第64話ははは……そうきたか。ぶっ殺す。

 取り合えず、王女が部屋を出て行ったことで嵐が去り、本題に戻ることになった。

 話が進まないので、嫁達にも参加して貰いつつ話を始める。


「おい、ハル! 俺も失ってから頑張って全てを取り戻した。

 お前にも出来る。だから動き出せ!」

「俺に……も……でき……ど、どうやったらいいっすか!?」


 ハルは、その方法を早く教えてくれと顔を勢い良く上げた。


「そんなのしらねっすよ。自分で考えるっす」


 ふぅ、漸く言えた。

 皆も大笑いだし、うん。俺、良い仕事した。


「ル、ルイズ、俺、頑張るっすから……だから……」


 一人、真剣な顔でルイズちゃんを見つめるハル。

 全く、これで漸く一件落着だ。


「知らないわよ。

 私決闘する事になっちゃったし。ランスさんが守ってくれるみたいだし!

 ハルは王女の所にでも行けばいいんじゃないのぉ!」


 えぇぇ……ちょっとルイズちゃん? キミねぇ……

 あー、こいつらホントめんどくせぇ。


「ルイズさん、せめて頑張る時間をあげるって事は伝えましょう?

 男は余り放置すると他に行ってしまうといいますし」

「え? う、うん。

 ……待っててあげる」


 なん……だと……

 俺の言う事は一つも聞かなかったってのに……


「ええ、女性なんてあんなものです。姉上の所為でどうにも信じられません。

 私も伴侶をそろそろ探さないといけないと言うのに……」


 そう告げるライエル君のルイズちゃんに向ける目は冷たかった。


「そ、それでだな。本題に戻ろうと思う。

 レッドスカイドラゴンの今後の運用について。

 ここはハル次第となる。騎士団とかに身を置くのか、個人冒険者として国と連携するのか、王国をぶっちぎって帝国にでも行くか」

「あの……まだ私も居るのですが……」


 彼は『そんな事言わないでくださいよぉ』とこちらを見た。


「大丈夫。ライエル君は友達だ。そこはどうあっても変わらないから」

「ええと……大変嬉しいお言葉ですが、王国もお願いします」


 その言葉を受けて、そのまま会話を「だって、どうするんだ?」とハルへパスした。


「ル、ルイズはどうしたいっすか?

 俺は、ルイズの為に生きるっす」


 うん。遅い。最初からそう言ってれば俺もこんなに疲れなかったのに。


「そう、王女との決闘で死んじゃうかも知れないけどね?」


「いいから話進めろよ!」


「だってぇ! むぅ」


 むぅ、はこっちだよ!

 言い返してやる!


「むぅ!」


「ランス、気持ちはわかるけどハルが嫉妬してる。余計に拗れる」


 ああ、そうか。


「じゃあ、俺がもう決めちまうぞ? それでいいか?」

「ルイズと一緒ならそれでいいっす」

「まあ、ランスさんが守ってくれるそうですし?」


 はぁ、元凶が帰ったってのに場を荒らされた後始末が辛い。

 そしてルイズちゃん。だから俺を引き合いに出すのは止めろ、と言ったよね?


「という事でライエル君、どうしたい?」

「え? 宜しいのですか?」


 完全に要求を呑むわけじゃないよ? と断りを入れて、彼の気持ちを尋ねた。


「それは当然、勇者として国に仕えて頂く事が私達にとっての最善です。

 ですが、不審を抱かれてしまったでしょう。

 ですから、それを取り除く為の時間を頂きたいと思います。

 国にこの話を持ち帰り協議し、姉上の今後を決めてから改めて窺わせて頂きたい」

「はぁ、本当にライエル君だけなら良い感じに話がすぐ収まったのに……」


 とても、納得できる返答だった。

 ハルを国に仕えさせてもあの王女が居たらルイズちゃんが不幸になるだけだろう。

 それをどうにかしてから改めてという話になった。


「わかった。じゃあ、そっちの対応を決めてからファルケルでも寄越して」

「ええ、そうさせてください」


 それから、皆さんのランクは?

 など、ライエル君は世間話を交えながら色々情報を聞き出していった。

 中々のやり手だ。

 女に冷たい目を向けるだけはある。俺には出来ない事だ。

 ……男色じゃないよな? うん。違うと思っておこう。


 こっちも、ハルの以外は今の更新前のランクを答えた。

 勇者だって言い張ったし、更新すればハルはもうとっくにSランクだと言って差を見せたかったから。


「いやぁ、ここの女性は本当に容姿も心も綺麗な人たちばかりですね。

 私も貴族相手に婚約相手を探す身、人を見る目を養わなければいけません。

 ランスさん、是非秘訣を――」


 などと、嫁を煽てるものだから、俺も話が弾んで色々語ってしまった。

 そして、暫く雑談を続けていたその時だった。

 コンコンとドアをノックする音が響く。

 宿の者からお客が来ていると告げられ、知った人物だったのでそのまま通してもらう。


「やっと会えました。ランスさん、ミラさん、本当にありがとうございました。

 おかげでマクレーンは救われました。本当に感謝致します」


 ドアを潜るや否や、そのまま深く頭を下げたのはエドウィナだった。


「あ、ひさしぶり。この前はごめんね。あんな時間に寝てる所起こしちゃって……」

「「「ん?」」」


 いやいや、違うよ。ユミルも居たから!!

 誤解を解きつつ、彼女も座らせて話を続ける。


「お父様の話だと『千の宴』の方々もランスさんのおかげで残ってくれる様になったと。もう頭が上がらないって手紙が何通も届いて、それでその、あの……」

「ああ、うん。大丈夫。結婚を何度も進められたけど、そういうのは本人の気持ちだから干渉はしないで欲しいって言ってあるから」

「そう……ですか。すみません、助けてもらったのに気を使わせちゃって……」


 いいよいいよ。報酬をかなり奮発して貰ったり、色々情報も貰ったりしたし。


「あの、道を通してくれた件でお父様がお礼をしたいって言ってました」

「あ~、それさ、オーガ討伐の報酬とごっちゃにできないか聞いてみてくれない?

 今色々立て込んでるんだよね……」

「え? そう聞いてみるのは構いませんが、いらないんですか?」


 などと返していると、ライエル君がふと首をこちらに向けた。


「なるほど。マクレーンまで道を舗装したという話ですか」


 と、彼が話しに混ざった事でエドウィナが「こちらの方は?」と首を傾げた。

 おい! 王子知らないんかい! と思いつつも改めて紹介した。

 急激に顔を青くさせた彼女は突如膝をつき、ライエルがそれを止めるなどの一幕を終えて腰を落ち着ける。

 エドウィナの用件も終わり、ゆったりとした会話を交わし一息ついた頃彼は帰還を促した。


「では、私はそろそろ城へ戻ろうと思います」

「ああ、わかった。じゃあ、送ってくよ」


 その一言で解散となり、彼とファルケルを送って行く。


「そう言えば、屋敷の方に居を移さないのですか?

 もう、使われてしまって構いませんが」


 あー、褒美でそれも貰ったね。

 けど、今はなぁ……


「うん。王女の件が片付いて落ち着いたら移らせて貰おうかな」

「わかりました。気合入れて話を纏めてきます!」


 そうして、一応場所だけ聞いて彼をお城へと送った。

 かなり立派なお屋敷だ。

 貴族街だし広すぎだしで逆に管理に困りそうだなぁ。

 使用人に任せるのも手だが、こんな所に一人ペトラを残したら泣いてしまう。

 まあ、後々考えよう。

 そうして宿へと戻ったのだが、エリーゼとミレイちゃんの様子がおかしい。

 膝を突き、床を見つめて時が止まった様だ。


「ど、どうしたの?」

「あ、ランス、これ見て!」


 ミラが珍しく慌てて、こちらに渡してきた手紙にはこう書かれてあった。


「ハウラーン王国、上知勅令状

 第98代国王ハウラーン・フォン・ブルードより、国家反逆罪の罪により

 ハイランド・ルーフェン子爵及びにラリール・アルール男爵は

 この勅令書の到着を持って貴族位剥奪と共に領地没収の上、

 反逆者であるミレイ・ルーフェン及びにエリーゼ・アルールの処刑を命ずる。

 尚、処刑が即座に執行されない場合、更なる反逆の意があるとして兵を挙げる事とする」


 その言葉の最後に、解読不能な複雑な印が押されていた。


「何これ……どういう事?」


 ぴっと紙を投げ捨てて二人に問う。


「お兄さんが王子様送った後に、兵士が入って来たんだよ。

 それでこの手紙を置いていったの」


 いや、何聞いてんだよ俺。王女の策略なのはわかってるだろ。

 ちょっとカチンと来すぎておかしくなってるな。

 だけど、どっちだ? 王や宰相は知ってるのか?

 いや、知らないだろうな。少なくとも王は常識人の様に見えた。

 あっ、そうなるとこの手紙は大切だ。持っておこう。


「ちょっと城落としてくる。これは許せねぇわ」

「待つ。いくらケンヤでもそれは良くない。ある程度は我慢。

 皆殺しまでやるとその悪評は帝国まで届く」


 ……やだよ。

 流石にこれは無理。あ、でも皆殺しとか元からするつもりは無いよ?


「皆殺しなんてしないよ。強行突破くらいはするけど。

 後は場合によっては城を破壊するくらいかな」

「ならよし」


 一度、皆の顔を見渡していく。ラーサやユミル、ミラがこちらを見て頷く。

 俺は二人に一つ声を掛けて宿を飛び出した。


「エリーゼ、ミレイ、何も心配するな。全部俺がなんとかする」



 ◇◆◇◆◇


 その日、ハウラーン王国の王城その入り口となる門が、無理やりに抉じ開けられた。

 その凶行を行った男はまっすぐと、止まらず走らず、奥へと進む。


「き、きさまぁ! ここをどこだと思っている! 止まれ! とまれぇ!!」

「何故、効かない! 近衛兵か聖騎士はまだか!?」


 彼は城に入り、戸を蹴破りながら城の中を進む。

 攻撃してくる兵士達を全て無視して。

 一般の兵士では何一つの足止めにもならない。彼らは隊列を組み槍を構え自らの突いた槍に押し返される。

 それをひたすらに繰り返していた。


「『ウィンドウォール』」


 するりと兵士を越えて前方にすり抜けると、突如突風が吹き荒れた。

 侵入者との間に入り乱れる密度の深い暴風が壁の様に立ちふさがる。

 とても広い通路。のはずなのだが全てが閉ざされた。

 とはいえ兵士達もだから足を止めると言う訳にはいかなかった。


「と、突撃ぃぃ!」


 風の壁に突撃しては転がされ、体を刻まれる。

 そして、何故かその傷はすぐに癒えた。

 何が起こっているのか、侵入者は一体何者なのか、一切分からない状態に兵士達の顔は焦燥に染まる。

 だが、その彼らにも安堵の時が訪れた。


「そこまでだ! 我等は王国の精鋭中の精鋭、聖騎士隊である。

 これ以上の抵抗は無駄だと知れ。大人しくお縄に着くが良い!」


 彼らが現れてくれたのであれば安心だ。

 だが、通してしまったお咎めがくるのでは? と一般兵の彼らは早くもそちらの方向へと不安を傾けた。


「と、止まれぇ! なっ、何故攻撃が効かない!」

「ぜ、全軍一斉攻撃、『飛翔閃』」


「「「『飛翔閃』」」」


「ば、馬鹿な!? 無傷だと!?」


 暴風の隙間から、ぼやけて見える向こう側。

 そんな視界不良の状況ですら、何が起きたのかを明確にわからせた。

 先ほどまで自分達が発していた言葉をそのままに繰り返していたのだから。


「お、遅いぞ近衛! なにやら攻撃を無効に出来る技を使っている。連携するぞ!」


 近衛も到着した。これでやっと……


「全員、剣を引け! これは王命である。その者に剣を向けることはならぬと!」

「な、なに? どういう事だ!?」

「わからんが、王命だ。従って貰う」


 その瞬間、暴風が止み場が静まり返る。

 彼はこの神聖な城の中を破壊して回った者だ。

 それを自由にさせるなど、あってはならない事のはずなのに。


 そして、その問題の男は一言短く言葉を発した。


「王はどこだ?」

「案内する。だが、もう暴れるなよ」


 彼の舌打ちが響き、近衛と共に下級の者は入れないさらに深い領域へと足を踏み入れていった。




 ◇◆◇◆◇

 


「な、何をやっておるのだ! 申したであろう、ここでは一切の攻撃を禁じると」


 ディケンズ候爵は、ランスロットに困惑した表情を向ける。

 何故、彼がこんな凶行に挑んだのか、それすらも把握できていないからだ。


「俺も言ったはずだ。身内を攻撃しなければそれは守ると。

 誰も殺さないで来てやったのにそりゃねーだろ」

「だ、だからそれは今話し合っておる! 決闘は中止されるという話になったのだ」

「そっちの話はどうでもいい。

 これ、読んでくれ。この二人は俺の嫁なんだけど」


 その勅命の書かれた書状に目を通し、候爵は「そんな馬鹿な……」と後ずさる。


「この印は偽物か? ああ、バレる嘘は吐くなよ?」

「本物……の様に見える。だが、こんな話は……」


 彼の視線はその場にいる、書類の名前の人物へと注がれた。

 そして、候爵の手から奪いテーブルの上に投げ捨てられた書状を見て、第一王子ブレットが立ち上がった。


「これは、これは何かの間違いだ。こんな勅令など出すはずがない!」

「じゃあ、これは偽物か? この紙にこの印は偽物なのか?

 これが、アルールやルーフェンにも渡ってるかも知れない。

 誰がこんなもん出したか正確な所は知らないが落ち度が無いとは言わせねぇぞ?」


 確かにそれは、王宮で秘匿するように作らせている王室が使う証文用の特殊な紙、そして王だけが持つはずの特殊な印であった。

 魔法効果もあり、それが本物かどうかはすぐに判別できた。


 正確な所は知らないが、という言葉にライエルは即座に立ち上がり頭を下げる。

 その言葉は、姉だけではなく国王にも疑いの目を向けている事を理解したから。


「ランスロットさん、申し訳ございません。

 わかっておいででしょうが、犯人は間違いなく姉上です。

 当然、即座に取り消させて頂きます。

 そこの近衛は直ちに王家の印を手にし、それを証拠に偽の書類だと告げに走りなさい。アルールとルーフェン両方にです。恐らく半日程度の時差がありますが絶対に間に合わせる様に!」

「いや、待て。私が一筆書く。それを持て」

「「はっ!」」


 一筆書くの言葉に、即座に紙と筆が用意され、すらすらと書状を認めると近衛兵はすぐさま姿を消した。

 残された者達の表情は暗い。


「それで、この落とし前はどうつける」

「待て、私の依頼の権利をそれに当てて欲しい。

 どうか、それで許してはくれないか」


 ディケンズ候爵が懇願の視線をランスロットに向けた。

 だが、彼はその言葉に首を縦に振ることは無かった。


「無理だ。俺は言ったはずだ。嫁の危機であればそちらを優先すると」

「もう、危機は回避されたであろう?」


 候爵が、前に出ているからかその場に居る国王や宰相は苦い表情を見せながらも静観を決めた。

 ブレットはどう対応して良いのか分からず、視線を彷徨わせる行為をずっと続けている。


「本気で言ってるのか? 危機管理能力が低すぎんぞ?

 あれが、勝手に動いてそんな事を仕出かしたのであれば、そいつの不始末をどう落とし前をつけるんだって聞いてるんだ。

 本当ならば、国に対して全力でつけを払ってもらう所だが、俺は教育できなかった理由も知っている。だからと言ってそれをそのまま許す事は出来ない」


 候爵の願いも通らなかった。

 そして、次に宰相へと話が移る。


「それは、王女殿下にどれほどの罰を与えるのかを見せろという事か?」

「おいおい。概ね間違っては無いが、基本的なことを忘れてないか?

 今、一番最初に必要な事は再発防止に努める事だろうが。

 あれが大馬鹿やったのは何度目だ、ブレッド」

「ぐぬっ、もう、数え切れぬ……」


 彼は淡々と責め立てる様に言葉を続ける。 


「それで、お前達は諌める事をしなかったからこんな事になっている。

 あれは言ったぞ、もう帝国へ行けと、勇者を鍛えて殺してやるからと」

「――っ!? な、なんだと!? あの馬鹿者めっ……」


 彼は反論がない事を確認し、暫く責める言葉を続ける。


「ライエルの対応が素晴らしく良かったから、城を破壊するのは止めておく。

 だが、俺はもうこの国を出ようと思う。いい加減無いわ。

 貧民街は酷い事になってて子供を外に捨てるような真似をするし、

 貴族は平民を甚振るのが義務だなんていい出すし、

 王女が国庫を使い果たしたなんて言ってる癖に戦争するなんて言ってるし。

 それを周りの者もただその言葉を肯定してると来た。

 その金どうすんの? 平民から搾り取るの?

 流石にそんな国、居られねぇぞ?」


 その言葉に対して、国王陛下が口を開いた。


「済まぬ。そなたは影で支えてくれていたらしいな。

 わかっては居るのだ。だが、まだ時間が足りぬ」

「いや、陛下は仕方が無いでしょ。全ては先代皇帝のクソ野朗の所為だ。

 俺が言っているのはブレット達の事だよ。

 王が政務を出来ない。それは他の理由でなる可能性だってある。

 国の事をほぼ投げて、父親の治療の為にって二人して引き篭もるのはダメだろ。

 そんな事をする王に誰が付いてくるんだ。

 お前らは、本や国外にじゃなく、まずは国内に目を向けるべきだったんだよ。

 俺が行った所の領主は皆話がわかる人たちだったぞ」


 彼は、長々とブレットとライエルに説教をする。

 

「そんな事はわかっている! だがな? 当時俺は6歳だぞ!?

 公爵に通常政務を教わり、それをこなすだけで精一杯だったのだ!

 お前にこの、この苦労の何がわかる!」

「そんなのわかんねぇよ。

 いや、相当辛い立場に居た事は予想できるよ?

 正直同情はするし凄いとは思う。

 でもお前さ、他人が苦労してたらそいつの所為で大切な人失っても許すの?」


 ブレットは歯噛みして、顔を伏せた。

 ライエルも、彼の目を見返すが言葉は出てこない。


「うむ。言い分はわかった。もっともである。

 だが、この子らに罪は無いと思ってしまう事を許して欲しい」


 もう見ていられないと国王が間に入る。

 そこには何時のもポーカーフェイスなど、一つも無く父親の顔だった。


「罪だとは思ってないし。実情知ってるんだから。

 ただ、それでも責任はあるだろ。

 出来ないならできないで、どうなろうが公爵に投げるべきだったのだから。

 それに俺は、ブレット王子とライエル王子には好感を持っている。

 俺なら出来ない絶対無理って即投げしただろうしな。

 ただ、意識改革をして欲しいから言っているだけだ。

 それがあのクソ王女の教育をするかしないかにも繋がってたしな。

 まあ、俺が言った所で何様だって逆効果かも知れんけど……」


 少し、彼の勢いが納まったかの様に見えたその時、宰相が口を挟んだ。


「うむ。ランスロットの言う事は正しい。

 陛下とそれをやっていかねばならない事を昨夜話した所であった。

 して、目覚めてまだ時が経たぬ私に教えて欲しい。

 どの様な罰を望む?」


 宰相は少しずるい言い方を混ぜつつも彼に問う。

 その効果は抜群だった。


「まあ、確かにそうだよな。

 最初も言ったが再発防止だ。あれをもう近づけないで欲しい。

 ハルも相当に参ってる」

「うむ。だが、王宮に閉じ込めるくらいでは納得できまい?

 王女と言えど、王印を勝手に使い領主に上知令を出すなど、それほどに重大な事である。

 加えて処刑まで申し付けたのだからな」


 彼は、もうすっかり怒りなど引っ込めて「だろぉ?」などと言っている。

 密かにライエルが「なるほど、流石はクルード」と呟いたのには深い意味がありそうである。


「うーん。こっちの要求はこの勅命の撤回と再発防止かな。罰の方は任せる。

 国王は親馬鹿っぽいから、酷な事言って恨まれたくないし」

「な、なんと。それだけで良いのか?」

「うん。俺が絶対に許せないのは嫁を泣かせたり危機に陥らせたりする事だから。

 取り合えず、そこをどうにか出来れば良いかな」


 その言葉に、国王は深く頭を下げ「感謝する」と告げた。


「では、その様に対応するとしよう。少なくとも当分は表に出すつもりはない。

 決闘も取り下げる。

 これからは謝罪の為の話し合いという事で良いだろうか?」


 彼は呟く「……あっ、そうか。面倒だな。ずっと言えなかった言葉言って良い?」と徐に尋ねた。

 何を言われるのだろうか。

 ブレットは密かに息を呑んだ。


 国王と宰相は同時に頷いた。


「面倒だから、何もいらない」


 そして、その場の者達全員の口がパカりと開いた。

 その拍子抜けする言葉から、逸早く我を取り戻した候爵が問いかける。


「ランスロットよ、こうして話が上手く着いたのだ。

 出て行く事は無いのではないか?」

「……それはこれからの予定次第だな。

 まあ、もう寄り付かないなんて事は無くなったけど。

 勇者は置いて行くつもりだから、何かあればそっち使って。

 十分に強くなってるし」


 勇者ハルは、ブラックオーガの複数相手も単独で出来る。

 特攻がない分即殺とはいかないが。

 それは勇者単独での話し、後衛が居ればそれも余裕だろう。

 それ即ち、この国限定になるが、ダンジョン内やボスを抜かしたどんな魔物も倒せるという事になる。

 彼はその事を説明し、それでどうにもならなければ呼んでくれと伝えた。


「そうか。だが、流石に肝を冷やしたぞ。

 理由が理由なので、気持ちは理解できるが……」


 むぅ、と困った様に口を曲げた候爵が終わった後の愚痴を始めた。


「強行突破出来る中で、一番早くて被害が少ないの選んだんだけど。

 ライエル君の為に」

「む、そうか。確かに火急の話であったな。だが、何故ライエル殿下なのだ?」

「それは、私とランスロットさんは何故か話が合うからでしょうね」


 やっと嵐を抜けたと息を吐く様に目をパチパチとさせて、ライエル王子が話しに加わり、候爵の疑問に答えた。


「ほう、それは良い話だ」

「ええ、努力家な二人には好感を持ってますよ? あれは最低のクズですけど」


 その容赦のない言葉に、ブレットは素の表情で力なく笑う。


「ははは、言うではないか。是非あれの前でも言って欲しいものだ。

 あれは暴力的過ぎていかん。何を言っても堪えぬ……」

「兄上、がつーんと言ってくれましたよ。かなりびびってました」

「な、なにっ!?」


 報告は全て終わっていたはずだが、ライエルは言い過ぎた一件をぼかしていた。

 彼はもう隠す必要がない、と面白おかしくブレットに告げて盛り上がる。

 国王陛下も「これこれ、例え悪い事をしたとて家族をその様に言うものではない」とお父さんの顔を見せている。

 そして、徐に扉が開かれた。


「なっ! 何故貴様がここにいる!」


 その言葉を上げたのは、元凶であるアイリス王女だった。

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