第102話魔戦武闘会③


 ダイチ君と共に、祭壇のダンジョンへと移動を開始する。

 一度アリアちゃん達の様子を見て置きたいのだ。


 その道すがら、彼に国から受けた依頼内容を説明した。


「ええ!? アリアさんが部下になったんですか!?」

「ん? アリアちゃんと知り合いなの?」


 話を伺えば、前回の時にお付き合いをしていた相手らしい。


「ああ、なんだよ。俺より適任が居るじゃん! 代わって!!」

「いやいや、僕が受けた話じゃないですし。

 僕の事覚えてないんじゃまたあんな関係になれるかどうかも……」


 そう言ってしょぼくれるダイチ君。

 気持ちはわかる。付き合っていた相手が自分を忘れてるなんてきついよな。


「そうは言っても、他の男に取られたくないなら近くに居てアタックしないとダメじゃん?

 あれくらい可愛ければ、時間が経てば経つほど危ないんじゃない?

 逆にこれはチャンスだと思うけど……」

「そ、そっか。その為に大会に出るつもりだったんだし……

 やります! やらせてください!」


 おお! 面倒事を押し付けられる好機到来!

 しかもウィンウィンだ。

 なので今やらせているやり方を彼に説明して細かい状況なども伝えた。


「……それ、もうやる事ないじゃないですか。僕何したら良いんです?」

「大丈夫。一番の強者でも二百レベルもいってないから。

 バッシブ無しの二百レベルなんて大した事ないだろ?

 チート全開で大会に出る面子を引っ張ってやって一緒に青春すればいいじゃん?」

「あー、二百レベル手前ですか……結構上がっちゃってるんですね。

 まあ、そうか。アリアさん出会った時はもうA+に近いくらいだったし……

 祭壇の間でなら二百八十レベルくらいまでならやれますし、なんとかなるかな」


 え!? そんなもんなの? ちょっとレベル低すぎないか?

 そう思ってそこら辺を話し込んで見たら、俺同様、この世界の面倒ごとに巻き込まれ続け、レベリングに使う時間を余り取れなかったらしい。

「可愛すぎる彼女が出来たらしょうがないよね」と一言入れてみたら、超同意していた。


 それと、彼はレイドボスが出てくる事を想定していなかったみたいだ。

 俺も、出てこない可能性もあると思っていたし。クリスマスイベントまで再現されている辺りでこれ本当に出てくるかもって感じだったからな。


「仕方が無い。嫁以外には殆どあげてないこれを進呈しよう。

 彼女達を鍛える報酬って事でさ」


 と、彼に俺の予備の付与チートアクセをあげた。


 話しを聞いてみれば錬金術師を持ってないらしいからかなり重宝するだろう。

 錬金術師どころか支援も無いみたいだしな。全キャラ埋まっても居ないらしい。

 メインをひたすらカッチカチにするタイプだったみたいだ。

 そのお陰でクランでも支援作るくらいならメインで来いと言われてた様だ。

 それでもダンサーと弓手とアサシンはある程度育てた様だ。

 当然、露店売り様に商人も居るから一つ枠が開いていた感じか。


 そんな彼だからか、渡した物が何かよく分からなかった様子。

 彼は「なんですか? このごっついブレスレットは……」と首をかしげた。


「全ての付与が詰まったアクセサリーだ。知ってるだろ?

 装備数上限が無い世界だって。俺、錬金術師持ってたからさ」

「『鑑定』うひゃっ! ま、マジですか!? え? 本当に貰っちゃっていいの!?」


 口をぱっかり空けて口調すらも崩す様を見て、ニヤリとドヤ顔を決めた。


「ああ、その代わり他の奴らには秘密ね?

 知らん奴に作れとか言い出されても困るし。

 あと俺の嫁には間違っても手を出したり口説いたりしない事。

 それやったら戦争だからね」

「いやいや、僕はアリアさんを全力で口説くつもりですから。

 これは本当に助かりますよ。何かあれば力になりますから!」


 いや、だから面倒事を押し付ける報酬だってば……

 ああ、ウィンウィンだから報酬いらなかったのか。

 まあ、これだけで敵対しなくて済むなら召還者全員に配ってもいいくらい簡単に出来るものだし。

 そんな馬鹿なこと間違ってもしないけど。


 彼に対しては応援したくなっちゃったんだし、仕方ないよね。

 上手く行くかな? ……失恋して闇落ちとかしない事を祈ろう。


 そんなこんなで祭壇の間へと戻って来て見たが、ペースは遅いながらも問題無くやれていた。

 魔物を範囲魔法で殲滅したタイミングで一度皆を集めた。


「あー、先ずは紹介する。彼はダイチ・イガラシだ。君たちの戦闘指南役として連れて来た。俺は嫁と戯れて居たいのでその代わりだな。

 十分勤められる強さを持っているから彼の指示に従ってこの続きをやってくれ。

 何か質問あるかな?」


 その問い掛けに、アリアちゃんが挙手した。


「あの、此処まで状況を整えて頂いたのですし、もしご負担でしたら自分達だけでやりますが……」

「ぼ、僕は全然負担じゃないよ! 大丈夫。ちゃんとやってみせるから。信じて」


 俺が応える前に彼が口を開いたのでそれに追従する形で頷く。


「これから先、ドンドン魔物が強くなる。

 そうなると強い前衛が居ないと敵を受け止められなくて瓦解するだろう。

 訓練で死亡者出すなんてありえないだろ。そうならない為にも彼の力は必要だ」


 そう前置きをして、魔石を一つ入れて倒してとポンポンと等級を上げていく。

 二百九十レベルの魔物まで引き上げて防御バフを彼に掛けて討伐を頼んだ。

 二百八十までやれるなら、付与チートアクセがあるし十レベルくらい上でも問題ないだろう。

 魔物の持っているスキルを鑑みて、二百八十レベルのよりこっちの方が楽なのだ。

 グレーターデーモンさんの迫力に皆圧倒されている。


 ダイチ君はそれと一人向き合い、剣を抜いた。


 先ずはゆっくりと歩いて近づき、敵の攻撃に合わせて『パリィ』を確実に決める。

 その後は定番の『パワースラッシュ』を撃つのだろうなと思われたが、予想外に次の一手は『スラッシュ』だった。

 なんでそれ? と少し首を傾げそうになった所で俺は目を剥いた。

 彼の次に取った行動は再び『スラッシュ』だった。

『スラッシュ』で敵の攻撃を掻い潜る様に三角形を描き飛び回る。

 そのまま敵の死角に入り続け、エンドレス俺のターンを実現し恐ろしいほどの速度で倒しきった。


「……とまあ、こんな感じで強者の戦いってのは見せて貰うだけでもいい経験になる。

 てか、俺がビックリした。やるねぇ、ダイチ君」

「いやいや、これを頂きましたからね。思いの他余裕でした」


 ポカーンと口を半開きで彼を見る兵士たち。

 うん。俺自身驚いたしな。

 俺が教えた手法は攻撃に合わせて『パリィ』『パワースラッシュ』を撃ち相手の攻撃を待つ感じだから一方的な『スラッシュ』の方が断然華がある。

 ゲームじゃ出来なかった事だけど、当然そういうテクニックも出てくるよな。

 うん。面白い。


「じゃあ、そこにある物資は全部自由に使っていいから、あと頼んでいいかな?」

「はい。ってうわっ! これ完突品ポーションじゃないですか。

 ケンヤさんって一体何レベなんですか……」

「いやまあ、そこまでじゃないよ。こっちじゃ実質は分からないしね。

 じゃ悪いけど、北の魔物を余裕で相手に出来るレベルにする事と、その間の救援依頼の方も宜しくね」


 彼の了承を得て、アリアちゃんに救援依頼が来たら彼が対応してくれるんだけど、アリアちゃんが彼の付き添いをしてあげてね。と、おせっかいを焼きつつその場を後にした。


 任せたとは言え、流石に放置して帝国に戻るのも無責任だろうから、嫁と合流してペトラたちを連れてこよう。

 レベルリセットされて慌ててたから、忍びっ子も置いて来ちゃったしな。


 そう考えて『ソナー』を唱えてみれば、赤点が一杯あった。

 どうやら大佐たち、俺を殺そうとしている様だ。

 前もって潰したい所だけど、まだ大義名分がない。

 面倒ごとになる前に嫁達と合流して一度帝国に行きたい所だな。

 けど、どっち行ったんだろ。北か南か……


 此処らへんだとフィールドなら属性竜の山だよな。

 ダンジョンって事もありえる。

 ただ、このレベルのダンジョンとなると面倒な敵も出てくるし、引率して卒なくこなすなら属性竜の方が楽だろう。

 となるとアキホの性格を考えると南だな。

 北を殲滅したら俺つえぇ出来ないじゃないですかとか言い出しそうだし。

 ま、召還勇者がちらほら居るみたいだし、北の魔物はもう既に殲滅されてそうだけどな。


 そうだよ。国が大丈夫なら俺もういいじゃん。

 俺には俺の大仕事があるんだよ! 子孫を残す的な?


 大仕事が控えていて責任感の強い俺は、気が付けば南に向って走っていた。


 南の山の近くで『ソナー』してみれば、案の定リアであろうテイムモンスターの緑点を発見できた。

 場所が合っていた事に一安心して彼女達の狩りを見に行く。

 今回は別に見つかっても構わないので普通に近寄っていった。

 ユーカ、アキホ、ララの隣にさり気なく立ち声を掛けた。


「調子はどうだ?」

「おわぁ! いつから居たんですか!?」


 ララがオーバーリアクションで驚いていたが、ユーカとアキホは差して驚いてない様子で「あ、来たの」程度だ。


「『シールド』張れば良いだけなので危険は一つもありませんね。

 被弾も早々しませんし、リムレンたちとは比べ物にならないくらい有能です」

「でしょでしょ? って私も入ってるよね?」

「……入って無い方がご主人様に一杯構って貰えそうだからララはどっちでもいいかな」


 ララが可愛い事を言うのでちょっと張り切って弓を借りて前衛として戦う皆の敵をアクロバティックに動きスキルでガンガン即殺していく。

 ダイチ君に触発されての行動だ。飛び上がり、頭を地に向けつつ魔物の頭上に矢の雨を降らせてタゲを奪い、『チャージアロー』でノックバックさせて逆に前衛に攻撃させてみたりと色々やってみた。


「ケンケン、それゲームだったらガチで叩かれてますよ」


 で、ですよねぇ。知ってたけどやりたくなっちゃったんだよ……

 と、心の中で言い訳をしつつも言葉を返す。


「うん。知ってる。色々試してみたくなってさ。皆はどう? やり辛いかな?」


 と、問い掛けてみれば反応はまちまちだ。『チャージアロー』のノックバックは好印象だったが、やはりこっちでもタゲを取られるのは困る様だ。

 うん。勉強になった。


「うーん。これは封印だな。

 けど、こういう風に使えるって知っておくのはいざって時に役に立つからさ」


 これはマジで知っておくべき事だ。崩壊しそうな時にフォロー入れられるし。

 まあ、あからさまな時じゃないと結構な判断力がいるが……


「はい! ありがとうございますっ」


 ララはピタッとくっ付いて尻尾をフリフリさせた。

 彼女の耳を優しく撫で付けながら集まって来た皆と情報の共有をする。

 もう既に二人の召還勇者を見つけたという話しだ。


「そのダイチって奴は良い仕事しましたね。

 ついでにシャーロットも持っていって欲しい所です」

「うん。ケンヤ、やっとこっちに戻ってきた。寂しいから一緒が良い」


 いや、半日離れただけだよね?

 まあ、そう言ってくれるのは嬉しい事だけども。

 エミリーも引っ付いて来たので撫で撫でしていたら、後ろからミィとアンジェもくっ付いてきた。

 それを見たモンテやペチが隙を伺っている。ラキは何やら迷っている様子。

 そんなほのぼの空間を切り裂く様に声を上げるディア。


「って、ちょっと待って! なんでレラが来てるの!?

 その勇者とパーティ組んじゃったりしてどんな偶然よ!

 それ、大丈夫なの?」


 と、レラが一人で居たという事に驚いて声を上げていた。


「恐らくはだけど大丈夫だと思う。

 イチャもん付けて来た相手にもかなり気を使った手加減をしてたくらいだし。

 エロい事はされちゃうかもだけど、流石に無理やりはしないだろ」

「そっか。それなら私が口出す所でもないかな」


 うん。流石に今、口を出して引き離すのはなんか違う気がする。

 危なくなったら助けるけど、レラはレラで好きにやればいいと思うし。


「まあ、多分あいつ等も明後日開催される大会に出てくるだろ。

 皆で観戦しに行こうぜ!」


 と伝えてみれば、出たいという声が殺到した。

 だが、懸念事項が頭を過ぎりその声に俺は難色を示す。


「面白そうではあるから少し申し訳ないんだけど、止めて置こう?

 ほら、召還勇者出てくるじゃない? 嫁がやられたら俺頭に来ちゃうしさ」

「あー……なるほど。けど、そんなに強いの? ランス様ほどじゃないでしょ?」


 ミレイちゃんは納得の意を示しつつも、問い掛けた。

 その問いにルルやミラが「当然」と応えたが、実際はどうだか分からない。

 対人戦闘は魔物と戦うのとは訳が違う。

 騙し合いや駆け引きの上手さがものをいう事が多いのだ。


「ダイチ君に限っては倒せる魔物に大きな差があったから俺のほうが強いと思う。

 他の奴らが相手でも、魔力チートがあるから不意打ちじゃない限りは大丈夫だとは思うけど……

 絶対とは言えないな。ランカーとかホント頭おかしいレベルだからな」

「それは私も知ってますけど、結局はアダマンタインに敗れた奴しか居ないんですし、ランカーは召還されて無いんじゃないですか?」


 そうとも限らんだろ。

 だってあれ、皮を剥げば魔法が効くって事を思いつけなきゃかなり無理ゲーだぜ?

 魔法耐性下げるスキルを持つ職業を殆ど持ってれば別だろうが、それでもどれくらい効くのかわからんし。

 皮を剥ぐにもある程度早い段階でそれに気が付かないと魔力持たないだろうし。

 俺のときは妖精の指輪三つ付けて行ったからな。

 ああ、あと付与チートや『心眼』無しでも余裕で死ねたし。


 とは言え、物理は普通に通ったんだよな。

 そう考えてみればそこまで圧倒的な強者は居ない訳だから、その点は安心だな。


「それならランスさまが出れば良いのだ! カッコいい姿見たいのだ!」

「あぁ、それは良い酒の肴になりそうだね」

「カミノさんの対人戦か。すっごくみたいかも!」

「お、お兄ちゃん、ミィも見たい……」


 ぐぬ、何か俺が出る方向で話が進んでいる……

 調子に乗って不意打ちじゃなければ大丈夫とか言うんじゃなかった。

 これで負けたら恥ずかしすぎる。


「あー、うん。気が向いたらね……?

 って、そうだ。それだけじゃなかったんだ!」


 話を変えようなんて思っていたら、重要な事を伝え忘れて居る事に気が付いた。

 大佐が赤点に変わった事を伝えてなかったと、その事を皆に伝えた。

 

「てな訳で多分攻撃される事になるから。

 外に出るときは装備整えて集団行動してね。

 あ、そうだ。

 少し長く滞在する事になりそうだから、ペトラたちも呼ぼうかと思ってたんだ。

 そっちはどうしよう……」


 こっちの世界の奴らなら余裕だし、呼んじゃってもいいかな?

 でも勇者が関わっていた場合、危険だよな……

 いや、それは帝国に置いていても一緒か。

 あっちじゃかなり目立っちゃってるし、変なのがちょっかい掛けてくる可能性もゼロじゃない。

 やっぱり、一緒に居た方がいいかな。


 そんな考えを嫁に話して彼女達の意見を聞いてみた。


「そうですわね。そう考えたら帝国の方にも居て然るべきです。

 ランス様の仰る通りですわ。

 私たちはもう家族の様なものですし、皆一緒に居るのが一番良いでしょう」

「妹をもう危険に晒したくないからそうして欲しい。

 私も少しは強くなったし、今度は守って見せる!」


 エリーゼとラキが賛成の意を示し、他の子達も異論は無い様子。


「じゃあ、二手に分かれようか。国の方にも全員で住める住居用意しろって言ってあるし、そっちの準備とペトラたちを連れてくるのだけど……

 アキホ、また頼んでいいか?」

「……いいけど、対価下さい」


 え? 何が欲しいの?

 ん? デートして欲しい? 二人きりで?


「それは俺も嬉しいし勿論構わないけど、安全になってからな。

 全体を危険に晒してまでは出来ないから」

「むう、他の子達を鍛えるのは急務な気がしてきました」


 ああ、アキホがそれをしてくれると助かるな。


「じゃあ、私が迎えに行って来ます。『ストーンウォール』『クリエイトストーン』」


 お、おお! なんかメルヘンチックな石の馬車が出てきた。

 そう言えば、女神に覚えられるようにして貰ったんだっけ?

 他の皆も出来るの?


「ミィも出来る! けど、形作るの難しい。車作れない……」


 しょぼーんと耳をへたらせるミイ。けど、作れてもミィには引かせたくないな。

 絵面的にはアキホでもかなり微妙なんだけど……


「じゃあ、迎えに行く方をアキホに頼むか。俺は住居の準備をしておくよ。

 後は大佐が襲ってくるであろう話しも付けておくか」


 そうして話が付いて行動を開始した。

 アキホは帝国へ、皆は一先ず宿へ、そこから俺は一人魔導国議会へと脚を向けた。


 到着した先でバードンさんを呼んでもらい、軽く状況を話すとこの前の三人のおじいちゃんを連れて来た。


「やはり、こうなってしもうたか……手間を掛けるのう」


 一番若く見える爺さんが申し訳無さそうに目を伏せた。


「まあ、まだ『カルマの光』に反応が出た段階だから実質あれが罪を犯した訳じゃないけど、反応が出た以上は何らかの形で襲ってくるのは間違いないね」

「ほう、調べられるスキルを持つのか?」

「ああ、うん。『ソナー』ってスキルで調べられるよ」


 と、告げると一番年寄りの爺さんが目を見開いた。


「おぬしは、勇者様だったりしないか?」

「あー、女神に召還されたのは間違いないが、今回は一人じゃなく大勢召還されてるから、そう大層なものでもないけどね……」

「な、なんと……それほどに世界に危機が訪れるのか?」


 彼らはあのブラック集団が前兆だったのかと色々考え込んでいる。

 それを柔らかく否定して、話を進めた。


「一先ずは危機は回避させたから問題ないよ。

 女神も恐らく次は数十年は先だって言っていたし。

 それだけの時間があれば俺たちが何とか出来るはずだし。

 そんな先の事より、大佐の件どうしようか……

 俺、人を殺したりしたくないんだよね。そうなると対処が難しくてさ」


 また物理的教育をしてもいいけど、こっちに命の危険も無くそれをするのはなぁ。


「済まぬが、われらは武力を持っておらぬ。

 おぬしを大将にした事でもう既にこちらに対しても何か画策している様でな……

 巻き込む真似をして申し訳ないとは思って居るのじゃが、他に手立てが思いつかぬでな」


 丁度話が出たので、大将にした理由を聞いてみた。

 普通は臨時の軍事顧問じゃないのかと。

 それでも間違いなく難癖をつけられるらしく、立場が上にしておけば、何かあった時の大義名分が立てやすい。

 強さに置いては悪魔の討伐を見て、絶対的強者だと分かっていたからこうするのが一番負担を掛けなくて済むと考えたらしい。

 絶対的強者って訳でもないんだけどな……


「あー、わかった。

 そういう事なら証拠掴んだら物理的に拘束してくるから、あいつらを牢屋入れる形でいい?」

「うむ。『カルマの光』が反応しておるなら方々を納得させる事も容易かろう。

 そうしてくれると助かるわ」


 彼は力なく微笑み、頭を下げた。

 町の治安の良さや、安全の為にと矢面に立つ彼らを見て、賢人と呼ばれるこの人達は有能かは分からないが、優しい人たちなのだろうと思えた。

 そんな彼らに手を貸すのならちょっとくらい頑張ってもいいかなと素直に思えた。


「いいよいいよ。王国や帝国の方が余程厄介ごと押し付けてきたくらいだし。

 まあ、どっちとも仲良くやってるけど……」


 その後も軽く談笑を交わして、用意して貰った住居までの案内人を用意されてお開きとなった。




 執事服を着たお爺ちゃんに案内して貰い、たどり着いたその場所はまるでホテルの様な建物だった。

 四階建てで少し丸みを帯びた作りではあるが、概ね日本で見るホテルと遜色ない外見だ。


「もしかして、これ全部使っていいの?

 そうだとすると管理するのが大変だな……」


 使用人が居るとはいえ元々本職じゃないユキたちだけで大丈夫だろうか?

 俺、家の管理とかどのくらいの仕事量になるかわからないからなぁ……


「その心配には及びません。使用人も付いておりますので」


 そんな会話を交わしながら中へと入ってみれば、メイドと執事が五名ずつ正面に立ち並び、挨拶をされた。

 軽く言葉を交わすと「何かあればお申し付けください」と仕事に戻って行った。

 お給金とかどのくらい出せばいいのなんて話をしてみれば、それも国から出るから必要ないらしい。


「至れり尽くせりだな。金銭に厳しいらしいけどこんなに大盤振る舞いでいいの?」

「使用人の給金は国からですが、ここは元々はハランド様の私有地でございます。

 魔石の供給だけでなく、国を救ってくれた貴方様にご迷惑をお掛けしてしまった事に大変心を痛めております。

 その謝罪の気持ちと思って頂ければ幸いです」


 えっと……どの爺さんだろ……

 まあ、いいや。あの三人の誰であろうと言う事は変わらない。


「わかりました。ではハランド様にお気持ち頂きましたとお伝えください」


 余りに畏まられたからこちらも思わず丁寧に返して彼と別れた。

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