第28話やっぱり俺は朝が弱い。
エリーゼ様は思わせぶりにこっちを見つめて『言ってしまっても宜しいのですか?』と問いかける。
何のことか分からないが、言われて困ることは特に無い。なので頷いた。
「この方は……このお方は、神の御使い様なのです! 『ってなんでやっ!』あいたっ」
あまりに予想外な言葉に、エリーゼの頭を軽くぺちっとやってしまった。
当然、ソフトタッチでだ。
「で、でも神野剣也様、なのですよね?」
「ちょっ、何で知ってるの!?」
思わす本名を言われて素で驚愕してしまった。
他の面子は何の話かも分かっておらず、様子見しているのか大人しい。
だが、言われてみて分かった。ポーションの鑑定だと。
ここまできたら隠す事は無いので説明する。
「あー、まず訂正。俺は神野剣也って名前だけども、それはこちらの世界に来る前の名前だ」
「こちらの世界って、どういう事?」
最近驚かなくなっていたミラすら驚愕しているようだ。
少し、表情が強張って見える。
「単純に言って異世界って奴だな。いきなりこっちの世界に靴も無しに飛ばされて、当然戻り方も分からない。このまま死ぬんかな? 何て思いながらひたすら歩いてたどり着いたのがアルールだったんだ」
「ランスロット様がこの辺歩いても危険は無いですよ?」
キョトンとしていたミレイちゃんが匂いでも払うように手を横に振った。
「いやいや、俺、二週間くらい前まで最弱のFランクだったからね?」
「「はぁ?」」
「いや、マジで!」
「ねえ、Sランクが嘘なんだよね?」
ミラ、ミレイちゃんが同時に何言ってのと声を上げる。嘘じゃないので強めに本当だと伝えた。ユーカは逆にSランクの方が納得いかないらしい。
何一つ嘘は言っていないと前置きをして続けた。
「えっと、だから俺はこの世界の事何も知らないの。神様にだって会った事も声を聞いたこともないし。だからハンスさんに記憶喪失って事で説明をしたんだ」
「そうでしたか。ですが、いきなりと仰ってましたが、原因も無しにそんな事がありえるのでしょうか?」
エリーゼ様は納得が言ったと微笑を一つ向けたあと、首を傾げた。
「うん。俺としても絶対にありえない事が起こったって認識だね。流石にこんな事出来るのは神様くらいじゃないかとは思うけども。神の使いとか剣とかじゃないんだ」
「わ、私もそう思います。きっとこれは神様がランスロット様を選んだからですわ。アダマンタイン討伐の為に!」
「あ、それ、覚えてたのね。ホントに来るかなぁ……出てこないでくれると嬉しいんだけど……」
一応はレベル上げ頑張ったし、良いセンいってると思うんだけど、出てこない方がありがたいんだよな。
「ねぇ、まだ隠してるよね? アダマンタインって何?」
あっ、そうか! ゲームの世界に似ているってどうやって伝えようか。
「隠してるわけじゃない。なんていったら良いのかな? 俺の元居た世界での事なんだけど……」
そこから必死に説明した。上手く説明が出来なかったので。魔物を倒したりして遊べる擬似世界を作り出す道具があったと伝えた。その世界では死んでも生き返れる事も。それがこの世界と類似していると。
そして、そこから神様の手が入っていたのではないかと推測している事も。
「そ、そんな高度な事を出来る世界だったのですか……」
「うーん、多分皆が想像してる程じゃないかな。けど生活水準は向こうの方が明らかに高いね」
うん。そこは間違いない。
って、ミラは何で睨んでるの?
「睨んでるって言うか……隠し事ばかりだから……死んでも生き返るの?」
「いや、それは無いから。擬似世界の中のみだし。普通に死ぬよ?」
そんなに化け物じゃないよ。何でまだ疑った目をしているのさ。
「お兄さん、来たばかりならどうしてSランクになれたの?」
「うーん……地下墓地を最下層まで攻略して、大迷宮も全部攻略して、妖精の国を走り回って魔物を殲滅して回ったからかな? 自分でもちょっとびっくりするほど魔物倒してるな」
「「「ええ!?」」」
いきなりミレイちゃんがテーブルにダイブして胸倉をつかんできた。
アグレッシブ過ぎる……
「だ、大迷宮全部制覇したんですか!? よ、妖精の国ってエルフに会ったり?」
「おう。ミラも一番下まで一緒に行ったぞ。エルフと会った時は別だったけど」
えっと、ユミルの事肘で攻撃しちゃってるから、どいてあげて?
よしよし。痛いの痛いの飛んでけぇ『ヒーリング』
ユミルも何か聞きたい事ある?
「えっと、じゃあじゃあ、どうしてそんなに凄い魔法が使えるんですか? 強くなると覚えるの?」
「あー、それは……擬似世界で覚えた魔法が何故かこっちでも使えたんだ。実はユミルに見せた他にも、一杯使えるんだぜ?」
「うん。異常者の領域」
こらっ、異常者とか言うなよ!
「よ、要するに、殆ど同じ世界だからこの世界で出る魔物の場所とかが分かるって事なのね?」
「流石ミラ、そう言う事だ。ミラを助けられたのもあの村が襲われる事が分かってたからだ。と言っても日時までは分からないんだけど。だからこの前エルフの所まで行かなきゃいけなかった」
「また、隠し事……」
「し、仕方ないだろう!? だって、一杯一杯だったんだよぉ。性欲溜まり過ぎて仕方なかったんだよぉ」
って、あっ……つい口走ってしまった……
うっ、ジト目組みと頬染め組みに分かれた。
「ラ、ランスロット様がお求めなら、私はいつでも……」
「ほ、ホント? 俺、エリーゼ様のお父さんにキレられない?」
「……大丈夫です!」
ああ、これあかんやつや。
「わ、私は大丈夫かなぁ?」
「おお! ミレイちゃん、ありがとう。嬉しいよ」
「「待って!」」
……ジト目組み筆頭のミラとユーカがお怒りだ。
あふっ、怒る順番を譲り合っている。そういうの止めてください。
「お兄さん? 何その誰でもいいからみたいな空気。凄く失礼だよ! 私に!」
「待て、誰でも良いなんて言ってないぞ。だから、こうして話し合いしたんだろう?」
「ランス、素直な所は良いと思う。でもデリカシーが必要。後、一番は私……」
「「「一番は私です!(だよ!)」」」
あー、これは収集つかん奴だ。やっぱりお店に行くしかないか。
誰だよ、人は慣れる生き物だから大丈夫なんて言ったやつ。
その前提でアウトじゃねぇか……
「じゃあ、俺、部屋に戻るから……」
「何? お兄さんは結局やりたいだけなの!?」
「ランスロット様……ううん。ランス様、部屋に行くなら私も行くわ」
「ミレイさん! ……私も一緒に行きますわ」
「私はいつも通りランスの隣で寝る。今日こそ頑張る」
「えっと、ランスさん。頑張ってくださいね? そ、そのうち呼んでくれるの待ってますから」
カオス空間が止まらない。如何しよう。
よし。じゃあここは男らしくびしっと亭主関白で……
っと、その前に深呼吸して……
「おい、今更ぐだぐだ言うんだったらこの話は無しだ。これ以上困らせるなら一人でエルフの里にでも行くからな」
……どうだ? ちょっと外道過ぎたけど。
え? 何でこそこそ内緒話してるの? 俺も混ぜて?
すっげぇドキドキすんだけど……逆に捨てられたりしないよね?
「分かった。じゃあ、この中から改めてランスが一人選んで。その子が今日は一緒に寝る。それで良いでしょ?」
なにぃぃぃ! この状態でか!?
ちょっと、期待した目で横一列に並ぶの止めて!
いや、待て……ここを乗り切らなければあの性欲地獄が待っている。
ならば、どんなに外道でも、選ぶべきなんじゃないだろうか。
だ、誰にしよう。ミラが一番だけど、きっと無理だろう。
ユーカも選んで欲しそうだけど、割と口ばかりな感じだ。
ミレイちゃんはまだ会うの二回目だし余り話した事無いんだよな。
エリーゼ様も同様だ。もう少し時間が欲しい。
実際ユーカもユミルもそうだな。性欲が待ってくれないだけで、普通はもう少し関係を深めてからなのは分かっている。
うーん、ここはやっぱりミラだな。元々付き合ってるわけだし。
今日こそ頑張る、の言葉を信じてみよう。
いや、この期待の目を裏切って部屋に着いたら始めるとか流石にそれはないわ。
「……えーと、ミラ、いつも通り一緒に寝るか。てか今日はもう諦めたから、皆で寝てもいいけど」
「……いいの? 我慢できないんでしょ?」
「無理だよ。皆のそんな悲しそうな表情見た後になんて……お前が恐怖で固まるだけで無理なんだぞ?」
「ご、ごめんなさい……」
いや、怒ってないんだけど……
じゃあ、ユーカの部屋に布団運んで皆で寝よう? と提案した。
結局、全員で寝ることに決定した。
他の皆に一応一言入れて、俺たちはユーカの部屋で眠りに就いた。
◆◇◆◇◆
しゃ…よ……
うーん……誰だ? まだ寝てたいんだ俺は……
「あしゃですよぉ」
「うーん? あしゃなのぉ?」
「早く起きないと後悔しますよぉ」
「やだっ……まだ寝てたい……もん……」
うん……なんか周りが煩い……ブークスクスって、変な泣き声の鳥だな……
「ランス、あしゃよ」
「ランス様ぁ、あしゃですよぉ」
「ランスさん、あの……起きてください」
「ランス様、朝でございます」
段々と覚醒していった俺は、またやってしまったと力なく布団に顔を埋めた。
いつもの癖でミラを抱き枕にしようと手を伸ばして布団に引き込んだ。
だが、その抱き心地は少しいつもと違った。
「わふっ、お兄さん。朝! 朝だってば!」
「口止め料を払ったのに、バラした罰だ。このまま襲ってやる」
ユーカの事を面白半分で脅しつつ、体中をまさぐった。
『嫌ぁぁぁぁっ』っとユーカの叫び声が宿中に木霊した。
「ランス、いい加減起きる。皆待ってる」
「むむ、そうだった。俺たちだけじゃないんだった……」
部屋を出てロビーに行くと、皆がもう既に待っていた。
ラーサがこちらをニヤリと笑みを浮かべてみている。
「なんだい、すっきり出来なかったって顔してるね? 女が揃いも揃って情けない。じゃあ、ランスさん、私とちょっくら散歩でもしてこようか。私はあいつらみたいに良い男に勿体つけるような真似はしないよ?」
どちらかと言うと、俺よりも視線はミラたちに向いていた。
そのラーサの確信的行動を見るに、他の者達の苦笑いを見るに、覗かれていたのではないだろうか? そう思ってこっそりハルに問いかける。
「なぁ、お前ら見てたの?」
「そりゃ、何も言わずに放置されれば気になるっすよ。紹介くらいはしてくれるものだと思ってたっすもん。まあ、あれじゃむりっすよねぇ。勇者っすよ。名実ともに。その勇気に感動したっす」
いや、そんな言葉求めてねぇし。
っていっても言われてみりゃそうか。皆で遊びいくぞー、このホテル泊まんぞー、ホテルついたらそのまま部屋割りも参加せず放置。
一体どうしたんだろうって探すくらいするよな。
流石に厨房から勝手に入ってはこれないだろうから外から覗いてたか?
「えっと……」
フォローを入れようと声を出した瞬間宿屋の扉が乱暴な音を立てて開いた。
「……魔物が襲ってきた。た、大変なんだっ。宿に冒険者は居ないか!」
「あ、俺、冒険者です。どこへ向かったら?」
彼は、ギルド職員だからか、焦って周りが見えていないのか、エリーゼ様に気がついていないようだ。彼女も俺と共に行くつもりなのか動こうとしていない。
「そのまま正門だ。今日はそっちからきた。オークの大群だ」
「わかりました。俺一応Sランクなんで任せてください」
「ほ、本当か!? いや、本当ですか!? よ、良かった、よかった……」
「それでは、このまま向かいますね」
そして『ソナー』を発動。あ、もう壁に近い所まで来てるじゃねぇか。
これは急がないと兵士が死ぬ。
「ま、まってぇ……い、いっちゃやだ! だ、ダメだよ! 死んじゃうから!」
あっ、そう言えば、ユーカにとっては地雷だったな。
魔物の襲撃で両親が死んで辛い毎日が始まったのだから。
ユミルも何も言わないが顔色が悪い。
だが、時間をかけてる暇はない。なら、つれてってやるか。これからも不安になられたらそれこそ何も出来なくなってしまう。
だから抱きつくユーカを抱え、ユミルも抱き寄せて持ち上げた。
「エリーゼ様、先に行ってますね。少し、余裕がなさそうなので」
「え? いや……はい」
うん。エリーゼ様は聞き分けが良いな。きっと、いつもは自分がそう言って出るから違和感があるのだろうな。だって彼女は騎士団長らしいし。
などと考えつつ、空いたままの戸を抜けて空に飛び上がった。
「ひゃぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁ」
「ごめんな。ちょっと急ぎだから我慢してくれ」
屋根を飛び移り、一直線に正門の方へと向かう。王都方面の入り口だ。
ギルド職員の言い草だといつもはレウト方面の門から来ているらしいが。
それにしても、結構いるな。100匹程度か?
正門の門に到達したが、閉まってる。
そのまま飛び越えてやろうと屋根の上から外壁の上へと飛んだ。
二人に『シールド』『マジックシールド』をかけて置く。
外壁の上に丁度物見櫓になっている場所があったので、そこに二人を降ろした。
「さて、二人には何の心配も要らない所を見せよう。まずは回復ばら撒くか。えっと陣形の場所と足止め用に『サンクチュアリ』けが人全員に『エクスヒーリング』それから……ああ、派手にいかなきゃだな」
ユーカとユミルに『ここで見てて』と声を掛け、前方に大きく飛んで兵士達を飛び越えオークの群れに入っていく。
ああ、このレッドオークとブラックオークの群れじゃ全滅してたんじゃないか?
しかもこの混成ってあの封印悪魔が追い立てた奴らの別働隊じゃね?
本当にイベントじゃないのかと疑いたくなるタイミングで来るよな……
彼女達を守れたのだから今回はありがたい限りだが。
「グルルァ」
「ブルルァァァ」
「あ、兵士さん少し下がってて下さーい!」
物凄い迫力のあるモーションで襲い掛かってくるが、装備なしの状態でも怖くは無い。今俺のレベルは最低でも150上だろう。ブラックオークでも130レベル付近。あー、装備なしの『シールド』『フォートレス』すら無しじゃ痛いわ。
いや、アクセの付与チートがあるからあるいは……
そんな下らない事を考えつつも、兵士に声掛けをしながら何ちゃって体術で吹き飛ばしていく。
ミレイちゃんの時も思ったけど、パンチで吹き飛ばすのって気持ち良いな。
うん。兵士も素直に引いてくれたな。
お、エリーゼ様も到着だ。
んじゃ、そろそろ倒すか。
前方には人影無しと。
じゃあ、後はなるべく大きな声を張り上げてと。
「『ブリザード』! 『エクスプロージョン』!!」
100メートルほど先まで凍りつき、爆発音が連発する。
ユーカとユミル、そしてエリーゼ様に今の強さを見せて不安を払拭して貰おうと出来るだけ派手になるように魔法を使った。
その狙いは思わぬ効果を発揮した。
一面を凍らせた為に埃の代わりに、氷の欠片が宙を埋め尽くした。
昼の強い日差しにキラキラと光の欠片が舞い落ちる。
それは、晴れた日に雪が降るよりもインパクトがある光景だった。
氷が張られ、爆風で何も無くなった一面、そこかしこで光が飛び交う。辺り一帯が強い輝きに包まれた。
その中心に立ち、振り返る。
自分でやっておきながら、余りの輝きに思わず『綺麗だな』と言葉が漏れた。
都合が良い。これほど圧倒的でパフォーマンスまで入ればもう怖がったりしないだろう。
「もう大丈夫だっ! 魔物の脅威は去った。だから安心してくれ」
エリーゼ様と目を合わせてから、上の二人に顔を向けた。
二人を迎えにいくために『クリエイトストーン』で少し足場を作りつつ外壁の上まで飛び上がった。
「ほら、余裕だったろ?」
「そ、それでも怖いものは怖いよっ! さ、最後のは良かったけど」
「す、凄かったです……怖かったけど、あれ見た瞬間全てが飛びました……」
うん。俺としても一面、氷の世界までしか予想してなかったよ。あそこまで派手になるとは思わなかった。
っと、エリーゼ様一人にしてばかりじゃかわいそうだな。
「さあ、戻ろうか」
声を掛けて二人を抱えて下へと降りた。
ゆっくりと地に降ろしてあげたのだが、足が震えて腰が曲がってしまっている。
外壁の上に飛ぶのはやり過ぎたか? でも流石に待ってたら時間掛かったし。
「ら、ランス様、あの魔法は一体……」
「うん? 氷の範囲魔法と爆発の単発魔法だよ」
「え? でっ、でも幻影効果までありましたよね?」
「あれは幻影じゃないよ。氷が砕けて宙に舞ったから日の光でキラキラ反射したんだ」
興奮してるのか、ワクワク顔でじりじりと距離をつめてくる。
「とても素敵でしたわっ! それにしても、凄まじい魔法ですね。兵士達も言葉がでないようです」
「あー、無詠唱で『エクスプロージョン』を連発したし『ブリザード』も2発いれたからね。厚みを出したかったから範囲はある程度被らせたけど」
流石はランス様ですと、ひしっとくっ付いてきたエリーゼ様の顔を見て、ユーカたちを抱っこした時に羨ましそうにしていた事を思い出した。
不公平な想いをさせるのは出来るだけ避けなければとエリーゼ様を抱っこした。
「さて、皆が待ってるし、宿に戻りましょうか。エリーゼ様」
「え、えへ、えへへ、エリーゼと呼び捨ててくださいっ、ランスさまっ」
やばっ、こういうお人形さんみたいに可愛い子がデレデレで表情崩すのも萌え度が高いな。しかも金髪ツインテール。俺の名前を呼びながら俺にデレている。完璧だ。
「あ、れ? まさか、もう終わっちゃったんですか? 加勢しようと思ったのに」
装備を整えた『か弱き乙女』たちが門の内側に立っていた。
けど、良かったね。レッドオークが数十匹いたよ。と伝えると全員が顔を青くしていた。トラウマになっているのだろう。
そんな彼女達に珍しく興奮したユミルが何があったのかを説明しながら歩いた。
こんなに喜んで貰えるならこれからも使っていこうかなあのコンボ。そして気分が盛り上がった夜にさりげなく……
「ランス、おかえり」
「あ、何で装備もつけずにいくんすか!」
「そうだよ。ランス君だって装備無しはダメでしょ!?」
戻って早々にハルとエレオノーラに叱責を受けたが、行動を共にした三人がゆっくりと首を横にふる。
「余裕でした……素手で群れの中に入って暴れてました」
「いーっぱい居たのに一瞬で全部倒したよね」
「神の魔法と言って過言では無いでしょう」
えっと、エリーゼ? 過言だからね?
「Aランク冒険者との戦闘の時もおもったっすけど、次元がちげぇっすね。本当に友達でいいんすか?」
「悲しい事言うなよ。そういうのは関係ないだろ。いや……貴族とかに絡まれやすくなるから、そっちがいやだってんなら考えるけど……」
「あはは、ランス君は変なとこ真面目だよね。ただ、ハルがちょっとびびっちゃっただけなのにさ」
と、呆気らかんにエレオノーラが言うと、ハルはあははと頭を掻いた。
アナスタシアがさりげなく「ランスさんは良い人です」と言ってくれた。
そう言えば、エドウィナが大人しすぎて空気だし、ちょっと話してみるかな。
「そう言えば、エドウィナの実家ってどんなとこなんだ?」
「え? 私ですか? えっと、冒険者の活動が活発な町ですね。そのお陰で町に魔物が襲撃に来た事が無いのが自慢……って今いう事ではないですね」
「へぇ、良いじゃん。マクレーンて名前の町なの?」
「はい。王都を越えてリードも超えた先ですけど……」
「そっちは行ったこと無いな。いつか観光にいけそうな時があったら案内してよ。一杯町にお金落としていくからさ」
「えぇ!? そんな事気にしなくて良いですよ。寧ろ私が出します」
ちょっと及び腰だが、変に媚びてこない所も良い感じだな。これからも仲良くする方向で行きたい。まあ、ハーレムはもう人数的にむりだが。
そう考えていると、ラーサがこちらに体を向けて声を上げた。
「おーい、ランスさん、エリーゼ様が家に来て欲しいって言ってんぞ?」
「あ、いえ、お嫌でなければで良いのです。ランス様は権力者と会うのはお嫌でしょうから……もし、お会いになって頂けるならこのまま皆様を歓待しようかと」
どうやら、この様な襲撃の後は、労いの為に参加者全員をパーティーに招待するようだ。
「あー、そう言う事ならお邪魔しようか。こうなった以上は挨拶しなきゃダメだろうし」
ちょっと怖いけど大丈夫。まだ手を出してないし。清いお付き合いだし。
あ、ダメだ! ハーレムだよ。メンバー勢ぞろいだよ!
いや、待てよ……貴族であればいけるか?
「ランス、諦めて? 何されても死なないでしょ?」
「止めて、その好き勝手されて来い的なの止めて!」
そんなやり取りを皆に笑われながら、エリーゼアルールの実家、アルール男爵家の屋敷へと歩を進めた。
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