第93話これはメリハリだ! 戦闘狂ではない。

 帝国の屋敷に戻ってみれば、カーチェの言った通り、本当にお通夜状態だった。

 至る事ろに意気消沈して座り込む獣人の子達がいた。

 俺が居る事に気が付いたブレットが声を上げて皆がばたばたと駆けつけてきた。


「なぁ? 私こんな中、一週間も居たんだぜ?」


 と、頬を引き攣らせながら迷惑そうに語るカーチェ。頬にキスをして「ごめん。色々気を回してくれてありがとう」と耳元で告げた。

 いつもの様に照れ怒りという尊い芸を見せてもらいつつ、いつもの居間のL字ソファーに座る。そこに座ったのはカーチェ、リア、アキホだ。てか、アキホ『音消し』解除して無いのによくそのまま受け入れて付いてくるな。

 そろそろ解除して話しかけてやるか。


「おい、アキホ。お前、俺が何で怒ってるかわかってる?」

「な、殴ったから……?」


 いきなり音が戻ったからか、彼女はビクリと反応しておどおどと答えた。


「いや、もっとさ深く考えてくれる……? 

 俺は罰としてああしてたの。

『音消し』してたのもあのままあの声聞いてたら折れて慰め入っちゃうから。

 それじゃダメだろ?」

「うん。そうかも……」


 溜息を吐きながらも、一先ずこいつの事はこれでいいと使に声をかけた。


「それで、当分お前たちはあの獣人の子達の下について貰う。

 反論は許さないし、甘えも禁止だ。

 何か質問あるか?」


 少し怖がりつつも「何でもいいの」と問いかけられた。

 それに頷く。


「どうして、そんなに早く強くなったの?」

「それはこいつが居たからが半分。お前らが遅すぎるだけなのが半分だな。

 言っただろう? お前らはまだ何も知らな過ぎる。

 それはランク上げに関しても、戦闘技術に関しても一緒だ。

 逆に俺たちが知りすぎているだけかも知れんが、それを自覚してくれ」


 俺たち、で首をかしげたので、丁度いいとアキホを紹介した。


「こいつは俺の同郷で、女神に召還された奴だ。

 おそらくこの前、次を召還したと言っていたのがこいつだろう。

 恐ろしいほどに偶然な事だが、俺の世界で知り合いだった女だ。

 今は俺の嫁だからそのつもりで」


 話し終わると納得の意を示した。他には無いかと問いかければ次の質問が飛ぶ。


「どうして、あんな事したのに来てくれたのですか?」

「頭来てても好きなもんは好きだからだ。

 今回の事くらいじゃ嫌いにはなれないらしい」


 ちょ、な、泣くなって!


「ランス、それなら戦いに使って欲しい。

 裏切ってまで力を得たのはランスが危険な目にあうのを減らしたいから。

 雑魚処理でも何でもする!」

「ブラックリザードマンであの程度じゃ雑魚処理も出来ないよ?

 それに、これは俺がお前たちを危険な目に合わせたくないから罰として閉じ込めるの。お前たちが安全な所に居るのが一番の安心なの。

 あと今回はもうちょっと本気でレベリングするし、次回からは危険はないから」


 うん。アキホとガチレベリングすればすぐ上がるだろ。

 こいつ、精神的な継戦能力は高いからな。逆に止めさせてくれん……


「でもそれじゃ、ランスの力奪っただけ……」


 だから、止めろって言ったんだよ。

 いや、そうじゃなくても言ったとは思うけど……


 皆、いつもの空気に戻ってきたからか、口数が増えてきたな。

 俺もやっと安心して言葉を返せる。


「ケンヤ、その本気のレベリング? に私たちは邪魔?」

「悪いが、邪魔だ。勿論雑魚相手なら戦えるようにすぐなる。

 だが、レイドボス相手じゃ話しは違う。見てたんだろ? 次元が違う所を」


 深く、頷いた。

 まあ、わかるよな。ありゃねーよ。リアルレイドボスとかマジ有り得ないし。


「ランス様の腕が千切れ飛んだ時、心臓が止まるかと思ったわ。

 気が狂いそうだった。正直、今でも戦って欲しくないの……」

「ミレイの気持ちは嬉しい。情け無い所を見せたのは俺の失態だな。

 まさか王国にあんなのがあるとは……」


 本当に見ていたと聞いた時は焦った。と思っていたらアキホが手を上げた。

 はいどうぞ、アキホ君。


「あのね。そこじゃないと思うの。見せた上で安心させて貰わないと出てきたって知るだけで不安は増すし、後から知っても凄く悲しくなるよ?」


 ま、またキャラかわったぁ!

 いや、へこんでるだけか。いつもへこましておくか?

 こいつの事は好きだけど、ホント油断ならないからなぁ……


 って皆、超同意してるし。

 でもさ、それ難易度高すぎじゃねぇ?

 と、アキホに向けて問う。


「やろうよ。私も嫌だもん。本気も本気、ガチレベリング。

 カンスト無いなんて燃えない?」

「確かに……ロマンがあるな。

 だが、そうなるとかなり長い間離れることになるんだよな。

 俺としても凄く寂しかったり……」


 これは我侭だろう。どっちかしか取れないんだから。

 今回はいい所取りで上手く行っただけの話しだし。


「なら、連れて行けばいいじゃん。魔人国の障壁ぶっ壊してさ。

 皆で祭壇の間行けば良くない?

 ピンチになったら助けてやって恩を売ってもいいし、いちゃもんつけてきたらぶっ殺せばいいじゃん? 世界救うんだから最悪国一つくらい潰しても良くない?」


 いや、ダメだろ!

 結界壊したら、それはいちゃもんじゃなくて正当な報復だろうが……


 お前は過激すぎんだよ……ゲームじゃねぇんだぞ?

 本当にこいつに力持たせていいのだろうか……


 ほら、リアも唖然としてるぞ。

 あ、そうだ。リアに教えてやろう。お前は悪じゃないと。


「リア、絶対こいつのが悪者だぜ? 間違いねぇだろ?」


 おいアキホ、今更可愛く口を押さえても遅いからな?


「うむ。こやつが嫁ならわらわもありな気がしてきた」

「うんうん。納得してくれて良かった。ずっと一緒に居ような?」

「うむ! ケンヤ、幾久しくじゃ」

「おう。フィリア、ずっと一緒に居よう」


 おお! アキホは教育するとして、リアが納得してくれてよかった。

 けど、いちゃいちゃ見せ付けたら皆の視線がちょっと痛い。

 口をへの字に曲げて見ている。

 流石にまだダメだよ? 俺すっごく辛い思いしたからね?


「と、当分はダメだからな!

 そんな顔したって……い、一週間。一週間は我慢してもらう!」

「「「「そ、それだけ!?」」」」


 え? 長くね?

 短い? 申し訳ない?

 だがそれがいい?

 うむ。ならば仕方あるまい。


 あれ? 何で皆いきなりそんなに良い笑顔なの?


 まあいいや。俺の為の使用人だし服を作らねばな。少し腰を曲げるだけで見えちゃうくらいのミニスカメイド服がいい。

 待てよ……めくる楽しみが……うん、どっちも作ろう。

 そして選んだのの逆を着せよう。うん。それがいい。


「そうだ、アキホ!」

「は、はいっ!?」

「今日はお前に超エロイ事しながら調教するからな!

 絶対悪さしなくなる様に本気出す。覚悟しろよ」


 と、俺は精力剤の瓶を揺らしながら笑みを浮かべた。

 経験した四人が笑みを引き攣らせている。だが、アキホは全力で合意を示した。


「そんなの望む所ですよ! か、身体に教えてください!」


 アキホに頷き、そこでこちらの話を一度終わらせた。

 お前たちは使用人として今から行動しろと伝え、元奴隷の獣人たちやブレットとペトラを集めた。


「本当にすまなかった。呼んで早々こんな不安な目に合わせてしまった。

 主人として深く謝罪する。良かったらこれからも、ここで働いてくれないか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 何も悪くないですからっ!」


 ブレットがあたふたしつつも声を上げてそう言ってくれた。


「ご主人様、悪くない。ペトラでもわかる」


 彼女の一声に、獣人の子達も頷いてくれた。

 そして、新人使用人の教育をして欲しいと伝えると、少し青い顔をしながらも了承してくれた。まあ、やんちゃな子が多いからな……

 罰だから何か適当やったら報告する事と言いつけておいた。


 それから、俺は全力でメイド服作りに精を出した。

 丈が長いのと短いの両方を全員分だ。

 別室で選らばせ、ペトラに選んだ服の反対のものを着させろと告げた。


 そして、俺は少しそわそわしながら居間で待っていたが、何故か全員、丈が長いメイド服で下りて来た。


 何故だ……ペトラを呼び出して不正は無かったのかと尋ねた。


「なんか、謝罪だからって皆短いの選んだ。不正は無い」


 そっかー、策に溺れたかぁ……


「だけど、大丈夫。ちゃんと伝えてある。

 使用人はご主人様にエロイ事されても笑顔で受け入れなくてはならない。

 これはここの使用人のルール。全員知ってる」


 と、ペトラは胸を張った。

 え? 全員? 元奴隷の子達も? 当然?

 そ、そう……


 冗談通じてなかったぁぁぁぁ!

 いや、これは後で考えよう。

 それとも今すぐ誤解だと……いや、深く考える必要がある。

 そうだ、事は慎重に運ばねばならぬ。

 うん。後回しだ。


 俺は難しい事は忘れ、新しい使用人を追いかけまわし、エロイ事に勤しんだ。

 本気で逃げるラーサを無駄に『瞬動』で追い詰めるのは楽しかったな。


 夜も拭け、皆にお風呂で洗ってもらい、すっきりした。

 そしてあれを飲む時がきた。

 腰に手を当てて一気飲みである。小瓶だが。


 そして、チラチラ見ているアキホを脇に抱えて二階へと移動する。

「ちょっと、持ち方! 持ち方ぁぁ!」と騒ぐアキホを無視して。

 実は俺もかなりどきどきしている。相手は日本人である。

 そして、数日溜め込まされた相手だ。


 内から湧き出る不安と昂ぶりを必死に耐え「叩き込んでやる!」と全力でお相手した。

 おいたをしたら尻を叩き、教育に口答えしたら尻を叩き、なんとなく尻を叩き、偶に揉む。教育は次の日の昼まで続いた。

 途中何度もアキホの意識が飛んでいたが『エクスヒーリング』『スリープ』からの尻叩き意識覚醒でエンドレスだ。

 従順になろうがそれを続けた。

 それは何故か。

 ただ止まれなかっただけである。精力剤恐るべし。


 そして、ランスロット家復活の記念すべき日は終わりを告げた。

 いや、性も根も尽き果てて眠りに付けば丸一日を無駄にして次の日の朝に起きた。


「おはようございます、ですわ。ご主人様っ!」


 俺は、エリーゼに優しく起こされ、ミラにサービスと朝から悪戯され、ユミルに朝ごはんを食べさせてもらい、幸せを感じすぎて狩りに行く気をなくしていた。

 アキホはまだ復活していない。少し見に行ったが、目が合えば何やら痙攣して首を横に振っていたのでそっと閉じた。使用人に任せるとしよう……


 今は獣人娘六人をモフモフしている所だ。

 しっかり話を聞いてみれば、ミィやララたちも魔力チートを貰ったらしい。

 ひたすら謝ってきたが、正直こいつらには止めろと問いかけても居なければ、何の発言もしていない。変な目を向けるどころか俺の怒りに震えて丸くなっていただけだ。

 だけど、本人たちが罰を受けたいというのでそのままにした。

 苛める気はないしな。

 凄く辛かったけど、俺のメンタルが弱い所為で関係なかった子もとばっちりを受けさせてしまった事もあるしもうちょっと強くならないとな。

 今回だけは俺自身も一つも悪くない自信はあるが、ちゃんと話し合えばもっと早く解決した気もする。


 全てが俺の為だって最初からわかってればなぁ……

 いや、あの外見で拒絶してた訳じゃないって所が最初からわかっていれば……


 皆も辛かったみたいだし、とゆっくりじっくり一人一人順番にスキンシップを取っていたらまた一日が終わっていた。


「なんじゃ、わらわもか?」と、最後に赴いたらびっくりしたリアを連れて寝室へ。

 イケイケかと思いきや「は、はやくないかの?」とおどおどしていたので、いちゃつきながら寝るだけにした。

 何やら、とても嬉しかった様子。だが、朝の悪戯にはご立腹されてしまった。


 そんなこんなで時間がどんどん過ぎて行く。

 なるほど。これはいかん。まさか女神はこれを予期して……それはねぇな。

 だけどホントダメだろこれ。


 そう思いつつも、ディア、ユミル、ラーサを連れ立ってハリセンを持って剣の稽古をしてしまった。

 戦いたいみたいだからガス抜きだ。三人もかなり楽しんでいた様子。

 スパーンと音が響くと嬉しそうに笑う。ラーサはちょっと悔しそうだったが。


 そして俺は決意した。

 離れられないならもう皆で行くしかないと。

 気が変る前にと直ちに緊急家族会議を開いた。

 漸くアキホも復活したので全員集合だ。


「さて、俺は気が付きました。皆が好き過ぎて狩りにいけません。

 なので、もう皆で行こうかと思います。異論がある方」


 そこで手を上げたのはブレットだった。


「もし、問題が起きた際、誰に相談したらいいでしょうか?」

「いい問題です。流石わが執事。もう皆で行こう? 全員でさ」


 その言葉に驚いた一行だが、喜んでも居る様子。


「ちょっと待て、これ全員運ぶのか? わらわが?」

「いやいや、俺が引くよ。アキホも引けるだろうし」

「もう、何でも申し付けてくださいまし……全てに置いて貴方に従います。ラース様」


 むぅ、そのキャラ名で呼ぶの止めて欲しいんだが……まあ、いいや。

 やりすぎたしそのくらいは受け入れよう。


「そうであったな。主の力がどれだけ戻っているのかもこれでわかるじゃろうし、計らせてもらうとするかの。あっという間過ぎてどれほどか全然わからん」

「あー、神の力が無くなった魔力以外はもう戻ってるぞ? 多分越してる」


 そんな一言に一同が驚愕の意を示し、アキホがニマニマ笑みを向ける。


 その後も準備の相談など、つつがなく話し合いが終わり、行動を開始した。


 そして、本当の使用人たちも全員連れてカートで獣王国へと移動する。

 ついでにと俺がリーダーとなり、パーティーを作った。

 皆魔力チートがあるのだから、移動殲滅をさせようと思ったのだが、『ソナー』を覚える事が出来なかった。だから、それが出来るのは俺とアキホだけだった。

 仕方が無いのでアキホにもリーダーになってパーティーを組ませて二人で左半分右半分とわけて殲滅しながら移動した。

 途中、使用人たちも組んでレベルを上げさせた。泥棒とか来ても大丈夫な様にだ。

 重い物も結構あるし、上げておけば楽だろうしな。


 二人で交代しながら引けるのでかなり楽だった為、真っ直ぐ行かずに色々な所を回ったのだが、流石に俺の魔力が切れて途中で野営する破目になってしまった。

 やっぱり道を作りながら殲滅もしてればマジックポーション飲んでも追いつかなかったのだ。

 移動しながらだと『叡智の歌』が使えないから仕方が無い。

 だが、これで前回よりどれくらい少ないのかがはっきりわかった。


 一応五割減くらいで済んでいるみたいだ。


 女神の加護は二倍になる扱いなのではないかと思う。

 自然回復量も倍と考えると相当な差だ。流石神の加護だな。


 一つ不思議なのは、それでもゲーム時と比べてステータスが大幅に高い事だ。

 付与成功率や、それ以外でもどう考えても高過ぎる事が伺えた。

 一レベルで装備外してたのに『サンクチュアリ』が使えること自体おかしいし。


「私が錬金術師を育ててれば良かったのですが……申し訳ございません」

「い、いや、アキホは悪くないよ。良くやっている。ありがとな」


 従順になりすぎて今更ながら罪悪感を感じる。必要ではあったがやりすぎた様だ。

 まだ、身体に触れるのはダメらしい。思い出して反応してしまうらしい。 

 だが流石アキホというべきか、嬉しい事らしく、またお願いしますと言っていた。

 うん、次回は普通にだな。


 簡易で作った石の家に持ってきた寝具を並べて全員で横になった。

 何故か一番ブレットが恥ずかしそうにしている。ペトラの隣にしてやったからか?

 思いの他ペトラも意識している様子。これはもうペトラに冗談でも悪戯できんな。

 少しは嫉妬してしまうかと思ったが、ブレットがお相手だからか、逆に応援したいくらいだな。


 いや、そんな事よりも、狩りの効率がとんでもなく落ちている事が問題だ。

 祭壇の間と比べると半分どころでは無い。

 どう考えても五分の一すらもいっていないのだ。十分の一でもおかしくない程。

 移動で時間が掛かる上に平均レベルもかなり下がるのだから仕方が無いが。


「なぁリアとカーチェの二人に相談なんだが、一週間ほど離れてもいいか?」

「ふむ。魔人の国に行くのじゃな? それほどいい狩場があるのか?」


 カーチェが少し不満げな顔だから見合わせようかと思ったが、一応祭壇の間の説明をした。

 

「まぁ、そう言う事なら仕方ねぇな。行って来いよ」


 無理するなと告げてみたが、強くなれるなら行って来いと言われたので、着くまではカーチェとリアにずっと付きっ切りで居ることにした。

 獣人国をぐるりと回って『十王の森』も再び制圧して今度は魔人の国へと向った。


 そうして着いてみたはいいが、こちらでも魔物の襲撃を受けていた。

 ちょっと多すぎないか? もしかして、全国でこの状態だったり?

 色々心配になるが、取り合えず、ここは障壁があるから大丈夫っぽい。


 一応、リアとカーチェに帝国の北をぶらりと見てきて貰いたいと頼み、飛んでもらった。

 リードやマクレーンはこの前行ってきたし、アルール周辺も殲滅したばかり、獣人国も回ってきた。後は帝国の北だ。レラやディアの実家方面である。二人の父ちゃんは中々強いから心配ないとは思うが、一応カーチェと二人で行って貰うことにした。


 離れる前に限界まで魔力を補充したし、アキホの『シールド』が破られるもしくは時間切れになるような事があれば、すべて無視して戻って来いと伝えた。


 アキホはもう前の俺よりレベルが高いのだ。十二時間以上は余裕で持つはず。戦闘時間入れても余裕だろう。

 そして、俺たちは時間を無駄に出来ないと、魔物を無視して中に入り、魔道国議会とやらに直接交渉をした。


「魔物の侵攻の防衛をしてそれで出た魔石は全部提供する。その代わり、祭壇の間を一週間貸切、魔石も提供して欲しい。勿論それも最終的に全部返す」


 俺が突きつけた条件はそれだ。相手側にメリットしかない。魔物を食い止められるならと当然受け入れられた。

 障壁への攻撃を受ければ魔石の消費量が格段に上がってしまうらしく。今までにない強さの魔物に困り果てている所だったのも即決の理由だろう。

 この地域のブラック集団なんてきたらそりゃ仕方ないわな。


 アキホに外の魔物の殲滅を頼んで、街中で宿を一つ貸切、人払いをさせて使用人たちを置いた。嫁たちにも交代で数人残ってもらい、守護に当らせる。

 獣人たちの尻尾と耳は服で隠しているが、良く知らない国で油断は出来ないからと念を押した。


 俺たちは魔石を運び祭壇の間で準備を始めた。

 国にも、魔石をすべて提供しろと言ってある。大きくして返すからと。

 前回の信用があるからか、問題無く提供してくれるようだ。

 逆に、魔石供給の協力に来てくれたと勘違いしている様子。まあ、外の入り口に兵を置くとは言っていたが、流石にそれは当然だろう。


 アキホが殲滅に行っている間、少しでも魔石を大きくしておこうと嫁たちとパーティーを組み、ひたすら全力で投入させた。

 それを倒し抜いていく。


「あはは、これは強くなるわけよね。反則的早さだわ」


 出現した瞬間切り捨てられて魔石を落とす様を見て、ディアが呆れた視線を送りながら呟く。


「ふふふ、一週間後は私たちが使ってもいいんだろ?」

「そこは任せる。ただ、間をおかないと手ごろな魔石がないかもね。

 それくらいに永遠とやるから」


 目をギラギラさせている三人。当然後一人はユミルだ。

 ここなら、無茶しなければ危険は無いに等しい。何故ならボスが出ないし、彼女たちは魔力チートで『シールド』を張れるのだから。

 ヒーラーもちゃんと居るし、俺としてもここでやらせるのが一番いいかも知れないな。

 ブラックオークを倒しながら、もっと早く、ガンガン入れてと煽り続けた。


 暫く続けていれば、アキホが大きな袋を抱えて戻ってきたのでパーティを組みなおしてアキホと二人だけで組んだ。


「取り合えず終わりました。追加がくればここに知らせが来る手はずになっています。

 先ほど倒した魔物の魔石を回収して持ってきましたのでこちらからやりましょう。

 早く魔石の供給が欲しいそうです。

 今日中にこの袋はすべて返すことを約束しました」

「了解。じゃあ、皆一回ストップ。魔石と入れる場所変えるよ。それ、二百レベル程度かな? 十匹前後になり続けるように出していって。アキホ、支援頼む。まずは俺が魔力使う」

「了解です」


 支援を貰い、デーモンからのスタートだ。数は数百程度。魔力が切れる前に討伐が終わり次の魔物へと変わる。

 次はブラックオリハルコンゴーレム。これは物理耐性高すぎなので火力交代だ。

 言わずともわかっているので、ディアたちに最初やった連続投入だと入れさせる。

 そして、グレイトトロール、キリングオーガなど、最上位の雑魚ラインに変っていき、とうとう最終の三百五十まで終わった。

 途中からほぼアキホ頼りだが、何とか前衛の勤めは果せた。


「アキホは休憩。『叡智の歌』だけでいいから。んじゃブラックオークから再開。

 一人はさっき行った魔道国議会に直接この魔石届けてきて。

 一応サインも貰って来てね」


 唖然とするディアたちだが、ユミルが了承して持って行ってくれた。

 そして、ひたすら切り続ける。


「懐かしいです。これぞラース様って感じですね」

「そうか? ゲームの時のがもっと緩い感じだったと思うんだが……」

「いえ、指示する感じがですかね。ちゃんと皆がわかるように指示を飛ばして皆のプラスになる様に考えてプランを練っています。そうする人は少なかったから……」


 んな事は……いや、確かに指示が足りんとは思う事多かったな。

 一言教えてやれば済む事を言わないで働かないと切れる奴は結構多かった。自分で調べろってのも同意できるが、一言二言で済むなら切れる方が大変だろうに。


 それに俺だから皆のプラスにって所には同意しかねる。

 今回は二人パーティーだから嫁たちはプラスになって無いし。

 ゲーム時だって皆で普通にパーティー組むんだから、普通にプラスになるじゃん。

 稼ぎの清算も公平にやるのは当たり前だし。

 アキホは外の面子嫌ってたからその分依存してるんだよな。きっと……


 そして、単調な仕事が長時間続き、ラーサとディア、帰って来たユミルとの雑談が続き、漸く交代の時が来た。と言っても、アキホが魔力全回復して一度消費してもまた溜まるだろうと俺に休憩をくれた形だが。

 今回はそれほどに魔石が多い。


 出てくる魔物に威圧して、円を描くように回り続ける。

 アキホは全員に『マジックシールド』をはって範囲攻撃で即殺する。


「投入、気合入れて貰えませんか? 範囲なので入れれば入れるほど稼げますから」

「は、はい。わかりました。全力で入れますよ?」


 ディアが少し、遠慮気味に問う。俺も全力で入れても足りないくらいだぞと付け加えた。

 そのお陰で、最高効率と言っていいほどに経験値が稼げている。

 俺が釣りのみに徹する事が出来るから、幾らでも出せたのだ。

 念じるだけで『威圧』出来るので、舐めて掛からない限りは余裕でタゲを取れた。

 まあ、正直俺のほうが魔力取られているが。

 一応、レベルが上がって魔力もある程度は戻っているので、マジックポーションもある程度効力が高いのが使えている。今回は完全効率重視でいかせて貰う。


 そんなこんなで数時間経てば、今度はミラたちが様子を見に来た。宿で落ち着きゆっくりしてきたのだろう。一応、ディアだけに残ってもらい、二人は宿で休んで貰う事にした。

 ディアを残したのは、面子がミラ、エミリー、アンジェだったからだ。長時間投入させるのだけでも不安だった。

 だが何故か、三人は入れたい入れたいと群がっていた。どうせすぐ飽きる癖に。

 ディアにも休憩が必要なので、交代してもらったが、やはり、二時間程度で興味をなくした。言えばやるが、もういいらしい。

 そして、ユミル、ラーサの二人が戻ったからか、次はエリーゼとルルがきた。

 やっとまともな面子がとディアにはレクチャーして貰って宿に戻ってもらった。

 その後もちらほらと面子が交代されて進んでいく。


 二十時間程度が過ぎて、嫁にドクターストップを貰って一時睡眠タイムだ。


 流石にエロい事をやる気力も無く寝に入った。

 そして、その事でものすっごく心配された。止めて欲しい。


 三日の間で、二度ほど救援要請を掛けられてアキホが大変な目にあったが、彼女は狩り大好きっ子だ。そして俺つえぇもすき放題出来る。

 適当に嫁たちを連れてパーティを組みなおして殲滅していた。

 その為、アキホの株は上がり調子である。

 大半からさん付けで呼ばれ、地位を獲得していた。それで調子に乗った様子もないし、俺も見ていてホッとした。

 まあ、元々仲間と認識すれば面倒見のいい奴だからな。


 そして、その二度目の救援でアキホたちがリアたちと会い状況を聞いたそうだが、アルールと同じく待機していた群れを二つほど殲滅して戻ってきたらしい。

 リアの範囲攻撃で即殺だったが割といい時間だった為、二人で帝国の屋敷で一泊してこっちで一晩明かしたそうだ。また屋敷に戻り、三日週間後にこっちに来るらしい。

 帝国で待っていて貰っても良かったな。そう最初に言ってやればよかった。

 それじゃまた一日待つだろうに。


 なんにせよ、我慢してもらってるんだから成果を出さなきゃな。

 と、気合入れてやっている間に、アキホの魔法タイムになってしまった。

 これからは彼女の殲滅力がものを言うが、厄介な遠距離スキル攻撃持っている奴は単体攻撃即殺なので、消費効率も落ちるので永遠とさくさくいける訳でも無い。

 まあ、その代わり睡眠時間が増えるから精神的には楽だが。


 そんな感じに永遠と続けていたら、嫁たちの目がなんかおかしくなっていってる。

 心配そうな悲しそうな視線を貰う事が多くなった。

 もう強敵になってきたし、魔力回復タイムにちゃんと寝ているんだが……


「お兄ちゃん、戦闘狂。どうして強いかミィわかった」

「うーん? うん。まあ、ハマればこれくらいやるだろ?」


 と、ミィの頭を撫でて再び魔力が回復するまで睡眠を取った。


 そして、とうとう予定した一週間が過ぎた。ほぼほぼすべて終わり、残り数個の所で魔力が切れたので終わりにした。

 最後の魔石を届けると、魔道国議会で表彰と報酬をという話が出たが、面倒だからいらんとぶった切った。


 そのまま魔人国を出てリアとの合流を図ろうとしたのだが、彼女の反応が『ソナー』で見受けられなかった。


 え?

 なんで居ないの?


 な、何があった……と背筋に悪寒が走る。



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