第45話本物の朝チュン

 アルールから王都へまでは直ぐだった。

 前回同様に作った乗り物に乗せてひとっ飛びだ。

 いや、俺が普通に走ったのだけど……


「へぇ、王都って言っても端の方はたいした事ないんだね」


 外門の通行許可を取る為に身分証明をしている時、ユーカがそんな感想を漏らす。

 うん。そう思うよな?

 俺は、最初に来た時に笑われたことを思い出しつつそう感じた。


 などと思っている間に通行許可が下りた。

 

「じゃあ、取りあえず俺の家に行こうか。と言っても子供たちに作った家だけど」

「いいけど、ミレイさんのところ先じゃなくていいの?」

「ケンヤは怖がってる。どれだけ苛めたの?」


 エミリーの言葉に二人は二の句を告げる事が出来なくなり、目を伏せた。


「いや、別に怖がってねぇし。子供たちも心配だし」

「うん。そんな女の所行くよりケンヤが作った家を見てみたい。あの魔法で作ったって奴でしょう?」


 辺りを見渡しながら歩き、どこにあるなどと告げずに家まで案内した。


「え? これなの?」

「いえ、ユーカさん流石にこれを魔法で作るのはランス様でも……」

「問題ない。ケンヤは天使の翼を生やす事も出来る。このくらい造作もないはず」


 そうこうしている間に、こちらに気がついたブレットたちが走ってきた。


「あー! やっと帰って来たぁぁ」


「「「お帰りなさい」」」


「おお、元気そうだな。問題ないか?」

「はいっ、やっと芽が出てロドさんがこの調子ならちゃんと育ちそうだって言ってました」


 話を聞いてみると結構苦戦した様で思いの他嬉しそうに語るブレット。

 色々任せちゃっているが、こいつも一人の被害者だからな。

 何かご褒美上げたいけど、お金は十分渡してあるしなぁ。

 後出来ることと言ったら……


「頑張ったな。良くやった! 保護者として鼻が高いぞ」


 頭をなでながら褒めてみると困惑した表情のまま泣き出してしまった。

 見られたくないのか、袖で拭うわけでもなく顔を覆っている。

 え? ちょっとなんで!?


「あ、ありがとうございます。嬉しくて……」

「そ、そうなのか? それならいいが」

「ふふ、お兄さんは鈍いなぁ。慌ててる姿が可愛いからそのままでいて欲しいけど」


 いやいや、意外と当事者は分からないものよ?

 何にせよ、順調なんだから暫くは放っておいても良さそうだな。

 

「まあ、問題ないなら先を急ぐか。ミレイちゃんどこにいるんだろ」

「どうでしょう。ご実家の王都のお住まいなら分かるのですが、もう家を出てしまっていますし」


 となると、知ってそうなのはエレオノーラくらいだな。

 アナスタシアちゃんとエドウィナとミレイちゃんの四人で王都に戻ったらしいし。

 そう言えば悪いことしたな。結構時間掛かっただろうに……


「そう言えばそうだねぇ。じゃあ、何かお詫びの品でも持って尋ねに行こうよ」


 と、ユーカの提案で二人が居るだろう学校へと行く。

 お詫びの品はお菓子だ。装飾でも作ろうかと思ったが、何故か三人に止められた。

 あれは間単に配るものじゃないと。


 子供たちにお別れを言って市民門を越えて目当ての菓子折りも購入。

 そして久々の学校へと到着。

 長期の無断欠席しちゃってたけど、多分まだ生徒だろうと堂々と教室へと入った。

 いや、全員つれて来ちゃってるから、見つかったら怒られるかもしれないが。

 午後だからホームルームの様な時間だ。前と変わらずクリッシー先生が緩い口調で雑談の様な授業を行っている。

 先生に軽く挨拶と事情を話し、二人と話をする許可を貰った。


「あれ? 仲直りしたの?」


 エレオノーラの第一声はそれだった。アナスタシアもコクコクと首を振る。

 彼女達にも今までの経緯を説明して、改めてミレイちゃんの居所を尋ねた。


「あぁ、うん。多分そろそろ居酒屋に来るんじゃないかな。私が勤めてるとこ」


 表情を見るに、事情をきいてなお、彼女への憧れは鳴りを潜めてしまった様だ。

 何があったのかを尋ねてみた。


「毎日べろべろになって回りに絡むの。で、永遠とランス君の悪口。ずーっと同じ事言ってるのよ。なんかもう疲れちゃって……」

「な、なんか色々悪いな。ああ、これ三人で食ってくれ」

「わぁ、これ知ってます。嬉しいです」


 迷惑かけたお詫びに、と添えて一番高かった菓子折りセットを贈呈しつつ居酒屋の場所を教えてもらう。

 軽く、エミリーの紹介や談笑をしてからその居酒屋へと向かった。 

 そして、その店に入ると、知った声が聞こえて来た。


「次持って来てって言ったでしょ。ほらはやくぅ。呑まなきゃやってられないのよ!」


 そこには、早速テーブルに突っ伏して店員さんに絡むミレイちゃんの姿があった。

 『ディスペル』を唱え、相席に勝手に座り彼女に一声かけた。


「ただいま。ごめんな」


 俺が持っていたアイテムが原因だ。変わらず好いていてくれてるなら関係を元に戻したい。彼女にその気があるのかをじっと顔を見つめ窺う。

 だが、良く分からない。

 一言で言えば、放心状態だろうか?


「なんで、謝ったの?」

「俺がダンジョンから拾ってきた仮面が相手に嫌われる呪いがついたものだったらしいんだ。帝国まで行って原因を調べたらそれが分かって、漸く元に戻す目処がついたから帰って来たんだ」

「わ、私……何も無くなっちゃった……パーティーも、恋人も……戻してどうするのよ」


 じわりじわりと彼女の目に涙が滲む。


「少なくとも、俺はここに居るよ。ミレイちゃんが望むなら一緒に居たい」

「あ、あそこまで言ったのよ。ってあれ? ユーカも居るの?」

「居るよ!

 だってあのマジックアイテムが悪いんだもん。

 お兄さんもそう言ってくれてるし。

 持って来たお兄さんが被害にあったのならそれは仕方のない事だよ。

 そう言う事にしておけば一緒に居られるでしょ?」


 ユーカからゆっくりと視線を外し、こちらを見る彼女の目は『本気で言っているの』と言外に尋ねていた。


「当然だ。だから、謝るのは俺の方だ。良かったら、これからも俺の恋人で居て欲しい」

「ほんとう? 嘘だったら泣いちゃうからね?」


 もうぼろぼろと泣いている彼女は何度も何度も本当かと問いかけた。

 永遠と続くので、俺は立ち上がり、座っている彼女の横に立って頭に手を当てた。


「ああ、すべてが解決したら立派な家を建てるからさ。皆で一緒に暮らそう」


 その一言でやっと信じられたのだろうか?

 彼女は座ったまま抱き着いて、俺のお腹周りを涙と鼻水で濡らした。 

 水を飲ませて落ち着いてきた彼女にミラの行方を尋ねると、どうやらマクレーンに向かったようだ。

 ラーサさんと喧嘩しちゃったから詳しいことは知らないようだが、元メンバーの同行はギルドへ行けば勝手に耳に入ってくるらしい。


 だが、どうしたものか。

 俺一人なら問題ないが、この人数を運ぶには乗り物が居る。

 けど、ミラには相当不評だったから、気が引けるんだよな。


「なぁ、俺一人でマクレーンに行って連れて帰る形でもいいかな?」

「やだ。私は一緒に行く。こんな知らない場所で一人にされても困る」

 

 確かに、エミリーをこの場に残して行くのは酷だよな。

 と思っていたら、二人も一緒に行きたいと強く願ってきた。


「ミラが最悪だから絶対に止めておけと言ってた荷車になるが、いいか?」

「何も問題ない。連れてって」

「構いません。一緒に居られるなら!」

「我慢するよ。置いてかれるのは嫌だもん」

「乗り心地が悪いのなんて慣れてるし、問題ないわ」


 満場一致だった。

 だけど、甘く見てると思うだよな。

 いや、帰りもあるんだし、もういっその事舗装してしまうか。


 けど、困ったな。

 ハルードラ将軍の頼みで王都にも用事があるんだよな。かなり面倒なのが……

 だけど、最優先はミラだ。そっちを後回しにする気はない。

 まあ、もう時間的にあれだし行くのは明日にしようか。

 その時間で根回しして置こう。


「えっと、今日は宿とってそこで一泊しようと思うんだけど、その前にちょっとエリーゼかミレイちゃんに付き合って欲しい所があるんだよね」


 その言葉にエミリーが抗議の声を上げる。


「いやいや、貴族街に入りたいんだよ。王国の貴族の方がすんなり入れるだろう?」

「ならば、私がお付き合いしますわ。ミレイさんは家を出てしまっていますから、入れますが時間が掛かるでしょうし」


 彼女は首から下げた装飾を見せるように持ち上げる。

 ネックレスの装飾に描かれているのはアルール男爵家の家紋らしい。

 ミレイちゃんもそれに異論は無いようだ。

 宿を取り、そこから二人で貴族街へと向かった。


「そう言えば、まともに入るの初めてだなぁ」

「そうでしたか。でも、何故貴族街に入りたかったのですか?」


 そう言えば、何一つ話してなかった。


「帝国の将軍に頼まれごとしてさ。国王に会いたいんだよね。その伝手を得る為にディケンズ侯爵家に行きたいんだ」

「陛下に、ですか……それは一体……」


 困惑するエリーゼに悪いことはしないよと、軽く内容を説明する。

 その内容とは、もしかしたらこの国の王もマジックアイテムに狂わされているかも知れないと言うこと。

 皇帝が贈った元凶のアイテムの回収ということだ。


「そ、そんなまさか! それでは戦争になってしまいます!」

「そう。だから無詠唱で『ディスペル』唱えて知らん振りする予定。アイテムの回収は取りあえず後回しで軽く恩を売ってこようかと思ってさ」

「恩を売るですか。知らん振りするんですよね。どうやって……」

「それもこれから考えるよ。迷宮からまた氷槍の杖でも出てくれれば早いんだけど。けど、どっちにしても謁見までは時間かかるもんでしょ?」

「確かに、ランス様なら自作した装備でも十分かもしれませんし」


 あ、その程度でいいの?

 いや、もっとインパクトがあった方が次回の機会の取り付けが楽になると思うしそれは最後の手段にしておこうかな。


「では、まず先触れを出しましょう。と言っても供を連れて来て居ないのですよね……どうしましょうか」


 エリーゼ曰く、先触れを出し、日取りを決めて来てその日に伺うのが常識らしい。

 気を揉ませてしまうから、その先触れは自分で行ってはいけないらしい。


「そう言う事なら、平気でしょ。俺は冒険者だし、エリーゼは付き添いなんだから」

「そ、そうなると私の名で話を通すことが出来ません。と言っても、男爵家はかなり格下になりますからそれほどの効果もありませんが……」


 その言葉に「大丈夫、大丈夫」と軽く返して案内を頼んだ。

 そして、中々に立派なお屋敷の前で彼女は足を止める。


「ここですわ」と、こちらに視線を向けこれからを仰いだ。

 俺は、守衛の居る場所に向かい「ランスロットが来た。面会を頼むと侯爵に伝えてくれる?」と告げた。

 話が通っていたのだろう。すんなりと中に通された。

 エリーゼに問題は無いから隣に居てくれればいいと頭をなでて落ち着かせる。

 暫くまたされはしたもののその日に面会する事が叶った。

 応接室にて、侯爵との話し合いが始まる。


「ど、どうしたのだ。約束は守っているぞ」


 少し頬を引き攣らせながらも笑顔を向ける彼に用向きを説明した。


「陛下に謁見を頼みたいか。何故だ?」

「これから恐らくだが、大きな討伐をする。その前に名前を売っておきたいって所かな。ちゃんとした献上品も用意する。頼めないかな?」


「なるほど、成り上がりたいのか」と彼は一人つぶやく。


「こちらもメンツがある。献上品のレベルや品を確認させて貰いたいが、構わんか?」


 あー、そうか。


「それは勿論構わないが、用意するのはこれからなんだ。先に物が分からないとまずかったりする?」

「いや、謁見の間に届ける前する検査にさえ出せば問題はない。侯爵家であれば謁見の度に献上品が必要になりはしない。だが出すなら出すで可笑しな物を出されても困る」

「なら頼みたい。代わりに魔物関連の討伐であれば一度だけ何でも引き受ける。殺すつもりで強敵を押し付けていいぞ?」


 一瞬無表情へと移行したディケンズ侯爵。

 すぐさま余裕の笑みに戻ると「では、そのときは頼もう」と言葉を返した。

 そんなやり取りを終えると少し心に余裕が出たのか、そちらの彼女はと漸くエリーゼの存在が認められた。


「名乗りが遅れて申し訳ございません。私はアルール男爵領主ラリールが長女、名をエリーゼと申します。以後お見知りおきを」

「ああ、聞いた事がある。アルール男爵の娘は幼少の身でありながら騎士団長を務めると。おぬしの事であったか。心に留め置こう」


 その後、少し話の内容が変わる。


「頼まれた内容について一つ尋ねたい。罪を犯した者を捌くことはかまわぬのだよな」

「そりゃ当然だ。見せしめの為に罪もない者を虐げるのは止めてくれって事だな」

「そうか。了解した」


 こうして、アポの取り付けは終わった。

 流石に暫く掛かると言われたのでどれほどかを伺った。

 侯爵家の名を使っても最短で一週間は掛かるそうだ。

 緊急で有ればその限りではないが、それ相応の理由がないと後がやばい。

 そんな感じに丁度良く約束を取り付け、宿へと帰還した。


 宿の部屋に入ると何故かユーカに詰め寄られた。


「お兄さん、私もあの強い杖が欲しい!」

「え? どういう事?」


 待っている間、何故ユミルがそこまでレベリングに嵌ったかと言う話になったらしい。

 その理由が俺の足手纏いになる奴は一緒に居てはいけない、と言うことになっていた。

 

「いや、別にそんな決まりないよ? それにあの杖は大迷宮のボスを百回倒して一個か二個しか出ないもんだから、すぐには無理だよ」

「そんなすごい物配るみたいにぽんとあげちゃったの?」

「いや、あの時はさ、ほら、必要だったでしょ?」


 それにしても、ゲームの時は投売りされていたあの杖がそこまで人気だなんてな。

 考えてみれば当然か。

 この世界で言えば、最強レベルの魔法が誰でも無詠唱で、だもんな。


「じゃあ、他の装備作ってあげるよ。どっちにしても皆にはミスリルの上の装備を作る予定だったし」


 と言ったときにミレイちゃんが反応した。

「ミスリルって最強装備よね?」と。

 その言葉にニヤリと笑みを返し、ちょっとまってろとオリハルコンを持って来た。

 帝国でもかき集めたから結構な量になっている。持ってくるのが大変だった。

 これで作る、と加工して一纏めにしたオリハルコンの鉱石を出した。


「黒い鉱石、ですか。これは何ですか?」

「オリハルコンだよ。ミスリルよりもかなり強い装備が作れるんだ」


 へぇーと物珍しげに目をやる彼女達をしりめに装備を一つ一つ作り上げていく。

 そして、瞬く間に全員の武器防具一式が完成した。

 勿論ミラの分もだ。


「うわぁ、なんかすごいカッコいいけどさ、これって強いの?」

「いやいや、まだあるよ」


 と取り出したのはミスリルの鉱石だ。

 今度はアクセサリーの付与。作る数が数だから、これは結構時間が掛かった。


「えっ、何これすごいっ。なんか強くなった気がする!」

「ついでに魔法も覚えてみる? ユミルは数分で使えるようになったよ」


 その言葉にエリーゼ、ミレイ、ユーカはポカンとこちらを見た。


「数分でって本気で言ってるの? うちのお姉ちゃんどんくさいんだよ?」

「いや、ユミルをディスるの止めよう? 皆も多分出来るからね?」


 と、同じ手順で覚えさせようとしたのだが、彼女達には目に焼きつくほど魔法を見せていなかった。やり方だけ伝えておいて魔法はマクレーン行きの道中で見せると約束した。


 そして、運命の時。

 睡眠時間というものがやってきた。


「さ、て……寝ようか?」

「あっ……つ、償いですから、今晩は私がお相手いたしますわ」

「ちょっとずるいわよ。私だって同じなんだから」

「そ、そう言う事なら私は別に後でいいかなぁ……」

「なら私が一番。悪いことしてない私に優先権があるはず」


 と、ユーカ以外は乗り気のようだ。

 エミリーお前な……出会いがしらで殺そうとしてきたの覚えてないの?

 いや、そんな突込みを入れている場合じゃない。

 ここはびしっと決めるべきだ。


「隣にも部屋とってるから、話し合いが終わったらその気がある人だけそっちに来て。強制じゃないし、すべて任せるから」


 うん。これが限界。

 そう、昔の偉い人は言いました。果報は寝て待てと。



 結局、時間を置いて全員が来ることになった。

 皆が寝静まった頃、ユーカがドアの隙間からチラチラと様子を伺っていたのにはビックリしたな。

 結局寝ることが出来たのは明け方になってから。

 だが、後悔など一つもない。


 我は勝利者である。

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