第77話外出が認められたという事は、遊んで来て良いと言うことだろう⑤
「と言う訳で、この国はそういった形で運営されていると女将さんに教えてもらいました」
俺はルルからこの国の王政の仕組みについて色々聞いて居た。
細かい所は分からないと言っていた割には詳しく聞けた。
獣王国は三つの領地に分かれていて、王位継承者は王座と領主の権利を強い順に獲得するのだとか。
とは言え脳筋がいきなり政治は出来ないので、代々続く代官がいて、内政は任せている様だが。
主に、王族の役目は軍事関連だそうだ。町の防衛に努めるらしい。
そう聞くと聞こえはいいが、強さこそが正義みたいになっちゃっている国だからきっとクソの集まりだろう。
「じゃあ、こいつが爪を狙ってたのもその繋がりなのかねぇ」
「うーん。ミィわかんない」
俺は、ジャックという男を足蹴にしながらルルに問いかける。
そう、俺達は予定通り、ルルを嵌めた男を見つけ出して説得に来ていた。
チンピラから聞いた通り、店終いした酒場に突入してみればそこで一杯やっていた。
『音消し』によって、こちらの会話は届いていない。そして、彼とその手下は全員顔以外石に埋まっている状態だ。
ミィに「じゃあ、聞いてみようか」とジャックだけ『音消し』の範囲を変えて『クリエイトストーン』で高速を解いて会話に混ぜた。
「それで、お前は何でこの爪が欲しいわけ?」
「お、お前なにもんだ!? なにしやがった」
うーむ。一度くらい警告をやろう。
「お前に質問する権利は無い。全て正直に答えれば殺したりはしない。
そこだけ約束する。痛い思いする前に答える事を勧める」
「どうせ殺すくせにふざけるなよっ! 何処の派閥の差し金だ!
金なら依頼料上乗せで払う。こっちにつけ!」
ちょっと待って、音消し相談ターイム。
ルルちゃん、どう思う?
ああ、うん、だよね?
「ああ、俺は継承権とかの話には関わり無いぞ?
だが、一つわかった。お前も継承権があるんだな。
そ・れ・と、答えなかったペナルティだ。はいポキポキ」
取り合えず、腕を両方とも折らせて貰った。
だが、痛みに慣れがあるのか、唸りを上げるが大騒ぎはしない。
「うぉぉぉ……なんだぁ、今の速さは……」
「いいから早く答えろ。
俺達を殺せって依頼かけたんだから、これ正当な報復だからね?」
「ま、待て! そっちはしらねぇぞ?
俺は強くなる為に強い武器を求めてただけだ!」
「いやいや、チンピラがこの子に借金負わせた理由は?」
「ああ? それは俺じゃねぇ。強さがありゃ女なんていくらでも寄ってくんだろ」
ええぇ、それ困るんだけど……
仕方が無い。またチンピラの所行くか。まだ、カルマの光の反応はあるだろうし。
と言っても、あの襲撃者たちと見分けが付かないから見て回る必要があるけど。
って、そう言えば、こいつに聞くまでも無いじゃん。
『ソナー』いち、にち、さん、よん、ご、ろく……って凄い一杯いる。
あー、やっぱり黒幕もちゃんと赤点になってるよこれ。
じゃあ、もうこいつはいいや。
「えっと、決闘で勝てばこの爪あげるけどやる?」
と、問いかけつつ『ヒーリング』を掛けた。
「や、やる訳ねぇだろっ! こんな腕で……って、直ってる!?
……金で売ってくれたりはしねえよな?」
「え? 別に良いけど。いくら?」
「金貨、五百でどうだ?」
「売った!」
そのまま爪を渡して全員の拘束を解くと、彼は爪を装着してテーブルなどを切りつけて使い心地を試している。
「鑑定結果聞いてたから知ってたけどよ……
これ、やっぱり本物じゃねぇか。盗んできたのか?」
「魔物が落としたもんだよ」
「……マジかよ。これ、王の象徴と同じもんだぞ」
なんだそりゃ。返せとか言わないから説明プリーズ。
ふむ、ふむ。
なるほど。過去に十王の森で取ってきた人が居たのね。
確かにオリハルコン系は作れないからミスリルが最高装備みたいだし、火爪はこの地域なら一番と言っていい強さを誇るだろう。
継承権争いで勝ち抜いて王になった一人だけがそれを付けれるのか。
「ああ、売ってよかった。巻き込まれたくねぇし」
「こっちも買えてよかったぜ。
んだよ……金で済むなら最初から話もちかければこんな目には……」
それはお前の所為だろ! 俺の前で愚痴んじゃねぇよ!
と、文句を付けている所で子分Aが金持って戻ってきた。
「ここに金貨五百枚入っているはずだ。確かめてくれ。後から足りねぇってのは受け付けられねぇからな」
「ああ、急いでるんだ少し足りないくらいは気にしない。じゃあな。
じゃあ我が妹に嫁よ、先を急ぐぞ!」
二人を連れて赤点が異様に固まっている場所に到着した。
ちょっと魔法を打ち込みたい衝動を我慢しつつ、姿を隠して中に潜入した。
ここでもないそこでもないと赤点を一つ一つ確認していくと、とうとう当りっぽい奴を発見した。
「まだ捕まえられんのか! ギルドは何をやっておるのだ!」
「ええ、全く不甲斐ない奴らです。
失敗して逃げ帰るなど、せめて死んで来いという話です」
「そうだ、その通りだ! バルドラドの代官だぞ私は!
軽い扱いをした奴は断じて許すわけにはいかん!」
(ほうほう。ルルどうする?)
(ご主人様のしたい様にしてください)
(失敗したら死ねって酷い。ミィ失敗するの怖くなってきた)
「じゃあ、失敗したそいつらを取り合えず捕まえてきますか。
まだ使えるかも知れませんからね」
「ほう。流石、バルドラド最強の狩人よ。面白いではないか」
うむ。酷いやつらにはおしおきだな。
じゃあ、そろそろ乗り込むか。
と言うか、もう同じ部屋に居るんだけど。
普通に空けて入ったら、使用人が『すみません』と謝って閉めたから気がついていない。
風だとでも思ったのかな?
二人が座るテーブルに俺も腰を掛けて『隠密』を解除した。
「――っ!?」
先ほど最強と呼ばれていた男が瞬時に動き、スキル無しで爪を突き立ててきた。
わき腹に装備を仕込んでいたのか。拳銃みたいでちょっとカッコいいな。
判断も反応速度も良かった。
呼び動作無しで一番速く攻撃するならやっぱり通常攻撃だからね。
けど、流石にこっちはずっと見えてたんだから、どう間違っても喰らわない。
素手で力を込めて『パリィ』で跳ね上げた。
彼は、天井に爪が突き刺さりぶら下がった。
アホ面で突き刺さったまま揺れている。余りの滑稽さに吹き出してしまった。
「ぶっ、こいつマジ受ける。ミィぶらぶらしてんぞ?」
「ふぐふぐぐ、わふっわふっ。予想外過ぎ」
「二人とも、良くこの状況で笑えますね……」
顔を怒りに歪め「舐めやがって絶対殺す」と突き刺さった爪を外して落下した直後に『ダブルステップ』と『パワークロー』の組合わせで襲い掛かる。
「『パリィ』」
弾かれた腕はまるで勢い良く挙手するかのように天へと伸びた。
「ぶぐっ、お兄ちゃん駄目! わざとやめて! あははははは」
そう、彼はもう一度天井にぶら下がって見せた。それはもう見事に。
「な、何を呆けておるのだ! 侵入者だ! 捕らえろ!!」
代官が叫ぶと呆気に取られていた使用人達が動き出し、部屋に兵隊が続々と入る。
それを続々と『パリィ』で天井にぶら下げていく。
つぼに入って止まらないミィが笑い転げたミィにドヤ顔を決めた。
「んで、代官だっけ? お前さ、誰の女に手を出してんの?」
半数ほどが爪を失った頃、これで話が通りやすくなったかなと口を開いた。
うーむ、この台詞は心地いいな。ルルは俺の女なのだぞ! ふはは。
「なんだ? もう勝ったつもりか?」
「いや、最初から勝ったつもりだけど、まだ何かあるならいいよ?」
「下がってろ、こいつは俺がやる!」
そうして、爪を装着しながら兵を押しのけた男は、最初にぶら下がった彼だった。
その時点でもうミィが笑っている。
これはもう一度ぶら下げた方がいいだろうか?
「いやいやいやいや、お前もうやられたろ?
笑い取ったからお情けでぶら下げてやったんだけど」
「な、舐めるなぁぁぁ!!」
いやいや、舐めるなもクソもないだろっ!?
「『パリィ』」
彼は再び天井に突き刺さるも、即座に外して降りてくる。そして、懐から爪を出し装着した。
「対策、それ!?」
「ぶぐ……もう、ミィお腹痛いから止めて……」
ふむ。ミィが可哀そうだから、そろそろ倒すか。
「絶対に殺す。殺すぅぅ!! 『ダブルステップ』『ファングクロー』」
「……いやいや、ステップ使ってもそれは無理だって。硬直後にスキル動作入るから遅すぎなんだよ! ほれっ!」
攻撃を避けつつも今度は『パリィ』無しで両腕を吹き飛ばした。
両腕が飛び、天井に突き刺さる。
ミィが「きゃぁぁぁ、お兄ちゃんの馬鹿ぁ! しんじゃう!」と再び笑い転げる。
血しぶきが舞う中で。
キミ、心強いね?
「う、うでがぁぁ俺の腕がないぃぃ!」
「上にあるよ? それで、俺をどうするって?」
そこで、代官が再び口を開いた。
「何をしておるのだ! 全員でかかれぇ!」
その号令で、再び兵士達は襲い掛かるが、狭い部屋の中だ。一人一人腕を失い倒れこんでいく。
「いくらやっても同じだぞ。全員やるってんなら止めないが」
「な、何が目的だ!」
「いや、ルルを狙うなって言いに来たんだけど、お前は殺した方がいいな。
何も分かってない馬鹿な権力者が一番危険だからさ」
うん。俺は王女で学んだ。これを緩い対応で放置するのが一番危険なのだと。
もう関わらないで下さいお願いしますくらいに言わせた方がいい。
兵士が恐れ動かなくなった所で代官との距離をつめた。
「わ、わかった。もう狙うのは止める。依頼も取り下げる。
と、止まれ! 待て、待つのだ。私はこの町の代官だぞ? ただは済まんぞ?」
「お前こそ馬鹿言うな。ルルの為ならこの国の兵全てだって倒してやるっての。
お前こそ誰に手を出したかをわかって無いようだな」
そう告げながら『ブレッシング』のエフェクトで羽を生やし『ホーリーベル』で金の音と舞い散る天使の羽を散らせた。そして『サンクチュアリ』を部屋一杯に敷く。
背中に大きな光の翼が生え、ゴーンゴーンと鐘の音が響き、床が淡く優しい光を放つ。
その場の者全ての怪我が治り「これはまさか」「そんな馬鹿な」と呟きを漏らしつつ、一人、また一人と土下座をしていく。
それは、最強と言われた男だけでなく、代官もが地に頭を擦りつけた。
そして、とうとうミィとルルまでが土下座した。
ちょっと二人とも? 止めて!
「理解したようだな。ここまでさせるな。
次は国が滅びる覚悟をしてから手を出すんだな。ルル、ミィ帰るぞ」
頭を上げない二人を両脇に抱えて『エアカッター』で壁を括りぬいてその場を後にした。
その後、代官邸宅の前で誤解を解く為に言葉を尽くしたが、こっちの方が余程大変だった。
「ちょっと、神様とかじゃないからね? 脅しだよ?」
「……でも、はったりであんな真似は出来ません」
「ミィ、お兄ちゃんが天使様になった所見た」
魔法の効果でそれっぽく見せた事を何度も言い聞かせたが、少し二人の態度がかわってしまった。
「あのう、天使様……」
「いや、だから違うって……」
もう何度言えばと反射的に言葉を返したが、二人の声じゃない。
あれ? と視線を向ければそこにはアホ毛の子が頭を垂れていた。
おおう、やっとエンカウントした。と思ったら、今かよ。
「か、神様でしょうか?」
「どっちも違うけど……久しぶり?」
「え?」と困惑した表情を見せたアホ毛の子。
あの時の俺はどうやら記憶にも残らなかったらしい。
うむ。やはり誘っていなかったか……
「ほら、あの行き止まりの階段でさ……」
「え? あっ! あぁぁぁ!」
ちょ、ちょっと声大きいから!
このくらいの年代の子に指を指されながら大声を出されるのははらはらする。
「ああ、あの自ら誘ってきたのにご主人様を袖にしたというアホ毛の少女ですか?」
え? そんな言い方してないよ?
俺の勘違いだった、って言ったじゃんか!
「え? あの……良かったら、どうぞっ!」
こちらに視線を向けたまま、くねっとお尻を突き出した。
怖いのか、縮こまりギュッと胸の前で拳を握る。
「必要ありません。も、もう私が居ますから」
あう、ちょっと触りたかった……
でも恥ずかしがりながらいうルル可愛い。取り合えずそう言うならルルのを触ろう。
え? ここじゃ駄目? ミィも居るから?
ふむ。ミィはどこでも触らせてくれるのだが……尻尾とは奥がふかい。
「では、お、お話だけでも……」
ルルは一歩下がった。この返答は俺に任せるようだ。
「ああ言ってきたって事はさっきの見てたんだよね? 代官側の人?」
「ち、違います違います!
私は反政府組織『乙女の意地』のメンバーでララと申します。
お話を聞いて頂くだけでもいいので、どうか……」
あー、反政府か。倒してくれって事ね。嫌に決まってるじゃない。
「話は聞いても良いけど、先に言っておくね。戦えって言われても嫌だよ?」
「え? でも、どうしても助けて欲しい人がいて……」
「いやいや、キミはさ……
例えば、あそこに歩いている人を助けたいんです。
ちょっと命賭けてもらえますか? と言われて命賭ける?」
……黙っちゃった。そりゃそうだよな。
ここで賭けますなんて言ったらただの馬鹿だ。
「は、話は聞いて頂けるんですよね?」
「まあ、余り長くならないならいいよ」
「じゃ、じゃあ、その……宿で二人きりで……」
いや、そういう言い方止めて。ルルが嫉妬するから。
まあ、機密的な話があるのかもしれないけども。
恐る恐る視線を向けてみれば「私はかまいませんよ」と特に気にした様子もない返事が帰って来た。
「ほう。では、聞くだけ聞いてみようかな?
ルルとミィがこっちに居る以上はこの国の事とかちょっと知っておきたいし」
「私のためぇ?」
「おう。二人の為だ! いや、俺の為かな? 二人を守りたいのは俺の願いだし」
うむ。ミィ君も大きくなったら美味しく……いやいや、あかん。
その考えは今持っちゃあかん。大きくなって俺を選んでくれたらの話だ。うん。
「まあ、取り合えず、宿行こうか」
少し青ざめた顔をした彼女ララちゃんを連れて俺らが泊まる宿へと戻った。
中に入ると女将さんは面子が一人多いことに驚いたのか口を開く。
「っかぁぁ、
昨日までルルを苛める奴は国だろうが世界だろうが許さない。
なんて言ってた男がもう違う女連れて来たよ……
なんてこったい。許しちまったんかねぇ?
世界は許されちまったんかねぇ?」
「ち、違うから! 二人も居るでしょ? 止めて!
面白おかしく言うの特にやめて!」
全くこの人は……飛んだ女神様だよ。
ミィも笑わないの!
「そ、そんな事言ってくれてたんですか?」
「……恥ずかしいから穿り返さないで。傍から言われるのは駄目なんだよ」
「ふふ、ふふふ」
「ちょ、ルルまで笑わないで! ララちゃんだっけ? こっち来て! 早く!」
俺は、女将さんから逃げるようにララを部屋へと引きづり込んだ。
彼女は、戸を潜った所で止まり、モジモジしている。
「あの、その、こういうの初めてなので……」
「いいよ。口下手でも怒らないから。
手間が掛からない事なら少しくらい手助けしてもいいし」
ゆっくりと歩いて近づくと、ベットに腰掛ける俺の隣に座ってこっちを見上げた。
さあ、聞いてやろうじゃないかとどんな話が飛び出すのかを待つ。
「あの、どうしたらいいですか? 何一つわからないので」
「……キミは何を言っているのかな?
キミはここに何しに来たの?
説明する為に来たんじゃないの?」
もう、ジト目になるのも通り越した。
可愛いけど不思議ちゃん過ぎて、俺は困惑しながら問いかけた。
隣でガタリと音がした。きっとルルも聞いていてビックリしているのだろう。
無理に聞いてくださいって付いて来てそりゃないだろ!
「え? 話、聞いてくれるんですか?」
「……いや、聞くだけ聞いてって言ったのお前だろうが」
「ひぃっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
や、止めて……苛めてるみたいに感じて削られるから……
「もうルルの所行ってルルに甘えようかな……なんか疲れた」
「ま、待ってください! お願いしますっ!
はいっ! こんなので良ければいくらでも触っていいですからっ!」
彼女は尻尾をくいっと曲げて、俺の膝の上に乗せた。
余りに焦る彼女に溜息を突きながらブラシを取り出した。
「取り合えず、お前は落ち着け。ほれ、ブラッシングしてやるから」
「え? なんですかそれっ! やだっ! 怖いです!」
ふっふっふ、そう言っていられるのも今の内だ。ミィもルルもこれ大好きだぞ?
「あふぅっ……く、くすぐったっ、あっ、やらっ……待ってくださいっ」
「ああ、もうちょっと優しくした方がいいか?」
「な、なんですかそれっ!?」
「いや、髪に櫛通さないの? それと同じなんだけど……」
「え? あ、櫛ですか……でも尻尾に使うなんて聞いた事なかったので」
ふむ。確かルルもそういうプレイで使うって話は聞いた事あると言っていたな。
ミィに使った時は気が気じゃなかったと。
「でも、気持ちいいだろ? 眠くもなるらしいけど」
「……もうちょっと優しくお願いします」
一度は拒絶した手前恥ずかしいのか、照れながらもう一度尻尾を預けてきたララ。
毛が長くさらさらな手触りを味わいながらも優しく丁寧にブラッシングをした。
そして、彼女は眠った。
「……ルル、俺はどうしたらいい?」
壁に近寄り、声を掛けた。ガタリと音がして暫く待つとゆっくりと戸が開いた。
俺は少し引き攣った顔で「こいつ説明する前に寝やがった」と愚痴を零す。
「いや、これは流石にご主人様も……」
とルルは何故か彼女を庇った。
ど、どこが駄目だったのだろうか。
ああ、ブラッシングの眠気はそこまで抗いがたいものなのか。
ルルは寝はしないからミィが子供だからだと思ってた。
「まあ、遅くなる前に起こしてやればいいか」
「……そうですね」
「その、ルルに甘えたいんだけど、いいか?」
「……部屋足りませんし」
「取るよぉ! 女将さーん、全部屋貸し切りで!」
必死に走って部屋を取ったのだが、彼女が帰るまでその機会は訪れなかった。
くそう、不思議なアホ毛ちゃんめ。
こんなことなら、寝ている間に悪戯でもしてやればよかった。
いや待て、まだ寝ている。
「じゃあ、ルルそろそろ起こして話を聞くから二人にして貰えるか?」
「あ、はい。わかりました」
うん。起こす際に色々触れるだけ。問題はない。
えいっ、えいっ! うりゃっ! ピンピン!
ほう、弾力がある。脱がせたら流石に拙いよな。うーむ。
この葛藤は後でルルにぶつけよう。
さて、起こすか。
だが、ただ起こすのもつまらんな。
よし、取り合えず上半身裸になって添い寝をしよう。
「おーい。アホ毛娘。起きろ。三時のおやつだぞ?」
「嘘ぉ、おやつなんて出たこと無いじゃん」
むうぅぅ、なんて不憫な。帰りにおやつ買ってあげるから。
耳元で囁くように告げると漸く彼女は薄目を開いた。
「むぅぅ、ならお肉もぉ……」
おやつとお肉。凄い食い合わせだな。
「よぉ、中々可愛い寝顔だったぞ?」
頭を優しく撫で、ミィが喜ぶ耳の裏を優しく搔く。
どうやらララもそこが好きな様だ。
目をキュッと瞑りビクビクと身体を震わすが気持ち良さそうだ。
手を止めれば薄目から漸く力なく目を開いた状態となる。もう覚醒する所だろう。
「おはようララ、よく眠れたか?」
目をパチパチと周囲を見渡す。とてもスローリーな感じに。
どうやらお前も朝が弱いようだな。
「ひゃっ! へぇっ!? はだ、はだはだ?」
「何語だ? そんな事より、このままレジスタンスの話でも聞かせてくれないか?」
「うひゃっ! ち、ち、ち、乳首っ!?」
こらっ! いきなりそんな発言しないの!
なんか恥ずかしくなってきた。着よう。
「まあ、冗談だ。何もしてないから続き話してくれるか?
と言うか、何も話さずに寝やがったから最初からだが」
ホントは何もしてないわけでも無いが、ここは黙っておこう。捕まってしまう。
「……ふぇっ!? あっ、あぁぁ……ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
「いや、それはもういいから。最初に会った時の勝気なお前はどこ行った」
いや、一言しか交わしてないから流石に良く分からんが。
「だって、あの時は影でよく見えなかったし。
隠れて魔法の練習してたからその、強くないと思ってたしこっち側に誘えるかと思って」
「それで、逆情してしまったと……」
「い、いきなり尻尾触らせろだなんて言うから……」
「だって、こんなふさふさで可愛い尻尾見たら触りたくなるだろ?」
おおう、なんて手触りの良い。ブラッシングしたから余計に良くなってる。
ほれ、触ってみ? な? これ、触りたいって普通の事だろ?
きっと世界中の皆がお前の尻尾触りたいぜ? とっかえひっかえ揉みくちゃだぜ?
ありゃ、真っ赤になっちゃった。
「く、口説いて、ますよね?」
え、そっち? 怒ったかと思ったのだが……
「いいや。思った事言っただけだ。これはいい尻尾で最高だが口説いてはいない。
と言うか、いいから話せよ。お前が聞かせたい側だろ?」
あ、いじけちゃった。もうどうしたら話してくれるんだろうか……
仕方が無い。今日はもう帰すか。
「じゃあ、今日はもう帰れ、途中まで送ってくから」
「えっ!?」
「いや、話すなら聞くけど、お前話さないじゃん!
と言うか今日はもう帰れよぉ。用事があるんだよぉ」
ルルが、客が居ると嫌がるんだよ! なん部屋取ったと思ってんだ!
と、しょぼくれるララを立たせて送って行く。
取り合えず約束したので、おやつとお肉をたんまり買って無理やり渡して宿へと戻った。
「ふぅー。やっと帰せた」
「お兄ちゃん! ミィも、ミィも!」
尻尾をペタンと膝の上に乗せて転がる。ミィも聞いて居たのだろうか?
だが、これは好機だ。
さあ! 俺達の勝負を始めようか!?
俺は、更なる優しい手触りで先手を取った。いや、ずっと俺のターンなんだけど。
「――っ!? なんか変わった! でもミィ、前のが好きぃ……」
な、なんだと……ふっ、ならば戻せばいいだけの事。
いや、ならば逆にしっとりねっとり具合を強化してみるか?
俺は、殆ど触れない程度の優しいやり方から、速度を落としてはっきりと撫で付けるやり方に変えた。
「zzz」
はやっ!
まあ、とは言え、どうやら正解だった様だ。俺の夜が始まったぜ!
そう思っていたのだが、今度はルルが遠慮がちに尻尾を乗せてきた。
まあ、ミィにばかりしてやってるからな。
これくらいは当然します。させて頂きます!
「zzz」
し、しまった……
寝てしまった。いや、これは勝手にどうぞという合図!?
……怒られそうだし寝るか。
アホ毛め、後で覚えてろよ……zzz
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