、そういう事冗談でも言うな。勘違いされんだろ。


「そんな訳だから、殺し屋送り込んだ大佐を捕まえて来て良いかな?

 あと悪いんだけど、ダイチ君にも何かあれば事後処理を頼みたい」


 三賢人の二人は当然の様に頷いた。後はダイチ君だと視線を向ける。


「僕も当然問題ありません。この件は僕の事でもありますから。

 正直、魔導協会さえ抑えちゃえばあの人の手勢なんて何一つ脅威になりませんし。

 ケンヤさんさえ良ければ、このまま僕が対応しますよ?」

「いや、それは流石に悪いよ。見方に寄っちゃ俺から喧嘩売ったとも取れる言い方しちゃったし」


 うん。いきなり大将に割り込んだ状態であの態度だったからな。

 だって、国の依頼で来たのに小馬鹿にされて腹立ったんだもん。

 なんて考えて居れば、今なら隣接された軍部に居るでしょうとバードン氏が教えてくれた。


 なので場所だけ聞いて五人でそこに乗り込む。

 アリアちゃんがビクビクしていてちょっと面白い。


「大丈夫だって。俺が一発ガツンとかましてやるから。

 うん。俺居なくなるし大丈夫」


 居なくなるんじゃ大丈夫じゃないだろうと皆から突っ込みを受けつつも、軍の使う建物を登っていった。

 聞けば最上階に居る模様。

 そこは将軍達の場所じゃねぇの? と問い掛けてみれば、使っていないのだからと彼女の代で占拠する様になったらしい。

 中将たちも彼女には逆らえないのか、抗議する様も見た事がないらしい。


 そして、一番立派な部屋の前へとたどり着いた。

 アリアちゃんが居るからか、止められる事もなかった。


「ここですが、ど、どうしましょう……」


 うーん、なんかインパクト欲しいよね。


 俺は取り合えず、とドアを蹴破った。

 

 ドアが吹き飛び、向かいにあったガラス窓をカシャーンと壮大に割り、つかつかと我が物顔で中に入る。


「おいおい、バークレーちゃんよぉ? 突っかかってきたら潰すって言ったよなぁ?

 お望み通り潰しに来てやったぞ。因みに、お前が差し向けた奴はぶっ殺したから」


 そこには、バークレイ大佐だけでなく、ホーク中佐や少佐であろう者も二人居る。

 大佐と中佐でティータイムをして少佐が書類整理をしていた所だ。

 流石牛耳ってるだけはある。自分の仕事を全部部下にやらせている。


 俺の突入の仕方に、皆口をポカンと空けていた。

 そう。みんなだ。レラまでそんな顔するとは思わなかったな。


「おい、なんだ? このままぶっ殺して良いのか?

 潰すって優しく退役させられるくらいで済むだなんて思ってねぇよなぁ?」


 使われていない一番豪華な机を蹴り飛ばすと、壁ごと外に吹き飛んでいく。

 立派な大きな机だっただけにごっそり壁が無くなり、悠々と外を見渡せる様になった。


「ま、待ちなさいっ!! 此処をどこだと思っている!」

「『ストーンウォール』『クリエイトストーン』『音消し』

 ほい、味方は一人もいねぇぞ? どうすんだ? ああ?」


 その場にいる大佐以外の三人を石で固めて『音消し』で喋れなくして詰め寄る。


「ま、待ちなさい。な、何の事かしら?

 ……そう、証拠は? 証拠はあるの? 証拠は!」


 バークレイ大佐は挙動不審になりながらも、証拠が無いだろう事を掲げて自信を取り戻していった。


「ああ? おいおい、証拠持って来れないと思ってんのか?

 よし、じゃあ選ばせてやる。

 証拠持ってきてぶっ殺されんのと、今すぐ捕まって牢屋入るのどっちが良い?

 ああ、ヒントな? 魔導協会」


 最後の魔導協会と言った所でビクリ反応した。

 当然だろう。復活した召還勇者は忘れられている上にまだ復活したばかりなのだ。

 あいつはSS級らしいし、この数日でそこまで駆け上がったのなら、まず間違いなく協会からの仕事をかなりの勢いで受けていたはず。

 それに接点も協会通さなきゃできないだろうしな。

 その言葉に反応を示したのでほぼ確定と言っていいだろう。


「何? やっぱり証拠も無しに来たんじゃない。犯罪者として捕まるのはお前よ!」

「いいかぁ? よーく考えろ? 今回の大会で上位をほぼ俺の陣営が占めた。

 協会はどっちに付くだろうなぁ?

 というか、今この時点で殺しても俺は罪に問われない。

 何故だかわかるか? もう全部話しは通してあるんだよ。

 証拠だってすぐに持ってこれるし戦力でも負けてる。お前はもう詰んでるんだよ。

 それとも、この場で俺と戦ってみるか?」


 彼女は必至に打開策を考えている模様。

 その間にチラリと仲間の方へと視線を送ってみれば、あちゃぁと言わんばかりの顔をしていた。

 あれ? ダメなの? けど、ユミルが被害にあったんだから俺は許さないよ?

 と、大佐の髪の毛を掴んで数歩移動する、部屋の壁が無くなり風通りが良くなって訓練場を見下ろせる。その場所まで連れて来た。


「『ヘルフレイム』『ブリザード』『サンダーレイン』メテ……オはダメだな。範囲が広すぎる」


 素に戻っちゃったのをゴホンと咳払いでごまかし、脅しを続けた。


「ほら、馬鹿なお前でもわかったか? 最初に言ったよな?

 全員連れてきてもいいぞって。もう一度聞くぞ?

 証拠、持ってきて欲しいのか!? どうなんだおいこらぁ!!」


 俺が大佐に教育を施していると、シュウが「これじゃヤクザの追い込みじゃねぇか」と呟いた。

 いや、違うよ? 正当な報復! こっちは命狙われたんだからね?


「わ、わかった。わかったわ。もう手を出さないから……」

「仕方がねぇな……殺すのだけは勘弁してやる。

 だが、俺を殺そうとしたんだ。それ相応の罰は受けてもらうからな」


 そう継げて、アリアちゃんに牢屋がある場所を教えてもらって連行した。

 企みに乗っかっていた中佐も一緒に。

 少佐たちにも一応脅しを掛けてから、開放した。

 これで風通しは良くなっただろう。


「ふぅ。すっきりした」

「あはは、強引にでも僕が代われば良かったですよ。

 これ、どう考えても恐怖政治理論ですよ……」

「いやいや、違うでしょ。戦争戦争。

 というか、あれの所為でユミルが切られたんだぜ。

 俺は嫁を攻撃されたら全力で相手を滅ぼすって決めてるから」

「あー、そう言えばそうだな。ユミルって子、かなり危ない所だったもんな。

 キレるのも納得したけど、豹変しすぎだろ。焦ったわ!」


 その言葉に二人が強く頷く。

 レラは「たまにこうなるんだよ! 困っちゃうよね」と実感の籠もった声を上げた。


「まあさ、俺がむちゃくちゃやって居なくなれば、やりすぎて追放されたんかなぁ?

 見たいになるじゃんか。抑止力にもなって一石二丁!」

「いや、居なくなったら抑止力にはなんねぇだろ?」

「いえ、そうとも言えません。

 これが国議会の手の者の事だと知れれば、軍は好き勝手は出来ないと思い知るでしょう。

 話しの転がし方次第では一応抑止力にはなるかと……」


 おお。適当言ってみたらダイチ君が上手いこと深読みをしてくれた。

 良く分からないけど、そんな感じだ!


「けどよ。軍はどうすんだよ。トップがいきなり居なくなって平気なん?」

「そこはアリアちゃんが纏めれば良いじゃん? 国内最強を倒した女だぜ?」

「ちょーっと待って貰えます? 私がやるんですか!?」

「あれ? ケンヤさん、そっちはノープランでこんな事したんですか?」


 いや、ほら、アリアちゃんがプラン、みたいな?

 てか、その前に実務はアリアちゃんとシャーロットちゃんの所がやってたんだし、大丈夫大丈夫。


「はぁ。事務仕事はどうするんですか……国の中枢規模の仕事ですよ?

 あの少佐の子達凄く怯えちゃってましたし」

「うっ。もうちょっと残って色々手伝った方がいい?」

「いえ。ここからは僕がやりますよ。

 誰が何をやっていたのかは知っているので、説得がちょっと大変そうってくらいですし……

 実際あの大佐は前回も手を焼かされたのでかなりスカッとした所もありますしね。

 僕の時は穏便に退役して頂いたので」


 さっすがぁ! イケメンちから持ってるやつは違うね。

 うんうん。イケメンなんだしこのくらいはやって貰わないと。


「ケンヤさん!? イケメンになったのはお互い様でしょうが!!

 意味の分からない免罪符を振りかざすの、やめて貰えませんか!?」

「だが、カミノの言わんとしてる事はわかる。

 試合の時、いやぁダイチさんマジぱねぇっすわぁ、って思ったもん」

「そうそう。あの『囀るんじゃねぇ』っての、しびれたね!」


 それな!

 と指をピっと向けたシュウと意気投合したが、隣から不穏な空気を感じた。


「もういいです。二人には後で仕返しどうするか考えなきゃ……」

「「ごめん。止めて!」」


 その後、冗談を止めて本当にこのまま任せちゃっていいのと問い掛けたりしてみたが、問題ないからそこまで気にしなくても大丈夫だと返された。

 寧ろイケメンだなんだと言われる方が迷惑だ、と。 

 なので、四人にお別れの挨拶をして嫁たちの所へと戻った。

 ほんの数日しか経っていないので、もう荷造りもとっくに終わっていた。

 乗り物はアキホの作ったメルヘン馬車だ。数台連結されて異常な事になっている。

 

 そして、いざ出発という時になったら、ララたちが引いてみたいと言い出した。

 街中ならそんなにスピード出さないけど……

 この小動物系の四人に引かせるのはちょっと傍目が……


「じゃあ、出るまでは私が引いてやるよ。

 ちょっとどれくらい重いのか気になってたしね」


 と、ラーサが名乗り出てくれて、それに甘える事にした。

 ステータス的には問題無く引けるはずだ。と中に乗り込んでガタゴトと凄い揺れの中、進んでいく。


「結構揺れるな……」

「お兄さんが引いてる時はもっと揺れるからね?

 街中は仕方が無いの!」


 そうか。皆、引いて貰っているのだからと文句を言わず我慢してくれて居た様だ。


 全く、最高の嫁だぜ!

 そんな事を呟いて嫁たちの顔色を伺っていれば、すぐに国外に出た。


 正義マンに見つからなかった事を安堵しつつ、ララたちが引くのを交代して再スタートした。


「これで数時間走るって考えると、結構重いね」

「あー、それは道があれだったからだよ。今引けばって結構揺れてるな」

「道が綺麗に作れないんでしょうね。どうします? 代わりましょうか?」

「いや、頑張ってるみたいだし、そのうち慣れるだろう。どれ、俺も一緒に走ってコツ教えてやろうかな」

「もう、結局私達が引ける様になっても休まないんですね……」


 不満なんだか嬉しいんだか分からない表情のユミルを尻目に外に出て、ララたちと戯れるようにメルヘン馬車を引いた。いや、人力車か。


 さぁ、次はルーフェンだ。ミレイパパが怖い人じゃありません様に……

 そんな願いを込めて移動した。

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