第78話外出が認められたという事は、遊んで来て良いと言うことだろう⑥
「いやいや、ラキねぇ、本当なんだってば! 盗んだんじゃないよ?」
少女ララは、狩人であり今では姉の様な彼女ラキに必死に弁明していた。
黒い髪、鋭い目つき、癖っ毛で乱雑に巻くようにセットされた髪を後ろに片手で流しながら気だるげに問う。
「じゃあ、代官邸宅を勝手に潜入調査してたまたまそこを襲撃した奴らがこの街最強の天上のサクットを手玉に取って? 兵士全員をぶっちぎって?
ララにお菓子やお肉を買ってくれたって言うの?」
腕を組み、額に青筋を立てながら見下ろすラキ。
「そうだよ! 本当なんだってば!
モンテねぇとペチねぇも言ってやってよ!
二人は私が嘘ついてればわかるでしょ!?」
「いや、わかる訳無いじゃん」
ペチと呼ばれた彼女は普段は楽天家でこういった話に乗ってくるはずが、荒唐無稽過ぎたのか、ララの思惑を外して一刀両断にされた。
女性にしては短めの金髪だが、性格に似合わず大人しめな髪型をしている。
「私にはわかる。嘘にしか聞こえない」
モンテは逆にいつもなら乗ってこない。
だが、今回は無駄に乗ってきた上に否定されてしまった。
薄いピンク色の長すぎる髪を散らばせながら、ボロボロの布団に身を投げ出している。
モンテとペチ、二人の女性はボロボロの小屋の中で、思い思いに寛ぎながらも、ララの言葉を否定する。
この小さな少女四人が反政府組織『乙女の意地』の総メンバーである。ここから更に増えて行く予定だとか。
「兎に角ね、そいつの所に行くよ。
流石にこんなに貰ってじゃあ知らん振りして頂こうって訳にはいないんだから」
「私はパス……行っても空気壊すだけ……」
ララの持って来たおやつを口に含みつつも、モンテはやる気なさげな顔で呟く様に告げた。
「私はちょっと見てみたいなぁ。ララが一日で手玉に取られて撃沈させられて、おやつまで買い与えた相手ってのを」
「ちょっと! ペチねぇ、酷い言い方しないでよ!
私だって最初は尻尾触らせて欲しいってお願いされたんだからね?」
「へぇ、それであんた、毛並み整えて望んだの。めっちゃさらさらじゃん」
どれどれと他の二人も参戦してララの尻尾をモフる。
ララは顔を赤くして叫び声を上げるが、その行いは満足されるまで終わらなかった。
「これは、その人がやってくれたの。
だから、撃沈とか手玉とかじゃないんだから!」
「なんにしても、ララの体使おうとするやり方は賛同できないよ。
私たちは、意地を見せる為にこうして組んだんだ」
「でも、私には『隠密』しかないから……お金も全部出してもらってるし……」
そう、ここのメンバーでララだけは三人に養われていた。
姉と呼ばれた三人は狩人として活動し、パーティーを組んでいる。
だが、生活はとても苦しい。その事をララは深く理解していた。
本当の家族ではないが、行動理念を共にした彼女らには固い結束があった。
「馬鹿だなー、ならわたしらの仕事を手伝えばいいじゃん。
そんな訳分からない男に媚びうるなんて、メンバー失格だよ?
あ、これおいしっ」
ペチが溜息を吐きながらララに言葉を投げかけた。そして、おやつに手を伸ばす。
「お前ら、いつまでも食べてんじゃないよ!
どうせ返す様な物じゃないんだ。帰ってからにしな。
あと、モンテ。面倒だからいきたくないってのは駄目だからね」
そう言われて仕方無しに動き出す。「折角の休日だってのに」と溜息を漏らす面々に小さく謝るララ。
そして彼女達は目的地へと向かう。
◇◆◇◆◇
「なんか、うちのララが迷惑掛けたみたいで申し訳なかったね」
宿の一室、ここは先日ララがお休みした部屋でもある。
所在なさげにしながらも頭に手を置かれそのまま下げさせられるララ。
「いやいや、子供のした事でそこまで怒ったりしないよ。
害がなかったどころか少し面白かったしね」
少し影のあるイメージを持つ男はクスリと笑い微笑みかける。
その隣には、とても高級な衣服に身を包んだ二人の美少女が居る。
「そう言ってくれるなら良かった。だけど、この子が言うんだよ。
あんたがこの街最強と言われる天上のサクットを倒したってさ。本当なの?」
その問いに、男は幼いほうの少女に向けて「天井にサクット?」と呟く。首を傾げられて男は少し顔を赤くしている。
「まあ、これでもマスタークラスなんでね。あれくらいは……」
「――っ!?」
ラキは面食らった。マスタークラスだなどとは聞いていなかった。
こんな男の話は聞いた事が無い。彼女は少し目を細める。
ララは嘘を吐く子ではない。ならば代官邸宅に居たのは確実。となるとあちら側なのではないかと。
その開いてしまった間にペチが興味津々に問いかける。
「ねぇねぇ、ララが体捧げようとしたのを壮大にスルーしたんだって?」
「ぶはっ、さ、されてないよ、そんな事」
「ちょ、ちょっとペチねぇ!?」
ララが一生懸命にペチの口を押さえるが、どうやら軽い口は一つではなかった様だ。
「どうやら、ララは惚れちゃったみたい。これからもおやつを買い与えて欲しい。
偶にはお肉もあげないと身体に悪いからそっちもよろしく」
モンテは覇気の無い顔で淡々と言う。
ラキは「なっ!? 何言ってんだよお前らは……」と気を揉んだ。
「まあ、それくらいならいいけど」
「いいのかよ!?」
思わずラキの突っ込みが入り笑いが起こる。
見ていればあちら側の空気も悪く無い様子。
落ち着く空気になり、そこでしっかりと周りを見てみれば、ラキは重大な事に気がついた。
「なあ、あんたもしかしてルルって名前か?」
「ええ。そうですけど……」
「じゃあ、代官の所に乗り込んで暴れたって話は本当の事?
マスタークラスってのもマジ?」
「えっと、はい。私たち一応全員マスタークラスです」
少し、遠慮気味にハンター証を出すルル。その隣にいる幼い少女も嬉しそうに掲げた。それは紛れも無く最高の狩人を証明するものであった。
そんなはずはとラキは声を上げる。
「え? でも、ルルって子は下級だって……
うちでも何とか助けられないかって話が出たんだが……」
「え、そんな話が……もう大丈夫です。ご主人様が全て解決してくださいましたから。ですが、そんな話がどこから……」
ルルの見せた表情は困惑だった。それもそうだろう。ラキたちは無差別に被害者を探し出し、何とか助けられないかと模索して動いていたのだから。
彼女が被害者側なのが確定した。ラキは安心して組織の活動内容に触れる。
そういった行動をしている事を告げるとルルは安心した様に再度御礼を告げた。
「へぇ、他にもルルを助けようとしてた人が居たのか。
ここの女将さんといい、この町も捨てたもんじゃないな」
優しい笑みだった。暗いイメージを持たせる彼の屈託の無い笑顔はラキに根拠の無い確信を持たせた。この男はきっと自分達の想いを理解してくれると。
「折り入って話があります。聞いて欲しい。聞くだけでも……」
その言葉に、彼は「ええ、聞くだけなら」とずっと待っていた様に姿勢を正した。
「私たちは皆、代官に姉妹を奪われているんだ――――」
最初に切り出した内容は、メンバー一人一人の身の上話だった。
代官のやり口は簡単な事。汚れ仕事を請け負うものに、欲しい女に重症を負わせる。そこでポーションを数倍の値段で売りつけて返済を待つ。
借金がそれで足り無そうであれば、毒を使い今度はキュアポーションを。そうして借金を膨らませるそうだ。
一人一人、苦しさ、悲しさ、憎しみ、それを出さないようにと耐えながらの告白が続いた。
「周りに邪魔するものが居れば、そいつは毒で殺しちまうのさ。
私の家はそれで両親も失った。奴隷の開放は難しいが、代官を殺せば開放できる。
……いや、あんたにそれをしてくれって言うほど世間知らずじゃないよ?」
「じゃあ、どうできれば一先ず満足が行くのかな?」
男は、泣いていた。だが表情を崩した訳じゃない。
変わらぬ真剣な表情で冷静に先を問いかけながらも、頬に一筋の雫を流した。
その様に、ラキだけでなく、モンテやペチ、当然ララも驚きを示した。
「ああ、気にしないで。目にゴミが入っただけだから。
構わず答えを聞かせて欲しい。どこが、キミ達の終着点なの?」
「……そりゃ、一先ずは妹の解放だよ。終着点は全員の解放。
けど、そこまでは不可能だと思ってる。
でも、妹だけ……自分達の家族だけは意地でもってね……」
その言葉に彼は黙り込んだ。
当然だ。メリットも無ければ家族だけでも不可能に過ぎる。
隷属は主人を殺さなければ逃れられない。だが、それが不可能なのだ。
だが、彼は真剣に向き合い涙を流してくれた。
それだけでも気持ちが休まった。そんな面持ちを見せてくれた。
「まあ、今日来たのは昨日ララが貰ったものの礼を告げに来ただけなんだ。
また気が向いたら遊んでやってくれよ」
ラキは決断した。
これ以上は巻き込まないと。
ルルと言う少女の話は知っていた。
どうにか抗おうと、チンピラに殴られながらも狩人を始めたと。
一度目にした事がある。それはもう酷い有様だった。
腫れた顔でぼろきれを着ていた。毛並みも酷いものだった。
ひと目で気がつけなかったのはそれほどに外見が変わっていたからだ。
これ以上この件に巻き込むのは不本意だ。
この短期間でどうやったかは知らないが、それでもマスタークラスになるまで相当に辛い努力をして、やっと掴んだ幸せなのだろうから。
彼らに頼む前に自分達も同じ努力をするべきなのだろう。
そう決意を新たにした。
「わかった……俺も手が無いか考えてみるよ。だから、また気軽に遊びに来て」
また目を見開かされた。
強者が弱者とこうして対等に話をするだけでなく、今、この時点から真剣に考えている様が見て取れた。
それは、この町ではありえない事だった。強者が全員嫌な奴な訳じゃない。
下手に甘い顔をすれば際限がなくなる為。
下の者たちが利用しようと張り付いてくるのだ。
互いに蹴落とそうと見っとも無く、誰だって相手にするのが嫌になる程。
彼の紳士的な対応に、優しい言葉に、流した涙に、表情を余り見せないモンテですら、口に手を当てて頬を染めて退室した。
「何あの人……あれ、本気だったよね?」
ペチは未だに信じられないとモンテに問う。
「私の分析ではどう見ても全部本気。多分、これからもおやつ買ってくれる」
「「「おやつはどうでもいいだろ!(じゃん)(でしょ)」」」
「うん。ホントはやられた……思わず靡く所だった」
モンテの一言に、一同は無言で帰り道を歩く。
「まあイケメンだし紳士だし良い人だとは思うけど、私らの都合に巻き込めない。
無理を言ったりはするなよ?」
「当然。そんな図々しいのはペチとララだけ。
あ、それじゃ半数……だけとは言えない。面汚しめ」
「「ちょっとちょっと!」」
そこから、女性四人の姦しいトークが始まる。
「おやつ買えと言っていた奴が何を」から始まり、「ラキねぇがメロメロだった」と巻き込まれ、「モンテがおやつを取り付けたのは良い仕事をした」と話が流れていき、何故かララはおやつ券という話しに落ち着いた。
「照れくさいなら、モンテお姉さんが一緒に行ってあげる。
ううん。おやつ券として持っていってあげる」
「モンテは出不精じゃん。私が付き合うよ。いや、持って行ってあげるよ」
「もうっ! 私は物じゃなーーい!」
だが、一人殆ど口を開かなかった彼女は先を見ていた。
一人思いつめた顔で呟く。「私も、やってやる」その言葉は姦しい三人には届いていなかった。
家に着くと同時に装備を装着するラキ。
訝しげにララが問う。
「こんな時間に装備つけてどうするの? 訓練か何か?」
「いや『ハイエナの通路』に行く。私ももう足踏みしていられないからね」
その言葉にモンテとペチが強く反応を示した。
「そこ、上級でも上の方じゃない! どうしちゃったの!?」
「私たちじゃ無理もいいとこ。知っているはず」
そう。今行っている狩場『化かしの森』ですら一杯一杯だ。
そこを入れて二つくらい格を越えている。そんな当たり前の事をラキが知らないはずがなかった。
「言っただろう。もう足踏みはしたくないんだ。無茶をしてくるつもりだよ。
まあ、失敗したら迷惑を掛ける。けど、誓ったろ? 命を賭けてでもってさ」
確かに、全員がそれを誓っているが、賭けにもならないとモンテが強く否定した。
「ルルって女居たろ? あいつが登録したって話を聞いたのはまだ五ヶ月前だ。
半年と立たずに抜かれるどころかマスターだよ。
ここで立ち止まっちゃユキに申し訳が立たないんだ。止めても無駄さ」
ラキは珍しく妹の名前を出した。これはもう止まらない。生活を共にする彼女達はそれを理解した。
「なら、なんで私ら誘わないん? 馬鹿じゃん」
「……体験だけしに行く。
でも死んだら誰も助からない。時間短縮するにも限度がある。撤退はごねないで」
あっけらかんと言うペチ。
モンテはやはり反対だが、体験させればわかるだろうと考えている様子。
ラキは迷うそぶりを見せたが、それを振り払ったのか二人の目を見て問う。
「……死ぬかも知れないよ?」
「そんなの最初から誓ってるじゃん?」
「死ぬことを誓った覚えはないけど、覚悟はある」
どんどんとおかしな方向に話が流れていく様をただただ見ているしか無かったララは口に手を当てて泣きそうになっている。
全員が無理だと思っている場所に行こうとしているのだ。止めたいという気持ちが強くなるが、ただ養われている足手纏いだという自覚がそれを邪魔した。
「ララ、もし私らが帰らなかったら、全部忘れて全うに生きろ。勝手な事言ってるのはわかってるけど、選べる道もないからね」
ラキはそう言って優しく頭を一撫でして、二人を連れ立って家を出た。
一人残されて不安で身を抱えて蹲る。
「どうしてこんな事に……」と思わず呟きが出るが、原因など狩人ですらない彼女にもわかって居た。
ルルと呼ばれた彼女が、マスター証を見せた事が起因だ。いや、一つも悪くない事はわかっている。だが、不安があの時見せないで居てくれたらと考えさせた。
◇◆◇◆◇
部屋の前に立っていた。
あの、宿屋の彼が居るであろう部屋の前に。
今は夜の22時。人を訪ねていい時間じゃない。相手はマスタークラス。
一度立ち止まってしまうと怖くて仕方が無い。臆病な自分に泣けてきた。
しゃくり声を必死に抑えて止まるのを待ったが、気持ちが不安定になっていくばかりで止まってくれない。
しゃがみ込んで涙を拭っていると、開けられなかった扉が開かれた。
「ど、どうしたん? いや、取り合えず入りなよ」
「こ、こんな、時間に……ごめんなさいっ」
上手く声が出ない。何とか出した言葉も「いいからいいから」と遮られ、部屋へと通された。
そこには何故か水の張った箱があり、小さな子が水浴びをしていた。
「ああ、お風呂だよ。ミイが大好きだからね。それより何かあったのか?」
そうだ。そんな事はどうでもいい。伝えなければ、請わなければ。
不安とか声が出ないとかそんな事を気にしてる場合では無かったのだ。最初から。
「ラキねぇたちが……死んじゃう……お願い、助けて」
嫌だと言われるだろう。自分が払えるものはなんだろうか。
体に興味を持たれなかった。ならもう何も無い……でも、頼み込むしか……
「何があったのか、それを話して。死んじゃうだけじゃわからないから」
「『ハイエナの通路』っていうダンジョンに行ったの……
凄く格上な所なんだって……」
暖かい手が頭に触れた。優しく耳を撫でられてやっと普通に声を出せた。
私は弱いな……
「その場所はわかる?」
「わかんない……」
彼はルルさんにも問いかけた。だが、彼女も知らないみたいだ。
私は馬鹿だ。場所も知らずに何を願うつもりだったのだろう。
調べてくるべきことだった。
「ちょっと出かけてくる。二人は先に休んでて。ララ、ちょっと抱えるぞ?」
えっ、と声を上げた時には彼の腕の中に居た。
恐ろしいほどに景色が巡り、恐怖に目を閉じる。
寒さを感じて外に出たことに気がついた。
抱えられたまま酒場に着くと、彼は柄の悪そうな男に問いかけた。
「悪いが、今すぐに『ハイエナの通路』の場所教えてくれ」
「なっ!? はぁ!? 爪返せって話しかと思ったぜ。
まあ、それくらいならかまわねぇけど」
二人は魔物の生息地を例に挙げてあの辺だその辺だと話し合い、御礼を告げると再び景色が巡った。
「た、助けて……くれるの?」
「お前は本当に今更だな。いいからそのまま大人しくしてろ。ちょっと飛ぶぞ」
声色は優しかった。だが、その言葉をかけられた後、私は絶叫した。
空に飛んでいたのだ。叫ばない訳が無かった。
「知ってた。叫ぶの知ってた」と、彼すらもそう呟く程には当たり前だろう。
そんな私の恐怖もお構い無しに何がなんだかわからないと言いたくなるほどに凄い速さの移動だった。
「あそこだな。そのまま突入するけど、もう叫ぶなよ。耳痛いから」
「う、うん。ごめんなさい……」
と、謝ったものの、叫ばない自信はなかった。
なので、もう視界を閉じよう。そう思って彼の胸で視界を隠した。
「『ソナー』魔物が走ってるな。あそこかな?」
まるで、ラキねえたちの居場所がわかったかの様に呟いた。
本当にわかったのかな? そう疑問に感じながら胸に顔をこすり付けて、気がついた。
この人、装備一切つけてない……
そりゃそうだ。
部屋で寛いで居た状況から、いきなり抱えられて走り出したのだから。
そんな事を考えている時だった。
「居たな。って大ピンチじゃねぇか! 『エクスヒーリング』『瞬動』」
大ピンチと聞こえて驚いて顔を上げた。その瞬間、居場所が飛んだ。
そう、移動ではなく、視界に映る景色が入れ替わった。
何が起こったのと周囲を見渡せば、意識の無い血まみれの三人が居た。
その周りにはおびただし数の魔物が転がっている。
それが、次々と魔石へと変わっていった。
「あっぶねぇ。間に合ったぞララ。良かったな」
「え? だって、こんなに血が一杯……」
「いや、もう魔法で治したから」
嘘……だってこんなに……倒れてるし……
自然と足が向かい、ラキねえに触れた。
「よし、ララに仕事を与える。『スリープ』三人を叩け! それで起きるはず」
「早くっ」と急かされて思わず頬を叩いた。
彼の言っていた通り、ラキねぇはうめき声をあげながらも目を覚ました。
「はっ!? 何でララが居るんだよ!? わたしら、死んだはずじゃ……」
余りにあんまりな言葉に心配の分苛立ちに変わった。なにそれ、全部むかつく!
「勝手に……勝手に死なないでよぉぉ……馬鹿っ!!」
私は、もう一度ラキねぇの頬を叩いた。
「わ、悪かったよ……ララも死んじまったのか?」
一つも堪えた様子を見せないラキねぇに本当に悪かったと思っているのかと、苛立ちを覚えたが、彼に他の二人も起こしてと頼まれたのでそっちを力いっぱい引っぱたいた。
「あ、れ? 何で? 痛みが消えてる」
……効いてない。
「少なくとも、ラキは食われてたよね?」
いつまでもボケをかましている三人に彼が助けてくれた事を告げた。
やっと状況を理解したみたいだ。
「さて、キミ達はお説教だ。取り合えず、そこに正座しようか。
まず、犬耳の偉大さから語ろう」
うん。是非ともお説教して欲しい。
って、何それ!?
何の冗談かと思ったが、彼は本当に耳や尻尾の偉大さを語りだした。
だが、私はこんな所でそんな話している場合じゃないだろうと気が気じゃなかった。
「ねぇ! 装備、つけてないんだし戻らないと危ないよ!」
彼は本当に普段着だ。
「えぇぇ、今更そこ!? ホントお前面白いな。
叩いたら次の日とかに痛いっ! って叫びそう」
「あー、あるね」
「ないよっ!! ペチねぇ、私怒ってるからね!」
もう、そんな訳無いじゃん!
あっ、だから危ないって……
って、何で魔物つれてくるのよ!?
これって大丈夫なのかとラキねぇを伺うが、彼女も腰を抜かしていた。
駄目だという事が一発で分かった。
本当に、どうして……自分だって危ないのに……
「よーしよしよしよし。うわっ、お前毛並み悪っ、口くっさ。絶対に噛むなよ?
噛んだら殴るからな? あっ……服が……この野朗!」
彼は、犬の形をした魔物を普通の動物にする様に撫でた。
鋭い爪で攻撃を受けながら。
何一つ気にした様子もなく、服を切られた事に怒り頭を叩けば魔物は魔石と変わった。
「いやいやいやいや! え? マスターってそんなに強いものなのかい?」
一番物知りなラキねぇですら同じ思いの様だ。
「マスターはただの入り口だよ。強さにはもっともっと先があるんだ。
まあ、これは魔法も掛かっているからさ。無くても耐えられるけど」
ラキにそう言葉を返し私を見て「心配はしなくていい」とまた頭を撫でてくれた。
ペチねぇやモンテねぇも撫でられて顔を赤くしている。気持ちはわかる。だってこれ気持ちいいもん。
いつの間にか恐怖なんて吹き飛んでいて、皆いつもの調子を取り戻し始めた頃。
「よし、じゃあ今日はここで一緒に遊ぶか」と何故かそんな訳が分からない話になった。
何でここで? 何して? 疑問は尽きないが、この安心する存在と一緒に居られるならそれもいいかも知れない。
こんな所でそんな事を思うなんて、私はきっと頭がおかしくなってしまったのだろう。
徐に歩き出した彼に付いて歩き、ただただそんな事を思った。
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