第96話本物のマッチポンプ。

 俺は今でも信じられない思いで一杯だった。


 端から端まで並べてしまった。何をとはあえて言わん。わかる筈だ。


 これは男の夢だろう? 

 いや、俺だけか?


 いやいや、世の中一杯居るはずだ!

 まるでお馬さんごっこの様に並べられるものなら並べたいと思っている男は。


 そんなこんなでほぼ全員を相手にしてしまい、そわそわしてまだ現実感の無い俺は、対価として働かねばと良く分からない事を考え始めて、必死にマジックポーションの作成に勤しんでいた。


 今はお昼。だが、皆はまだ寝ている。

 ミラたち三人もだ。結局参戦して来た。


 カーチェが「この変態どうにかしろよ!」と部屋に飛び込んできたのが切っ掛けだった。「おわぁぁ!!」と叫び声をあげつつも、こそこそと部屋に入り腰を落ち着けた彼女。

 その後に再び扉が開かれ「私だって我慢してたのに抜け駆け!」と怒り出すミラ。

「焦らなくてもラース様はいつまで立ってもラース様です」と訳の分からない事をいいつつ、堂々と入場したアキホ。

 彼女ら三人も先ほど漸く寝に入った。


 唯一参戦しなかったのはリアだけである。

 だが、彼女もまだ居間には来ていない。チラチラ覗いていたのでまだ寝ているのだろう。


 マジックポーションの作成が終わり、今度は付与チートアクセの作成に移る。

 これは全員分だ。かなりの時間が取られそうだが、丁度いい。

 今俺は働きたい気分なのだ。嫁たちの為に。

 それに全く同じものを大量生産するのは楽だしな。


 それが作り終わり、今度は服をと色々作っていたら、いつの間にか皆が起きだしていた。


 早速、奴隷だった獣人の子達に付与アクセを配った。


 前よりも綺麗な作りになっている。束ねる金具に装飾や宝石で彩り、性能だけでなく見た目も悪くないものへと変貌している。

 これは絶対に売ったりしちゃダメだからと言いつけてみたら「そんな事するはずがありません」と逆に強く言われてしまった。

 嫁たちにも同じように配る。もう既に持っているものにも、外見が良くなったし、古いのは予備にしてくれと渡した。


 そして、お洋服バーゲンタイムへと移行した。

 同種類を十着ずつくらい用意してある。好きな物を適当に持っていって良いと告げたら喧嘩が勃発してしまい、諌めるのに苦労させられた。


「リア、ちょっと付き合ってくれない?」

「うむ! じゃが、なんじゃ?」

「うん。ちょっと世界に異常が無いか見てこようと思って……」


 真っ赤な嘘である。精力剤を取りに行きたいのだ。


「なら私たちも……」と、ユミルが遠慮気味に問う。


 うーん。別に一緒に行っても問題ないよなと、皆に了承の意を示した。


「つ、ついでに精力剤取りに行くから戦闘も出来るぞ。準備しておけよ?」


 一応、途中で却下されても嫌だから先に言っておこう。

 その言葉で戦闘大好きっこ達が部屋へと駆け込んだ。装備を整えているんだろう。


「ちょっと待つのじゃ! だから全員は無理じゃと……」

「ああ、うん。移動は任せろ。でも一緒に居てくれるだろ?」

「う、うむ。何やらどんどんアイデンティティーを削られていく気がするが……」


 た、確かにリアは最強の魔物と言われて居たんだものな。

 戦闘面で負けて移動でも負けてとなったら凹むか。


「じゃあ、リアも鍛えるか? 古代竜であればランクアップ出来るだろ?」

「そうじゃな。じゃが、わらわは魔力さえ貰えれば勝手にやってくるぞ?

 これでもそこらの魔物には遅れを取らぬからな」


 あー、そうか。あの厄介だったブレスとか他にも範囲攻撃もあるしな。


「一人で動くのは皇帝の件が片付いたらにしようか。

 それまでは心配すぎて別行動させたくない」

「んもぉ、主は心配性じゃなぁ。仕方が無いのぉ」


 そんなこんなでべたべたしながらも、カートに色々ぶち込んで準備を終わらせた。嫁達もなれたもので準備が出来たものから勝手にカートに乗って出発を待つ。

 最後に出てきたペトラとブレットが戸締りをして二人仲良く最後部へと乗り込む。 

 どうやら二人はお手々を繋いでいる様子。少し茶化したい気持ちに駆られるが、軽い一言すらも気にしてしまうお年頃。陰ながらこっそり観察する事にしよう。


「じゃあ、行くか。今日は王都の屋敷が使えそうならそっちに泊まろう。

 まだ王都には許可取ってないから耳や尻尾を見られないようにだけ注意してくれ。

 まあ、バレても大丈夫っちゃ大丈夫だけどな」


 その言葉を終わらせると出発したのだが、皇都を出てすぐの事だった。


「あれ? 何だこれ」

「確かに、おかしいですね」


 俺とアキホは地面を見つめた。『ソナー』の赤点が地中を指しているのだ。

 俺が移動、アキホが殲滅を担当していたのだが、『ライトニングボルト』が何も無い所に落ちて意識をしっかりと向ければそんなことになっていた。


「皇帝じゃない?」


 と誰かが言った。

 確かにその可能性はある。だが、この世にはリアの様な魔物も居る。

 無差別に攻撃して良いものかと頭を悩ませた。


 アキホやリアは気にする必要ないと言うが、リアを攻撃した事は俺にとって有り得ない汚点だった。

 それが不可抗力であったとしても。

 また増やすのですかと言われたとしても。


「ちょっと確認できないかなぁ?」

「入り口も分からないなら無理じゃろ。そういったスキルはないのかえ?」

「無いですね。マッピングは基本オートでスキルじゃないですから」


 だよなぁ。

 まあ取り合えず今の所俺達に危険は無いし、放置しよか。

 明日またここ通ってみればいいだろ。

 なんて話をして移動を再開させた。今は兎に角あれが欲しいのだ。

 

 俺達は大迷宮へと向った。

 一緒に行くメンバーは徹夜の覚悟があるメンバー全員だと告げたら、どうやら全員覚悟があるらしい。なのでそのまま向ってしまう事にした。


 俺はそわそわしていた。ハルたちが倒してしまったりとかしていないだろうかと。

 どうして、三個しか拾わなかったのか。どうして、使うことなんて無いと思ったのか。『堕天の昇天』という媚薬は一個も使っていないというのに……


 そう言えば、この存在を教えてなかったな。


「そう言えば、精力剤の反対の媚薬ってのもここで落ちるぞ?

 使わなくて良いけどな?」


 数人がピクリと反応した。そのなかには獣人の子達もいた。

 ほう、覚えておこう。えっちっち子め!


 そうして、俺達は大迷宮深層へと到達した。


「ここが45階層、インキュバスの出るフロアだ。ここと46階層に分かれて狩りをしようと思う。俺とアキホは別々な? 意味は分かるだろ?」


 アキホに問うとごねるかと思いきや満足そうに頷いた。

 なるほど。こいつも媚薬で反応していたな。


「因みに、このフロアは媚薬が出る。この下が精力剤だな。まあ、46階層には俺が行くし、一杯狩りしたい奴はこっちの方がいいんじゃないか? チラチラ」


 一応、全うな理由をつけつつ誰がこっちに残るのかを見た。

 アキホとエリーゼが筆頭にララたち獣人が多く残る様子。

 戦闘大好きっこが釣られるかと思ったのだが、ユミルたちはその上に行きたいと願ってきた。引率無しじゃちょっとレベルが不安だ。ここは適正が百八十レベル上だしな。


「じゃあ、さくっと46階終わらすから、その下は一緒に行こうか」


 と低レベル勢と媚薬に興味ある勢が45階層に残り、残りは全員で深層まで行く事にした。

 そして、取り合えずと46階層で殲滅を始めたのだが……


「くっ……これだけか……」


 結果八個しか落ちなかった。初回の時も拾っておけば良かった。

 誰も没収とか言い出さなかったのは良かったが、もう少し出て欲しかったな……

 まあ、無いよりは良いと人族が中心のパーティーで皆で階層を降りていく。

 今回は俺が支援で司令塔だ。

 ララも居ないしユーカには火力に専念してもらっている。

 

「しかし、ランスさんが指揮するだけでここでも普通にやれるね」

「そうですね。敵の数も出るタイミングもわかりますし」

「命がけって感覚がないわよね。それはそれで良いのかなとも思うけど……でも」

「「「すっごく楽しい」」」


 はいはい。幸せそうで何よりですよ。


「ねぇ、お兄さん、またあれやってよ!」

「ああ! 私も見たいですっ!」

「燃えるね。是非ともやって欲しいもんだ」


 あれって……ああ、ソロのボス戦か。


「いいけど、そう言えば皆は地下墓地のボスやったの?」

「「「――っ!?」」」


 いや、怒ってないよ? 何でそんなにびっくりしてるの?


「ランス、見てたの?」

「いや、場所がそこしかないから行った事は間違いないだろうとは思ってたけど、見ては居ないよ? でも、どうして?」

「見てないならいい!」

「一応倒せましたよ。結構危なかったんですけど、スキル全開放で何とか……」


 そ、そうだよな。よく考えたらかなり危険な事してたんじゃ……

 魔力チート持ってるから全員回復魔法持ってれば余裕だったろうけども、回復使えるのがミラ、ユーカ、ユミルの三人だし。

 まあ、なんにせよ無事で良かった。


「皆愛される者のローブを取り合いしてた。私は大人だから止める側」


 え? また出たの!?

 なるほど。ありがとうミラ。全部わかったよ。


「だって、あれがあればカミノさんが戻って来てくれるって思って……」


 そっか……それで、それはどうなったの? ユーカが燃やした?


「だ、だってあれは良く無い物だよ?」

「そうだな。いい仕事した。あんなの着て街歩かれたら気が気じゃないし」

「ユーカだって最初はMVPだから私が貰うって言ってた癖に……」

「お、お姉ちゃん!」


 などと平和にゆっくり戦闘を続けていけば、いつの間にか50階層のボス部屋前に到達していた。


「楽しんでるといつの間にかだね。まあ、結構時間は経っているけどさ」


 ラーサの何気ない一言に皆で深く納得しつつ、どうしようかと頭を悩ませた。

 多分このまま行ったらエリーゼたちが怒るだろう。見たかったのにと。

 そう思っていたのだが『ソナー』で感知してみれば、二つの赤点がこっちに向っているのが見て取れた。リアとカーチェだろう。皆で向っている様子。

 暫く待っていれば、皆集まって来た。


「そろそろボス部屋だと思って雑談を止めて急いで来ました。

 どうせオラオラするのでしょう? 見せて欲しいです」


 オラオラ言うの止めよう?

 そう言いつつも、今回は爪だと皆が見守る中、俺はボス部屋を駆け巡り全ての攻撃を回避しきり完勝してやった。おらおらぁ!

 アキホの望みどおり、倒した後ゆっくり振り返り魔王のポーズを決めた。

 すると何故か獣人の子達がとろけるようにうっとりして動かなくなってしまった。


 帰りも、獣人の子達には何故か距離を取られてぼそぼそと視線を向けながら噂され続けた。

 むぅ、思っていた反応と違う……


 外に出てみればまだ深夜。まだ皆も元気なようだしこのまま帰ろうかと王国を後にした。


「世界の異常は宜しいんですの?」と徐にエリーゼが問う。

 は? 何の話?

 ……あ、危ない! そうだった!

 えっと、どうしよう。

 別に素直に言っても怒られるほどでもなさそうだけど……


 あっ! そうそう行きで気になった赤点を調べようか。

 そうしよう。

 俺は王様のポーカーフェイスを思い出してゆっくりと答えた。


「うむ。あの魔物の反応が気になってな……」


 今の『うむ』はどうだっただろうか……

 まだ流石に国王ほどの熟練度はないが。

 今度ブレット王子のついでで良いから『うむ講座』でもしてくれないかな?


「ああ、あの地下に居たって奴よね? でも調べようが無いんじゃない?」


 と、ミレイちゃんが問う。

 いや、やろうと思えば何とかなるし、やってみますか。

 と、数時間の移動を経て、皇都近くのあの場所へと戻ってきた。


「『ストーンウォール』『クリエイトストーン』アキホ、これ魔力食うしなんかあったら頼むな」

「了解しました。マイマスター」


 ……うん。ロボット系のヒロインの真似ね?

 別に良いけどさ。わざわざ感情の無い表情をそこまで本気で作らんでも。


「「「「おおっ!」」」」


 巨大ドリルに子供勢であるアンジェ、エミリー、ミィ、ララ、ペチなどが大はしゃぎだ。高速で回り土を撒き散らして奥へ奥へとドリル自体を延ばして行く。

 ドリルに巻き上げられて天から降り注ぐ土に、蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く嫁達。


 彼女達は、離れた場所で迷惑そうな目を向けた。


 わざとじゃないんだよ……ごめんね?


 そして、ドリルが土を撒き散らさなくなった。空洞にたどり着いたという事だ。

 赤い点からは結構離れてしまったが、これで確認に向える。


「んじゃ、どっちが行く?」

「フッ、私が行こう……」

「いや、やっぱり俺が行く。お前問答無用で殺しそうだし……

 やばそうなら『ライト』飛ばすからそれが救援信号って事で頼む」


 アキホの不気味なポーズが不安を煽り、俺は穴の中へと飛び込んだ。

 数十メートル落ちた所で着地に失敗してすっ転んだ。

 ……仕方ないよね。真っ暗で岩だらけだし。


 即座に『ライト』で照らして辺りを見回す。


「ほほう。古代遺跡とな……」


 大きな家紋の様な紋章がずらりと並んだ部屋だった。

 一面が黒く艶光した石で造られている。バルスと言えば崩れるだろうか?

 そんな事を思いつつ、数ある通路の中で一つを選び足を向けた。

 少し、目を輝かせつつも赤点の方向へと歩を進める。


 通路は本当に何も無い。ただ黒曜石を切り取ったかの様なつくりだ。

 そこを抜けたら巨大な空間に出た。上は高くないが、螺旋状に下りる階段が続いている。とはいえ、底が見えない程ではない。

 壮大な作りに、少しわくわくが恐怖と変り『隠密』一式を発動して下りて行く。


 赤点の場所に目を向ければ、忍び装束に身を包んだ女性が何やら石を並べている様子が見て取れた。

 頭上から見れば何をしているのかすぐにわかった。

 魔石で魔法陣を描いているのだ。魔物の骨が積み上げられている場所もある。


 いや、当然それ以上の事は何もわからないのだが……

 取り合えず、なんか危険じゃね? と魔石を何個か抜き取った。


 そして、その女性に近寄り観察する。

 小顔で鋭い目つきをしている。髪を纏め頭の上でお団子を作っている。年は二十代前半ぽい感じだ。

 忍び装束の様な体のラインを出して行くぴっちりとした服を着ている。

 イメージ的には私、戦闘特化なんで体は引き締まっていますよ? 見たら殺しますが。と言われそうな感じだ。

 魔石を取っては並べ、取っては並べとせっせと働いている。


 偶によし、と頷いて満足げだ。

 そして、とうとう全てが繋がろうと言う時、魔石が足りなくなった。

 これは……これは腹立たしいな。よし、抜き取った魔石をあげよう。


 だが、どうやって渡そうか。もう彼女は足りなくなった事に気が付いている。

 そして、移動を始めた。これはいかんと彼女が躓く様に魔石を配置しつつそれを押さえつけた。

 そう。躓いて『なんだよこれ!』とよく見れば魔石だった計画だ。


 そして、彼女は派手に転んだ。

 俺は満足げにその後を見守る。

 だが、彼女は魔石に目を向けない。

 じっと、こっちを見ていた。

 え? これ、攻撃判定!? と驚いていたら彼女が口を開いた。


「き、貴様は……神獣殺し……」


 ……あら、この呼び方はあかんやつや。皇帝の仲間だわ。

 即座に動き後ろから羽交い絞めにして身動きを封じた。

 ふむ、中々こおばしい香り。

 水浴びくらいはするべきだと思うぞ?


「きさっ、キサマッ! やめっ、やめろぉぉぉ!」


 い、いいだろ!? ちょっと匂い嗅いだだけじゃん!


「良い訳あるか! は、離せっ!!」


 ふむ。力は強くないな。

 って良く見れば首筋に見慣れた隷属の印があるな。


「『ディスペル』」


 パキンと音を立てて隷属が解かれた。


「なっ!? 何をした!?」

「いや、お前隷属されてたっぽいから解いただけだよ」

「なにっ!?」


 もしかしたら味方になるかな? そう思って一度離れてみた。

 そして、彼女は視線を彷徨わせると、先ほど躓いた魔石の存在に気が付いた。

 口元を愉快そうに歪ませた。


「はっ! 油断したな! これで貴様は終わりだ!!」


 彼女は笑いながら魔石を取って最後のピースを埋めた。

 八重歯が口からはみ出て見た目にそぐわぬやんちゃな幼子の様な姿に、中々な萌えを見せてくれた。


「八重歯、かわいいね」

「八重歯じゃないっ!!」


「馬鹿にしていられるのは今の内だけだぞ」と彼女はラリルレロ詠唱を始めた。

 え?

 目の前に居るのにそのまま始めちゃう?

 まあ、いいけど。


 それ気持ち悪いんだけどなぁと彼女の目のまえに座り、じっと見つめる。

 彼女は詠唱を続けながらも表情が歪む。

 何故止めないのだと愕然としつつも、もうちょっともうちょっとなのだと……

 そして、詠唱が終わると満面の笑みを浮かべた。


「あはははは! 馬鹿めその余裕が命取りになったなぁ!」

「な、なにっ!? 何が起こると言うのだ!」

「良いだろう、もう抗えないから教えてやる! これは神獣召還の儀式だ!

 幾ら貴様とて準備もなしに相手は出来まい!」


 えっ……それってレイドボスの事だよね?

 マジで? あっぶねぇ……

 これはちょっと洒落にならないので拘束しよう。ガチで。

 即効、石で彼女の全身を包んでみたが、即座に破壊されてしまった。


「あははは、今更焦っても遅いわ!」と元気な様子。


 仕方が無いと再び羽交い絞めにして地上へと向った。

 彼女は向う途中必至に何度も後ろを振り返った。


「ちょ、ちょっと待て! 何故発動しない!!」

「え? それ、俺に聞いちゃう?」

「ぐぬっ……」


 そんなやり取りを挟みつつ、皆の前に連れて行ってミスリルを持ってきて貰いそれで拘束した。

 そして、俺は皆にジト目を向けられた。


 ちょっと待って欲しい。


 全力で嫁達に事情を説明した。

 魔石を抜き取っておいたり転ばせたりと、笑いを取ろうと必死に話したが、忍び装束の子が顔を真っ赤にさせただけだった。


「事情はわかりました。殺す前に情報をという事ですね? マイマスター」

「いや、殺さないし。情報は欲しいけど」

「いやいやランスさん、先代皇帝の手先の魔物なんだろ?」

「そうです! 何故生かしておく必要があるのです!」


 だって……隷属されてたんだよ?

 まずはどんな子で、どうしてこうなったのかを知るべきじゃん?


「そう、でしたわね。魔物とて隷属で縛られていたのなら情状酌量の余地はありますわね」

「はっ! 何を勝手な事を……貴様らは皆殺しだ! 絶対に許さんぞっ」


 はぁ……仕方が無い。

 カーチェが心変わりしたらと思って持ち歩いているあれを使うしかないか……

 俺は首を傾げるカーチェをスルーして懐から上位スケルトンさんの骨を取り出した。


「『グラビティフィールド』『戒めの鎖』」


 よし。問題無く掛かったな。


「べ、別にお前ならもう隷属されてもいいけどよ……持ち歩くなよ……」

「えっ!? 実はもう一つあるんだ。いいかな?」

「えっ!? や、やっぱりダメ! うん。ほら、どっちにしても変らないだろ?」


 まあね。っと今はそっちじゃねぇよ。


「お前、名前は?」

「……犬だ」


 ……可哀そうに。よしよし。


「きさまぁぁ! 絶対にぶっ殺してやる!」

「待て待て、俺自身がお前にどれほどの事をした」

「抱きついて匂い嗅いで私の仕事の邪魔をした。挙句の果てに隷属だ」

「……ご、ごめんね?」


 皆の見る目がなにやら呆れたものに。

 どうやら俺はさっきのボス戦で稼いだポイントを消費してしまった様子。

 ここは一刻も早く帰り、話し合いを終わらせて彼女を解放せねば。

 その旨を皆に話して屋敷へと帰還した。

 彼女にも取り合えずと部屋を与えて、この屋敷から逃げる事と攻撃する事を禁じて、他は自由にしてていいよと放置した。


 暫しの仮眠を挟んで朝市からエミリーにちょっと走って貰い、今回は将軍に来てもらった。

 アンジェを筆頭に興味が無い勢はお部屋で睡眠中だ。実は俺ももう寝たい。


「キミは本当に仕事が速いね。追いつかないよ……」

「向こうから来るんですよ……もっとゆっくりしたいのに」

「なるほど。お互いに辛い立場という事か。では、話して貰えるかな?」


 将軍にわかっていることを話す。

 この魔物が皇帝の手下だという事。隷属を破棄しこちらが隷属をしたという事。

 レイドボスの召還を行おうとしていた事。


「そ、それは、リードを更地に変えたっていうあれだよね……?」

「ええ。下手したらここが更地になっていたでしょうね……すぐそこでしたし」

「は、ははは……笑えなすぎて笑えてくるね……」


 そして、俺は早速忍び装束の子を将軍に渡そうと告げてみたが、そう言えば俺は『譲渡』が使えないのだった。


「どちらにしても、キミが傍に置いておくべきじゃないかな。

 こちらは王国の対応に力を入れるべきなのだろう?」

「いやいや、彼女が証明に……ならないか」

「ああ、そっちはもう心配ないよ。

 ブラックの大量出現が先代皇帝の仕業って事にしてあるからね。

 恐らくは本当にそうだろうしね」


 なるほど。

 確かに……「ねぇ、それ、皇帝の仕業って事でいいの?」と忍びっ子に問い掛けてみた。


「ふん、何故私に聞く。

 まあ、ブラックの軍勢を人の皇帝如きが操れる訳あるまい?

 はっ! 全ては我らの王の御技だというのに、馬鹿な奴らだ」


 自白、ありがとう。


「実際にそうだったみたいだね。因みに、キミは隷属されていたのだろう?

 何があって彼に従うと決めたんだい?」

「ああ、これは命令ね。悪いけど嫌でも話してくれる?」

「ああ、良いだろう! 貴様らの非道な行いを知るがいい!」


 彼女は、鬱憤を叩きつけるように怒気を発しながら言葉を続けた。

 自分の集落を滅ぼした人族の話を。

 彼女達の集落は、知性あるワーウルフたちが作った村だったようだ。

 話を聞いている限りだと、魔物と言うより亜人という風に取れた。

 人とも交流を持ち、取引をよくしていたのだと言う。

 だがある日、この国の軍が攻め入って来て、悪戯に殺しまわり村は滅びたそうだ。

 

「ちょ、ちょっとちょっと? 将軍、そんな事したの?」

「……馬鹿を言わないでくれ。

 知性があり、人と友好な取引する者を我らは敵と捉えない。

 歴史を見れば不幸な行き違いが一度も無かったと言えば嘘になるが、少なくとも私は関係していないよ?

 それは何処の地域の話しだい?」

「はっ、今度は嘘か……ここのすぐ西の話しだ!

 この町の奴が知らん訳が無いだろうが!!」


 あれ……ここ、皇帝が治めていたんだよね……これ皇帝の自作自演じゃね?

 恨ませた本人に手駒に使われるとか……

 彼女の怒りが度を越して涙を滲ませる様を見て、皆悲しげに目を伏せた。


「一応、俺達が知る全てを伝える。

 多分信じられないだろうから、本人に聞いて来いよ。

 きっとあいつ馬鹿だから自慢げに話すだろうし」


 忍びっ子にお前の王はこの国の先代皇帝だという事を教えて、彼のして来た事を告げた。


「何を馬鹿な事を……子供だましもいい加減にしろ! 殺すなら、殺せばいい!」

「信じないよなぁ……

 取り合えず、お前の王に聞いて来いよ。話し聞けたら戻って来い」

「なっ! それに何の意味がある!」


 まるっきり信じていない彼女は怒りを露にしながらも憤る。

 彼女の頭に手を当てて魔力を流し込み、命令だから行って来いと告げる。

 悔しそうに歯を食いしばりながらも、忍びっこは屋敷を出て行った。


「良かったのかい? あの子、殺されるよ?」


 将軍は視線を強めてこちらに問いかけた。


「いやいや、追いかけるに決まってるじゃないですか。

 忍びっ子と一緒に足蹴にしたいんですよ。アキホ準備はいいか?」

「ええ。今回は私が行くので絶対に逃がしません」

「えっと、俺だけじゃ逃げられるみたいに言うの止めてくれない?」


 他に何か聞きたい事があれば彼女達に聞いてくれと将軍に告げて、俺はアキホを抱き上げて移動を開始した。


「ふふふ! 何度されてもいいですね。役得です」


 そう言えばこいつを持ち運ぶ必要ないな。けど、嬉しそうだしいいか。


「お前は緊張感ないよな。じゃあ、俺も気楽に構えて行こうかね」


 と、こっそり彼女の後を付けて皇帝の所まで案内してもらう作戦を開始した。

 結構な時間を掛けての移動となったが、漸く目的地であろう場所に到着する。 


 そこは妖精の国の向こう側。カーチェが連れ去られた場所の近くだった。

 小さな泉と朽ち果てた神殿があり、神殿の内部に隠された地下に下りる階段があった。

 忍びっ子と共に地下に入り進んで行く。そしてたどり着いた最奥には玉座、というか海賊の船長とかが座りそうな趣味の悪い椅子があり、壁際にミノタウルスの上位である、グレートミノタウロスがずらりと並んでいた。


 忍びっ子が勝手知ったると中へと進み膝をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る