第107話魔戦武闘会⑧
ラーサ対バーンズ戦は予想通りラーサの勝利に終わった。
だが、すぐに決まった訳でも無い。
お互いに力を見せ合うように展開された試合だった。
バーンズも思ったよりやれたし、ラーサもある程度見せる戦い方をしたからだ。
「やるなぁ。ちゃんと空気を読んだ上に綺麗に勝つとは」
「まあね。ランスさんに鍛えてもらったんだ。無様は晒せないよ」
「ぐはっ!?」
「「いや、ディアに言った訳じゃないよ?」」
奇しくも俺とラーサの声が重なった。それが余計に辛かったらしい。
ディアはレラに抱きついて動かなくなってしまった。
「でもこれで二回戦も終わりましたね。ケンヤさんを含めて六人ですか」
「それに私が入ってるなんて信じられません。もう此処がゴールでいい気がします」
「そうよね。軍としては最高の結果じゃない?」
そこにクレイブたちも混ざり「快挙だ」ともろ手を挙げている。
何故か軍人勢が消極的に盛り上がっていた。
「あ、次はご主人様の試合もあるんですよね?」
「おう、ルルも楽しめてるか?」
「はいっ、とっても幸せですっ。ご主人様っ」
ん? どうしたの勇者君たち、何その目。
「いや、嫁にすら、ご主人様とか呼ばせてるんだなぁってよ」
うん? どうして使用人と嫁を見分けられんの……
ああ、ユキたちメイド服のままじゃん。
「悪くはありませんよ? ええ、悪くは……」
え? なに? また俺責められてる!?
「ちょ、違うぞ? 獣人国では養う方をご主人様って言うのが主流なんだってば」
「「えっ!? 獣人!?」」
と、彼らは疑問を呈した。
あ、そう言えば隠させているんだったと、ルルの帽子をちょびっとだけ持ち上げて見せた。
ルルもその言葉を肯定する。
そして俺は反撃に出た。
「そんなに羨ましいなら獣王国行って来いよ。
強いってだけでモッテモテですぐ体許してくれる奴が多いらしいぞ。
うちの嫁は尻軽じゃないがな」
「だから、僕は一筋だと……」
「へぇ……まあ、記憶には留めて置こうかな?」
お、片方が食いついた。チラリとレラに視線を送る。
「じゃあ、シュウ、これ終わったらそっちに行こう!
凄い所あるんでしょ? 『十王の森』だっけ?」
「えっ!? い、いや、えっ!? い、いいけど……別に知識としてだな?」
ふははは、ちょっと思惑と違うがトラップ成功だぜ。
俺を敵に回すとこうなるのだ!
「ケンヤさん、停戦協定を結びましょう。
その風評被害を呼ぶやり方、回避しようがありません」
「うむ。良かろう」
俺は練習している『うむ』を使い、大仰に頷いた。
「ケンケン、本当に引き篭もりニートだったんですか? コミュ力高くね?」
「いや、こっちに来てからだよ。皆の為にヒッキーじゃイカンと頑張ってみたらそれなりには出来ちゃったみたいな?」
うん。まあ、最初に一緒に行動をしていたミラの為だったがそこは伏せておこう。
お、リングの上に司会が戻ってきたぞ。
『さぁ、三回戦の組み合わせが決まったぜぇ。
人数が合わねぇから次を総当りの決勝にするんでそのつもりで宜しくぅ。
取り合えず、午前の部はこれで終わりだ。午後は一時から、遅れんなよ?』
人数くらい、最初に調整してあわせろよ。
まあ、高レベルな戦いの回数増やした方が盛り上がるだろうけどさ……
対戦表は――
ヒャッハー君対ダイチ君
アリアちゃん対覆面女性ソフィア
ラーサ対俺
――となっていた。
「なんだい。ランスさんとかい……
まあ、優勝目指してる訳じゃないし、これはこれでありだね」
「うん。俺としても安心だ。ラーサの今の全力を見せてよ」
そう言葉を返すと少しムッとした表情で「いつか吼えずらかかせてやるからね」とプイっと顔を背けた。
ラーサがプイってやるなんて珍しいな。彼女もテンションが上がっている模様。
「やっと来ましたよ。これは絶対に負けられません。
予想以上にやるようだし、今からでも弓と矢を買ってこようかな……
対人仕様ならやっぱり弓手が一番ですし」
「ああ、貸そうか? 流石にやれないけど、破魔弓あるよ?」
うちではそれを二つ所有している。ひとつはララ。
もう一つは倉庫にずっと眠ってて忘れ去られていた。
アキホが使用人連れてくるついでに、帝国屋敷の倉庫にあるのをごっそり持って来てくれたのだ。
「お、お願いします! 僕、実は弓も結構やってたんですよ」
「単体火力で言えば最強職だもんな。
けど、カミノはそんなピンポイントでここに持って来てんのか?」
「ララ、悪いんだけど借りていいか?
仮に壊れても屋敷にもう一本あるからどうなっても武器がなくなる事は無いから」
「は、はい。ユミルさんの仇、これで討ってください!」
「ちょっとララちゃん? 私は死んでませんよ?」
そうして渡された弓を手にしたダイチ君はニヤリと口端を吊り上げた。
確かに有効だ。弓には軽く『シールド』を突破する『チャージアロー』もある。
魔法の重ね撃ちでもいいが、消費がデカイ為、ここぞという時にしておかないと『マジックバリア』で弾かれてしまい、それを何度も続ければすぐ魔力切れを起こすだろう。
『飛翔閃』だと避けやすいし重ねて居ても『パリィ』でも使えば軽く弾けるだろう。
普通に弾こうとしたら恐らく斬撃は散らせても衝撃で吹き飛ばされるだろうが……
弓の何よりの強みは弾かれてもノックバックがないので攻撃し放題なのだ。
こっちは素手でも弓でも弾けるからそこまでのデメリットにならない。
……あれ? 弓最強じゃね?
ゲーム時は接近されてノックバック攻撃されようものなら成す術が無いのが弓手だったけど、装備制限ないし『パリィ』出来たら弱点なくね?
「俺と当たる時は返してね。俺が使うから」
「汚い。流石カミノ汚い!」
「いやいや、カミノさんたちの物ですからね。僕は言ってませんよ?」
お、パワーバランスが崩れつつあるな。いいぞ。この調子だ!
「あっ、私もう一本取って来ますよ。私のはご主人様に使って欲しいですし」
え? ララちゃん……
いや、同等の条件ならいいか。ちょっと怖いけど。
ってやっぱりダメ!
取りに行くならせめてアキホ連れて行って!
と、ヒャッハー君が何してくるかわからないので念の為止めさせた。
アキホは面倒なので返して貰えばいいと言っている。相変わらず外野に冷たい。
さて、シュウに仕返しをせねば……もう君付けなんてしてやらないんだからなっ!
けど、相手がレラだからなぁ。下手に弄るとブーメランになって返ってきそうだ。
なんでこいつレラなんだろ……めんどくせぇじゃん……
と、ぶつぶつ言っていたら、シュウはしっかり聞いて居た様だ。
「いや、お前の相手も相当じゃね? てか悪かったから止めて?」
「いやいや、俺の嫁は愛らしいよ?」
「そのセリフそのまま返すわ」
ほう。そんなもんか。
まあ、俺もミラの我侭なら大抵の事は許せるしな。
てか、ダイチ君の時にも思ったけど、男の仲間が居るっていいな。
ハルとかブレットは年下過ぎたから保護者感覚が抜けなかったし。
そう呟くとミラに「ランス楽しそう。ちょっと嫉妬する」などと返された。
確かにそうなんだけど、ユミルが無事に帰ってきてくれてほっとしているってのもあるんだよ?
てか、昼飯の時間無くなっちまうな。
「なあ、シュウかダイチ君金渡すから飯買ってきてくれない?
当たりの店知ってそうだし」
他の面子行かせるのは怖いし。
「ああ、いいぜ。けど、何で俺だけ呼び捨てになったん?」
「いや、お前もカミノって呼び捨てじゃん。他意は無いよ?」
ちょっとしか。
「あそっか。了解」とシュウに金を渡して百三十人分頼んだ。
「いや、多くね? 一人で?」
なんて呟いて居たので、兵士から可愛い所を選んで付けた。
ハニートラップである。
だが、彼はしっかりとレラを誘って彼女を中心に話す事でそれを回避した。
なかなかやるな……
「そうだ。任されて居るんだから僕が気を使うべきでしたね」
なんて真面目な彼はマジレスして来たが、緩くいこうぜ?
その提案にダイチ君も喜び、やっと慣れてきたのか皆も会話に混ざるようになってちゃんとした仲間内の空気になっていた。
買出し組みが帰ってきて、昼食を取りながら彼らの前回の話を深く聞いていけば、最終的に魔人国以外は全部滅びた話を再び聞かされ、聞けば聞く程に背中がゾッとした。
「何で守ってやらないの? こんなに愛らしいんだよ?」
とミィの帽子を取ったり被せたりして耳を見せた。
「いやいや、俺一人しかいねぇんだから無理だっつの!
これでも帝国に関しちゃ結構手を回してたんだぜ?
向った時にはもう遅かったけど……」
「ぼ、僕はほぼノータッチでしたね。一番きつい地域の此処を守ってればいいだろうくらいに思ってました。
何の情報も無しに飛ばされたんですよ。まさか滅びるなんて思わないですよ」
「そ、そう言われてみれば、俺も運が良かったとしか言い様が無いかも。クリスマスイベントなんて突発過ぎて到着したら発生から五日も過ぎてたらしいし……」
何て話していれば、ディアが乗ってきた。
「でも、それもカミノさんが皆を鍛えてくれてたから乗り切れたのよ?
将軍も無詠唱リング無かったら無理だったって言ってもん」
「というか、なんだかんだ全世界をぐるぐる回ってたわよね。ランス様って」
「ケンヤはふらふらし過ぎ! もっと腰を落ち着けるべき! 家を継いでくれるべき!」
「う、うん。そうだな。もう召還勇者一杯居るし、任せて隠居しようかな」
そうだよ。きっと問題は起こるだろうけど、俺が対応する必要ないじゃん!
だがエミリー、おまえんちは継がないって決まっただろ!?
「という訳で、頼むね。ダイチ君!」
「えーと、この国に在住するつもりなのでここの事なら……」
だよなぁ。シュウはどうするんだろ。
「ケンケン、いいじゃないですか。ここ住んで面倒事を全て任せてしまえば」
「いやいや、ディアやエミリー、エリーゼ、ミレイの実家だってあるだろ。
逃げられない立場だし、守ってやらないとさ……」
さっき聞けなかったシュウにどうするんだと問い掛けてみた。
「レラ次第だな。どうすんだ?」
「『十王の森』行くんだよ! もう忘れちゃったの?」
「という訳だ。てか、結構強い所だな。レラにはまだきついんじゃないか?」
「舐めないでよ! 僕はSランクだよ?」
なるほど。こいつらが獣王国行くなら、俺たちは王国か帝国だな。
「皆は帝国と王国どっちがいい?」
「あの、ランス様、そういえばね……」
ん? どしたのミレイちゃん……
「実は、リードからアルールに私達だけで移動した時あるでしょ?
あの時に実家からの使いが来て、結婚するなら一度来てくれないかってお父様が……」
「ちょ、そう言う事早く言おうよ!」
「だって、あの時は……ダメになっちゃったって追い返しちゃったし……」
あー、そういう事か……
「次の行き先が決まりました。ルーフェンにします」
「へぇ、久々に王国戻るんだね?」
「うん、久々。王国は私のホーム」
「いや、ミラちゃんは帝国の皇女でしょうが!」
皆を見渡してみて、概ね異論は無さそうに見えるのでそう決定した。
「獣人の皆は久々に一度戻りたいとかある?
もし行きたければそのうちいく場所として頭に入れておくけど……」
そう問い掛ければ、獣人の子達は大きく首を横に振った。
別に一人で行かせたりしないよ? 行くなら一緒だよ?
そう問い掛けてみたが、こっちの方が快適らしい。そりゃそうか。生活水準で言えば、一番低いかも知れんしな。
いや、違うか。貧富の差が一番激しかったんだ。
「すっげぇな。カミノめっちゃ詳しいじゃん。こっち来てどのくらいなんだ?」
「えっと、半年くらいは経ったかな? 数えてないから良くわからない!」
「え? その程度なの? アダマンタイン出てくるの早くね?」
「いえ、確かに出現は早いですが、日付けで言えば僕が召還された日から半年程度ですよ」
そう考えると激動の毎日を送ってるな俺……
「ああ、そう言えばお前らの時先代皇帝はどうなったんだ?
って知らないか。行ったら滅びてたんだもんな」
そして、アダマンタインが早く召還された理由を伝えた。
「え、じゃあもしかしたら僕らの時も影にそいつが居たのかな。
もう死んでるなら別に良いんですけど……」
「てか手足落されてコンクリ詰めにしてNTRとか最悪コンボじゃねぇか」
それでも足りないくらいの悪事したからな。
だから俺も絶対に殺しやら無いって決めてる訳じゃないよ。
あいつが魔物にならなくてもやるつもりだったし。
と、俺はこの世界に来て何度言ったか分からない、自分は聖人ではないという事をしっかり伝えた。
「それ聞いて安心したわ。俺も、自分や仲間の命狙った奴は殺すしな」
「当然ですね。自衛しなきゃいけない世界なんですから。
まあ、それを笠に着るのは論外ですけどね……ああいう輩を許す訳には行きません」
そう言ってダイチ君の目が据わっておこモード入っちゃったので、アリアちゃんを横に付けて宥める様に頼んだ。
兵士達の話題の中心だったアリアちゃんはちょっと疲れて居たみたいだし丁度いいだろう。
そりゃそうだよな。国内最強のSSS級を倒したんだ。
完全に強さを証明したと言える。
これでどうなっても気落ちする事はないだろう。
嫁たちは早くもミレイちゃんの実家がどんな所って話しで盛り上がっている。
俺も行った事ないんだよな。
ゲームの時は簡素な作りだけど大きくて綺麗な町ってイメージだったな。
まあ、それは良いんだ。それは……
「ねぇ、ミレイちゃんのお父さんってどんな人なの?」
「えー、普通かな。うん、普通としか言い様がないわね」
いやいや、それ一番わかんない答えだから!
うん? 怒ると怖い? 普通そうだね?
普通な時は普通? うん、普通そうだね?
「待ってお兄さん、普通って言うのやめない? 逆にわからなくなるよ」
俺じゃないよ。ミレイちゃんだもん!
「だって、特に挙げる特徴が無いんだもの」
「そうですわね。子爵様は良くも悪くも普通ですわ。うちのお父様もですが……」
「エリーゼの所は良いじゃない! なんか親馬鹿っぽくて可愛い感じのお父さんで」
「そうですか? 確かにうちは家族皆仲良しですけど……」
人物像は良く分からなかったが、来いと言っているんだ。反対される訳でもないだろ。
てか、ミレイちゃんはもう家を出ているんだしな。うん。大丈夫大丈夫。
「そもそも、行かなくても良いのよ?
こんな利用するみたいな形で来いなんて失礼だわ!
名が売れるまで見向きもしなかったのに!」
「いやいや、仮に家を出て行ってても、娘の結婚相手くらい見ておきたいでしょ。父親は……」
「甘いわね。絶対に社交界での立場向上を狙っているわよ」
「それは仕方がありませんわ。うちのお父様も喜んでいましたもの。
特にうちは王都から近いのに男爵家で肩身が狭いのですわ……」
などと貴族トークが始まってしまった。
まあ挨拶行くのは当然だし、旦那ってだけで立場向上になるのなら別に構わんよ?
そんな話し合いをしていれば、再び司会の男の声が聞こえて来た。
『さーて、そろそろ三回戦、開始するぜぇぇ! おまえらぁ準備はいいかぁぁ!』
「「「おおおぉ!!」」」
『んじゃ、行くぜぇ。午後一の一戦目はハルト・カトー対ダイチ・イガラシだぁ』
「「「おおおぉ!!」」」
司会の男が何か言うたびにおおおって反応する様になってるな。
もう皆、何となくノリだけで言ってるんだろう……
きっと日頃のストレス発散してんだな。
そんな事を思っていれば呼ばれたダイチ君が立ち上がった。
「じゃあ、言ってくるから」
「はい。お気をつけて……」
少し不安そうに問い掛けるアリアちゃん。
くっつけようとしてたけど、関係が進むのが早いな。記憶、無いんだよね?
って聞いても彼女は何の事かすら分からず首を傾げている。
本当にわからなそうだ。
たった二日で落すとか。もしかしてダイチ君、凄い男だったりするのだろうか?
「ケンケン、始まりましたよ。
これは見て置きましょう。これで殺せるとも限らないんですから」
「お、おう。物騒だな?」
「ええ、物騒です」
お前がな?
って、これは本当にしっかり見ておくか。
とリングに視線を向けてみれば、早速絡んできている様子。
「ちっ、弓手かよ。なりふり構ってられねぇってか?
まあ、それでも俺には届かねぇよ」
「ごちゃごちゃうるせぇよ。殺し合いにピーチクパーチク囀るんじゃねぇ……」
そう言ってダイチ君は真っ直ぐ立ったまま、弓を下に向け構えた。
普段の優しそうな瞳が冷たさを帯びて鋭く尖る。
だ、だれぇぇぇ!? ちょっとカッコいいし。
草食系の癖に何この男らしいイケメンちから。
「僕っ子からのこのギャップ。やりますね。あのダイチって人……」
「だな。なんか普段なよっとした喋り方すんのも有りな気がして来た……」
すげぇ。アキホとシュウまで認めてるし。
皆もワクワクとした感じに試合を見ている。
アリアちゃんは……おおー、ちょっとうっとりしてる。
やるな。計算か!?
いや、違うんだろうな……ダイチ君はそういう事しなそう。
そして、二人は動いた。しょっぱなから『瞬動』全開だ。
動きながらも『スプラッシュアロー』に『チャージアロー』を混ぜて弾幕を張っている。
対するヒャッハー君は雑に避け、被弾しつつも『チャージアロー』だけしっかりと叩き落していた。
弾幕のせいで『飛翔閃』で打ち返す事が出来ないので彼も迂闊に動けない。もし、『スブラッシュアロー』の弾幕の方に当たってしまえば、かなり危険だからだ。
だから今、彼は手数の違いに対応に追われて合間が無い。
ダイチ君結構上手いな。
多少でも接近して『スプラッシュアロー』撃たれたら無視は出来ない。
弓は貫通付くから近距離で全弾喰らえば『シールド』なんて余裕で割れてダメージが入る。
そろそろ焦れて魔法に逃げるだろう。と思えば案の上『エクスプロージョン』を混ぜてきた。
ダイチ君も初弾は半分くらったが、そこからしっかりと避けつつの反撃を入れている。
お互いに食らっては居るが、『シールド』を割られる程のダメージは通らせない。そんな撃ち合いが続いた。
「ちっ、相当鍛えてきやがったな。まあ、それでも足りないがな」
「やはり、囀るんだな。怖いのか?」
上手い。煽り方上手。
此処から見てても良く分かるほどにめっちゃ歯を食いしばってる。
「お遊びは、終わりだ……俺のオーバーフォースを見せてやるぜ!」
何それ……!? 何それっ!?
「俺のオーバーフォースとか……あいつゲームの中なら面白かったかもな……」
「わかります。私も出れば良かった……決め台詞言ってみたい……」
と、召還勇者勢は半分嘲笑の混ざったコメントをしているが、他の皆は不安に駆られた表情をしている。オーバーフォース発言が効いている様だ。
全く意味が分からないのに。
そんな中、彼の攻撃が始まった。
確かに速度が上がった。それだけじゃ無い。移動で振る手と足でついでの様に『飛翔閃』を出している。
正直ダサいが、これはやり辛い。
と言ってもその程度の話だ。決定打になるほどではない。
これの他にも何かあるだろうな。
ダイチ君も警戒し、避けに徹して彼の動きを追っている。
そして、彼はダイチ君が避けて到達する場所を予測して『パワースラッシュ』を放った。見え見えの攻撃だ。ありえない程に。
ダイチ君は当然『パリィ』で弾いた。そして絶好の攻撃タイミングだ。
だが、絶好過ぎた。ダイチ君は『瞬動』を使い彼の死角へと移動する。
その瞬間、ダイチ君の居た場所に大きなクレーターが出来た。
他の魔法とは一線を画す威力。
「なっ!? 何故これを避けられるっ!?」
「『スプラッシュアロー』」
彼の問いに答えず、ダイチ君は至近距離『スプラッシュアロー』を決め、彼のどてっぱらに小さな穴を沢山空けた。
多分、数回分程度だが重ねたな。
「ぎゃぁぁぁああ『エクスヒーリング』『エクスヒーリング』『エクスヒーリング』
はぁ……はぁ……くっそぉ! って……ど、どこだ?」
「上だ。『チャージアロー』」
本当にすぐ上。影で気が付いても良い筈だが、あの激痛はそんな僅かな感覚を追えるほど生易しくない。
上から脳天に放たれた『チャージアロー』。声を発したが、避けられる間は無い。
これで死んだと思われたが、ヒャッハー君は取り合えず移動する事を選んでいて一命を取り留めた。
それでも肩を抉られていたが、今度は見失わずに距離を取り向かい合った。
「て、てめぇも気が付いてやがったか。超魔法の存在を……
くそっ。絶対にぶっ殺してやる」
もう、言葉を返す事を止めたダイチ君。とてもクレバーな目で見据えている。
けど、重ねた魔法を超魔法って……ただ威力が上がってるだけなんだが。
まあ、そこまでおかしくも無いんだけど、自分で付けちゃう所がなんかね……
「あいつは何を言ってるのだ? ただ重ねただけで超とか言って馬鹿なのだ」
ほらー、アンジェにも言われてんぞ?
にしても、ガチの殺し合いだなぁ。ちょっと引くわぁ……
「お兄さんが言わないでよ。私らは何時もお兄さん見て引いてたってば……」
「うん。ケンヤ、自分の命は軽く賭ける。それは駄目な所」
いやいや、軽くないよ? 全然軽くない! いっつも仕方なくやってるの!
っと、動いたっ!
あっ……ヒャッハー君が『ヘルフレイム』撃った。
ユミルのやった奴の重ね撃ちバージョンだな。これはやばいんじゃないか!?
思わず立ち上がりそうになったが、ダイチ君の切り返しを見て安堵した。
しっかりと重ねて『ブリザード』で返していた。それだけじゃない。
炎と冷気のぶつかり合いに紛れて『隠密』を使って移動を始めた。
これは決まったな。あげたブレスレットにも『隠密』付いてるし、アサシン持ってれば多少は上げてあるから割と高レベルの『隠密』になる。
目を離してない俺は目で追えてるけど、ヒャッハー君は見えてないだろ。
案の定、彼はキョロキョロと焦った様に周りを見回していた。
と思ったら、突然ニヤリと口端を吊り上げた。
「『飛翔閃』ヒャッハー! 『ソナー』で見えてんだよ!?」
と、彼がスキルを放ちそう言った瞬間、ダイチ君は空を飛んでいた。
彼の周囲全てを覆う様に『アイスウォール』が放たれ重ねた『エクスプロージョン』が炸裂し、血と氷の雨が降った。
ま、マジか……いや、わかってた事だけど……死んだな。
『しょ、勝者、ダイチ・イガラシ……』
司会の拡声された大人しい声がしんとした会場に響く。
わかって居たと言わんばかりにダイチ君は目を伏せてリングを降りた。
そして、戻ってきた彼を迎えた。
「お疲れ様。こういうのも何だが、悪い」
「いえ、何度も言いましたが、これは僕の戦いでしたので」
申し訳なくて肩に手を置いてみたが、続く言葉は出なかった。
だが、気にしているのは俺とシュウくらいなものだった。
「あの、素敵でした。私を救ってくれてありがとう」
「ああ……また、そう言ってくれるんだね……その言葉に救われたよ。アリアさん」
こんな事は考えるべきでは無いのだろうが、俺は思った。
ああ、こんな時までイケメンはイケメンなんだな。と……
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