第108話魔戦武闘会⑨

 ダイチ君の戦いを終えて召還勇者の男勢はちょっと意気消沈していたが、逆に現地人は興奮状態という少し不思議な空気になっていた。

 そんな時、大会の進行委員のものが再び尋ねてきた。

 その理由は相手を故意に殺してしまったダイチ君の失格を告げるものだった。


 当然、相手も致死性の攻撃をして来ていたので罪に問うことは無いが、大会実行委員としては、それを是とする訳には行かないので、今回は諦めてくれと言うものだ。

 それにダイチ君もすんなり了承した。

 納得のいかないアリアちゃんが食い下がっていたが、彼がそれを止めた。


「僕はキミを守れればそれで良いんだ。

 情けないけど、正直ケンヤさんにはまだ勝てる気しないしね」

「いや、俺としても助かる。あれ見てて思ったわ。

 俺たちがガチで勝敗を付けるってなると殺し合いするしかないんだって」


 そう。下手に『シールド』や『エクスヒーリング』があるせいで、魔力が切れない限り戦いは終わらない。それこそ重ねて一撃で殺さない限り。

重ねる回数を上げていき調べる事も出来るが、相手が同じことをしてくれない限り、物凄いハンデだ。


「そうだな。

 今までは力のごり押しで殺さなくて済む奴は殺さないって出来たけど、俺たちの場合、お互いに理由のあって引けないってだけでそうなっちまうんだよな」

「てか、皆さん気にし過ぎなんですよ。

 殺そうとして来たらどんな理由があろうともやられて当然。

 それで助けて貰えるなんて思っている奴は甘過ぎなんです」


 そのアキホの言葉に他の全員が同意していた。当たり前ですよねと。

 違うんだ。理屈でそれは俺たちも当然だと思うんだよ。

 ただ、目の前で人が死んだ。

 その事実だけで、どうにかできなかったのかと考えてしまうんだよ。


 そう強く思うものの、ダイチ君を責める言葉みたいになってしまうので言わなかった。


「っと、次が始まる。アリアさん、呼んでるぜ?」

「えっ!? あ、はいっ!!」


 めちゃくちゃ緊張感を漂わせたアリアちゃんがリングへと向う。

 俺は気を取り直して、試合に集中する事にした。


「そう言えば、覆面女はどんな感じなの?」


 全然見てなかった気がする。


「僕も余り見てなかったんですよね。シュウ君は見ました?」

「あー、最初の一戦はな。速攻で決まり過ぎて実力はわからないな」

「二戦目もそうでしたよ。って、出てる人たちの方が適当な件について」


 いや、ほら、盛り上げ役として、みたいな?

 言い訳乙? うん。お疲れ様?

 てか、アキホ、知らない人が居るから虚勢張ってるのかな?

 お口が悪くなってるぞぉ?


「も、申し訳ございません。

 土下座でも何でも致しますのでお許しくださいラース様」

「おう……んじゃ土下座しろ」


 そして、慣れた風にアキホの頭に足を乗せた。


「いやぁ、アリアちゃんマジで緊張してるな。大丈夫かな……」

「え? そのまま観戦!? 流石に僕も引きますよそれは……」

「うわぁ……もうあれだな。アイェェェだな」


 ちょっと何言ってるかわからないぞシュウ。お前忍者ネタ好きだな。

 まあ、俺とアキホの関係はこんな感じなんだよ。

 と言いつつも、観戦出来ないのは流石に可哀そうだから足をどけて座らせた。


「ほらアキホ、頭にゴミ付いてるぞ?」

「もう、貴方はいつも激しいんだからっ!」


 問題ないよアピールをする為にそんな振りをしてみたのだが、逆効果だったみたいだ。何故か嫁達も引いている。

 あれ? どういう事?


 そんな変な空気のまま試合がスタートした。

 その瞬間、覆面女は武器も抜かずに動いた。

 それを迎撃しようとアリアちゃんは『飛翔閃』を飛ばし捲くるが、足が止まっている。上手く捌かれて距離を詰められた。

 彼女も近接だ、別に悪い事じゃない。だがペースは掴まれていた。


「ありゃぁ結構強いな。カミノと当たるのはあの覆面女っぽいな」

「まだアリアさんが戦っているんです。

 責めて口に出さないようにして貰えません?」


 ダイチ君の物言いからもわかるが、覆面女が勝つだろうな。


「アキホ、あれもやっぱり召還勇者かな?」


 俺は、皆に引かれてしまったのでこそこそとアキホと話す事にした。


「ちっ、また増やすんですか」

「おいぃぃ! 話すどころか顔も見てないじゃん? その発言は何処からきたの?」

「日頃の行いですが何か?」

「へぇ? じゃあ、お前は拒否られて良かったんだ?」

「っ!? い……良い訳ないですっ……う、ううぅっ……」

「はい、嘘泣き乙ぅ!」


 あ、あれ? また皆が可笑しな視線を向けているぞ?


 皆の視線が怖いので「ほら、アキホ、目から汁出てんぞ?」と優しく拭ってやる。


「愛してるって十回行ったら許します」

「子供かっ! まあ、愛してるけど?」


 チラチラっ。

 よし、復活したっぽい。てかそもそも嘘泣きだしな。満足したって方が正しいか。

 そんなやり取りをしていたら、いつの間にかアリアちゃんが目の前に居た。


「ま、負けちゃいましたぁぁ」


 あ、ちょっと、アキホの所為でまた見れなかったじゃん!

 

「お、お疲れさま……」


 見れなかったので少し気まずくてフェードアウト気味に労った。

 その様を見たアリアちゃんが自分がダメだったのかと気にしてしまっている様子。

 ヤバイミスチョイスだった。


「ああ、アリアさん、気にしなくていいよ。

 ケンヤさんは嫁さんが泣き出して試合見てられなかったから気まずいだけだから」

「あ、そうでしたか……余りに無様だったのかと……」

「いや、かなり良かったと思うぜ。最後の最後だけは直した方が良いと思うけどな」


 え? 最後何があったの?


「ほら、いいから行くよ」


 と、ラーサにリングの方へと引っ張られた。その道中でさり気なく教えてくれた。

 焦れて普通に切りかかってしまい『パリィ』で弾かれてそのまま終わってしまった様だ。


 ああ、なるほどね。

 何て考えていたら、いつの間にか俺はリングの上に立っていた。


 そして、ラーサとの試合がはじまる。


「ランスさん、試しに遊びなしで本気でやってみてくれないかい?

 いくら差があろうと、手加減される方が悔しいからさ」

「わかった。ただ、フェイントは悔しいよ?」

「いや、使ってみてわかった。あれは必要だ。ドンドン出してくれ」


 その言葉に頷き、開幕早々全力で動き撹乱しつつ近づく。

 ラーサも合わせて動きながら伺う。

 近接同士では定番の前哨戦に良くある『飛翔閃』の撃ち合いだ。

 これはフェイントも何も無いのでお互いに難なく捌く。

 いや、ちょっとラーサは厳しそうかな。レベルは彼女方が上なんだけど、やっぱりこの程度の差ならステータスで大きく勝っちゃうんだな。


 とはいえ彼女は本気を御所望だ。ちょっと意地悪だけど、至近距離『飛翔閃』で攻めるか。


「じゃ、行くよ」と一声掛けて攻撃を掻い潜り二歩踏み込めば攻撃が当たるラインで突如『飛翔閃』を連打する。そうしながらも一歩踏み込んだり、下がったりと判断が難しいラインを攻める。

 そうすると相手が『パリィ』出しそうになり『飛翔閃』の対応に追われる様になりやすい。

 おかげで彼女は後手後手だ。

 同じ事を返せるはずだが、もう一旦守りに入ってしまっている状態。

 至近距離過ぎて身構えてないと『飛翔閃』を喰らってしまう。

 だが、このままではどちらにしてもジリ貧となる。

 だから彼女は引くか真似をするくらいしか道がない。

 そして、真似をするほうを選んでしまった。


 彼女が剣を振る動作に合わせて『瞬動』で踏み込み『パリィ』で弾き、首に剣を添えた。


「くっ、参った。なんだいあれ。あんな正攻法っぽいやり取りもあるんだね。だまし討ちよりよっぽど面白そうだよ」


 ふむ。ラーサは至近距離『飛翔閃』を気に入ったらしい。

 まあ、これはお互いの技量が大きく関係するしな。

 彼女が気に入るのもわかる気がする。 


『勝者、ランスロットぉぉ!

 さぁ、最初は誰も思っても見なかったカードが実現したぞぉぉ!

 お互いに登録したばかりのA+級でありながら、なんとも燃える戦いを見せてくれた。

 最速で決める覆面の彼女ソフィア!

 剣術を見せつけまくったランスロット!

 勝利の女神はどちらに手を差し伸べるのだろうか!?』


 そうして司会の男がまくし立てている間に、覆面の彼女がリングに上がった。

 決勝が一回だけになっちゃったけど、時間はいいのかなと思ったのだが……


「あのダイチって人お仲間よね。

 どうして殺したの? それもあんな残酷なやり方……何考えてるの!」


 彼女は向かい合うと開口一番にそう言った。責める様な声色で問う。


「試合見てて、わからなかったか?

 俺とあいつの彼女を殺しにかかった。殺しの依頼を受けてな。

 それでも同じ事を思うか?」


 少し問い掛け方に苛っときたが、一先ずはと状況の説明を入れた。


「言うわよ! あんな酷い事どうして出来るの!」


 ならもう話す事はないな。この場だけ相手してスルーしとこ。


「そう思うなら、その覆面を取らずに表舞台から去って慎ましく生きるんだな。

 力を持っている奴に殺しに掛かられたらこっちもやるしかない。

 知らない奴のために死んでやるってんなら自分だけでお好きにどうぞだが」


 その言葉に返事は無かった。

 それにしても……決勝をこのまま始めちゃうの?

 と、司会を見てみたら、彼は時計を見て困っていた。 


「それよりお前、まだ呼ばれてないだろ? 

 さっきのは対戦カードを告げただけだし。司会が困ってるぞ」

「……えっ!?」


 と彼女は司会の方へと視線を向けた。

 彼は苦笑いで頭を搔いた。


「あっ、えっと、ご、ごめんなさーい!」


 彼女が大声で謝罪した事で観衆がどっと笑った。

 これは好機と司会の男が口を開く。


『どうやら、フライングに気が付いて頂けたみたいで何よりだぜぇ!

 取り合えずの顔合わせは済んだ様だ! 一旦休憩を取るぜいぃ!』


 その言葉を聞いて俺は観客席へと撤収した。のは良いのだが、覆面女も後ろを付いて来ていた。

 途中で足を止めて問い掛けた。「お前もこっちなのか?」と。

「……まだ話し終わってないから!」と挑発的な態度で腕を組んだ覆面女。


「いや、お前が言葉とめたんじゃん。いいよ。何?」

「だから、殺すのはやりすぎって言ってるの!」

「だから、殺さない様に止めるのどうやったらいいのって言ってるの。

 全部お前が止めてくれるの? 俺たちはやりたくてやってる訳じゃないんだけど」


 と言うか、今その事で微妙な空気なのに、こんなのが付いてきたらさらに酷い状況になる。早々に退散して貰わんとな。


「何で私が……関係ないでしょ?」


 互いに腹立たしげに数秒見詰め合った。

 何を言ってるのかな……そこで突っぱねるのに何で突っかかってくるの?


「……お前何なの? 関係ないんならいいじゃん。ほっとけよ」


 じっと顔を向き合わせる。


「あ、貴方、色々知ってるわよね?」


 少し気まずそうに後ろ頭に手を当てながら問う。

 だがそんな風に突っかかってきて、なおかつ何に対してかも言わない。例え知っていてもそんな奴の質問に答える義理はない。


「いや、何も知らんよ。ほれっ、自分の席に戻れ。

 お前みたいなお花畑ちゃんとは話す気にならんし」

「なっ、なんで!? 人殺しはしてはいけない。普通の事でしょ?

 なんで自分は悪くないみたいな言い方になるの!?」

「ありゃ、どう見ても正当防衛だろ?

 襲ってきた殺人犯に対して何で防衛したの? って聞いてきてんだよ?

 間接的に死ねって言ってるの。そんな奴と口聞きたくないでしょ?」

「そ、そんな事言ってない!」

「はぁ、そもそも覆面して顔隠してる奴にそんな言われてもねぇ……

 お前、人生舐めてるよね。頭大丈夫?」


 俺は、段々と苛々してきて小馬鹿にした口調に変わっていった。


「こ、これは目立つのが嫌だから……別に舐めてる訳じゃ……」

「要するに、自分が嫌なら人に失礼をしても良いって考えなの?

 だから顔を隠して、怪しさ全開で、人に何であんたが死ななかったのぉぉ?

 って聞いちゃうんだ? 最低なのはどっちかなぁ?」

「そんな事言ってないって言ってるでしょ!?

 わかった。取るわよ。取れば良いんでしょ!」


 いや、ちょっと見たいけどね? 俺の希望はそっちじゃないんだ。

 お前をこのまま連れて行ったら俺なんて言われると思う?

『また増やすの?』って言われるんだよ。

 その上ダイチ君の事を責め出すだろうから、カオス状態になるのは間違いないよ?


「いや、いらんからどっか行ってくれない?

 失った信用ってすぐに戻るもんじゃないんだよ。

 大人ならわかる事なんだけどなぁ……まず、謝罪すらしてないしね」

「わかった、悪かったから……謝ってあげるから」

「はっはっはぁ、死ねと変わらない事言ってきて、その謝罪すら上から目線で言っちゃうかぁ。これは追い討ちか何かなのかなぁ?」


 めっちゃ拒絶されてんだし、いい加減自分の席戻ろうよ。

 君を連れて行ったら俺が危険なんだよ……

 此処の角曲がったらもう皆から見えちゃうからね?


 そう思っていたら、バッと頭を下げて覆面を取った。


「すいませんでした。ちゃんと謝ります。だから話を聞かせてください」


 ……粘着されても迷惑だし、拒否るより今相手にした方が楽か。

 黒髪だし、こいつも召還勇者なんだろ?


「はぁぁ。話をするだけならいいが、さっきの言葉はもう言うなよ?

 めっちゃ気にして凹んでたんだから。

 逆恨みで一方的に狙われたあいつは悪くねぇのに……」

「そ、そう……」


 彼女は顔を見せたくないのか、頭を下げたままの姿勢で言葉を返す。 


「てか、顔も上げられないの? 別に顔を上げられない程なら覆面付けていいよ?」

「あ、あなたが失礼だって……」

「いや、それじゃ移動できないじゃん。そんな姿勢で付いてくる方が迷惑じゃね?

 俺後ろ指差されちゃうよ?」


 うん。本当は傍目はどうでも良かったりもするけど、初対面で知らない女がそんな姿勢で後付いてくるとか普通に嫌だわ。


「わかったわ。顔を上げるけど、勘違いしないでくれる?

 言い寄ったりされるのホント困るから……」

「自意識過剰乙。はいはい、触れない触れない」

「その言い回し、やっぱり……」


 と、顔を上げた覆面女はとても美しい少女だった。少し気味が悪いくらいに。


「んじゃ、話だけは聞いてやるから気が済んだら帰れよ」

「本当に何も言わないんだ。それに帰れって……」


 なにやら、少し嬉しそうな様子。

 なので「嬉しいの? もっと言おうか? 今すぐ帰れ!」と真顔で言ってやった。


「ち、ちがっ! 酷いわっ!」


 俺、知ってんだぜ? こういう風に綺麗事押し付けてくるような奴は、ハーレム糾弾して強引に輪を乱そうとしてくるんだ。皆が納得していようとも。

 仕方が無いから嫁はアキホだけ連れて来て話しさせるか。他にシュウとダイチ君が居れば良いだろ。


「んじゃ、召還された奴だけ連れてくるからここで待ってろ。

 お前は目立ちたくないみたいだし、その方がいいだろ?」

「え? あ、うん。すんなり認めるのね……」


 いや、今更言い逃れはお互いできないだろ。ダイチ君たちはそもそも日本名だし。

 こいつはこいつで黒髪美少女であの強さでネットスラングに反応してるし。

 仕方が無いから此処から動くなと伝えて皆に簡潔に事情を説明して召還勇者だけでという話で連れて来た。


 アキホも皆に「追っ払ってやります。任せなさい」と言ってくれたので俺もそれに同意した。

 一応三人には委員長タイプの正義マンぽいから心構え宜しくとだけ伝えた。

 そして、俺たちはご対面した。


「あ、えっと、初めまして。

 わたしはソフィア……は偽名で、ユウキ・アカリって言います」

「はい。僕は知っていると思いますが、イガラシ・ダイチです」

「俺はアカツキ・シュウだ」

「私も名前言わなきゃダメですか?」

「いいんじゃね? 話し聞きたいだけらしいし」


 俺は、本気で塩対応するつもりでいつもなら言わない事を言った。

 少し、アキホも俺の物言いに驚いている。

 あれだろ? どうせ美人なのに可笑しいとか言うんだろ?

 俺はあれだよ? 顔よりフィーリングを気にする男だよ?

 どの口が言う? 仕方なくないですよ? そ、そう……


「それで、話したい事とは何ですか?」

「そ、その……えーと……なんて聞いたらいいんだろう」


 彼女はダイチ君の問い掛けにモジモジとして一向に話を進めてくれない。

 早く終わって欲しいので仕方が無いと俺は助け舟を出した。


「自分の置かれてる状況を尋ねたいんだろ?」

「そ、そうなの。今のこの状況がわからなくて、ずっと混乱してて。

 皆私の事忘れてるし……」

「えっ!? お前、この数日でわかった事それだけ?」


 シュウが呆れていた。

 いや、それは仕方なくね? 神様がやった事の情報なんて何処にもないし。


「え? 何か事情を知っているんですか?」

「いやいや、俺は結構動き回ったぞ? アンデットになってねぇかとか。

 忘れられてるみたいだけど、それ以外に差がないかとか調べてみればチート無くなってるし。

 そもそも俺たち死んだだろ? まずそこに疑問持たないの?」

「え? それは私たちが特別だからでしょ……?」


 あー、そう考えちゃうんだ。

 いやまあ、どちらにしても考えても分からない事ではあるけど。


「まあ、特別ではありますよね。神様に召還されて来たのですから。

 それで話を聞きたいんですね。ですが正直、初対面で信用出来ません。

 とはいえ同郷ですし、差し支えない情報は無償で提供したいと思います。

 貴方に信用に出来るまではその程度で了承してください。いいですか?」

「はい。助かります」


 あっれぇ? 俺の時と対応が違う。めっさ腹立つわ!

 ダイチ君には言えない話だからこそ余計に腹立つわ!

 これがイケメンちからか? 俺帰っていいか?


「まず、僕らが負けたアダマンタインは討伐されました。

 僕らが負けた際、完全に死ぬ直前に神様が回収して回復させてくれた様です。

 どうして皆が自分の事を忘れてしまっているかは、神様が僕らが敗れる度に時間を巻き戻して別の人を召還すると手法を取っていたからですね。

 なので今の生は倒してくれた人と、神様のお陰で貰えたおまけみたいなものです。

 今回限りなそうなので次回は期待しないでください」


 うん。そこら辺は伝えちゃっていいよね。

 このままダイチ君に任せよう。


「思い出して貰う事は……」

「時間を戻したそうですから恐らくですが無理でしょうね」

「その情報はどこから……」

「そこら辺は教えられません。僕らはそれを言わないと約束してます。

 誰から聞いたか言わない代わりにその情報を貰ったのです」


 おお。嘘ではない。ギリギリを突いている。ってやつだな。


「そうですか。私、これから如何したら良いんでしょうか?」


 いやいや、しらねぇよ!

 と思ったら、アキホが俺の代弁をしてくれる様だ。


「知りませんよ。私たちに関わらない所で勝手にすれば良いじゃないですか」

「おいおい、そんな邪険にせんでも……まあ、俺も自由にしたら良いと思うぞ。

 元々何も言われずに呼び出されたんだ。使命なんて無い様なもんだったろ?」


 シュウも入って来た。いいねいいね。

 俺とアキホはフェードアウトするから二人で相手してあげて?

 そんな願いを込めながら傍観を決め込んだ。


「そう……」

「なに? やっぱりお前も恋人が居て忘れられちゃったの?」

「はぁ? 居ないわよ! 作りたくも無いわ! 男なんて怖いし……」

「そ、そうなん? 

 まあ居なかったんなら逆に良かったのか? どうせ忘れられちまった訳だし」


 ……そりゃ怖い存在にもなるわな。

 男だってこんな奴と一緒に居れば相当我慢強くないとキレるからな。

 てか、そろそろ試合だしさ、いい加減座ってゆっくりしたい。俺抜けて良い?

 ん? 対戦相手もここに居る? うん。好きで居るんだしいいんじゃん?


「カミノ、お前めっちゃ親切なのに何でこの子にそこまで冷たいの?」

「いや、その……腹立つ事言われたから」


 イチャもんつけてきたし。

 ハーレム壊そうとしそうで怖い。……本当はこれがメインだ。


「それは、悪かったって謝ったじゃない。

 命を軽く考えているから注意しなきゃって思ったのよ。

 けど、やっぱりダメよ!? もっと違う解決策があったはずだわ!」

「ああ、僕の事でしたか。すみません気を使わせてしまって」

「あー、カミノはそれで怒ってたんか。なんか納得だわ」


 説明をはしょった手前、今更違うよって言い辛い。

 アキホ、どうしたらいい?

 え? なに? こいつうざい? 私も早く向こうに戻りたい?

 うん、戻ろう。


「おいおいおい! 別に茶化してねぇから待てって」


 おいアキホ、どうする?

 シュウのやつ俺が照れちゃってるみたいな勘違いしたぜ?

 ん? 私がガツンと言ってやります?

 え? シュウの方に? それは止めて。お前のガツンは関係壊れるから。

 何でドヤ顔してんの? それ駄目な所だよ?


「そっか。まあ、ユウキもあのハルトとかいう野朗の発言聞いてたんだろ?

 ありゃ無理だぜ?

 生かして置いても大量虐殺して楽しむタイプだ。実際に殺そうとしてたしな。

 俺も前回の時にそれは学んだしよ。

 かなり痛い目みたわ……んな訳で嫌でもやらなきゃならない訳よ」


 え? 何があったの。ちょっと聞きたい。

 けど、これは聞いちゃダメなんだろうなぁ……


「私はずっと軍属で働いていたけどそんな事する必要なかったわよ……?」

「「ええ~!? 馬鹿じゃん?」」


 余りの発言に俺とアキホは声を上げた。


「いや、おかしかねぇだろ? 働かないと食ってけねぇんだから」

「いや、そうだけど。

 念願の異世界来てまでそんな縛られた仕事してるなんてさ」

「そうですよ。まあ、私は生き方がわからず死にはぐってましたが……」


 あははは、お前本当に死にそうだったよな。

 お恵みをって言われた時は素で泣きそうになったわ。

 今では良い笑い話……ちょ、い、痛いっ! 痛いからそれ止めて!


「ケンヤさん、あんた鬼ですか……

 僕も最初は飢える程の思いしましたが、あれ本当に辛いんですよ。絶望感とか。

 因みに僕も軍属ですけど?」


 いや、ダイチ君は女の為じゃん? それは良く分かるし。

 って思っていたらアキホが怒っていた。


「そうです! ケンケンはもうちょっとデリカシーが必要なんです!

 よく言ってくれました。シャーロットあげます」

「僕、もう黙って居ますね……」

「お前ら本当に自由だな。つーかなんの話しだったんだ?

 てか長くなるなら、向こうに行かねぇ?」


 あー、うん。何かもうそれでいい気がして来た。

 こっちの集団に混ぜなければそれで大丈夫だろ。


 と、やってきました我らの応援席。

 外見は美少女なのを連れて来てしまったものだから、嫁達の視線が痛い。


 アキホ君、まずは超拒絶して見せた俺の勇姿を皆に話してくれたまえ。

 何? お前は言ってはならない事を言ったから助けてあげない?

 むう。ならば仕方あるまい、とでも言うと思ったか。早くしろ!

 ほらぁーあくしろよぉ。

 

「むぅぅぅ!! もぅ、仕方ありませんね。ごにょごにょ」


 ちょっと待って俺も聞く。

 よしよし。そうだ! うんうん。なっ? だろ?


 ちゃんと話を聞いていけば、俺が塩対応をした事がしっかりと伝わる内容だった。


「お兄さん、ホントかなぁ? アキホ姉ちゃんに言わせてない?」

「心外です。相当なご褒美でもなければそんな嘘つきませんよ」

「あはは……今ので信用度かなり下がったわね」


 なんて俺たちが盛り上がっている頃、シュウが頑張って彼女と話をしていた。 


「それで、これから如何したらいいかだっけ?」

「え、ええ。前と状況が変わり過ぎててどうして言いかわからなくて。

 貴方たちも召還されてたみたいだから、使命があるのだとばかり思って居たの」

「それで俺たちを発見して話しを聞こうとしたのか……」


 その問い掛けに何度も頷くユウキ。


「んじゃ、自由に異世界満喫すればいいんじゃね?」

「何言ってるのよ。力を持っているんだから、これは世界の為に使うべきだわ!

 ノブレスオブリージュよ! 自分勝手は許さないわ!」


 面倒臭いなこいつ。流石にシュウもあちゃぁって表情が変わった。


 この正義マン。もうやだ。

 嫌悪感丸出しでぶつぶつ言っていれば、ダイチ君が寄ってきて小声で問い掛けてきた。


「あはは、ケンヤさん相当彼女が嫌いな様ですね。

 そんなに酷い物言いだったのですか?」

「あー、うん。あれだよ。

 出来もしない妄言振りかざして人に私が正しいのと説教してくる奴。

 代案も何もかも実行不可能なの。

 昔から嫌いなんだよそういう奴。話してて苛々する」


 人の嫌がる粗を無理やり引き出してる様に見えてホント腹立つ。


「あー、居ますね。割と……

 あれですね。パンが無ければお菓子を食べれば良いじゃないという感じの……」

「そうそう、それそれ。そもそも食べる物がねぇから困ってるんだっての!」

「まあでも日本人の感性のままあれをみたら普通はやめようって言いたくなります。

 僕自身たまに夢に見ますよ。日本人に人殺しって罵られる夢を……」


 や、やめてよぉ。重い重い。

 って、あれ? 何か間接的にダイチ君に慰められない!?

 何か違う! これなんか違う!


 いや、そもそも間が悪かっただけでこいつはそこまで悪くないのか?

 微妙な空気の時に言われたくない言葉で突かれたからイラついただけか?

 いやいや、そもそも皆の為に力を使うべきなんて言ってる時点でアウトだろ。

 付き合ってられん。

 うーむ。それにしてもダイチ君って大人だなぁ……何か負けた感がある。


 あっ、なんかあっちも一段落したっぽい。今がチャンス。


「じゃあ、もう話し終わっただろ。帰れ帰れ!」

「いいえ。貴方達には意識改革が必要だわ!」


 いや、必要なのはお前だよ……付いて来るのは許さないよ?

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