第50話第二次レベリングタイム

 作者です。初のコメント頂きました。

 ありがとうございます。

 いつも応援してくださる方やフォローしてくださった方にも感謝を。

 本編の間に失礼しました。

 では、ここから本編をスタート致します。



 ◇◆◇◆◇


 あれからも雑談が続き、俺も退屈することなく王都まで戻ってくることが出来た。

 そして、彼女達が泊まっている宿を見つけたまでは良かったのだが……


 ラーサさんとミレイちゃんが何とも言えない表情で見つめあい、重苦しい空気の中お互いに言葉を捜している。


「あー、あれだ。一つ言って置く。いや、二つか……」


 表情をこわばらせたままミレイちゃんが頷く。


「『か弱き乙女』は解散した」


 解散を告げられた瞬間、ミレイちゃんは目を潤ませた。


「な、なんで……」

「サシャとアーミラが『千の宴』のメンバーとできちまったんだよ。

 あんたの時と同じだよ。

 文句言うことでも無いだろうからそのまま解散になったのさ」


 理由が悪いものではなかったからか、目を伏せ悲しそうだが納得できたみたいだ。


「そ、そう。もう一つは?」

「ああ、そっちは如何って事ない話なんだけど……

 まあ、私は別に怒っちゃいないって話さ。

 あんたがテンパった時に暴走するのは良くあることだからね」

「う、うぅ。ごめんなさい。ありがとう」


 泣きながらも安堵を浮かべるミレイちゃんを見て場の空気も少し明るくなる。


「話も纏まったみたいだし、これからの打ち合わせをしようか」

「ケンヤ、また何か始めるの?」

「おお、エミリーも頑張ってもらうからな」

「任せて。ケンヤのお嫁さんだから頑張って支える」


 紹介もまだの中、エミリーのアピールを聞いたラーサさんとハルが半笑いで首を傾げた。


「あー、うん。紹介する。

 彼女は帝国の公爵家の跡継ぎエミリー・グランだ。

 皆を元に戻す為の手伝いをして貰った流れでまあ、そう言う仲になっちゃった感じだな」

「初めまして皆様、ご紹介に預かりましたエミリー・グランです。

 私も皆様と共に彼を支えていきたいと願っております。

 どうぞ、よろしくお願い致します」


 ……誰?


「誰とか酷い! ケンヤ酷いっ!」

「ハイストップ! んもぅ、お兄さん、話があるんでしょ?

 皆続きが気になってるんだからちゃんと進めて!」


 えぇー、悪いの俺なの?

 声に出してはいなかったと思うけど……


 え? 出てた?


 い、いや、嘘です。知ってました。冗談です……

 だから、寝る部屋を別けるなんて言わないで……


「ゴ、ゴホン。えっとだな……これはここだけの秘密の話なんだが、この国の王もミラたちと同じ様にマジックアイテムに狂わされてる可能性が高い。

 だからそれを解く為に今、謁見の準備を進めてもらってるんだ」


 それに対しての言葉はない。話を先に進める。


「謁見まで時間掛かるらしいから、迷宮使って皆のレベル上げをしようと思うんだ」

「レベル上げ、ですか?」


 エリーゼがコテリと首を傾げる。

 そう言えばレベル上げとは言わないんだったな。


「ごめんごめん。ランク上げね。その為に今日は一日装備作成で終わると思うけど」

「あー、ミラさんとかランス嫌ってた勢は装備ないっすもんね」


 おいー、皆めっちゃ気にして目を伏せちゃっただろうが!

 それと、ユーカたちの分はもう作ってあるからな。

 無いのは逆にお前達の分だよ。


「そういう言い方止めて。

 また言ったらハルの彼女呼び出してあることない事告げ口する」


 そうだそうだ。それには俺も参戦する。


「ま、マジ止めてくださいっす。話が終わったらこのまま会いに行くんすから」

「どうせなら、連れて来たら? 一緒に居たいだろう?」


 と提案する。

 これから暫くレベル上げをして貰うんだ。

 ハルには勇者ポジになってもらおうかと思っているくらいだし。

 俺はハーレムを味わってゆっくりしてたいし。

 流石にレイドボスは手伝うけど。


「ちょ、ちょっと聞いてみるっす」

「おう、乗り気なら明日連れて来いよ。暫くランク上げでガッツリやる予定だし、最初から混ざった方がいいだろうしな」

「……戦わせる気っすか?」

「ハル、お前が冒険者やるんなら多少は強くなって貰わないと危険な目に遭うかもしれないんだぞ?」


 ちょっと真面目に目を見て告げる。

 俺だけ弄られるの嫌だし。

 ハルは信じられないのか、ラーサさんに視線を向けて確認を取っている。

 失礼な奴だな。


「まあ、長い目で見ればそう言う事も考えられるね。

 冒険者ってのは良い奴と悪いやつの差が酷いからね。

 利用する為だったり、逆恨みだったりとこっちが何もしなくても理由は事欠かないんだよ。

 私らは貴族令嬢様のお陰でそう言うのが無かったけどさ。

 だから、高位冒険者の伴侶は割りと強い奴が多いのさ。

 まあ、ハルがそれほどに強くなればの話だね……

 いや、ランスさんが鍛えるんじゃそれも濃厚だわな」

「……せ、説得してみるっす」


 少し青い顔になってしまった。

 そんな彼にラーサさんが「可能性があるってだけだよ」とフォローを入れた。

 それでも彼はばっと顔を上げると「行ってくるっす」と宿を飛び出していった。


「さて、それとこれは懸念事項なんだけどさ」


 ハルの話をそのままスルーした事に少し苦笑いが起こりつつも話を進める。


「帝国の先代皇帝が色々厄介な事をやらかそうとしてるみたいなんだ」


 一昨日の夜、ミラには全部話した。

 かなりショックを受けていたが、皆と話を共有して問題に当る事に異論は無い様だった。なので、知っている情報をすべて吐き出す。


「魔物に生まれ変わるなんてこと、本当に出来るのかい?」

「うーん。俺も最初信じてなかったんだけどさ。状況証拠が割りと出てきてるじゃん?」


 名も無き村が滅ぼされていて、洞窟にはゴブリンの死体の山だ。

 将軍が自作自演してない限り、偶然と片付けるにはタイミングが合いすぎてる。


「そっちも問題ですが、本当に帝国と戦争なんて事になったりしないでしょうか……そっちの方が心配です」


 エリーゼの懸念は戦争が起こりかねないという事の方らしい。

 口元に手を当てて、少し泣きそうな表情をしている。


「そこは出来る限り真実を伏せるしかないかな。

 先代皇帝がした事だからって責任は逃れられないしね」


 エリーゼの頭をなでながらも、こればかりはわからないと真実を告げる。


「大丈夫。ケンヤが止めれば起こらない。強行するなら魔法で吹き飛ばせば良い」

「えっと、エミリー様?

 その吹き飛ばされて死んでしまう兵達の心配をしているのですが……」

「加減すればいい」


 無茶を言うな。その加減が無理だから魔法選びに気を使っているってのに。

 ん? ちょっと何メモしてるの?

 ケンヤは加減を知らない?

 止めて!


「まあ、これで離れていた間の情報共有は出来たかな。当然前線に立たせる気はないけど、自分の身を守れるくらいにはなって欲しいんだ」


「いつでも全員と一緒に居れる訳じゃないからさ」と告げる。

 今回の事で思い知った。ミラを助けられたのはかなり運が良かった。

 こんな事が再び起こればまた守れるかはわからないのだ。


 まだ少し気落ちしているミレイちゃんに目を向けて「大丈夫?」と声を掛けた。


「私、頑張るから……だから、捨てないで……」

「ちょっとミレイちゃん、気にしすぎ。あれはマジックアイテムのせいだって何度言えば……」


 今更そんなに気にしなくても……ちゃんと責任とるよ?


「で、でも……」


 いつまでも気にしている彼女をアンジェにしているように膝の上に座らせて頭をなでなでしつつ話を続ける。


「ユミルにはもう実行して貰ったけど、ランク上げは俺のやり方に付き合って欲しいんだ。普通にやるよりはかなり早いからさ」

「因みにお姉ちゃんはどのくらいの強さになったの?」

「あー、今は分からないけどBランクにはなってるよ」


 そう告げると、ざわざわと場が沸き立ち、興奮しているのか皆返事を待たずに言葉が飛び交う。


「……うわぁー」

「立つ瀬がないね」

「ランス、早く行こう!」

「ケンヤ、早く行こう!」

「私も早く強くなりたいですわ」


 パンパンと手を叩き、装備がまだだからと伝えて大人しくなるのを待つ。


「今すぐ出来る事もあるからそっちからやろうか」


 その言葉に『出来る事って何』と皆強い視線を向ける。

 あれ?

 エリーゼ達にはこの前伝えたから分かりそうなものだけど。


「取り合えず、全員魔法使いになろう」


 そう伝えると、既に魔法を使えるエミリーだけがニョキっと唇を尖らせた。



 王都を出て見晴らしの良い草原にやってきた。

 ミラとラーサさんに無詠唱と音消しを付与したアクセを渡して説明を始める。


「はーい、説明するよぉ。まずは魔力を消費する感覚ってのを掴んで貰うから」


 と、ユミルに覚えさせた時と同じようにアクセのスキルで魔力を消費させ、その感覚のままに魔法を発動しようと念じさせた。


 この中でユーカとエリーゼだけが上手くいかなかった。


 ユーカは当然だろうな。実際に魔法を見る機会が無かったし。

 エリーゼは意外だな。あー、アルールレベルだと魔法使える奴が少ないのか?

 まあ、突っ込むことでもないから話を進める。


「ああ、ユミルもこの時点では出来なかったし問題ないぞ」


 フォローも入れつつ、実際に魔法を見せる。


「『ファイアーアロー』」


 少し離れて『ファイアーアロー』を使った。

 迷宮内で使うならこれが一番有用だからだ。

 この場所なら離れられるから余熱も心配ないし。

 魔法で生み出した火自体は『マジックシールド』が守ってくれるしな。


「出来た皆もこの魔法も使えるようになってくれ。魔力の放出量とイメージが合えば魔法は出るはずだから」


 そう伝えるとユーカが不安そうに言われた通りに行動する。

 すると小さな火がゆったりとした速度で山なりに飛んでいった。


「お、お兄さん! 出た! 出たよっ!!」

「おお! よくやった。ユーカもこれで魔法使いだな!」


 脇の下を持って持ち上げて高い高いした。

 子ども扱いだと怒るだろう思っていたが、キャハハと声を上げて笑っている。

 相当に嬉しいのだろう。


「ラ、ランス様私も出来ました!」


 と、両手を広げるエリーゼ。

 見た目も相まって、抱っこを強請る幼女に見えてきてしまう。

 外見年齢だけでいえば、この中でエリーゼが一番幼い。

 体つきは彼女の次に幼いユーカより女性らしいのだが。


 ここでしてあげない訳にもいかないだろう。同じように持ち上げてくるくると回る。

 そして、彼女を降ろすと即座に次の指示を出す。

 エミリーとミラがチラチラと様子を伺って居たから。

 流石に一人一人やるような事ではないのだ。


「次は威力を上げる。この杖を持ってここに魔力を通して発動させてくれ」


 準備していたオリハルコン製のステッキを配る。

 学校の先生が使いそうな指示棒の先に加工された宝石をつけてある杖。

 イメージ的には西洋風なのだろうか?


 それを装備して唱えるとユーカの魔法もしっかりと形を成して真っ直ぐ飛ぶようになった。


「次は更に威力を上げる為に、勝手に引き出される魔力に追加で数回分一気に流してくれ」


 魔力の放出はイメージが合っていて、詠唱が成功、もしくは無詠唱を持っていれば、放出をしだすと適量を絞り取られる。そこに追加で送ると威力が上乗せされる。

 取られる魔力を出さないように抵抗してしまうと失敗に終わる。

 とは言え、微調整は何故か殆どできない。調整出来るのは回数分だけだ。


「あ、それって『千の宴』に教えてた重ね撃ち?」

「ああ、そうだ。そうすれば単純に威力が上がる。マジックポーションもあるから魔力が厳しい場合は飲んでくれ。一口飲むだけで全回復するから」


 各々楽しそうに魔法を使ってはしゃいでいる。

 いつもお堅い顔をしているラーサも少し子供の様な表情をしている。

 まあ、今回のレベリングに関しては彼女が魔法を覚える必要ないんだけど。

 剣のスキルを持ってて戦えるのだから。

 いや、最初から45階層とかつれてって魔法で一撃だけ入れさせる姫プレイさせた方が早いからいいか。


 本当はこういうことやるべきじゃないんだけど、どうやら全員俺がいない間に魔物と戦っているみたいだし。何の心構えもない訳じゃない。

 出だしくらいスタートダッシュさせないととんでもなく時間かかりそうだしな。


「ランスさん、これだけの準備があって他にどんな装備作るってんだい?」

「ああ、これだよ。着けてみて。ラーサが付ければ結構な戦力増強になるよ」


 と、チートアクセをポンと渡し試しにつけて貰う。


「な、なんだいこりゃ……体が軽くなった気がするね」

「ランク二つ分くらい強さが上がる装備かな。これを全員分作る予定」

「な、なんだってぇぇ!」


 驚愕する彼女にそのままファイアアローを撃って貰う。

 すると、重ね撃ちしたほどに威力が上がっていた。


「こりゃ、やばいね」

「うん。流石に俺もこれはやばいと思う」


 ランク二つってのは単純にステータスアップ付与だけでだ。

 それすらも資質系の付与で上がる分を抜いて計算しての話。

 とは言え、カンスト時のステでの計算だからホントは違うのだけどそれは言わない。

 きつい所に行かせる予定だから心の拠り所にでも是非ともして欲しい。

 まあ、魔法の威力アップとかも付いてることを考えればもっと上をいくし。

 戦闘経験までは上乗せされないから実際の強さがどうなるかはセンス次第だけど。


「ははは、そりゃ上がるのが早いはずだよ。これなら大迷宮30階層くらいいけそうだ」

「明日はもっと深層で戦ってもらうけどね」

「「ええっ!?」」


 強く反応を示したのはラーサさんとミレイちゃんだ。

 きっと30階層と言うのもオーバーに言ってたのだろう。


「大丈夫。俺が絶対の安全を約束するから」

「ほ、ホントに全員守れるのかい?」

「うん。問題ないよ。『シールド』を一度掛ければ百回発くらいはノーダメージだろうし。その上で攻撃は一つも当てさせないつもりだから」


「めちゃくちゃだね」と彼女はそれ以上問いかけることをやめた。

 そこからは、ユーカの要望で色々な魔法を見せて欲しいと言われたので、魔法披露会みたいになってしまった。


 アンジェや、エミリーの時もそうだったが、回復魔法を覚えられる人は少なかった。

 嫁達の中では、ユミル、ユーカ、ミラくらいだ。


 それでも、皆使いたいのを覚えていたみたいだから有効的な時間だったと言えるだろう。

 ラーサさんやミレイちゃん以外の範囲魔法の可愛さには思わず笑ってしまったが。

 だってどう見ても単体魔法なのにドヤ顔なんだもん。


 良い時間になってきたので宿に戻りアクセ作成に勤しむ。割とこれが時間掛かる。全ての付与を三つずつ、それを人数分だからね。

 エリーゼたちの分先に作っておいて良かった。

 後はオリハルコン装備はラーサさんのくらいかな?

 ミラたちの分は事前に作ってあったし……

 ハルの装備はあれで良いだろ。あれも一応最終装備の一種だし。


 で、忘れちゃいけないのがマジックポーションの作成だな。

 これも50本くらい作っておくか。

 あ、材料買いに行かなきゃ無いな。

 そういえば、瓶ってどこで売ってるんだろ。今までは中身入れ替えてたけど、大量に買って中身捨てるのは気が引けるし、売ってるなら瓶買ったほうが良いよな……


「ポーション瓶ってどこで売ってるんだ?」

「瓶単体なら魔道具屋よ。中身ありなら薬屋か、雑貨屋でも売ってるわ」


 なるほど、となると久々にレーベン商会さんところか。

 えっと、商会長誰だっけ? 名前違うんだよな確か……

 ああ、ルドベントさんだ。


「貴族街はエリーゼだったし、ミレイちゃん一緒に行こうか」

「うんっ! 嬉しいっ!」


 余りに喜んでついてきてくれるもんだからついつい寄り道とかしちゃって、薄暗くなってきた頃、レーベン商会へとたどり着いた。

 中に入ると早々に丸メガネ君と目があった。


「これはランスロット様、お久しぶりでございます。ようこそおいでくださいました」

「ええ、紹介状の件、助かりました。久々なのでもしお手すきの様なら会長に挨拶して行きたいのですが」

「畏まりました」


 彼は良い笑顔でその場を立ち去り、待たされる事無く会長が姿を現した。

 どうぞどうぞと応接室まで案内され、ミレイちゃんと二人歓待を受けた。


「なるほど、姿が見られないと思っていましたが、帝国に」

「ええ、所要で一月ばかりあちらに居りました」

「そうでしたか。今あちらはどの様な――――」


 と、情報が欲しいのか帝国の情勢を聞かれる。

 途中ミレイちゃんの紹介を入れつつ、当たり障りない範囲で応えた。


「そう言えば、ランスロット様にご依頼が来ているのですよ。これは当商会からではないのですが……」

「と言いますと?」

「いえ、アルールへと道を敷かれましたでしょう?

 それを自領地まで通して欲しいとリード伯爵からの依頼でして。

 交流がある当商会へと橋渡しを頼まれまして」

「うっわ、惜しい。マクレーンだったらつい先日道を舗装したんですけどねぇ」

「な、何と! これは一大事ですぞ」


 オーバーに仰け反り、視線を丸メガネ君に向けたルドベント氏。

 本気で驚いているっぽいな。


「え? それは一体……もしかして拙かったですか?」

「いえいえ、とんでもない! アルールへの道はとても評判なのです。馬も人も疲れる事のない旅が出来ると。行商人がこぞってアルール方面を選ぶほどです」


 へぇー、だからラリールさんに感謝されたのか。

 エリーゼの事で小言言われると思っていたのだけど、信じていたと一言で終わった後に、道の事でかなり喜んでたもんな。

 残った面子が直す方法を探す為に旅に出た事を伝えてくれていたのだろうけど。


「そうですか。それなら良かった。その商談の件でしたら、レーベンさんには世話になりっぱなしですし話の席には着くとだけお約束しましょう」

「あぁ……そう言っていただけると、本当に助かります。

 あの方は、少し強引な所がありましてな。

 いや、王都のお貴族の方々と比べればそれはもう高潔な方なのですが……っ!? 

 失言でした……」


 ちらりとミレイちゃんの方に視線を向けた。


「あら、ランス様がお世話になったのであれば、害になる様な事は漏らしませんわ」

「お気遣い、痛み入ります」


 彼にとって、まずしない失態だったのだろう。

 少し驚くくらいに汗を噴き出している。


「ミレイちゃんはもう貴族じゃないしね。家もルーフェンの方だから大丈夫ですよ」

「危うく首が飛ぶかと思いました……ははは」


 いやいや、それくらいの事で大商会の会長の首は飛ばないでしょ。

 ……飛ばないよね?


「今、情勢が宜しくない状況でして、少しのミスで全てを失ってもおかしくない状況なのです」

「ああ、あれですか? 王位継承権争いが起こってるとか……」


 その問いかけに、ミレイちゃんが少し驚いた様に視線を向ける。

 そっか。伯爵との雑談で得た情報だからそっちは話してなかったな。


「ええ、流石はランスロット様、良くご存知で。では、アイリス様が兵を立てて北へ遠征に行った事もご存知で?」

「いえ、それは初耳です」


 そもそも、アイリス様って誰?

 でも知ったかぶりした手前聞き辛い。


「王太子殿下であらせられるブレット様が陛下と話し合いお命じになったそうなのですが、それに大層ご立腹だそうでして、今王宮は荒れに荒れております。

 下手をしたらその兵が王宮に向かうのではと不安が渦巻いている状況なのです。

 何処までが真実かは分からない話ですが、そんな話が出ている以上は力なき平民はより一層用心せねばなりません」


 ブレット!? うちの子とかぶったぁぁ!

 って冗談言ってる場合じゃないな。

 ちょっと恥ずかしいけど謁見する予定もあるし、色々教えて貰っておくか。


「暗殺される前に追い出してあわよくば死んでもらおうって事ですか。

 もう一人の対抗馬はどなたなのでしょう?」

「第二王子のライエル様ですな。ご本人は乗り気ではありません。ブレット様とも仲が良く、派閥の者が勝手に盛り上がっているだけと私は睨んでおります」

 

 名前からしてアイリスって女だよな?

 第一と第二の王子が争っている方がしっくりくるけど。

 相当やんちゃな姫なんだろうか?


「それにしても北ですか。マクレーンなら昨日ブラックオーガ討伐で丁度行って来た所なのですが、討伐目標はなんなのでしょう」

「なんですって! 丁度その件なのです! であれば……あっ、この情報は伏せた方が宜しいですか?」

「構いません。こちらも頂いておりますから、役立つのであれば御使い下さい」

「では、他にもあれば何なりとお聞き下さい」


 それからも雑談を続けたが、分かったことはやはり姫がお転婆な事。

 国王もアイリスやライエルを傍に置くことが多く、王太子殿下がそのまま継ぐのか分からない常態だという事だ。

 お互いに有意義な時間を過ごせたと言えるだろう。

 いつもの調子でアクセも三つほど売りつけ、ポーション瓶をごっそり買って商会を後にする。

 懐が嘗てないほどに潤ってしまった。


「ランス様ってああいう話し合いもこなせてしまうのね」

「うん? ミレイちゃんのが得意でしょ。

 俺は何となくでやってるからセオリー見たいのは知らないよ?」

「ううん。お父様たちがお話してるみたいだったわ。

 きっとあの商会長も驚いているはずよ」


 あー、最初にそこら辺褒められた気はするけど、日本人視点で見たらまだ足りないんじゃないかな?

 駆け引きとか、情報の重さとか深くは分からんし。

 引き篭もりのおっさんにはこれが限界だ。


「それにしても、間が悪いなぁ。

 俺が倒したせいでって第一王子に睨まれないかな?」

「うん。それはあると思う。そう言う理不尽な世界だから。

 正直もう戻りたくないわね……ランス様が行く所ならどこまでも付いて行くけど」


 彼女は遠慮気味に腕に抱きついた。

 それに笑顔で応えると肩に頭を乗せ体を寄せる。

 とても嬉しそうな顔を見せてくれた。


「関わりは持つことになりそうだけど、貴族になるつもりはないよ。

 後は大型ボスさえどうにか出来たら姿をくらませて皆でひっそりと暮らしたいな」

「わ、私もちゃんと連れてってね?」


「当たり前だ」と答えを返すともうそこは宿の前だった。

「あーあ、着いちゃった」と抱きついた腕から離れて中へと入っていく。


 帰りが遅いとミラやエミリーに責められたが、これで明日に向けての準備が整った。

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