第76話外出が認められたという事は、遊んで来て良いと言うことだろう④
次の日、目が覚めてみれば、ミィが膨れていた。
どうやら、一緒に寝ている所を目撃したらしい。どうして自分は別の部屋で寝かされてルルちゃんは一緒に寝てるのという事だ。
「それは、私とご主人様が夫婦の契りを交わしたからよ。ね? ご主人様?」
ご、ご主人様だと!?
何? うん?
こっちでは養う方をそう呼ぶのが主流なの?
素晴らしすぎる。ナチュラルご主人様プレイだと!?
でも、じゃあどうして昨日は……ああ、そうか。話をしたのはそのあとだった。
ちょっと待て……俺は今日の夜ここを立つのか? ご主人様プレイを捨てて?
「ムムム、どうするべきか……」
「い、居てくれたら嬉しいです……ご主人様」
「あっ! そうだぁ! ジャックをどうにかする用事があったわ!
これはまだまだ離れる訳には行かない! うむ。仕方がないのだ!」
「ジャック? 何それ?」
ルルが繭を潜め、ミィは首を傾げているが、取り合えず今日は戦闘訓練だな。
離れるのだから強くなって貰わねばならない。まぁ二人ならすぐだろ。
「よし、狩り行くぞぉ!」
と思って宿を出ようとしたら女将さんに「少しでいいから面貸しな」と奥に引きこまれた。
な、なんだろう? 別に変な染みとか作ってないよ? そこは気を使った!
即『ヒーリング』最強伝説!
「馬鹿言ってんじゃないよ。言っておく事があるんだよ。
まず一つ、あの子には借金がある。
あんたが一緒になるつもりなら、覚悟しなよ?
のぼせ上がらせてあとから逃げたら許さないからね」
「あ、ハイ。それは返しましたよ? 昨日の稼ぎで彼女が自分でですけど」
「はぁ? そんなに少ない額じゃないはずだよ」というので、昨日の稼ぎの総額と返した金額を告げて話を進めた。
「あ、あんた、マスターだったのかい……いや、それは好都合だ。
多分だけどね、これからあんたらは絡まれる事になる」
何故と問えば、あのチンピラに上級ポーションを出せるほどの力が無いからだと言われた。
聞けばルルは瀕死の傷を負い、身体を担保に借金という形で上級ポーションを得たそうだ。
彼女が詐欺師だと言っていたのは金額は通常の三倍ほどだったという。
だが、証文で了承している以上、相手側に落ち度は無い。
その借金は利息を返せないほどにでかく、膨らんでいった。
「こっちも商売だからね。金は払って貰わないと困る。
けど、追い出すには距離が近くなり過ぎててね。
無理に話しに混じってあんたに声掛けたって訳さ」
「それはわかりましたけど、何でそれでこれから絡まれる事になるんです?」
一応膨らんだ借金全てを返済したんだから……
「ありゃあ多分だけどさ。
あたしゃ権力者が目をつけたんじゃないかと思うんだ。
流石にね、返すあても無い奴にそれほど高額な金を貸したりはしないんだよ。
この宿の女神と言われた私だってそんな事はしないくらいさ。
あのチンピラがルルに手を出せなかったのも理由の一つだね。
確かに『カルマの光』の事もあるが、強姦くらいなら面倒が増える程度でどうとでも出来るのさ。恐らく、合意があったなら大丈夫くらいに思ってたんだろうよ。
返済したのが金貨三枚なら、もう少しで奴隷に落とせる金額までいった筈だ。
担保の場合自身の半分以下の金額に設定されるけど、そこに到達するまでは何も出来ないんだ。
そこで誰かが横入りしてみな。
肩透かし食らったそいつは顔真っ赤にして権力を振り下ろすだろうよ」
「なるほど。流石女神様。ご忠告痛み入ります」
そういう事か。まあ、女将さんも予測って言っているけど、言われて考えてみれば返済能力ない奴に金はかさないよな。
だけど、高々金貨数枚程度で奴隷落ちって……安すぎだろ。俺が買うわ!
「それで、それでも守ってやるつもりかい?」
「ええ。国だろうと世界だろうと、俺から嫁を奪う奴は許しませんよ」
「かっかっか。言うねぇ。まあ『僕には無理です』なんていつまでも言い続けるような奴よりよっぽど気持ちがいい」
え? 何それ、どこからきたの?
ルルを見捨てた幼馴染の少年? ああ、そりゃ疑り深くもなるか。
「ま、マスタークラスのあんたがそう言うなら安心だ。
心置きなくこれからは客として搾り取れるってもんだ!」
男勝りにそう言うと、バンバンと尻を叩かれて話の終わりを告げられた。
宿の外に出てみれば、ルルが不安そうに目を向けた。
ふむ。ここは嘘をついてでも男を見せる時だろう。
「何も心配は要らないぞ。お前の男は世界一強いんだ。
誰が何人連れてこようが一捻り。何も悩む必要は無い」
「やっぱり、女将さんから聞いたんですね。すみません……」
「じゃあ、それは身体で払って貰おうかなぁ? チラチラ」
「ミィも?」
あ、ミィの前で話す事じゃなかった……
「いや、今回守るのはルルだからな。うん。ミィはいつも通りでいいぞぉ?」
「わかったぁ!」
ほっ……
「今日はどこいくのぉ?」
「強い所だな。マスタークラスが行く所だ」
「「えっ!?」」
「嘘嘘、中級の所だよ」
まあ、本当はSランク狩場なんだけど。
行ったらバレるかなぁ?
「ビックリしましたよ。流石にそんな所言ったら死んでしまいます」
いやいや、死なないから。昨日も行ってるからね?
あっ、そう言えばルルはもうお嫁さんなのだし、装備ガッツリ固めちゃった方が良いな。
流石にもう遠慮しないだろ。
いや、皆で出すか。
「なぁ、昨日の稼ぎを金貨十枚づつ出して装備整えてもいいか?」
「あ、是非お願いします」
「さんせーい! 持ってるのやだったの」
いや、持ってるのは慣れようね?
とは言え、オリハルコンって売ってるのかな?
まあ、試しに聞いてみるか。
まだ早朝だし、ものさえ手に入ればさくっと出来るしな。
それから、大きな店に入り聞いてみたが、扱っていなかった。
後で取ってこよう。
もう狩場に向かっちゃおうかと外に出て歩き出した。
取り敢えずはミスリルで作るか。
全身一式は適当に作って。アクセサリーが面倒なんだよな。
「凄い。これ、ミスリルって事は……」
「ミィ見たことあるよ! 金貨百枚とかだった!」
「それは付与があるからじゃないかな? まあ、付与もつけるけど」
そう言いながら歩きつつも高速で作成していく。
面倒だと付与一つも混ぜたから少しだけ太く感じる。
けど、何とか二つ分できた。
「ハイこれ。このアクセサリーが一番強い装備だからいつでも外さない様にしてね?
無くなったらまた作ってあげるから」
中身の事は伏せておこう。ミィ素直だから逆に危険な目に合うかもしれないし。
さて、二人を抱き上げて走るか。
と思ったら、少し遠くで走って俺達を追い越す集団が見えた。
四人くらいかな?
一応『ソナー』
「あー、早速来たな。どうしよう。面倒だしこのまま吹き飛ばすか。
何にしよう『ライトニングストーム』」
彼らから数十メートル離れた所に数回撃ってみた。
ビックリしてぴょーんと飛び跳ねるとそのまま横に倒れた。
「ぶっ、何あの動き。面白集団だったりするのかな?」
「ご主人様!! 早く逃げましょう!!
あれは危険です。あんな雷見たことありません!」
何言ってるんだよって、攻撃魔法使える事すら説明してないか。
いや、ピロートークでルルには言った様な……
あっ、ミィの全身の毛が逆立って大変な事になってる!?
「いやいや、あれを撃ったの俺だから。
あいつら多分俺らを狙ってきた襲撃者だよ?
なーんも心配要らないから」
「本当に? お兄ちゃんが撃ったの?」
「おうよ。ほれ『エクスプロージョン』」
追い討ちを掛けるように少し離れた場所で大爆発が起きる。
再び強く毛を逆立ててミィは耳を抑えた。あ、ルルも辛そうに耳押さえてる。
「ごめんごめん。爆発はもうやめるよ。耳が良い二人にはきつかったな」
「そ、そんな事より、あれはなんですか?
こんなのもう誰にも負けないじゃないですか!」
「おうよ。世界最強だぜ? 攻撃も『シールド』で無効にできるしな」
魔物とかも入れれば本当に最強ではないだろうが、近い所にいる自負はある。
いや、レイドボスが倒せるようなら最強って事で良いのか?
「わ、私が伴侶で本当にいいんですか?」
「おう。お前がいい。これから宜しくな」
「ミィは?」
「ミィはそうだなぁ、妹みたいな感じでどうだ?
さっきお兄ちゃんって呼んでくれたし」
「わかったぁ、お兄ちゃんよろしく!」
ポフポフと頭を撫でて、再び二人を抱えてその集団と接触した。
「おーい、お前ら大丈夫か?」
「ああ? おい、こりゃなんだ?」
眉間にしわを寄せ、半泣き半切れで問いかけるリーダーっぽい男。
「これは魔法だ。『ライトニングストーム』」
バババっと一点から広がる様に雷が落ちる。
「待て、やめっ、やめろ!」
「当ててないだろ。カルマの光判定でお前らは赤なんだけど。
お前らなんで俺達を殺そうとしてるの。
これは正当な報復だぞ。死にたくないのであれば正直に答えとこうな?
今回は仲間の安全が掛かってるから、本当に殺すぞ?」
いや、脅しだよ? やらないよ?
だからミィ泣きそうにならないで。俺の精神が削られるから!
「言えば、見逃すのか?」
「それが、本当の事ならな。俺は広範囲感知も出来る。
何処に逃げても見つけられるから、嘘をつくのだけは止めろよ」
「わ、わかったが、俺達が知ることは一つだけだ。
ギルドの依頼で来た。だから依頼主はしらねぇ」
え? ハンターギルドって人殺しも請け負うの?
とルルに視線を送ると首を横に振られた。
「待て、裏の依頼だ。あんたマスターなんだろ?
聞けばわかる。そのクラスなら依頼を確認出来るからよ。
流石にターゲットがあんたになってるのは伏せられるだろうが……」
「そうか。なら、その依頼内容を取り合えず教えてくれ。
こっちでも確認はするが、今すぐ知っておきたい」
そう告げると、リーダーは周りの奴らと話し合いをしている。
内容のすりあわせをしている様だ。間違ったら殺されると必死なのだろう。
「内容はあんたら二人に毒を打ち込む事だ。その毒も渡されたものだ。ここにある。
報酬は金貨一枚だ」
って出されても毒の種類なんてわからんしな。
それにもうアクセも渡してあるし相当高位な毒じゃないと無駄だぞ?
いや、最高位の毒でも耐性で多少は生き延びていられるからその間に『フルキュアー』で直すし。
と、ルルやミィにははっきり聞こえる声で呟いた。
「そうか。それが嘘ではなく、もう俺達を襲わないと誓うならもう逃げていいよ」
「わ、わかった。誓う、絶対にもうかかわらねぇ。だから、だから頼む……」
何時までも懇願しているのでしっしと手を振って行かせた。
「ごめんなさい。私の所為で……」
「んな事気にするな。それより、選択肢が三つくらいあるがどうする?
一つは防衛。これは攻撃してくるのを今の様に撃退しつつ無視する。
次に反撃。元凶を見つけ出してどこまでも叩く。
最後が逃げるが勝ち。俺の嫁達と合流して他国で一緒に暮らす」
ルルは最後の提案にだろうか? 驚いた様に目を見開いた。
ミィは良く分からないようだ。うーんと唸りつつも、答えを出せずにいる。
「ご、ご主人様良いなら最後のが……」
「良いに決まってる。皆嫉妬はするだろうけど凄い優しい子達だからな」
「ミィはぁ?」
「一緒に来てくれるなら歓迎するぞ。妹枠で」
「やったー、お兄ちゃんと一緒に居たーい!」
うん。こうなったらもう覚悟を決めよう。
ルルを危険に晒したまま帰れないし、来てくれるならそれが一番良い。
俺は辛い思いをするかもしれないが。
「わかった。多分俺はかなり責められるけど、二人が辛くならない様に頑張るから」
「え? あ……だったらいいです。ご主人様が責められるなんて、そんなの嫌です」
あ、言葉間違った……
「いや、いいって。少しの間だけだと思うし」と言ってみたが、頑なに受け入れてくれない。
だけど、ここに居るなら全部問題を解決させないといけないしなぁ。
「じゃあ、取り合えず狩りしにいこうか。まだ居る事になるし、戦闘指南じゃなくて昨日と同じ事して貰うから」
そう告げて、今度は230レベルの狩場で同じ事をさせた。
とは言え、このレベルになると石など軽く突破されてしまうので一匹一匹押さえ込む事になってしまったが。
それでも今日一日やれば、120レベルくらいなら何とか超えてくれるだろう。
うん。ブラックスカイドラゴンとかでもあの人数であの日数だったのだし、多分いける筈。そうなれば、宿に残して潜入調査に出かけられる。
日が暮れて町に戻り、ルルとミィを降ろすと戦闘中も何度か聞かれた言葉を再度かけられた。
「あの、本当にこれで強くなれるんですか?」
何度も言ったのだけど、流石に信じられないか。
「お金稼ぎじゃないのぉ? あれ? でもお兄ちゃん攻撃も出来るよね?」
ああ、そうか。彼女達に昇格試験受けさせておくか。
うん。下級だからなんだのと言われるのは正直腹立つしな。
「じゃあ、今から証明しよう。取り合えずギルド行こうか」
そう告げて、ハンターギルドで『アビリティギフト』に触れさせた。
その光の色は、マスタークラスを証明するものだった。
うん。計算通り。だけど、弱い光だな。まだなったばかりか。
「おいおいおいおい、お前ら下級だったよな? どういう事なんだ?」
「説明義務は無いと思うぞ。昇格にも戦闘で力を示す必要があるんだ。偽証なんて出来ないだろ?」
受付の彼は「いや、そっちの心配して聞いたんじゃねぇよ」と引き攣った笑いを見せる。
「あー、まあ、確かに説明義務は無いし……取り合えずどうする?」
「勿論試験を頼みたい。ほい、金貨一枚」
はいよ、と彼は奥に行き、ギルドマスターを連れて来た。
視線が合うと同時に彼女は足を止めた。
「え?
待ってよ……あなたの昇格は終わったじゃない!
まだ私を苛めようっての!?」
苛めてはいないでしょ。
「いやいや、俺じゃないよ? 連れの二人」
「へ? そうなの? ……強いの?」
「いや、弱い。
だけど、マスターの一個下くらいならなれるんじゃないかと思ってさ」
そう告げると彼女は勢いを取り戻した。
「そ、そう。いいわ、強さを見てあげる」
ルルとミィは困惑を隠せず、青い顔で黙ってこちらを見つめる。
「大丈夫だ。大怪我しそうならすぐに回復して止めてやるから。俺を信じろ」
二人の頭に手を当てて優しく微笑んでみたら、珍しく怖がりなルルが先に覚悟を決めた。
「わかりました。私からお願いします」
「いいわ。全力できなさい」
いや、全力を勧めるなよ。
普通は大怪我しないように、力量を測りながらだろ?
この世界、力の差が半端じゃないんだから……
そんな考えをしている間に、二人はホールの中央に立ち、構えを取った。
何か違和感を感じて観察すれば、ルルが爪をアイアンクローに変えていた。
ああ、その所為襲われたのだし、これは当然か。
気が回らなかった。俺が言うべきだろうに。
「行きます!」
自分で考えていたのか、開始早々『ダブルステップ』でジグザグに進みつつ、『ダブルクロー』を使い二連撃を放つ。
「ぐっ、つ、強いじゃない! けどまあ、確かにあんたほどじゃないか。
こっちも行くよ! 『ファングクロー』『パワークロー』『ダブルステップ』『パワークロー』」
えぇぇ、それはちょっと……しょっぱな『ファングクロー』はダメでしょ。
確かにダメージは大きいけども、止まって上下から大きく爪で挟みこむスキルだから、かなり隙だらけだよ?
ルルが初心者だから警戒して避けたので助かったみたいだけど。
まあ、今は黙っていよう。後でルルに色々教えてあげればいいし。
そんな気持ちで生暖かい目で見ていれば、すぐに決着がついた。
「ま、参りました……」
と、膝を付いたのはルルのほうだ。でも何の助言も無しでよくやったと思う。
「うん。これだけ戦えるなら、マスターでも問題ないよ」
「「「うぉぉぉぉ」」」
後ろではマスター誕生だと酒盛りが始まった。
まだミィが居るんだけど……いや、ギャラリーはどうでもいいか。
「じゃあ、お次はそっちのちっちゃいのだね。
同じ様に先手は譲ってあげるから、好きに攻撃してきな」
腰に手を当ててご満悦な表情。
きっと俺が手酷く倒してしまったから、力を示せてホッとしてるのだと思われる。
「わかったぁ! ミィ頑張る!」
ミィもルルを見ていたので装備はアイアンクローだ。防具も外している。
ブレスレットだけは付けているので、能力的に問題は無いはず。
ギルドマスターのステータスは低かったし、爪の一撃ならスキル直撃でも即死もない筈だ。
大丈夫だよね?
確信的な思いがあっても、知ってる女の子が目の前で殺せる武器を使って戦うのを見るのは心臓に悪い。
ラーサやミレイちゃんみたいな歴の長い経験者で試験的なものならそこまででもないんだけど。
と、見ていればそんな心配は皆無だった。
ミィが一番爪での戦い方を理解していた。
『ダブルステップ』で動きを止めないように『ダブルクロー』を放つ。
同時使用すれば大きく移動しながら『ダブルクロー』を放てる為、回避率が上がるのだ。
ゲームで言うなら、攻撃範囲外に出れるだけど。
「いいよ。そこまで。中々のセンスだ。これで駄目とは言えないね」
いや、それでいいなら俺の時も終わりにしとけよ。
それに、爪が火爪だったら少なくともミィにはあんた余裕で負けてるからね?
「あ、ありがとうございます!」
ミィはペコペコと頭を下げて、彼女が頭を撫でて「精進しな」と頷き、奥へと引っ込んでいく。
新しいギルド証を受け取ると我先にと走り二人が満面の笑みで引っ付いてきた。
「ほれ、強くなってたろ? これでもう嫌な思いをさせられる事もない。
二人とも良く頑張ったな」
ぶんぶんと激しく振られる尻尾を見て思わず笑いながらも頭をなでた。
取り合えず宿に戻ろうと興奮した二人を離し歩き出す。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうして強くなれないから戦闘訓練って言ってたの?
凄く強くなってたよ?」
うむ。いい質問だ、ミィ君。
「言っておくが、あのギルドマスターはクソ弱いからな?
自信満々な本人には言えんが戦い方が最低だ。爪の使い方がなってない」
「え? ご主人様、剣を使うのですよね?」
「いや、爪も使えるよ?」
アサシンの時は回避短剣だったけど、スキル再振りで爪型にして超回避を楽しんだ事もあるから。
あー、でもVRMMOの様なこの世界で使った事はまだないな。
て言ってもここまでレベルが上がってるし戦闘も大分経験したから、爪を使う事に何の不安もないけど。
「あの、どうして爪を使わないんですか?」
「そりゃ、爪は長時間回復無しでソロでやる分にはいいけど、強敵と回復有りでやる分には剣の方が有効だからだよ。
武器には特色がある。魔法で回復も防御もできる俺は回避よりも火力が重要だからな」
そう。消耗品無しで狩場に放り出されるなら回避職の方が多くの敵を倒せる。
だが、両方回復有りで戦うのであれば断然、スキルも武器も火力の高い剣の方が討伐数が上がる。
ヒーラーは居ないしポーションは高いこんな世界なのだ。
冒険者で稼いで行くというのなら、確かに爪で超回避は悪くないけどね。
そんな話をしつつ、宿へと戻った。
その途中「爪で戦うご主人様が見たいです」と強請られたので、次の狩りで見せると約束を交わした。
宿の部屋に戻り、今日の稼ぎの山分けを終わらせて今後の行動について話し始める。
「二人は明日どうしたい? 俺、ちょっと依頼出した奴に脅しかけに行くけど」
「え? 駄目ですよ。危険です!」
「ミィ、何の話かわかんない……」
ミィがしょぼくれてしまったので、膝に乗せて問題がなさそうな範囲で状況を教える。主に伏せたのはエロい事だけだが。
「そうだったんだ! ルルちゃんお金返せて良かったね!」
「うん。ミィにも迷惑掛けたよね。ごめんね」
おお、ケモ耳の女の子達が抱き合う光景。これもまた有りだな、尊い。
「そんな訳で、明日何したいかを聞きたいんだけど……」
「一緒に居たいです」
「ミィもぉ!」
「いやいや、だから、お説教しに行くんだってば。
もう、いい加減信じてくれ。絶対に危険はない。
大変なのは相手を見つける事だけだ」
珍しくルルが口を尖らせた。可愛い。
「なら、付いて行っても良いじゃないですか。私の所為なんですから」
「いやぁ……ぶっちゃけいいんだけどさ。人との殺し合いだよ?
そんなの自分の嫁に見せたくないじゃん」
「ミィはぁ?」
当然ミィもに決まってるだろぉっ!
この愛い奴めっ。うりうり。
「いいえ、見せてください。
手酷い事だろうが、悪事だろうが、もう私には貴方が全てなんです。
辛い結果だろうと、見ていたいのです」
うーむ。エッチしてからの愛情度合いがヤバイ。昨日まで警戒されてたのに。
嬉しい事だけど、ホントに? と信じきれない俺が居る。
それはさておいて、どうしようか。
『隠密』『音消し』を駆使すれば、問題ないようにも思われる。
二人とも冒険者家業でやっていくなら、そういう所も見ておいてもいいようにも感じる。
問題は日本での感覚がまだ抜け切らないから罪悪感を……って問題がそこならスルーしていいか。
うん。もうマスタークラスにしてしまったのだし。
日本に連れて行くことも無いのだし。
ギルドが殺しを請け負う様な所だ。
こっちで暮らすならある程度なれた方が二人の安全に繋がる。
「じゃあ、一緒に行くか。
危険は無いけど、嫌なもの見るかもしれない事は覚悟しておいて」
結構真面目な表情で伝えてみたのだけど、嬉しそうにしている二人。
まあ、いいか。
そこまで手酷くしなくても、ルルや爪を諦めさせれば良いだけだし。
軽く撃退できるくらいレベル上げてやれば大丈夫だろ。
そう思って今日も風呂を作り、ミィから洗って行く。
ミィが先なのはブラッシングで寝かしつける為だ。
だが、今日の彼女は一味違った。
「ふにゃぁ……はっ!? 寝ないもん! ふにゃぁ……」
その激闘の末、何とか勝利を収めたが、これからは出来ない日も覚悟しなければいけないかも知れない……
そんな事を考えながらもルルを堪能していった。
そして、寝床をミィが寝てる所に変えつつ、少し気になった事を聞いてみた。
「どうしてあんなに警戒していたのに、受け入れてくれたんだ?」
「そんなの……言わないとわかりませんか?」
うん。全く。
溜息やめて!
「お金どころか、力も与えてくれて優しさをくれて、その上愛までくれたんですよ。好きにならない方が無理でした。
どうせ騙されるからと、ずっと我慢してたのに」
そこから、彼女が語る言葉に相槌を打っていく。
俺と出会った時、既に外見が好みだと思ってくれた様だ。
そんな事よりも自分の生活もままならない状況を何とかしなければいけない。
膨らむ借金に稼ぎの上がらない狩り、宿へのつけも膨らんでいく。
そこで現れた俺に、一日目の稼ぎを均等で分けて貰ってから激しく気持ちが揺れたそうだ。もしかしたら、本当の好意なのではと。
ルルは言い辛そうに「それでも絶対に騙そうとしてるって決め付けて気持ちを誤魔化しました。だから、少しでも稼がせて貰おうと」としゅんとしながら告白する。
気持ちが爆発したのはチンピラから助けて借金を肩代わりした時。
手を出すなと言って謝らせた所を見て、もう抑えがきかないと思ったと言う。
借金の形に身体を捧げる事となっても、この人にならそれも良いかもしれないと受け入れていたと言う。
まあ、そこは俺も意地悪な言い方しちゃったしな。チンピラが元彼か何かだと思ってたし。
けど、だからと言って出会ってたった三日でそこまで無償で全てを捧げますってなるものなのかな、と疑問だったんだと聞いた。
甘えた声で「意地悪です。こんなに好きにさせておいて。尻軽じゃないですよ?」と膨れられてしまった。
「全てから助けてくれて、可愛いって言ってくれて、ベットでもこんなに大切にされて、おまけに外見まで良かったら、もうこんなの抗いようが無いです」
彼女は、それに……と目を逸らし言葉を続けた。
「それに前提が違いますよ。無償なんかじゃないです。
愛して欲しいんです……どうしようもないくらい好きになっちゃったから……」
うわっ、なんだこの甘すぎる言葉は。
も、もう一回戦しようか。うん。隣の部屋にいこう。今すぐに……
「お兄ちゃん、ミィもぉ……zzz」
「「……っ!!」」
や、止めておこうか。うん。
「俺もルルの愛が欲しい。一時的に離れても、絶対に迎えにくるから」
うーむ。その理由が他の嫁の説得とか、情けない限りである。
だが、ルルは感激して泣きそうになっている。
強者が何でもありな国、都合が良すぎて逆に怖い。
せめて二人に危険が及ばないように、明日はちゃんとやろう。
こっちの世界来てから、共感覚なんて戦闘じゃ感じなくなったしな。
そんな決意を胸に、三人川の字になって眠りについた。
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