第29話パーティーだぜ。


 エリーゼの案内の下、馬車でアルール男爵の屋敷へと赴いた。

 その屋敷は王都のものと比べると小さいが、敷地は驚くほどに広い。

 門構えから庭に至るまで、丁寧に整えられていて、これぞお金持ちという雰囲気をかもし出していた。


「ちょっとランス、俺達も入っていいんすか? 何か平民が居て良い場所っぽくないんすけど……」


 そのハルの問いに頷く平民組み。

 エリーゼ、ミレイ、エドウィナは貴族令嬢だから余裕そうだ。

 ミラ、何でキミは平民組みに入ってるの? 皇族だよね?


「お兄さん、私も行って大丈夫なの!? ねぇ、処罰されたりしない?」

「だ、大丈夫。皆は俺が守るから」


 と言うか、皆は大丈夫でしょ。

 問題はエリーゼパパが俺をどう思っているかがだ。


「むぅ、心外です。アルール家は民を不要に傷つけるような真似はしませんよ」

「そうですね。平民を招く事は余りありませんが、客人である以上逆に守る立場になりますからね。マクレーンに来た時は安心して尋ねてください」

「そんな事するのは王都だけよねぇ。うちも民は大事にしてるわ」


 その言葉に一応の安心を得た所で漸く屋敷の玄関へと到着した。

 馬車を降りると、そこには頭を下げたメイド10名と片膝をついた少年がいた。

 十代半ばでありながら臆した様子も無く、精巧な顔立ちがより気品を匂わせる。


「当家へようそこおいでくださいました。私、エリール・アルールがご案内させて頂きます」

「ランス様、紹介しますわ。私の弟で嫡男のエリールですわ」


 え!? 嫡男が平民に膝ついちゃ不味くない? だ、大丈夫なの!?

 神様の使いじゃないよ?


「ランスロット様は二度も町を救ってくださった英雄です。当家にできる最高のおもてなしをするのは当然の事でございます」


 その後ミレイちゃんとエドウィナがエリールと形式的な挨拶を交わし、応接室の様な場所に案内された。

 思ったよりも調度品の類は少なく、高級宿のロビー程度の作り、その事に少し安堵を覚える。

 そこには現当主のラリール・アルールが待ち構えていた。


「わしはラリール・アルール男爵だ。この度、魔物の討伐に加勢して頂いた事、深く感謝申し上げる。ん……? リーゼ、失礼であろう。こっちへ来なさい」

「あら、私はもうこちら側ですわ、お父様」

「「……」」


 首を傾げ笑みを浮かべて見つめ合う二人、早くも何か宜しくない感じがする。

 そんな雰囲気を払拭するようにエリールが皆を席に座るようにと告げると、メイドが一人一人に椅子を引いてくれた。


「して、早速だがパーティーの前に報酬の話をしておこうと思う。何か、望みはあるか?」


 ん? こういう報酬って参加者に一律で払うものじゃないの?

 あ、MVP報酬か。別に金は要らないしなぁ……

 エリーゼが欲しいって言う勇気は無いし。

 ああ、そうだ。あれがあった。


「えっと、アルールに屋敷を立てる許可を頂きたいのですが……」

「ん? それは構わぬが……それは報酬とは言えぬな。土地を融通して欲しいという事か?」


 今回の報酬としてどのくらいが妥当なんだろうかと聞いてみた。


「まあ、広さにも寄るが、ここの半分程度なら構わぬぞ」

「いえ、それでは広すぎなので更に半分程度でお願いします」


 だって、ここの半分だとおっきな畑が出来ちゃうレベルだよ?

 更に半分でも、屋敷立てて広々とした庭を使えるレベルだ。

 聖光石に頼ってないから土地を使い放題なのだろう。 

 王都だと、魔物を寄せ付けない聖光石の範囲内を壁で囲っちゃってるからな。


「分かった。場所の話し合いは商会のほうでやってくれ」

「了解致しました。あっ、後、カルマの光の判定に触れてしまう者を町に入れる事は出来ないでしょうか?」

「なっ、なんだと!?」


 あ、いきなり過ぎたか……子供達の事なんだけど。

 目つきの色が変わった男爵に事情を説明した。王都で捨てられた子供達の話を。


「なるほどな。確かにあれは痛ましいものがある。その子供らに責は無いようにも思える。だが、なぁ……」


 男爵は、その例外を作る事に忌避感がある様だ。この先、この例外を作った事で領地の枷にならないだろうかと。

 その懸念も分かる。

 やっぱり、あいつらを町に入れてやるのは厳しいかな?

 そう思っていたとき、「父上、問題ありませんよ」と、エリールの声が響いた。


「彼らに罪を問うのは戦場で人殺しを問う様なもの。であれば、我らは黙認すれば良いのです。記録に残さなければいい。それだけの事でしょう」

「うむ……いいだろう。あの子等の場合に限り、見て見ぬ振りをしよう。だが、問題が起きた場合、責任がそなたに行くがよいな?」


 それは問題ないかな。盗みは生きていく為にやらざるを得なかっただけ。そのことで受けるリスクももう知ってる。ここで仕事を得れば悪さなんてしないだろう。


「ご配慮、感謝します」


 と、さくさくと話が進むとエリーゼがパンと手を叩き視線を集めた。


「では、お話も済んだ事ですし、立食パーティーに移りましょう」

「そうですね。今回は討伐参加者全員を招待しております。皆さんも気兼ねなくパーティーを楽しんでいってください」


 エリールの言葉にハルたちも頬を緩め、良い雰囲気で会場に入れた。

 会場に入るともう既に人が数十人ほど居て談話をしていた。

 エリーゼが中に入ると中央の大きなテーブルに続々と料理が並べられていく。


「うふふ、この雰囲気久しぶりだわぁ。実家に居た頃は面倒だったけど、冒険者としてなら気楽で良いわね」 


 ミレイが背伸びをしつつもそんな呟きを漏らして、アーミラたちに逆だろうと突っ込まれている。

 ハル、エレオノーラ、アナスタシアも平民がぞろぞろ居る事に安堵したのかリラックスした様子で雑談に入っていた。

 俺も雑談に混ざろうと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「おーい!」


 視線を向けるとハンスがちょいちょいと手招きして俺を呼んでいた。

 なんだろうかと寄っていくと突然歓声が響いた。

 彼は手でその歓声を静めると俺の片手を持ち上げて『言うまでも無いが、今回のMVPはこいつだ!』と叫んだ。その事で再度歓声が沸く。

 そしてその注目を集めたままハンスは言葉続けた。


「お前、何が弱いだ。めちゃくちゃ強いじゃねぇか!」

「あれから強くなったんですよ。知ってますか? 俺冒険者ギルドで『アビリィティギフト』触ったら、受付穣に『やだ、こんな弱い光初めて』なんて言われたんですよ?」

「嘘付けぇぇ!!」


 ハンスの突っ込みにより、良い感じに笑いが起こった事に安堵しつつ回りを見回すと、何故か言った本人が居た。二メートルの旦那と連れ添って。

 彼女は口に人差し指を当てて、言わないでアピールをしている。旦那はその横で爆笑中だ。

 よし、あの時いじられた仕返しをしてやろう。


「本当ですよ? だってほら、言った本人がそこに……」


 指を刺してギルド受付穣ミアーヌを指差した。全員の視線が彼女に集まる。


「し、仕方ないじゃないですかぁ、ホントに初めてみるくらい弱かったんですよぉっ!」

「ほらね?」


 とハンスに言葉を返すと今度は『アビリティギフト』に細工をしただのと言い出した所でエリーゼが介入し、失礼だとハンスは鉄拳制裁をくらい話の幕が閉じた。

 

「やばいっすね。ギルドの受付穣ってそんな非道な事を言ってくるんすか? 行くのが怖くなってきたんすけど……」

「ああ、無一文で生きるか死ぬかの時にな、弱い魔物の討伐で一日どのくらい狩れば質素な生活が送れるかを尋ねたんだが、スライムなら230匹ですね。プークスクスって言われたぞ」


 ハルは「マジっすか……」と続く言葉を失った。

 と、そこに軽い感じにミアーヌさんの旦那が登場した。

「マジかよ。うちの嫁ひでぇな」と。その後ろには口を尖らせたミアーヌさんの姿もある。


「ちょっとちょっと! そんな笑い方してないでしょう!」

「冗談ですよ。ミアーヌさん、お久しぶりです。あの時はお世話になりました」

「ひ、酷いですよ! 噂になったらどうするんですか!」

「えー、でも、ほぼ事実ですよね?」


 彼女はつつつ、と視線を逸らした。

 まあ、こうして一緒に談話してるんだから、余り悪い噂が流れる事は無いだろう。

 そうして、食事を取りつつ楽しく会話していると、壇上から声が聞こえて来た。


「皆、楽しくやっている様で何より。此度の働き、ご苦労であった。まだ日も高いが、祝勝会だ。呑めるものは好きなだけ呑んでいくといい」


 男爵から労いの言葉と報酬の説明を受けた後、会場にBGMが追加された。

 本来なら、このままダンスへと以降するらしいが、招待客のメインが平民では踊れる者が少なすぎるという事でこのまま食事会で済ませるようだ。

 メインが食事から酒へと移っていき、人が疎らに抜け始めた所で俺達も抜けさせてもらった。

 

「そう言えば、ミレイさんたち、一泊二日の予定でしたけど大丈夫ですか? もしあれなら、王都に送りますけど」


 と彼女らに尋ねたが基本迷宮通いだから特に予定は入っていない様だ。

 折角来たのだから数日ゆっくりしたいくらいだそうだ。


「じゃあ、他の皆は五日くらいの予定だったぽいし、数日はゆっくりしようか。ああ、ハル、この辺で魔物でも狩りしてくか? このあたりは魔物が一番弱い地域だから初陣には最適だぞ?」

「行くっす! 今からでも良いくらいっすよ」


 いや、今から狩りに出たら徹夜コースだから……


「いや、今日は皆の装備を作って準備する程度にしておこう。折角だから他の皆も戦って貰おうかな。あー氷槍の杖持ってくれば良かったな……」

「いや、あれを遊びで持ち出すのはマズイでしょ。ランスはあれの価値を低く見すぎ」


 いや、使わないとただの置物じゃん?

 と話しているとアーミラから「その杖って凄いんですか」と問われた。

 いやいや、と手を横に振ってそこまでじゃないと言おうとしたら、ミラが言葉をさえぎった。


「うん。あれはヤバイ。Sランク魔法使いの威力のアイスランスが誰でも無詠唱で打てる杖」

「「「はっ!?」」」

「そう。国宝級……ううん、国宝でもそんな凄いの無いかも……」


 いやいや、あるでしょ。勇者が残した遺産とかもあるはずだし?

 多分知らないだけでごっついの隠してるって。

 そう言って同意を得ようと皆を見回したがどうやら論点はそこじゃないらしい。

 そして満場一致で見たいという結論に至った。


「あー、面倒だけど取ってくるか。装備作るのにミスリル鉱石も必要だしな」

「ミ、ミスリルっすか!? アイアンでいいっすよ?」

「いやいや、折角作るんだからミスリルが良いって。お前らから金取るつもりとか無いし。ああ、俺が困った時に助けてくれればいいよ」

「ランスが困る事なんてあるんすかね?」

「あるだろ?」

「ああ、あるっすね。でもそこに介入する自信はないっす」


 そんな馬鹿話を終えて、俺は単身王都へと戻る事になった。

 まだ16時前、今からなら余裕で閉門時間に間に合うし、どうせ朝までは開門しないのだからついでにボス狩りでもしに行こう。聖光石の欠片が足り無すぎだし、良い装備も手に入るかも知れない。

 ミラは夜一緒に居れない事が不満そうだが、それでも二人きりだった時と比べれば問題なさそうにも見える。

 一応「『スリープ』かけてから行こうか?」と尋ねてみたが「大丈夫。頑張ってみる」と前向きな答えが帰って来た。

 なのでその場で離脱し王都へと走った。


 

 到着したその足でレーベン商会に行ってミスリルを大量購入し、ついでにアルールに建てる屋敷用にと家具類の魔道具も購入した。畑にある我が家の物置にぶち込み、雛鳥の様に付いて来た子供達に問う。


「そうだ……お前ら、アルールの町なら入れて貰える事になったからそっちに行ってもいい奴はいるか」


 こいつらにとって良い話だ。本来10年待たないといけない所を直ぐに町で暮らす事が出来るのだから。

 だが、思ったよりも志願者が居なかった。手を上げたのは10人程度だ。

 どうしても、町の中の人イコール怖い人というイメージがあるらしい。

 まあ、いきなり大勢連れて行っても受け入れ場所が無いし、今はそのくらいが丁度良いかとその10人に明日の朝行くから準備しとけ、と告げた。


 オリハルコンの武器防具一式、その上に愛される者のローブ、ミスリルのアクセサリーを装着して戦う準備を整えた。

 ふと封印の悪魔に貫かれた肩に穴が開いていることを思い出した。

 あーあ、ローブも鎧も穴開いちゃってるじゃん。

 この場合防御力とかどうなるんだろう……

 まあ、折角だから『クリエイトオリハルコン』で穴塞いでおこう。

 『愛される者のローブ』はどうにもならないけど。

 これ、大丈夫なの? 効力切れたりしてない?

 いや、まあいいか。

 元々この効果に頼ってたわけじゃない。アルール拠点にするんだし、そのうちまた出るだろう。


「さて、どこのボスやりに行くかね」


 大迷宮のベヒーモスはまだリポップしていないだろう。一番近い上級ダンジョンだと……帝国領の死の谷か。ああ、この前の裸の山だな。反対側に多分入り口があるはず。

 あそこまで行くならフィールドボスも二体くらいやれるな。

 よし、折角ミラに我慢してもらってるんだし、ガリガリ狩りしてレベルも上げてくるか。


 暫く走ると、名も泣き村①が見えてきた。入り口の前にかがり火が炊かれ、おっさんが槍を持って立っている。

 そっか。ちゃんと自衛する様になったんだな、と安堵しつつ通り過ぎた。

 一応サーチで大量発生していないかだけをチェックしたが、問題なさそうだったので手を出さないほうが良いだろう。

 そのまま進んでいくとアルールよりも大きな町が見えてきた。


「ああ、あれがゴブリンが攻めてたって言う、帝国の町か」


 この町も聖光石のゲームでは無かった町だ。

 始まりのレウト、アルールを除けば主要都市とイベントで必須な所以外は無い事にされたのだろう。

 神様がテコ入れして作ったゲームであれば、だが。

 まあ、どちらにしても今は用は無いので近寄らない方が良い。

 このまま死の谷方面にダッシュだ。その途中でコボルトロードとワイバーンエンペラーを倒していこう。

 まずはコボルトロードだな。麓の森にいるはず。えっと、地形的に範囲は……微妙にわからん。あの森の魔物を取り合えず殲滅すればいいか。60レベルくらいの雑魚だけど……

 と、森に入り、コボルトを殲滅する為、歩きながら『ライトニングボルト』を『ソナー』の敵反応の場所にばら撒いて行く。

 ババババと着弾の音が鳴り響く。断末魔の声すらしない。

 そして森の奥深くに足を踏み入れた時、初めて魔物の声が響いた。


「グルルァァァァ」

「グォォォォ」

「グルルルゥ」


 うん。コボルトロードだね。

 ……でも何で3体も?

 ボスは基本一体しか湧かない筈だけど……

 まあ、適正150レベル程度のボスだから問題は無い。

 と言うか逆に美味しい。

 一応ゲームとの差異として覚えておこう。


 いつものバフをかけてオリハルコンの剣を引き抜いた。

 うん、こいつらなら剣でいけるだろう。

 弓使いだけど、攻撃魔法は持ってないし『シールド』管理だけしっかりすれば問題ない。

 と思っていると……


『『『ウォォーーン』』』


 三体の二足歩行の犬が両手を開いて天に唸り声を上げた。

 ちょっとシュールな光景だったが、一体が突撃してきた事でその意味を知った。


「え? そのバフスキルって重複するの!?」


 コボルトロードが持っている『ハウリング』と言うスキル。自分、範囲内の同族に大幅なステータスアップというスキルだ。

 眼前に牙が迫って漸くその事に気がついた。

 いくらなんでも封印の悪魔アシュタロスに割りと近い速度を出すなんてありえないだろう、と。

 即座にその牙に『パリィ』をかます。

 コボルトロードの顔が弾かれるように上を向いた。


「ああ、良かった。流石に力も同じ程度って事はないのね。って余裕かまして良いほどじゃないよな。『アースバインド』『フレアバースト』『飛翔閃』『瞬動』『パワースラッシュ』」


 『アースバインド』で三体の動きを阻害しつつ『フレアバースト』でダメージを与え、目の前のコボルトロードに『飛翔閃』で目を攻撃し、『瞬動』で横に回り首に全力で『パワースラッシュ』をお見舞いした。

 切り落とすまでは至らなかったが、大量の血が噴出し、地をのた打ち回る。

 あれはもう相手にするのは最後で良いだろうと少し距離を取りほか2匹に意識を向けた瞬間パリーンと『シールド』が弾けた。

 と同時にスキルで強化された二本の矢が肩口を掠り、愛される者のローブを引き裂いた。


「『シールド』うっは、そういやこいつらの弓スキル『チャージアロー』は『シールド』に大ダメージ付くんだった。ダメだ変更。即殺だ」


 レベルが上がってシールド効果が上がっているから余裕こいてたけど、ここは危険を侵す場所じゃない。遠距離攻撃に変更だ。

 『アースバインド』『飛翔閃』『フレアバースト』を乱れうちしてハメ殺しした。

 すると、ダンジョンの様に死体が消えてドロップが落ちた。

 ボスだからだろうか? それとも、魔素の蓄積量辺りが関係してるとか?

 まあ、取り合えず貰える物は貰っておこう。


「ドロップよりも……とうとう愛される者のローブがお亡くなりになってしまった」


 まあ、もうハーレムは結成された訳だし、道具に頼るのもなんか違う気もしてたし。めっちゃ後ろ髪引かれるけど、これで良かったのかもしれない。


 よし、気を取り直してドロップはと……


 お、やったね欠片が二つでた。装備は破魔弓と牙と……ナイフか。

 『鑑定』

 アサシンナイフ

 アジリティ値上昇

 回避率上昇

 スキル『隠密』使用可能 


 あー、うん。微妙。

 破魔弓はいいね。狩場次第では最後まで使える弓だ。

 さて、次いこうか。


 と、裸の山の天辺に向かって疾走する。

 『ソナー』でボスは直ぐに見つかった。この前ワイバーン乱獲したからか余り数がいなかったし。悠々と空を飛んでいたので一目瞭然だった。

 さて、こいつの遠距離魔法攻撃は広範囲で避け辛いから即殺の方向で行きたいな。こいつ弱点属性なんだったっけ……あー無かった気がする。じゃあ、雷で良いか。高度を下げさせたいから増幅かけて一撃を重くしよう。


「『魔力増幅』『サンダーストーム』『魔力増幅』『サンダーストーム』」


「ギャァァァァス」


 ワイバーンエンペラーはダメージを受けて落ちかけるが、直ぐに持ち直して怒り狂うと即座に『ウィンドブレス』の溜めに入った。

 だが、そのまま打たせはしない。即座に『魔力増幅』しつつ『サンダーストーム』を頭に放つ。

 『サンダーストーム』は『ライトニングボルト』の上位魔法で範囲の雷攻撃魔法だ。『サンダーレイン』より範囲はかなり狭いがその分威力が高い。


 数度繰り返すと力尽きて地に落ちていった。追撃で『メテオ』を食らわしつつ墜落場所に直行した。

 だが、そこには魔石とドロップ品だけが落ちていた。

 耐久が高い竜種も魔力チートの前ではこんなもんか。

 

「よっし、欠片ゲット。んで他のドロップは……籠手? ああ、風盾だ」


 これも微妙だなぁ。どうやっても最終装備には入らない。

 今の所当りは破魔弓だけだな。

 まあ、四匹で一個当たり出てれば十分か。欠片入れたら多いくらいだ。


 さて、ラストにダンジョンボスやって帰るか。

 死の谷、このダンジョンは洞窟なのだが、最終的に谷底に出るというものだ。

 なのでスキップできないかと谷をそのまま降りてみようと足場になりそうな場所に飛び降りた。

 

「よっと、うん。いけそうだ。ダンジョン内は別次元とかそう言う設定ではなさそうだな」


 そうして降りていくと10分もしないうちに谷底へと到達した。

 ここのボスはドラゴンゾンビだ。ワイバーンでは無く地竜のアンデット。

 レイドボスを抜かせば最強クラスのボスになるのだが……

 俺は対アンデットをさせたら右に出るものはいないくらいの魔力チートでクールタイムを無視出来る。

 という事で、着いて早々防御バフと同時に『サンクチュアリ』を所狭しと全領域に一瞬でばら撒いた。

 完了と同時に『魔力増幅』をかけて準備完了。


 『ソナー』で場所は分かっている。この先にある洞穴だ。

 さあどっからでもかかって来い!

 と思っていると地面から数本の石の槍が飛び出てきた。


「おわっ! 『瞬動』」


 唐突過ぎて一本当ってしまったが『マジックシールド』によって弾かれた。まだ割れていないが即座に掛けなおし、お返しに『エクスヒーリング』をかけてあげた。魔力増幅付きだ。

 その瞬間、大きな音を立てて洞穴が崩れ、凄い勢いで飛び出してくる。

 それに構わず『エクスヒーリング』を繰り返しかけ続ける。

 そして、こちらに到達する前にドラゴンゾンビは崩れ落ちた。

 南無。


「『サンクチュアリ』を10枚以上飛び越したか。流石は竜種、HP総量がボスレイスとは比べ物にならないな」


 これと普通に前衛がぶつかったら相当な長期戦になったのだろうなと思いつつも、ドロップ品を物色する。


「仮面と剣と鎧か。大盤振る舞いじゃねぇか」


 ドラゴンメイルにドラゴンキラーか、何でそんなもん持ってるのかね……生前その装備の冒険者と相打ちになったとか?

 あと、仮面はおなじみの奴だな。最終装備だよ。

 悪鬼の遺物。復讐に狂って鬼になった者の遺品だとか。

 ステータスオール2%上昇という破格の性能なんだよな。

 剣と鎧も対ドラゴンであれば最終装備と言える。

 ドラゴン相手でなくともオリハルコン装備よりちょっと劣る程度だからこれを強化する奴も結構いたくらいだ。

 まあ、俺の場合はレイドボス仕様にしなくちゃだからこれを強化するならオリハルコン装備を強化かな。


「あ、もうあんまり時間無いじゃん。急いで殲滅しないと」 


 いや、別に殲滅しなければいけない訳じゃないのだが、折角上級ダンジョンに来ているのだしな。

 それに、朝一番で出なくても良いだろう。アルールに午前中に付けば十分十分。

 そんな事を考えつつも大急ぎで倒して駆け上がっていき、そこから一直線に王都へと戻ると朝7時だった。開門と同時ではないが、丁度良い時間である。


 早速子供達に行くぞと声をかけて、装備や鉱石、家電に代わる魔道具を積み込み

アルールへと向かった。

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