第49話小さな俺は報われた。


「お待たせいたしました。馬車の手配が終わりましたので、皆様をこれより伯爵家の屋敷へとご案内致します」


 と、余り待つこともなくカールさんが戻り、伯爵邸へと案内される事と成った。

 場違いな格好のまま、高級感溢れる部屋へと案内される。


 案内は当主自ら行っている。


 面子は『千の宴』『か弱き乙女』俺、ミラ、ハルと割りと大人数だ。

 他の部屋から急遽持って来たのであろう置き方でソファーの様なふかふかな長椅子が並んでいて、そこに腰を掛けた。

 伯爵も向かいに腰をかける。心底安堵したという表情で。


「まずは礼を言いたい。本当に良くやってくれた。心より感謝する」


 伯爵はまだ若い。三十代だろう見た目だが、ゆったりと落ち着いた雰囲気を持ち、気品を感じさせる振る舞いをしている。

 そんな彼が、深く頭を下げた。使用人たちも少しおろおろしている。

 誰も何も言わないので頭を上げてくれと声を掛けようとしたのだが、そのタイミングで『千の宴』のリーダーが声を上げた。


「一つ尋ねたい。何故、直接任務に当る俺達にまでオーガの情報を隠しやがった。お陰で俺は一度腸を外にぶちまけたぜ」


 彼はこれが殺気だ、と言わんばかりの形相で伯爵を睨む。

 ああ、最初に何で数を知っていると聞いてきたあれね。

 確かに、命賭けてるのに必要な情報隠されたら切れるわな。


「それについても、重ねて謝罪する。この地を守る者として、ほんの僅かでも町が生き残る可能性がある選択が言わないと言う事だと考えたのだ」

「俺達が逃げると?」

「人となりを知らぬ以上、その可能性も考慮せざるをえなかった。申し訳ない」

「そうかい。なら俺はこの地を去る」

「ああ、当然だろう。報酬は出来る限り弾ませて貰う」


 あー、かなり空気が悪い。

 こういうの俺苦手なんだよなぁ。胃が痛くなってきた。 

 仕方ない。頑張って話しに入ってみるか。


「それは確かに良くないな。

 けど、対策として俺に知らせに来てくれたのは良かったよ、ありがたかった。

 それに、結果的にその嘘があったから俺も間に合った訳だし。

 まあ、どうするにせよ、次回からは対応を改めて貰うって事でさ」

「……助けて貰ったあんたにそう言われちゃ、何も言えねぇな」

「いや、そこは気にしないでくれ。

 俺は俺が守りたいものの為に必至こいただけだから。

 そんな事くらいで『だから許せ』なんて言わないよ」


 なるべく、表情を柔らかく話しかけていると彼も大きく息を吐き気持ちを切り替えてくれた。


「ランスロット殿にはかなり無理してこちらに来てくれたと聞く。

 娘とも仲良くしてくれているそうで、本当にありがとう」

「まあ、学友ですからね。

 といっても俺はこんななりですけど、三十路のおっさんですがね。ははは」


 あ、しまった。向かいにいる人も三十路だった。

 あー。仲を取り持つなんてコミュ障だった俺がやるもんじゃないな。


「え? 嘘だろ? 俺より年上なのか?」


 と、重装備の男が驚いた表情で問いかけた。

 見渡せば全員が驚いた顔をしている。


「ああ、ってお前達は知ってるだろ。

 俺が嘘ついてるみたいになっちゃうじゃん」

「ああ、いや、聞いて居たけどさ。本当なんだ?」

「クラスメイトだしどうしても同学年だと思っちゃうんすよね……」

「それで三十路は詐欺」


 皆の誤砲の様な援護射撃により、場の空気は大分改善された。

 伯爵も怒るどころか慈愛顔で見つめている。

 そんな趣味はないのでやめて欲しい。


「では、報酬の話をさせて貰おう。一パーティーにつき金貨五百枚でどうだろうか」


 おお、すげぇな。これなら帝国で金策する必要なかった。

 帝国で皆のレベリングついでに結構荒稼ぎしてきたんだけど……


「ああ、それで文句はない。

 彼にああ言われちまったし、今後嘘をつかないのであれば、依頼も受けよう」


 やっぱり、お金の力って凄いな。

 あれだけキレてたのに、少し微笑みすら浮かべているよ。


「ちょっと待って下さい。一パーティーって私らも入ってるんですか? 私達はまだBランクですけど……」

「勿論だ。確認を取ったよ。報告に来たのは君達の斥候だったし、ブラックオーガの戦闘も共に行ったのだろう?」


 その問いに『千の宴』の面々は深く頷いた。

 彼女達がメインだと言っても良いほどの戦いぶりだったと。

 それでも真面目なラーサさんは均等なのが納得いかないと言った口ぶりだ。

 そんな彼女に「まあ、面倒だから均等でいいじゃん」と適当さを前面に出して納得してもらった。

 そして、話が終わると食事の用意があると勧められる。

 だが、『千の宴』の彼らは即座に断った。

 とは言え、許せないからと言う感じでもなさそうだ。


「申し訳ないが、宴を開くのは俺達の専売特許だ」


 とドヤ顔できめ台詞を残し去っていった。

 それに『か弱き乙女』も続く。


 全員お断りするのも可哀そうだし、俺達はご相伴に預かろうかね。

 アルールの男爵と同様にこの人も悪人ではなさそうだし。


「俺達は急ぎの用事もないし、頂いて行こうか」

「ちょ、ランス、俺マナー知らないっす」

「ははは、君達は町を救った英雄だよ。マナーなんて一つも気にしなくて良い。

 大げさに言えば手づかみで食べていくら周りを汚そうとも誰も責めはしないよ」


 一番切れてた人が帰ったからか、伯爵は元気を取り戻した。

 ハルに優しい笑みを向けている。ハルも頬を染めた。

 ……マジ? 

 ああ、英雄と言うワードに照れくさくなったのか。

 びっくりしたよ。


「ランスはマジ厄介っす。せめて口に出すなっす」

「ははは、流石に私も男を相手には出来ないさ。何を積まれてもね」


 欧米風にウィンクで返されてしまった。

 かなり極まってたせいか、ちょっと負けた気分だ。


 その後、部屋を変えて豪華な食事を振舞って貰ったはいいが、ミラが余りにキレイな食べ方をするせいで、俺達は育ちの違いを思い知らされてしまった。

 伯爵が関心するほどだ。


「ところで、ランスロット殿。うちの娘とはどうなんだい?」


 うわーー、来たよ。キタコレ。


「友人ですよ? 交流のある、ちゃんとした友人です」


 うん。これで分かってくれるだろう。彼女はハーレムメンバーに入ってません。

 入れる予定もないな。

 だって、エドウィナも望んでないもん。


「ふむ、逃げ口上ではなさそうだね。

 もし、お互いにその気なら祝福しようと思っているのだが……」


 チラチラと視線を向ける。

 ちょっと、そう言うの止めて! ミラちゃん怒っちゃったらどうすんの!

 俺は恐る恐るミラにチラチラと視線を向ける。

 ミラの先でハルがニヤリと笑みを浮かべているのがやたらと目に付く。この野朗!

 

「エドウィナなら好きにして良い」


 あれ?

 怒るどころか何か納得している雰囲気。


「いやいや、彼女も望んでないでしょ。

 お互い無理に変える必要ないと思うんだよね。

 あと伯爵、俺は友達の実家が危機だと聞けば駆けつけますよ?

 同時に何か起これば嫁の危機を優先するでしょうが」

「そ、そうか。

 まあ、強要する気はないので安心してくれ。

 仮にそうなっても咎めはしないと言うだけの話だ」


 なるほど。そう言う事なら聞き流しておけば良いか。 


「それにもうエリーゼと良い仲になっちゃってますし」

「ん? それはもしかして、アルール男爵のご息女かな?」

「ええ。ここと同じように魔物に襲われている所に出くわしまして、その縁で」

「む、それならば、うちの子も貰ってくれても良いのではないか?

 器量は負けてないだろう?

 なかなかどうして、可愛い娘に育ってくれたと思うのだよ。

 気遣いも出来てね。

 決して引けは取らないと思うんだよ」


 あれ?

 何か地雷踏んだの?

 勢いが激しくなったんだけど……


「いえ、ほら、あれですよ。

 エリーゼは本人が強く望んでましたし、えっとあのその……」

「ならば、娘に訊ねてみよう。

 あれで引っ込み思案なところがあってね。

 了承を貰ってからとかそんな要らぬ気を回す子なのだよ。

 うん。手紙を出そう。これから王都に行く予定はあるかい?」

「え、あ、はい。明日にでも戻るつもりでいますけど……」

「そうか、それはいい! では今日の晩にでも手紙を認めるとするよ」

「え? いや、あの……」


 あれ?

 なんか確約はさせようとしてないけど、回り込まれている感が凄い。

 困ってキョロキョロと周りを見渡すと、カール爺さんが小さな声で教えてくれた。


「アルール様とは幼少の頃から友人でありながらライバルの様な関係でして、嫁自慢から始まり、今は娘自慢で張り合っております。恐らくは娘の旦那自慢にこれから発展するのでしょう」


 うっわぁ、めんどくせぇ。

 そんなやり取りに構ってられるか。

 でも、このままにすると振り回されるエドウィナが可哀そうだな。

 ちゃんと釘を刺しておこう。


「伯爵、彼女は大切な友人です。ご自信のプライドで振り回す様な事がございませんよう、宜しくお願い致します」

「ほう、やはり君はそういった対応も自然に出来るのだね。

 うんうん。

 娘の為を思ってくれているし、すばらしい。思った通りだ」


 やべぇ、聞いてねぇ。

 カールさんに視線を向けるが、首を横に振られてしまった。


「ランス、気にする必要は無い。好きに振舞えばいい」

「ああ、うん。じゃあ、そうするよ。戻ったら彼女と話し合ってみる。

 流石にこれ以上は厳しいし」

「もしかして、増えた?」

「え? ……う、うん」

「何人?」

「ふ、二人と一匹」

「一匹ってなに!!」


 ええぇ、そっちは怒るの?


「とまあ、こんな感じなのでランスとくっつけると、たまにしか相手にして貰えない人生が待っている。それを加味して決めて欲しい」

「む、なるほど。良く参考にさせて貰おう」


 お? おお! なんか伯爵の勢いが萎んだ。

 やるじゃないかミラ。


「そう言えば、何故ランスロット殿は学園に?

 それほどの力があれば、態々通う必要性を感じないのだが」


「ああ、えーとなんだったっけ」

 と考えていると「遊びにでしょ?」とミラにわき腹をつつかれた。


「ああ、そうだった。遊びに行ってました」

「え? 遊ぶ為に入ったんすか?」


 伯爵に言葉を返したつもりがハルからの突込みで返って来た。 

 おい、キャッチボール難しくなるから止めろって。

 相手伯爵だぞ。


「ははは、なるほど。

 そこまでの強さになれば、そこに行き着くのは納得だ。

 いや、母上が心配していてね。

 学園に来たのは何か大きな理由があったからじゃないかとね」

「あー、ハーバルト理事長ですか」

「ん? ああ、父の名前を使っているのだったな。

 そうだ。それが私の母だ」


 そう言えば心配性な人だったな。

 国王の心配したり、貴族と民の関係を心配したり。 

 エドウィナへの説教で俺の事も結構話しに出てたもんな。


「そう言えば、あの人が居たから王国を見限らずに踏みとどまったんだよな」

「え? そ、それはディケンズ侯爵の件かい?」

「ええ。

 まさか家で団欒してたらファイアーボールが降ってくるとは思いませんでした。

 あれは参ったな」


 今でもはっきりと思い出せる。いや、一月ちょっと前の話なんだけど。

 流石に協力体制にある今、あの事はもう許したけど忘れることはないだろう。


「ああ、あせったっすね。最初大地震でも来たのかと思ったっすよ」

「あの時、平気な振りしてたけど、ホントは怖かった。二階が焼け落ちちゃうし……」

「街中で魔法を使ったとは聞いて居たが、そこまで酷かったのか。

 だが、結果的には勝ったんだろう?」

「はい、ランスが学校の校庭で侯爵本人を滅多打ちにしたっすね。Aランク冒険者ともども」


 ほう、それはそれはと楽しそうに話の続きを強請る伯爵。

 楽しそうなのであった事を伝えるのは構わないが、これも伝えておこう。


「まあ、今は仲直りして頼みごとをするくらいの仲にはなってるんですけどね」

「そ、そこまでされて許したのかい?」

「倍返しした後ですからね」

「流石に四肢を落とした時は私もビックリした。怖かった」

「え? そ、そこまでしちゃったのに仲直り出来たのかい?」

「ええ。元通りに直しましたし」


 そ、そう言う問題かなぁ? と伯爵は引き攣った笑みを浮かべた。

 うん。

 ちょっと可笑しなやつの振りしてみたけど、分かってるよ。

 普通に考えてありえないよね。


 これで侯爵の方も責められたりするような事にはならないだろ。

 彼には国王との謁見まで漕ぎ着けて貰わないとだからな。


「今の王都は大変そうだね。後継者争いも激化していると聞くし」


 ん? 国王死にそうなの?


「いやいや、そんな事を言ってはいけないよ。

 陛下は健在だ。何も崩御されなきゃ戴冠しないと言う事ではないのさ

 そしてそれがそろそろだろうと囁かれている昨今、継承権上位の三名が争いを始めてしまったのだよ。いや、王太子殿下は巻き込まれたようなものだがね」


 あー。暗殺して王位簒奪、を狙ってんのか。

 最悪だな。


「王都に居たのに初めて知りましたよ。ハルは知ってた?」

「いや、俺も平民っすからね。そう言う話は回ってこないっすよ」

「そ、そうなのかい。それも貴族と平民の隔たりが関係しているのかねぇ」


 うん。関係ゼロではないよね。

 もっと友好的な関係であれば民衆はこぞって噂するだろうし。

 今の現状じゃ、見ない聞かない触らないがモットーですって常態だろうしな。

 大手の商人とか関わりがある人じゃないと知る気すらなさそう。


 その後、再びエドウィナに手紙を送ると念押しされて、会食はお開きとなった。

 泊まっていく事を勧められたが、柔らかく断ると宿を取ってくれた。


「ラーサさん達とは違う宿っすね。俺はそっちに戻ろうかなと思うんすけど……」

「ああ、じゃあ明日の昼間にそっちに迎えに行くよ。ミラ場所分かるよな?」


「任せて」と胸を張るミラ。ハルがその空気を読まずに「まあ、あそこなんすけどね」と指をさして場所を告げる。


「じゃあ、また明日っす」


 胸を張る理由を奪われてご立腹でへそを曲げたミラから逃げるようにハルはその場を去っていった。


「ランス、今夜は寝かせないから」

「お、おう。望む所だ」


 ま、マジかよ。

 や、やったぁ!


 そそくさと宿に入り、着替えを済ますと一目散にベットにインした。

 そしてミラを抱き寄せると「待って」と彼女は体を離す。

 な、何故!?


「そ、そっちの寝かせないじゃない。

 事情聴取! 何があったのか。

 帝国で何してきたのか全部教えて。

 もう、あんな事は嫌だから……」


 ……もうちょっと男心に気を使おう?

 この元気一杯になった小さな俺はどうしたらいいの?


「プッ、ち、小さな俺……」

「こらっ、笑い事じゃない!」


 ほんの一ヶ月の事だが、そんなやり取りに懐かしさを覚えつつ、ポツリポツリと彼女にあれからの事を事細かに説明していく。

 あっちの学校にも入ったことや、国の内乱にも巻き込まれた事、魔物をテイムしたことなど、包み隠さずに伝えた。


「エ、エルフが来てるの?」

「ああ、アンジェリカって言うんだ。口が悪いけど素直な良い子……だよ」

「自信なさ気なのね」


「そ、そんなことよりさ」と前置きをして、向き合う。 


「まだ、あっちに行くのは無理か?

 もう、お前を苦しめる奴は居ないけど」

「……実はもう如何でも良くなってたりする。

 ランスが言った通り考えすぎだったと分かったから。

 だから……」


 ミラはゆっくりと顔を近づけて、唇を合わせた。


「うん。まだ怖いけど、これは多分違う怖さ」


 エロさを感じない儀式の様な口付けに、戸惑いを覚えつつも彼女がしたい様にとする事すべてを受け入れていく。

 何度も自らの心を試すように行われた口づけは、少しずつ熱を帯びる物へと変化していく。


「……こんな事したら直ぐに押し倒されると思ってたけど、もう飽きちゃった?」


 俯いて、潤んだ瞳で上目遣いに見上げる。

 

「いやいや、部屋に入って即効押し倒そうとしたの止めたのミラだよね?」

「いあいあ、部屋に入って即効とか普通にダメだよね?」


 おおう……なにやら常識を身に付け始めてしまった。

 拙い。拙いぞ。


「それは人に寄るだろ?

 ミラの彼氏は俺なんだから半分は俺に合わせて欲しいな」

「そう言う問題? まあ、良いけど」


 

 そしてこの夜、俺はハーレムメンバーフルコンプリートを達成した。

 アンジェはまだお子ちゃまなので除外だ。



◇◆◇◆◇



「じゃあ、王都に戻りますか」


 王都へと戻るメンバーは割と少なかった。

 ラーサ、ハル、ミラの合計四人。

 サシャちゃんとアーミラさんは『千の宴』に移るらしい。

 揉めている訳でもなさそうだったので、その話をしている間に彼らに約束のスキル重ね撃ちのやり方を教えた。


 いや、ただ無詠唱アクセ渡しただけとも言えるが。

 この世界だと放出系スキルなら無詠唱付ければ魔力の放出量増やして念じるだけで出来るみたいだし。

 魔力増幅したり連発したりと色々やってたら、同時に2発出せば魔力増幅挟む必要がない事がここ最近で分かった。

 でも微調整が出来ないんだよな。切実に弱い魔法を使えるようになりたい。


 その無詠唱アクセに魔法使いのリンって子が飛び跳ねるように喜んでいたな。

 それだけ報酬もらってれば買えるでしょ?

 と訊ねたが、こんなものどこにも売ってないらしい。

 王都のオークションの存在知らないのかな?

 いや、無詠唱は出品してないか。他に売り手が居ないのかも。


 サシャちゃんとアーミラさんには依頼報酬としてチートアクセも作った。

 二人もとても喜んでいた。これで足手纏いにならずに済むと。


 重ね撃ちの強さにテンションがハイになったライルが宴だ宴だって人を集めて飲み会が始まる。


 そんなこんなで流れでもう一泊してしまったが、離脱した彼女らを置いて俺達は王都へと戻ることと成った。


「でも良かったのかい? アーミラに杖あのままくれちまって」

「いや、皆勘違いしてるけど、あの杖はしっかりとランク上げを進めればすぐゴミ装備になるからね?

 確かにそこまではかなり有用だけど、成長しても威力上がらないからさ」


 そう、長いのは140レベルを超えてからだ。

 割とさくさく上がるラインまでしか使えない装備だからそこまでの物じゃない。

 まあ、ゲームでもプレイヤーの露天売りが一応されてはいたのだから、需要はあるのだけど。


「いや、俺でももうわかるっすよ。普通の人はそこまで上げられないって……」

「いやいや、普通に上がるって」


 いやいやいや、と全員に首を横に振られてしまった。

 そんな三人に俺は宣言をする。


「よーし、良いだろう。そのレベルまで引き上げてやろうじゃねぇか」


 ビシッと指をさして強めに言うとミラが大きく頷いたが、ハルやラーサさんは少し及び腰だ。

 うん。ちょっと調子に乗りすぎたかも。結構時間掛かる。

 いや、時間掛かるだけなんだけど、嫁達に時間を使いたい……

 って皆一緒に上げれば良いだけか。


「うん。その言葉待ってた」

「いやいや、私も入ってんのかい? 大丈夫なのかいそれ」

「問題ないって。取り合えず帰ろう」


 彼女らの背中を押して街の外へと出て、いつものカートを作って走り出す。

 急ぎじゃないのでついでに道の舗装もしながら進んだ。


「アルール行く時もそうだったけどさ、気持ち悪い程に揺れないねぇ……」

「いや、その前に何で溶けた石が勝手に道整えてんすか?

 それなのにこれ全速力の馬車より早いんすけど」

「そこはランスだから諦めて」


 そこまで速度を出してないから、そんな会話が普通に俺の耳にも入る。

 文句なのか褒めてんのかわからんな。

 まあ、いつもみたいに魔物撃退しながらじゃないし、楽だから寛いでくれてていいんだけどさ。


 そう言えば、マクレーンの周りの魔物掃除してくれば良かったかな?

 いや、『千の宴』が残ることになったし問題ないだろう。

 軽く手を合わせたけど、今まで会った中では一番マシだったしな。

 さすがSランクだ。後は任せた。


「うっわぁ、もうあの村見えて来たっすよ」

「ホントだ。私達が守った村だ」

「はぁ……ホントに大変だった。よく頑張った私」


 あらら、ラーサさんがしょぼくれてしまった。

 ちょっとミラちゃん何したの!?


「た、戦っただけだもん!」

「守る身にもなっておくれよ。格上に平気で特攻するんだよ、この子は」

「ああ、それはちゃんと伝えておいた方がいいっすね。

 これからはランスが守るんすから」


 同意しうんうんと頷くハル。

 これは相当に無茶をしていたようだ。付きっ切りで指導してやらねば。


「皆がビビリすぎなだけ、ちゃんと避けれる速さの相手を選んでる」

「いや、初見だろうが……」


 ラーサさんのジト目がミラに突き刺さり、彼女はさりげなく目を逸らした。

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