第94話……死んじゃう。

 何故、居ない。


 俺は、待ち合わせの日時にリアとカーチェが魔人国周辺に居ない事を知り、どんな行動を取るべきか考えを張り巡らせた。


 取り合えずカートに皆を乗せて帝国の屋敷へと向おう。

 彼女たちが用事があるとすれば、頼んだディアたちの実家か帝国の屋敷くらいだ。

 であれば『ソナー』を使いながらそっちに走れば合流出来る可能性は高い。


 問題はすれ違いで王国方面から飛んできた場合だ。いや、取り敢えずは帝国へと戻ろう。


 連絡役を置きたい所だが……

 ああ、アキホに取り合えず残ってもらうか。

 道が作れないからカートは無理だが、単体なら俺と同等の速度で移動できる。


 そう思って半日待っていてくれと頼んでみれば、問題無く了承を貰った。

 リアたちも、それ以上遅れたのならば、帝国の屋敷を見に行くだろう。


 そして、他の皆を引き連れて帝国まで戻ってきたが、その途中二人が見つかる事はなかった。

 一応将軍の所に向かい、変わった事が無かったか黒いドラゴンの目撃証言はないかと尋ねたが、それもないらしい。

 そうなると、行き先がわからない。だが、じっとしても居られないのでディアの実家方面を走り、王国北を回ってみたが、結局みつからなかった。不安に駆られながらも一度帝国に戻ってみれば、リアの反応が『ソナー』で確認された。

 思い切り安堵して、彼女の所へと走る。


 心配掛けやがってと結構頭に来ていたが、彼女の姿を見たとたん、全てが引いた。


 傷だらけ、という言葉では生ぬるい。


 体中を引き裂かれ、腕を失い、片足も引きずっていた。

 即座に『エクスヒーリング』を掛けて近づいた。


「リア!! 何があった!?」

「っ!? あ、主っ!? すまぬ、すまぬ……カーチェが攫われてしもうた……」


 なっ!? 


「場所は!? 場所はわかるか!?」

「すまぬ、方角しかわからぬ。銀髪の男が現れ、カーチェを攫っていったので追いかけたのじゃが、この有様じゃ……相手にもならんかった……恐らく、向った先は妖精の国、ドワーフが住むと言われる山じゃ。頼む、手を貸してくれっ」

「当たり前だ!! いや、リアは悪いが、魔人国へ行き外で待機して貰っているアキホと合流。抱えてもらって彼女と一緒にそこを目指せ。あいつが最強だ。道案内をしてやって欲しい」

「すまぬ。心得た」

「リア、無事で良かった。すまない。辛い思いをさせた。

 俺が今すぐに向う。だから、大丈夫だ。だからもしものフォロー頼むな?」


 五秒ほどハグをして、彼女と別れ、道すがらにある屋敷にて警戒態勢を敷かせた。

 リアを簡単に瀕死に追い込むやからだ。敵わないだろうが、それでも伝えずには居られなかった。

 

「頼んだぞ! あいつを救いに行ってくる!」

「任されました。お気をつけて」


 心配そうに見つめる彼女たちを俺も同じ目で見ていただろう。

 それを振りきり猛ダッシュした。

 リアの話だと、カーチェは攫われたのだ。殺せる状況下でありながら。


 ならば生きている。


 何か必要があって攫ったのだ。

 取り合えず何でもいい、すぐ助けにいくから生きていてくれ。

 そう願い、ひたすら走った。『瞬動』を使いながら。

 幸い、リードに向うのと大体同じ距離だ。

 だが、あの時と同じように使えば魔力が枯渇してしまうだろう。

 だからレベルダウン前に作ったマジックポーションを飲みながら走り続けた。


 そして、妖精の国が見えてきた『ソナー』で敵を感知すれば、ここも魔物の大群がいた。苛立ちが募る。ここもかと。

 正直構っていられない。嫁の危機なのだ。

 群れに突っ込み、出来る限り切捨てながらカーチェがいない事を確認して次の赤い点へと進んでいく。カーチェをテイムしておけば良かった。

 焦燥に駆られながら魔物の反応場所へと行って潰していく。


 そこで、初めて入る区域に到達した。

 ドワーフが人口的な洞窟を掘り、暮らす山だ。半分裸で半分森となっている。

 幸い、赤点はそこには無かったから素通りできた。そして、山を少し越えた泉の畔で赤点を二つ確認した。

 きっとあれだ。他に赤点が無い中、二つだけ光っていたから。

 ならばまだ生きている。更に加速してその場へと到達した。


 居たっ!! ――っ!!


 そこで見たものは、裸に剥かれて半身を氷付けにされたカーチェの姿だった。

 頭に血が上りすぎて血管がぶち切れそうになった。

 マジックポーションを煽りながら突っ込み、カーチェに『マジックシールド』を掛けて『フレアバースト』で氷を溶かし、落ちてくる彼女を『エクスヒーリング』で癒しながら抱きとめた。

 その瞬間背後に影を感じ、感で回し蹴りを放った。その衝撃で「あぐっ」っとカーチェの呻く声が聞こえた。力を入れすぎたか?


「ぐはっ、貴様っ! 許さぬぞっ!

 余のものに手を出しただけでなく、余を足蹴にしおったな……

 思いつく限りに惨めに殺してくれようぞ!」

「黙れ、こっちのセリフだ。お前は殺す。何があっても殺す。

 俺のカーチェをあんな目に合わせてタダで死ねると思うなよ!?」


 優しくカーチェを地面に寝かせようとしたが、意識を取り戻して居たようだ。

 赤い顔で胸を隠していた。

 上着を着せて彼女を座らせ、銀髪のイカレ野朗と向き合った。


「俺の? くはっ、くはははは、良かろう。面白い余興を思いついたわ。

 エカテリーナよ、皇家グラヌスの名を持って命じる。余の元へ来い。余を求めよ」

「いや、嫌だっ! か、体が、くそっ、意識が……」


 カーチェの胸に赤い円が浮かび上がり、細かな魔法人を描き薄く光を放っている。


「『ディスペル』ちっ、『ディスペル』!

 ちっ、ああ、そうか。てめぇが先代の方々で馬鹿だと言われたクソ皇帝か。

 確かに馬鹿で卑怯でクソ野朗だな。殺し甲斐がある」



 重ねても、ダメなのかよ!? よし、殺そう。

『スワンプ』『瞬動』からの『アースバインド』『スラッシュ』で首を切り裂いた。と、思ったが、その瞬間姿が消えた。意識を景色から『ソナー』赤点に向けて予測回避を試みる。『瞬動』移動した瞬間、居た場所に鋭い蹴りが放たれた。


「貴様……わかったぞ、犬が言っておった神獣殺しか。だが、幾ら貴様が強くとも、余は殺せぬぞ? 『瞬動』など『影移動』に比べれば児戯よ」

「流石稀代の虚けだな。問答はいい、さっさと死ね」


 カーチェが苦しんでいる。時間をかける訳には行かない。

 マジックポーションを二本同時に煽り、『アイスウォール』で完全に封鎖して『ファイアーアロー』を放ち、構えを取りながら再び赤点に意識を集中した。


 着弾手前で案の定、氷の中の奴の姿が消えた。


 消えた瞬間、意識を『ソナー』の感知へと向けて、赤点が指す方向へと『瞬動』『バッシュ』を放った。


「捕らえた」

「な、何っ!? ぐはぁぁ……き、きさまぁぁぁ『影移動』『影移動』『影移動』」


 袈裟切りで胸を切り開いてやったが、まだ、余裕で動ける様子。『瞬動』で肉薄し『スラッシュ』と『バッシュ』で追撃を行ったが、ふと赤点の位置が地中に変った。

 油断した。そこまでの長距離移動は出来ないと思っていたらまさか地中に逃げるとは……


「なっ!? くっそっ! 逃がさねぇっての!!」


 確実にどこかに入り口はある。いや、ぶっ壊して取り合えず埋めるか?

 どっちにしてもぶっ殺す。それだけが頭を支配しそうになった時「待ってぇ、行かないで……」と声が聞こえた。


 視線を向ければ、地面に座り込み、こちらに手を伸ばすカーチェの姿があった。

 もう苦しそうな様子もない。その様をみて少し気持ちが収まった。


「来てくれてありがと。怖かった……」

「カ、カーチェ!! もう、平気なのか?」

「ああ、大丈夫になった。ごめん」

「いい。無事ならいいんだ。よかったぁぁぁ」


 そうだ。あんなクソの命より、カーチェの安全確保。

 カーチェを避難させてからだ。

 命令権なんて持ってるんじゃ、死ねなんて言われたらどうしようもない。

 幸い、離れれば大丈夫な様だから、取り合えず戻ろう。


「取り合えず、即効で帰って綺麗綺麗しような。一杯今日は可愛がるから覚悟しろよ?」

「ばっ! こ、こんな時までそれかよ……

 別に嫌じゃねぇけど……せめて帰ってから言えよ!

 ばかっ……」


 よかった。この反応は多分何もされていない……はず。

 なんにせよ、移動しよう。

 カーチェを抱き上げて『ソナー』で周囲を確認しつつ、移動を開始した。方角的には魔人国方面だ。リアに俺がカーチェを連れて帰って来た事を知らせる必要がある。


「……ほ、本当に私の為でも駆けつけてくれるんだな?」

「当たり前だ。帝国の屋敷から二時間で着くほど全力疾走だっての」

「ありがと。だ、大好き……」

「――っ!? 今日は一杯可愛がるからな!」

「そ、それは聞いたっての!! そんなに頑張るなよ……死んじゃう」


 くっ、こいつは天才か? くっそう。くっそう。

 まず格好が良くないよ。

 俺のシャツを一枚着ているだけだから、色々チラチラ見えてるんだよ!

 そんな事には気がついていませんって感じで顔を隠して死んじゃうとか恥ずかしがられたら俺の方が死んじゃうっての!


 あっ、そうだ。妖精の国の援護ちょっとしてやらないと不味いな。

 魔物のレベルが宜しくなかった。


 少し方角を変えてエルフの森から魔物の赤点へと走る。

 そして、遠距離攻撃をしているジェシカたちの姿が見えた。

 初めて見る程にエルフが集まっている。他種族もだ。


「おい! 援護する、近接で戦ってる奴は居るか?」

「はぁ!? あんたどっから……って今はそうじゃないか。居ないわっ、あれは近づいたら危険よ」

「わかった。後は任せろ」


 すれ違い様にジェシカにそう告げて走り抜けた。


「はぁ!? ほ、ホントに? って行っちゃった……」


 確か、二百二十レベルくらいだったかな?

 ブラックウィンドコンドル

 風範囲魔法を使う面倒な奴だ。

 だが、あれが雑魚過ぎたから魔力はまだ多少余ってる。

 

『飛翔閃』を広げるように三十発ほど放ち割れた群れの中心に入り『ウォークライ』を放ち、カーチェに『ディスペル』を掛けた。範囲のヘイトを集めるスキルだ。

 何やら無差別っぽいので、この世界では使わないようにしていた。

 

「なぁ、なんかちょっといらっときたけど、スキルか?」

「ああ。魔力少ないから節約の為にな。頼むから嫌いになったりしないでくれよ?」

「な、なるわけないだろ……ばか」


 大丈夫そうだ。っとそろそろいい感じに一直線に伸びたな。

『飛翔閃』今度は範囲を狭くして三十発。

 これ以上は魔力を消費したくない所だが、ほぼほぼ倒せたな。


 後は、範囲打つ前に接近して首でも折ってやればっと。


「お、降ろせばいいだろ……」

「ヤダ。どれだけ心配したと思ってんだ馬鹿野朗!」

「うっ、ごめんなさい」


 あら珍しい。

 よし、後は魔人国に向って走るだけだ。


 そうして、丁度帝国を超えた辺りでリアの反応が凄い速度で近づいてきた。

 

「らーすさまぁぁぁ、ごぶじですかぁぁぁ」


 ああ、あっちも元気そうで何より。

 これ以上進んでも戻るだけだから足を止めてアキホを待った。

 無事に合流して、俺はアキホに告げた。


「急いで戻る必要が出来た。帝国の屋敷に戻るぞ!」

「はい。わかりました」


 落ち合って早々に動き出し、全速力で帝国に戻った。


 そして、無事に着いたは良いものの俺はリアに怒られる事となってしまった。

 急いだ理由がただカーチェとやりたかっただけだった為に。


 アキホには何故か「その性欲、尊いです」と言われた。

 意味がわからんが、さすがアキホだ。


 カーチェを部屋に連れ込もうとしたら、リアに「説明が先じゃ。まったく主は……」とちょっとしたお小言を貰いつつ皆に今回の騒動を説明していく。


「とうとう出てきた。先代の皇帝……」

「「「――っ!?」」」


 やはり、帝国勢が強い反応を示した。

 ミラは青い顔をして黙っている。

 ユミルも色々と深く話を聞いて居たからか顔を顰めた。

 ディアとエミリーが耐えられないと口を開く。


「それで、どうなった」

「討ち取れたの?」


「いいや、逃げられた。レイドボスと比べなければかなり強い方だったな。

 それでも一撃も貰わず胸を引き裂いてやったけど。

 そしたら喚き散らして『影移動』で地中に逃げやがった。

 何に置いてもまずはカーチェだとこっちもそのまま引き返したって所だな」

「べ、別にやっちまって良かったのに……へ、へへへ」

「カーチェのそんなデレデレした顔初めて見る。ランス、嘘ついてない?」


 おーい。ミラ、せめて俺に聞こうな?


「ああ、雑魚扱いしてたぞ。すっげぇ気持ちよかった」

「そっか……」


 あれ、ミラはなんか複雑な様子だな。

 ああそうか、面識がなくて感謝すべきだと洗脳されて育ったんだった。

 アホみたいにクズだったから例え親でもミラも近づけたくないな。


 だが、問題はどうやって探し出すかだ。

 近寄ればカーチェが操られてしまう事を告げて、ミラも含め、二人は俺かアキホの近くになるべく居る様にと言いつけた。

 ついでに俺、アキホ、ミラ、カーチェ、リアでパーティーを組んだ。アキホも『ソナー』を使えるから、これで全員を確実に補足できるだろう。

 カーチェとリアは元々魔物として補足できるだろうが、他に魔物が居れば手間取ってしまうからな。


 うん。後は二人から目を離さなければ……

 ああ、丁度いい。親子丼だ。

 先代皇帝に二人を抱き寄せながらゲス顔で美味しかったと言ってやる。

 うん、クズいね。自重した方がいいだろうか……?


 いいや、ここで前に進む男だろ? 俺は。

 そう思って居たのだが、全ては彼女たちの意思だ。当然の様にミラはアキホと居る道を選んだ。何やらカーチェが大変だったから今日はいいそうだ。

 二人とも俺の傍にいろって言えば良かった……

 まあ、スイッチ入る前からデレデレのカーチェなんて初めてだし、これはこれで。


 まだ少し残る不安を癒して貰おうと、カーチェを連れて私室へと引き篭もった。



 ◇◆◇◆◇



「クソっ……クソがぁぁぁ!」


 先代皇帝バルド・ルー・グラヌスは地下拠点へとたどり着くと、兵士の様にその場を守るミノタウロスを蹴り殺した。

 胸に受けた傷は塞がり、その痕跡だけを残している。

 王座に不機嫌そうに腰をかけると、急いで駆けつけたゲイザー系の頂点、イビルアイロードが傅く。


「そのお体、如何なされました。王よ……」

「黙れ! 殺すぞ!!」

「ひっ、ご、ご容赦を……」


 触手に支えられた目玉だけの存在、それが身を落とし平伏のさまを見せて沈黙が訪れる。


「もう良い。一斉に落とすなど面倒だ。各地に配置したブラックを動かせ。

 皆殺しにするのだ!」


 バルドは大きな地図に手を向け口を歪めた。

 それを受けたイビルアイはその、一つだけの巨大な目を伏せる。


「そ、それが……待機中に襲われ大半が落ちてしまっている様で……今や残っているのは魔人国北、妖精国東、を残すのみとなります……」

「なっ、なんだと!

 貴様、勝手に動かしおったな?

 王国北部と魔人国の威力偵察以外は動かしてよいなど言っておらぬぞ。

 一つ二つならまだしも、そこまで一斉に落ちるはずが無い。この虚けが!」


 手を振ると影が放たれ、目玉が二つに割れた。崩れ落ち動かなくなる様を詰まらなそうに見つめ、鼻で笑う。


「フン……おい、犬を呼べ」


 バルドはミノタウロスにそう告げて不機嫌さをあらわにして地図を睨む。


 暫くすると、鎖に繋がれたいつかのワーウルフが、ミノタウロスに引きづられる様に姿を現した。

「鎖を解け」とミノタウロスに命じると「犬、これを飲め」と瓶を投げつけた。


 ミノタウロスによって鎖を叩き割られると、ワーウルフはポーションを受け取る。

 それを煽り、傷を癒したワーウルフが膝をついた。


「お前の言葉の通り異常な力を持つ人族の男は確かにおった。

 だが、折角出した神獣を失ったのも事実、失態を拭うチャンスをやろう」

「はっ、有難き幸せ」


 バルドは腹立たしげな表情を見せながら、彼に指示を出す。


「一つで敵わぬのなら二つだせ。もう操ろうなど思わん。

 地上を破壊し魔素を失えば消えるのだろう?」

「はっ、里に伝わるの知識に寄れば、伝承にそう記されていたとの記憶があります。

 ……場所は如何致しましょう?

 王国はもう居りませんが、国ごとに一体。それと全体で一体存在している様です」


 ワーウルフは地図を使い、場所や姿形を説明していく。


「ほう。では帝国と魔人国の地にて儀式をせよ。

 そして、準備が整い次第知らせよ。

 全てを殺す前に奪い返さねばならぬものがある。

 あやつに余を愚弄した罪も償わせねばならん」


 バルドは立ち上がりイビルアイの死体の下へと行き、魔石を抜き取り握り締めた。

「見ておれ、これが魔王の力よ。『サモンモンスター』」と見せ付ける様に魔石を握った拳を突き出し、呪文を唱えた。


 黒い霧が辺りを包み、霧が収束する毎に姿かたちが明確になっていく。

 そして、それは上位の悪魔へと形を変えて地に降り立った。


「ふはは、これが新しい体ですかな。

 殺されるのは敵いませぬが流石王、これ以上になく力があふれ出て来るようです」


 イビルアイロードだったものが、姿形を変えて種族進化を果した。

 その名はサイクロプス。一つ目の巨人である。

 己の体を確かめる様に拳を一つ握りしめれば、再び皇帝に傅く。


「おい、犬、貴様も進化させてやる。ここへ来て頭を垂れろ」


 ワーウルフは短く返事を返すと元皇帝バルドの下へと近づき膝を突く。

 そして、バルドに首を落とされては『サモンモンスター』で復活させられ、幾度も繰り返され、時折進化を果した。

 ワーウルフは進化の度に人に近い種へと変貌していく。

 尻尾がなくなり、耳が人種のものへと変貌し、最後に残されたのは長い牙だけであった。

 その姿は獣人よりも人種に近い。口を閉じていれば人違わぬ見た目と成り代わる。


「ちっ、流石に余はもう進化せぬか。

 まあよい、目的は果した。その力を余の為に使え。

 しかし、犬がメスだったとはな。

 中々悪くない、後で遊んでやろう」

「はぁ、はぁ、か、畏まりました」


 繰り返された死と進化にワーウルフだった女は滝の様な汗を流しつつも再び頭を垂れた。


「神獣復活の儀式に取り掛かれ。

 次はない。次、失態を見せる様であれば、惨めに殺し魔石を砕いてくれる。

 この上ない慈悲に感謝せよ」

「「はっ!!」」




 バルドは二人がこの場から消えるのを待ち、貧乏ゆすりをしつつ腹立たしげに声を上げた。


「だが、何故だ……何故エカテリーナは命令に背けた?

 ふざけおって……神獣殺しめ……余のものを、余のものを……」


 今までであれば、命令を下せば少しの抗いも出来ず、受け入れるはずだった。

 バルドは僅かな時間ながらも抵抗して見せたその事実が許せず顔を歪める。


 暫くして「まあよい、他は皆殺しにするのだ」と気を取り直すと、ふとミノタウロスに視線を向けて「ちっ、まだこいつらがおったか」と再び顔を顰める。


 斧を地に突き、壁に控えるミノタウロスたちを嬲り殺していく。そして、一人になると再び声を上げた。


「はっ! そうだ。ミラを探せばよい。

 それでエカテリーナは逆らえまい。あれは死ぬまでミラに執着しておったからな。

 余が転生した時に死体が無かったのだから生きておるのであろう。

 いや、流石にゴブリンに嬲られては生きてはおらぬか?

 だが、生きていたとすればどっちだ? どこにおる。

 王国か? 滅ぼす前に連れて来ねば……

 まあよい、占いの一族に場所を探させればいい話だ。

 だがミラの顔を知るのは余のみか、こればかりは自ら赴かねばならぬな。

 しかし己が魔物で母を殺し生まれたと知れば、どの様な顔をするか見ものであるな。クハ、クハハハ」


 ミノタウロスの魔石を足で踏み潰し、元皇帝であった魔物は高笑いを上げた。

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