第62話空気の読めない男再び。

 会談が終わり、王宮を出た。

 隣には第二王子がいる。


 ライエル君の希望で出来るだけ早くとの事だったので「こちらは今すぐでも構いませんが、王家の方ですし準備がありますよね?」と、問いかけると予想外な答えが帰って来た。

 彼は思ったよりフットワークが軽いらしい。


「問題ありません。お供も決まっておりますし、食事なども同じで構いませんから」


 と気軽な感じに言うものだから、俺もつい「じゃあ、このまま行っちゃいますか」と言ってしまった。

 然程問題がある話ではないが、嫁達に前もってどう話したのかを伝えておきたかったな。

 あの子達、多分ペラペラと喋ってしまうと思われる。主にハルの駄目な所を。

 そんな不安を抱えながら、彼の付き人を待っている状態だ。

 いきなり出かけるから準備しろって言われてバタバタ準備しているのだろうな。


「お待たせして申し訳ございません、ライエル様。

 ケンヤ、久しぶりだな」


 荷物を抱えて小走りで寄って来た少年は俺の顔見知りだった。

 ……は? 何でお前がここにいんの?


「いや、実はこういう事なんだ。幻滅したか?」


 目の前に現れたお付きの男は、ファルケルだった。

 確かに、故郷にいきなり帰ったって話は聞いたが、まさかそう来るとは思わなかった。


「幻滅って何にだよ。そもそもこういう事って言葉からして意味がわからん」


 相変わらずな不思議ちゃんだな。と首を傾げた。


「少し申し上げ難いのですが、彼は私が帝国に送り出したスパイの様な者なのです」


 本気で意味が分からなかった俺に答えをくれたのはライエル君。

 うん。いいね。ファルケルなんかよりよっぽど使える。


「なるほど。だから、新生帝国派にも独立派にも近寄る癖に、空気読めない発言ばかりしていたのか」

「いやいや、お前に言われたくないよ!

 方々にコネ作って回ってたのに、平然と姿を消すし」

「阿呆!

 コネを作ったのは全てマジックアイテムをどうにかする為なんだから、目的達したら帰るだろうが!」

「いや、そうは言っても、皇女に将軍に公爵家だぞ?

 まさか、じゃあ、帰るわっていきなり居なくなるとは思わないだろうが」


 遠慮の無い言葉の交し合いにライエル君も少し面食らった様子。

 だけど、こいつとは帝国に居る時からこんなもんだ。

 あっ、いい事思いついた。


「あ、すみません。このファルケルの馬鹿の所為でお待たせしてしまいましたね。

 ささ、宿まで参りましょう。ほら、早くしろよ。こののろまっ」

「くっ、お前、覚えてろよ。すみませんでしたライエル様」


 ふははは、これが権力を傘に着るというものだ。覚えておくが良い。


「それほどに親しい間柄だったのですね。少し驚きました」

「いえ、親しいと言う訳では……こいつがむちゃくちゃなんです」

「おいファルケル、お前、スキルとか一杯教えてやったのに、そう言う事言うの?」

「……それは感謝してるが、お前もうちょっと気を使えよ。王族の前だぞ?」


 いや、お前が来るまではちゃんと気を使ってたっての。

 リズム狂わせたのはお前!


「んで、どうする。俺が送る?

 って急ぎなんだから俺が送るべきだよな……カート持ってくれば良かった。

『ストーンウォール』『クリエイトストーン』」


「「――っ!?」」


 いやいや、ファルケルお前はビビるなよ。

 知ってるだろ?

 ああ、帝国では見せてないか。


「これは、驚きました。これは……魔法で動くのですか?」

「お前……説明してからにしろよ。いつもいつも……」


 ブーブー煩いな。ライエル君を見習えよ。


「いえいえ、ただの乗り物なので俺が引きます。宿に行けばもう少し大きなのがあるので乗り変えますけど、それまではこちらで」


 まだぶつぶつ言っているファルケルを放置して早速荷物を積み込み移動を開始する。

 荷物なんてこんなに一杯いらないだろうに。

 そんな風に思いつつも、いつもの様にカートを引いた。


 って、後ろから悲鳴が凄いんだが……ああ、そう言えば道の悪い街中だった。

 スピード落とさなきゃ、って思ったら着いた。


「お、おまっ……」

「ちょっと嫁に事情を話して来るのでお待ち下さい」


 言わせねぇよ!


 俺は逃げるように宿に駆け込み、早口で皆に事情を説明する。


「それなら、私達は付いて行かない方がいいんじゃない?

 私は合わせられるけど、皆は無理でしょ?」


 と、自信満々のミレイちゃん。うん。元に戻ってきたね。

 でもそういうの苦手で家を出たって言ってなかったっけ?


「心外ですわ。私は問題ありません。貴族街に付き合っているのも私なのですから」


 エリーゼは、うん。信頼できる。余計な事まず喋らないし。

 でも「ほらー、ほらー」とか言わないの。すこぶる可愛いけど。


「すぐ戻ってこれるのなら、待っててもいい。

 王家の人間とか怖いし」

「あー、なるほど。じゃあ、ちょっと行ってくるよ。確かに一日で戻るだろうし」


 皇女殿下ミラの王族怖いから行かないという言葉を受けて一人で向かう事にした。

 彼女達も王族の相手はしたくないのだろう。

 思いの他すんなりミラの提案に乗ってくれた。


 ならば、急いで行って帰るのみ。

 そのまま宿を出てライエル君に出発を伝える。


「では事情も話せましたので、このまま向かうとしましょう」

「ちょっと待て。あれをまたやるつもりか? お前ふざけるなよ」

「分かってるよ。街中出れば揺れなくなるんだよ。

 失念してた。出るまではゆっくり行くよ」


 ちょっと正直に伝えた。


「そうでしたか。安心しました。では、何とか耐えますので宜しく頼みます」

「いえ、これからは揺れる所ではスピードを落としますので、ご安心を」


 そう伝えるとファルケルも少し安心した様子。

 そのまま、ガタゴトと道を走って行く。


「凄いものですね。速度を抑えていても馬を追い越しています」

「こいつホントおかしいんですよ。まあ、悪い奴じゃないですけどね」


 ほう、ツンデレかな? だが男のツンデレは最悪だぞ?

 いや、お前は元々最悪だがな?

 まあそこまで悪く言ってなさそうなので苛めるのは止めてやるか。


 ああ、やっと貴族門にたどり着いた。

 ……あれ? あそこに立っている人見覚えあるような。


「ライエル様、あれ……どうしましょう……」

「……見つからずに出たいです。切実に」


 ならば、と動き出そうとした時、女性の声が門の方から上がる。


「ライエル、こっちだ」と。


 見つかってしまった。


「……どうしましょう。逃げますか?」


 俺としては逃げたい。余裕で巻けるよ?


「いえ……後が大変です。すみませんが行ってください」

「……心中お察しします」

「おい、どういう事だ? あれはアイリス様だろ?」


 何でお前がしらねぇんだよ!

 やばい。こいつ変わらず空気読めない。邪魔だ。

 絶対引っ掻き回す発言するわ。帝国の時思い知ったし。


「ファルケル、お前は口を開くなよ。面倒な事になるから」

「な、なんでだよ。いや、自分からは話しかけられねぇっての」


 ……本当に分かってるのだろうか。

 気楽に接しられるから嫌いではないが、こういう場では面倒なんだよなこいつ。

 仕方無しに俺はカートを引いて手を上げている彼女の所に走らせる。


 そこには、鎧を着込んだ兵士達が整列している。

 まるで、これより戦に出るとでも言い出しそうな状態だ。


「姉上、このような場所に兵を連れてどうしたのですか!?

 その様な話は聞いておりませんが……」

「なぁに、簡単な話だ。

 これより遠出をするのだろう?

 護衛が必要だと思ってな」


 アイリス王女は得意げに語る。


「いえ、姉上。Sランク冒険者の方だという事を失念してはおりませんか?」

「何をいう。お前達だろう? 利用するような真似はするなと申したのは。

 王家の依頼で移動をするのであれば、護衛もこちらがやる。当然の事だ」

「ええ、確かに。

 ですが、それは状況に寄ります。

 足手纏いになるのであれば、前に出ない。姉上も習ったはずですが?」


 ふぅ、と息を吐くライエル王子。すかさず王女の鉄拳が飛ぶ。

 ひぃっと声が響き、軽く飛ばされた王子だが、すぐに起き上がった。


「こ、これは……」

「『シールド』と『マジックシールド』を張らせて貰っています。

 不測の事態が起きても王子が怪我する事はありません。

 仮にカートから落ちても無傷で居られます。

 国王陛下とお約束させて頂きましたからね」


 彼は「素晴らしい」と口元を吊り上げる。


「あぁねぇうぅえぇぇ、今日こそは言わせて頂きましょう。この、残念暴力女!」


 え、えぇぇぇ、ちょっとライエル君?

 キミはもっと考えが深い男だったはずだよ?

 この魔法はずっとじゃない。帰ったらキミを守るものは居ないんだよ?


「良く言った。おい、ランスロット。一時でいい。

 父上には私から言う。『シールド』を解け。これは命令だ」

「お断りします」


 ビクリと震えた彼、即座に断った事で安堵の息を吐いた。


「貴様、私の言う事が聞けぬと申すか? 王女の命だぞ!」

「ええ、聞きませんよ。免状を貰っておりますので」


 そう。俺は命令を聞かなくていい免状をさっき貰った。

 その場で発行してくれたので、もう持っている。

 王女は退室していたのでその事実を知らなかったので、免状を開いて王女アイリスに見せ付けた。

 まあ、持ってなくてもそんな言い方じゃ聞かんがな。


「なっ、全ての命令だと!? 

 そんな馬鹿な話があるか!! 王家の言葉も無視できる事になるのだぞ!?」

「父上がお決めになった事に異論があると?」

「ぐ、ぐぬぬ。良いだろう。

 だが、私も同行させて貰う。それは断らせぬぞ」

「いいえ、帰ってください。姉上が居ては勇者殿もお困りになります」


 うん。間違いなくハルは困るね。それはライエル君でも変わらないけど。


「そんな事ない! 絶対に行くからな。はい、もう乗ったぁ。

 お前の力では降ろせないだろう? はっ、参ったか」


 彼らはどうしてここまでお子ちゃまなのだろうか……

 いや、王女の方が輪を掛けて酷いが。


「ランスロットさん、すみませんが姉上を降ろして頂けないでしょうか?」

「ほう、私の体に触れるなら、娶って貰わねばならんなぁ?

 触れておいてそれすらも断ってみろ、死刑は免れられんぞ?」


 この女、性質わるっ!


「えっと……ファルケル、どうしたらいい?」

「お前、散々黙ってろって言ってそれか! しらんわ」


 だよねぇー。


「まあ、帰り遅くなるのもやだし、もうこのまま行きますか」

「え? 理由そこかよ!?」


 いいからお前は黙っていろ!

 俺は、もう諦めたとカートを引き始めた。


「ふはは、たわいない。最初からいう事を聞いておればいいのだ!」

「これはもう、どうしようもありませんね。ランスロットさん、お手数を掛けます」


 うん。あんまりに酷ければちょっと叱るけどね?

 ハルに任せるし、俺はもうちょっとくらい嫌われても構わないし。

 俺が約束したのはライエル君の無事だし。


 市民門、外門を出て、漸く俺が整えた道に出た。


「じゃあ、スピードを上げますからね」


 俺は、帝国でガイールに散々言われたので、一言入れてスピードをアップした。

 そこまで急がなくても良いが、精神的に疲れるから出来るだけ早く帰りたい。

 そう思わされたので全速力でホールディへと走った。

 中々良い感じに景色が流れていく。


「え? 何!? 何なのこれぇぇ!?」

「ま、待って下さいこれ、本当に大丈夫なのですか!?」

「おいぃぃぃ! ケンヤふざけんなぁぁぁ!!」


 ヤバイ。全員がガイール状態だ。

 何故だ。揺れてないのに……

 だが、ここで歩を緩めても、ただ長い付き合いになるだけだ。

 ライエル君とファルケルの二人ならそれもまた一興だが、この頭悪そうな女と長時間居たくない。

 いくら外見が良くてもこれは無理。そんなに好みでもないし。


「ただ速いだけです。何の問題もありませんよ」


 そう言って、後は無視した。俺に命令できるものは居ないのだ。

 まあ法に触れなければという但し書きが付くので、王女の頭が回れば、不敬罪にいくらでも問えるのだが。

 それすらも、やれるもんならやってみろの精神で行くつもりである。


「あ、あれがリードですよ。ライエル様」

「な、何ですってぇぇ」


 いや、お前には言ってないよ。無理やり付いてきたんだから大人しくしてて。


「は、早い……慣れてくれば、案外大丈夫なものですね。快適と言えます」

「た、確かにそうですね。だがケンヤ、前もって言えよ!」

「だからスピード上げるってちゃんと言いましたぁ!

 聞いてなかったファルケルが悪いんですぅ!」


 握りこぶしを作ってプルプルと震えるファルケル。

 ふん、単細胞め。

 ライエル王子を見ろ。もう順応して景色を楽しんでるぞ。


「なるほど。これほどに早く移動できるからこその強さと言う事ですか」

「いや、流石に移動できるだけじゃ、難しいですよ。

 ケンヤは戦闘面でも異常なんです。

 剣術も攻撃魔法も回復魔法も何でも使えるんですよ。

 教え方も凄い上手くて教えを受けたもの全員がもうBランクを超えています」

「その話は昨日質問した時に聞きたかったですね……」


 おい、お前勝手にペラペラと……

 いや、そう言えば王国のスパイだったか。なら言うなって言っても無駄だな。

 くそう、どこに居てもこいつはめんどくせぇ。


「そう言えば、お前には試験でいちゃもんつけられた恨みがあったな。

 取り合えずライエル様にちくってやる」

「いや、あれはお前が悪いだろ?」


 と、移動中暇になってきたのでファルケル苛めに性を出した。

 王女はまだ、怖がって身を隠し時折顔を出してはひぃっと声を上げている。

 なので快適にファルケル苛めを進めた。


「なるほど。それはファルケルが悪いですね。

 何が悪いのか。試験官の判決を無視して自分が正しいと主張した事です。

 人間、分からない事があるのは当然の事ですが、もしそれが法であったとしたら、無視した人間を許せばそれを知った者達は法を無視するようになってしまいます。

 ここまで言えば分かるでしょう?」

「……はい。でも、こいつがその場で魔法を見せても良かったと思うんですよ」


 はい馬鹿ー。まあ、ファルケルはこんな感じのやつだよな。

 王族の人間にもこうでなんか逆に安心した。

 違う人間みたくなられてもビックリしてちょっと引くし。

 まあ、それをしなかった種明かしくらいはしてやるか。


「俺にも事情があったんだよ。

 マジックアイテムを無効化する為に教えを請う必要があったから、教師よりずば抜けて魔法が得意な事を知られる訳にはいかなかったんだ。

 誰だって自分より得意なものに教えるのは嫌だろ?」


 そう、その時の真実を明かすとファルケルは「あっ」っと小さく声を上げた。


「そういう事か……だから言う事も出来なかったのか。悪かった……」

「ランスロットさんが寛大で良かったですね。これからは気をつけなさい」


 ライエル君に叱責されて再び頭を下げたファルケル。ちょっと俺のしたい苛めの方向とは違ったが、ちゃんと伝わったようなのでこれはこれでよしとしよう。


「そろそろ着きますよ」

「本当に、早い。かつての竜騎士と変わらない速度なのでは……」


 ふっ、そんなの余裕でぶっちぎってやるぜ?

 悔しい事に空は飛べないが。


「それでケンヤ、勇者ってどんな奴なんだ?」

「あっ、そうでした。本題を忘れるとは私としたことが……」

「そうだな。取り合えず、いい奴だぞ。小心者で矮小で疑心暗鬼な所があるがな」


 まったく。俺を尽く疑ってくれたからな。

 出会った当初は素直だったのに。


「それって、いい奴なのか?」

「ああ、いい奴だ!」


 ハルの『○○っすよ』と言う能天気な顔を思い浮かべながら言った俺の言葉に納得がいかない様子なファルケル。

 お前よりは良い奴だよ? 無駄に場を荒らすような真似は早々しないし。

 ライエル君は「なるほど」と首を縦に振っている。


 そうして、ホールディの町にたどり着いた俺たちは、ハルたちが泊まる宿へと向かった。

 昨日の今日なので、部屋も分かってる。

 一応前もって王女には「勝手に付いて来たのだから大人しくしていてくださいね」と一言掛けた。

 だが「何故お前の言う事を聞かねばならないのだ。いい加減にしておけよ」などとカチンと来る言葉が帰って来た。

 もういいや。こいつは無視。


 そのまま部屋の前まで行ってノックしようと思ったが。


 ギッシギッシと音が響き、なにやら「あっ、あっ」と可愛らしい声が聞こえる。

 うん、心地の良い声だ。

 俺たちは静かに回れ右して、ロビーの方へと歩き出した。

 そこで俺は意を決して振り返る。


「さて。ハルゥゥゥゥゥ!! 来たぞぉぉぉぉ!!」

「おい、お前は鬼か!」


 ファルケル、お前は何言ってるんだ。これは優しさだぞ?

 ちょっと遠くから叫んで分かってないっぷりしてやってるんだから。

 ガタガタガタッっと音が響いて暫く待っているとだらしなく服を着たハルがドアを開けた。


「ど、どうしたんすか? 早いっすね?」

「お前こそもう終わったのか? 早いんじゃないか?」

「しぃぃぃぃ! ルイズに聞かれたらどうするんすか。この鬼!」


 お前も俺を鬼と言うのか……こんなに気を使ってやってるのに。

 いいだろう。聞け!


「無礼者! こちらにおわすお方を何方と心得る! 恐れ多くも国王陛下の実子であられるライエル王子様であるぞ!」


 因みにアイリスも居るが紹介はしない。

 楽しそうだからじゃないよ、勝手についてきたからだよ。


「うぇっ!? どうしてこんな所まで連れてきちゃったんすか?

 さらったんすか? ダメッすよ。王族はダメッす」

「いいえ、違いますよ。

 ランスロットさんに貴方を紹介して貰う為に来たのです。

 少しお時間頂けませんか?」


 口をパカっと空けてあほ面を晒すハル。

 心配そうにルイズちゃんが後ろから見ている。

 悲しい事にキッチリと服を着ていた。


「俺、どうなっちゃうっすか?」

「そうだな。お前の力次第では私を娶れるかもしれないぞ?」


 なにやら、自力で話の輪に入ろうと動きだしたアイリス王女。

 だが、その言葉は失敗だ。と思ったのだがハルは頬を染めている。


 これはもしや……恋っ!?


 いやいや、止めてよ? こいつが俺たちの輪に入るとかやだよ?

 早く話をさせて本性をわからせねば……


「まあ、立ち話もなんですから。ハル、入らして貰うぞ」

「え? そ、それは構わないっすけど……」


 部屋に入ると、エッチな匂いがした。

 俺はさり気なく喚起する。ルイズちゃんがかわいそうだからな。

 と思ったが、その行いで俺が気がついた事がバレてしまった。

 優しく頷き「大丈夫だよ。中々良い匂いだ」と小声で告げると両手で顔を隠して出て行ってしまった。

 良い香りだと言うべきだったか?


「おまっ、ルイズに何したっすか」

「さぁ、ただ俺は匂うから喚起しただけなんだけどな?」


 ハルはあわわわと口に手を当てるが、ここで追いかける訳にも行かないと仕方無しに話の切り口をきった。

 当然俺に向けて。


「それで、紹介と言うのはどういう事っすか?

 ドラゴンの話とどうつながりが……」

「それは私から説明いたしましょう。

 まず、ドラゴンをしっかりテイム出来ているのかを確認させて貰う事が一つ。

 それと少しお話をさせて頂いて、これからどの様に町に入れて飼うのかという事を話し合わせて頂ければと思いましてね」


 なるほど。お前の人となりを知りに来たとは言わんわな。

 俺もハルに頷き、間違っていない事を知らせる。


「じゃ、じゃあ連れて来たらいいっすかね?」

「ばっか、お前それじゃホールディがパニックだろ。

 取り合えず外行こうぜ。

 どこまで連れて来ていいかはライエル王子に相談するとして」


 全く、連れて来て良い訳ないだろ。そのために俺が走り回ってるってのに。


「ええ、そうですね。それで構いません」

「わ、わかったっす。えっと、それでそちらの凄くキレイな方はどなたっすか?」


 あー、そこ触れちゃったかぁ。王子もさり気なく目を逸らしたよ。

 ファルケルは……ああ、俺関係ないしって違う所見てる。天井のシミかな?

 お前も居るのにスルーされてるしね。


「うむ。良くぞ聞いた。

 私はハウラーン王国第一王女アイリス・フォン・ハウラーンだ。

 お前が真の勇者であれば、私の伴侶となるやもしれん。

 今宵は深く話し合おうではないか」


 いや、俺は夜まで居るつもりないよ?

 それに、ハルもそんな顔してるとルイズちゃん怒るからね? 知らないよ?

 なにやら後ろからものすっごい視線を感じるし……


「ゴ、ゴホン、取り合えず紹介も終わった事ですし、移動しましょうか」


 ライエル君の言葉にファルケルが『あー、やっとおわったの?』みたいな顔をして立ち上がる。王子はどうしてこいつを選んだのか……

 あー、帰りの足の心配がなければこのまま帰るんだけど……

 いや、王子の安全も頼まれてるんだっけ。


「ええ、そうしましょう。それにしても新鮮ですね。まるで学友でも出来た気分です。私達は学校に通えませんでしたから。なにやら少しワクワクします」


 気を使っているのだろう。

 報酬の話し合いでも俺に気を使ってくれたし、なんていい子!

 彼の気遣いにハルも、少し緊張が抜けて「光栄っす」と言葉を返していた。

 それから、部屋の外ですごい不機嫌そうにしていたルイズちゃんを連れて、町の外へと移動した。



「飛ばしますね」


 俺は高速でひたすら走り、国境付近のドラゴンを潜ませた場所にきた。

 やはり、道を作っては消しての移動に驚かれて色々聞かれたが、適当に答えて話を流した。

 お馬鹿な子集団だからか、本当に気にしていたのはライエル君くらいだったが。

 そして、ライエル君に許可を取り、ハルにドラゴンを呼んでもらった。


「おーいブレット、こっちくるすっるよぉぉ」


 ぶはっ、お・ま・え・も・か!

 俺は、笑いを堪えられない表情のままにライエル君とアイリスをチラ見した。

 二人も笑っていた。

 ああ、これは大丈夫そう。


「お前、名前それやばいよ?」


 後を考えると可哀そうなので一応忠告した。


「なんでっすか! 超カッコいいじゃないっすか。ねールイズ?」

「……良いと思うけど、孤児院の子供とかぶっちゃってるよ?」


 待って、そこバラさないで。

 もういいや、忠告はした。

 これ以上は俺が危険。

 なんかまだルイズちゃんも不機嫌そうだし。


「なるほど、今は王子の名前すら市井に知れ渡っていないという事ですか……

 これは私達の落ち度ですね、姉上」

「国王役は兄上だ。自己責任だな」

「……それは酷では?

 国庫を空にして兄上の仕事を馬鹿みたいに増やした人の言葉とは思えませんね」


 なにやら、二人がにらみ合いを始めた。だが、それは風圧によって遮られた。

 視線を向けた二人は、ドラゴンの余りの大きさに驚愕で目を見開いた。


「おー、ブレット良く来てくれたっすね。伏せっす」


 ハルの言葉に従い、レッドスカイドラゴンは身を伏せて乗りやすい姿勢をとる。


「……おお! なんて精強なドラゴンか!」

「確かに、これは聞きしに勝ると言えます。凄い……」


 アイリスは感動に打ち震え、ライエルは恐怖を感じながらも賞賛する。


「乗ってみるっすか?」


 威厳のない男代表ハルは、軽い感じに問いかけた。


「ほう、勇者のお誘いか。ならば頼もう」

「任せてくださいっす!」


 一応念のため王女にもバフを掛けてある。

 ここは好きにさせ……よ……っ!?

 後ろから殺気を感じる。なんだ!?


 なんだルイズちゃんか。

 ああ、ターゲットが俺じゃないって素晴らしい。


「気をつけるっすよ。あ、危ないっす」


 足を滑らせたアイリスを抱きあげて、ひょいひょいとドラゴンの上に彼女を登り降ろした。

 ルイズちゃんが激怒している。

 彼がもし、この事で俺に相談しにきたら、言ってやろうと思う。

 かつて言われた『え? しらないっすよ。自分でなんとかしろっす』という言葉をそのままに。


 俺のそんな思惑も知らずに二人は大空へと舞い上がった。


「こ、これは大丈夫なのですよね? 落ちたりとかは……」

「ええ、何度か飛んでいますし問題ありませんよ。仮にそうなってもハルが助けるでしょうし」

「ランスさん、あの人なんですか……?」


 ちょっと! 怒る対象が近くに居ないからって俺に怒気を発するの止めて!


 怒るの早くない? と思ったら、娶るだの伴侶だのという話を聞いて居たらしい。

 断ってくれると思っていたら、その声は聞こえてこなかったと彼女は嘆いた。


 そして今、彼が自分から誘った事に強い怒りを感じているのだろう。

 聞いて居たなら知っていると思うのだが、一応言っておくか。


「この国の王女様でアイリス様、こちらが王子様のライエル様だよ」

「ああ、それでドラゴンを確認しに……てことは悪いのは全てハルですよね?」

「ああ、その通りだ!」


 俺たちは全員で空を見上げた。

 ドラゴンの背に座り、『きゃーきゃー』言う彼女の腰に手を回すハルを視界に納めながら。


 そして、ファルケルが呟く。


「なぁ、あいつ腰に手を回しちゃってるけど、大丈夫なのか? あれ」


 うん。お前の発言が大丈夫じゃない。

 マジで止めろ。何故か殺気がこっちに向いているから!

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